最終更新: 2020年5月16日

走る電車、車窓の向こうに流れるはあの日見た東京。沖縄生まれ・沖縄育ち、僕らの心は沖縄にあった。

次世代シンガーソングライター、ハクブンゴウの全国流通盤デビューEP『彼がいうには』。
Hakubungo

アーティスト:山岸 インタビュアー:桃井かおる子

−まず、今作のタイトルである『彼がいうには』にどのような意味が込められているのか、そのことについて教えて下さい。また、『彼がいうには』の彼とは誰のことを指しているのでしょうか。
山岸:とくに深い意味は込められていません。タイトルを考えているときにふと思いついた言葉だったのですが、何をきっかけに浮かんできたのか自分でもよく分かりません。しかし、なんとなくこの“彼”というのは自分自身のことではないかなと感じています。

-前回のメールインタビューで“全国流通で音源を発表したい”とおっしゃっていましたが、それがいよいよ念願叶ってのCDデビューとなりました。なぜ今回レーベルと手を組み、そして全国流通版を出すことになったのか、その経緯について詳しく教えて下さい。
正確ではないのですが、簡単に言うとBELONGで発表させていただいた『交差点EP』をP-VINEの方が聴いてくれて連絡が来たというところでしょうか。自分としては思っていたよりかなり早いタイミングでのリリースの話だったのでとても驚きました。

-今作は正式な音源ということで、前回の配信限定EPと比較すると、音質がよりクリアになっていたように思います。前作は沖縄のご自宅で制作されたとのことですが、今作はどのような環境の中で作られたのでしょうか。
制作環境は前作と全く変わっていません。なので全編ジャンクの2000円のアコギで録音されているのですが、正式音源と考えると、なかなか恐ろしい話ですが、内容を評価してもらえたのかなと思います。

-今作のマスタリングは中村宗一郎さんが担当されていますが、中村さんといえばメジャーのアーティストから新人のバンドまで、幅広く手掛けられていることでも知られています。なぜ、今回マスタリングを中村さんにお願いされたのでしょうか。
僕から希望を出した訳ではなくディレクターの方から、中村さんにお願いしてはどうかという話がありました。大変実績がある方ですし、少々恐縮するところがあったのですが、音源をより良くしていただけるだろうということでお願いすることになりました。

-今作はジャケットのイラストも印象的ですが、デザインを手掛けたmiyagi takumiさんとはどのような方なのでしょうか?また、その方との出会いや、なぜ今回ジャケットデザインを手掛けてもらったのか、その経緯についても詳しく教えて下さい。
これもまたディレクターの方からの提案です。miyagi takumiさんはTwitter等で作品を公開されていまして、今回のジャケットに合うのではないかとの提案がありました。実際、絵を見てみるととても素晴らしく、僕の音楽をジャケットとして上手く視覚化してもらえるような気がして、依頼に至りました。また名前からすると沖縄系の方かなと思うので、そこも縁を感じました。miyagiさんと僕自身は直接、やり取りをしたことがないため、どのような方なのかは詳しくは分からないのですが、素敵なジャケットに仕上げていただいて感謝していることをいつかちゃんと伝えられたらいいなと思っています。

-今回のEPに収録されている4曲は、ジャケットにも描かれているように、どれも電車に揺られているような雰囲気が感じられました。今作は“電車”がキーワードになっていると思うのですが、作品のテーマについて教えて下さい。
特に具体的なテーマは決めてはいません。とにかく耳に残るメロディーと言葉を作ることに集中しました。しかし前回の交差点EP同様に、東京旅行の経験を基に作っているので、“電車”的な雰囲気が出ているのかもしれません。

-1曲目の「嘘並べ」は前作にも収録されており、しかも今回は新バージョンでの収録となっています。なぜ、新たにこの曲を収録されているのでしょうか?
この「嘘並べ」という曲は、BELONGなどから最初に反応を頂いた曲なので、正式音源を出す際はぜひ収録したいと考えていました。アルバムがゆったり始まる感じもいいかなと思ったということもあります。

-2曲目の「寝台列車」は、今作の中でも特に電車っぽさを感じました。沖縄(那覇市内)はモノレールで電車は走っていなかったと思うのですが(高校の修学旅行で沖縄に行った際、宿泊した那覇市内のホテルの目の前がモノレールの線路でした)、なぜこんなにも電車の情景をリアルに表現できたと思われますか。
あの表現がリアルなのかは、僕には分からないのですが、電車がない土地の人間だからこそああいう曲、歌詞になったのだと思います。“電車”というものに対する少し誇張されたイメージ、憧れといいましょうか。電車が普通に存在する都心部で生活していると、電車は必ずしもノスタルジックな乗り物ではないと思います(単なる移動手段としてや、満員電車のイメージ等)。本土に旅行した時ぐらいしか電車に乗れない沖縄の人は“電車”というものに特に都会的なイメージや特別な感情を抱くのかもしれません。

-3曲目の「走りだすのさ」は疾走感があって、前回のメールインタビューでルーツに挙げて頂いたアジカン(特に初期の)っぽさを感じました。この曲は、どのようなアプローチで作られたのでしょうか?
この曲はもともとフォークソングのような曲だったのですが、ややクサすぎる感じがしたので、裏声のユニゾンと、ギターフレーズとドラムを加え、少し中和するようにしました。完成してみると思った以上にロックっぽくなりましたが、それを意図した訳ではないですね。

-4曲目の「あの日」は、爽やかなメロディーとは対照的に歌詞に虚無感があって、そのギャップが印象的でした。なぜこの曲を、作品の最後にされたのでしょうか?
最後以外に置く場所がなかったというのが大きいかと思います。この曲の原型は確か高校時代ぐらいに作ったので、僕としてはとても古い曲です。それを修正して今回収録したのですが、やはり作曲時期が違うため、他の3曲とは雰囲気が全く異なっており、最後に配置しないと違和感がありました。ただこの曲自体”エンディング”の感じが漂っていたので良かったかと思います。

-前回のメールインタビューで、“はっぴいえんど的な世界観に憧れがある”というお話をして頂きました。今作もそうした雰囲気が感じられるのですが、今回の制作期間中にはっぴいえんどの曲を聴かれていましたか?もしそうであれば、どの曲(アルバム)を聴かれていたのか、その曲(アルバム)が今作にどのような影響を与えているか、詳しく教えて下さい。また、今作の制作期間中に、どういったアーティストのどの作品をよく聴かれていたのか、その辺りについても詳しく教えて下さい。
はっぴいえんどは聴いていませんね。よく聴いていたアルバムは田端義夫のベストや東京大衆歌謡楽団の『街角の心』でしょうか。曲単位では瀬川瑛子の「長崎の夜はむらさき」などをよく聴いていた覚えがあります。今回のEPはもともとある曲を新たに録音したものがほとんどなので、影響が見られるとは言えないかもしれません(走り出すのさは新曲なので、少しその影響が見えるかもしれません)。

https://www.youtube.com/watch?v=49Niu-4IlR8

-以前、Ykiki Beatやnever young beachはどちらも“本物”を目指しているところが好きだとおっしゃっていましたが、ハクブンゴウにとっての”本物”とはどのようなものだと思いますか?また、なぜこの“本物”という所に惹かれるのでしょうか?
大変、難しい質問です。張りぼてではなく実直で真剣な感じが本物とでもいいましょうか。言葉で表現するのがとても難しいのですが、かっこつけではない感じといいますか。なぜ惹かれるのかは分かりませんが、おそらく中途半端ではないからでしょう。日本の音楽シーンには近年になってそうしたバンドが少しずつ出てきて素晴らしいと思います。

-前回のインタビューの際に東京旅行についてお話をして頂きましたが、東京への憧れやそのような気持ちがあるのでしょうか?また、東京のどのような部分に惹かれるのかについても教えて下さい。
東京への憧れは特にありません。また特別惹かれているというわけでもないです。何度か行った東京旅行は東京に行ったというより、“街”の視察に行ったという感覚です。何を言っているのか分かりづらいかもしれませんが、“街”を見てぐったりした感覚を持ち帰り、曲を作っています。

-現在はご自身がお住いの沖縄で音楽活動をしてらっしゃいますが、例えば、今後活動の拠点を東京に移したりなどといったことも考えられていますか?
全く考えていませんし、かなり厳しいでしょうね。旅行で数日訪れただけで、物凄いエネルギーに飲まれ、心身が削られる感覚があります。僕は田舎から都会のことを遠く眺めることは好きですが、実際に住むことはできない人間だと感じています。沖縄の人は、都会に出てもすぐ島に戻ってきたりしますが、あれは島が好きだからというよりも都会が肌に合わないことが主な原因だと僕は勝手に思っています。

-今作「彼がいうには」を、どのような人に聴いてほしいですか?また、どうしてそう思われたのですか?
できるだけ多くの方、特に若い人以外に聴いてもらえたら嬉しいですね。僕の目標は、誰でも鼻歌で歌えるような流行歌を書くことなので特にそう感じます。おしゃれな音楽は増えましたが、誰もが歌える歌はなくなってしまいましたから。

https://www.youtube.com/watch?v=mx_SxERIuR0&feature=youtu.be

【BELONG Magazine Vol.13には、ハクブンゴウのインタビューを掲載!】
マガジンの配布は終了しました。現在、Web Storeでのみ購入できます。購入はこちら

『彼がいうには』
6月2日発売

『交差点EP』
BELONGの最新号を手に取って頂いた方のみ、『交差点EP』をフリーダウンロードする事ができます。最新号の購入は購入はこちら
ハンブンゴウ アー写イラスト(CMYK)

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