最終更新: 2019年5月24日
前作『This Is All Yours』でグラミー賞/BRITアワードにノミネートされるなど、本国イギリスで破格の注目度をほこるAlt-J(アルト・ジェイ)が3枚目のアルバム『RELAXER』をリリースする。
前作に引き続き今作も日本へ傾倒した作品となったが、極めつけは日本人ですらほとんど知らないPlayStation用ゲームソフトをビジュアルイメージに持ってきた所であろう。
どうして彼らはそんなゲームをアルバムジャケットにしたのか?そしてその謎のゲームとは一体どのようなものなのか?Alt-Jの3人に聞いた。
アーティスト:ジョー・ニューマン (Vo./Gt.)、ガス・ウンガー・ハミルトン (Key./Cho.)、トム・グリーン (Dr.) インタビュアー:Ayano Kondo(Hostessオフィシャルインタビュー) 撮影:Mads Perch
-前作から約3年という歳月が経ちましたが、まずはその間のことを教えてください。いつ頃から今作は作り始めたのでしょうか?
ガス・ウンガー・ハミルトン:レコーディングを始めたのは去年の11月だよ。2015年のクリスマス辺りにツアーを終えて、8ヶ月間くらいそれぞれ違うことをやっていたんだけど、去年の8月末にまた集まって曲作りを始めた。
-特にアルバム制作を始める何かのきっかけがあったんでしょうか?
ジョー・ニューマン:僕らはいつも絶えず新しい音楽を作り続けていて、去年の中頃にはまた全員で一緒にクリエイティヴなことをしたくてうずうずしてきたんだ。一緒に何もしていない空白を埋めたかったっていうのと、いずれサードアルバムを作ることになるのは分かっていたから、その二つの欲求が合わさって、って感じかな。
ガス:うん、作るかどうか、じゃなくて、いつ作るか、っていう問題だったからね。それに夏の終わりっていうのは何かを始めるのに良いタイミングだし。夏休みが終わって学校に戻る、みたいな。
-Alt-Jが学校?
ガス:そうそう、新しい筆箱買わなきゃ、みたいな(笑)。
-アルバムを『RELAXER』と命名した経緯は?
ガス:もともとはトムがソロで作っていた曲のタイトルだったんだ。ある意味トムの造語みたいな感じだよね。それをジョーが「Deadcrush」の歌詞に一旦入れて、その後やっぱり外したんだけど、僕らみんなその言葉が気に入っていたから、アルバムのタイトルにいいと思ったんだ。僕らは曲のタイトルからアルバムのタイトルを取ったことはないんだけど、アルバムのタイトルを決めるのには歌詞の一部から見つけ出すのが一番だよ。『An Awesome Wave』も歌詞の一節だったし。『RELAXER』は響きもいいし、字面もいいから気に入ったんだ。
-アルバムのテーマがあったら教えてください。
ガス:(テーマは)ないと言えるんじゃないかな。
ジョー:うん。
ガス:僕らは共通した一つのテーマをもとにアルバムを作るっていうことはないんだ。他の人たちが完成したアルバムを聴いてそこに何らかのテーマを見出すことはあるけど、それはそれらの人たちが見つけ出すものであって僕らが決めているわけではないよ。
ジョー:アルバム全体ではないんだけど、曲のテーマは基本的に同じで、愛や喪失とか死について歌っているんだ。そういったイメージの歌詞の断片を組み合わせていって。そうするうちにまた新しいアイデアが出てきたりして、その状態で2週間ほど放置していると、その間にまた美術館に行った時に見た作品とか、絵のタイトルとかの中にぴったりの言葉を見つけたりする。だから本当に自分の経験からいろいろなものを組み合わせて、コラージュのように歌詞を作っていくよ。
-サウンド面でも今までかつてない程繊細で作りこまれた美しさを感じます。アルバム制作過程での印象的なエピソードや目標としたアーティストやアルバムなどがあったら教えてください。
ガス:色々なサウンドが混ざり合っていると思うよ。レトロなサウンドの「Hit Me Like The Snare」や「In Cold Blood 」なんかは僕らがそれぞれ演奏する楽器だけに絞って、あまり音を重ねないようにしていたし、一方でストリングスやベースやドラムのジャムからできた「Deadcrush」ではそこにトムがスタジオでビートを乗せてかなり思い切った方向に振れてもいる。
トム・グリーン:僕らはかなりサウンド面で実験していると思う。色々な楽器を使える環境にも恵まれているし。でも何か音楽を聴いて「こういうサウンドにしてみよう」とかいう風にはならないよ。ただいい音にしようとしているだけさ。
ガス:プロデューサーのチャーリーはどういうサウンドにしたいかっていうアイデアを明確にするのが得意なんだ。彼は経験も豊富だし新しいことに挑戦するのも好きで、とても助かっている。
-先行シングル「3WW」にはウルフ・アリスのエリーがゲストとして参加していますがどのような経緯で実現したのですか?
ジョー:ただ彼女にやってくれないか聞いてみたんだ。
ガス:僕らは一緒にツアーしたこともあって以前から友達同士なんだよ。
ジョー:当初はあくまで曲のごく一部のパートとして、二人の女性の声を入れたかったんだ。それでもともとエリーのことは知っていたし、僕らは彼女の声が好きだから、参加してくれないか聞いてみたら彼女もやる気になってくれた。彼女はすごくいい仕事をしてくれて、歌詞の行間を埋めてくれるような良いヴォーカルになったよ。
-1stアルバムには「Taro」、2ndアルバムには「Nara」、「Leaving Nara」と明らかに日本を想起させるタイトルの楽曲が収録されており、今回も「Hit Me Like The Snare」「Last Year」には日本語の歌詞や女性の声が入っています。そしてアルバムのジャケットも日本のマルチメディアアーティスト佐藤理さんの『LSD Dream Emulator』からのイメージが使用されていますが、あなたたちにとって日本がインスピレーションの源となる理由を教えてください。バンドとして日本とのつながりがあるのでしょうか?
ガス:難しい質問だよ、残念なことに正直言ってそれに対する良い回答を持っていないからさ(笑)。フランスとかイタリアとかアメリカについても同じことが言えると思うし。
ジョー:このアルバムでは特に日本語で数を数えている部分があったりするし、前の「Nara」シリーズもあるから余計にややこしいけど。日本のマーケットに進出しようとする思惑が見え隠れしているのかも(笑)。
ガス:日本に対しては実際何か特別なものがあると思う、あまり日本に行く機会はないし、あまりよく知らないし、西洋では他文化の中で日本は特に興味を持つ人が多いし。マンガを読んだり、スシを食べたりして、クールなものっていう認識もあって、僕らも日本の文化には惹かれていると思う。
ジョー:日本はイギリスにとって馴染みがありながら、すごく異文化的で、食べ物やマンガなんかもそれ一つで完結するようなものが多くて、日本人は自分たちで自分たちの好きなものを作って消費しているところが文化的な強みのように見える。
ガス:うん、外からの影響をあまり受けていないように見えるというか、断絶しているところがあって、イギリスはその正反対で外から来るものを全てスポンジのように吸収しているから、そういうこともあってとても日本に興味を惹かれるんだと思う。でもなんで曲に日本にまつわるものがたくさん出てくるのか、いい説明にはなっていないね。もっと日本を知りたいっていうのは間違い無くあるよ。いつも行っても短期間しか滞在できていないし。
ジョー:日本ではよくみんな居眠りしているよね。電車の中とか。
ガス:サラリーマンが道端で寝たりしているんでしょ?
-あれは酔っ払っているのもありますが(笑)。犯罪も少ないのでみんなリラックスしているのかもしれません。
ガス:おっ、『RELAXER』だね。
一同:(笑)
-また、差支えなければ「Hit Me Like The Snare」に参加している女性の方はどなたなのか教えてください。
ガス:ヒナコっていう、僕らのプロデューサーの友達で、クレジットにも名前を載せているよ。僕らも彼女とは友達だけど、もともとはプロデューサーの友達だったんだ。さっきも言ったようにチャーリーは新しいアイデアに挑戦するのが得意で、僕らが「こんな風にできるかな?」っていうとすぐにそれに必要な人を連れてきてくれるんだ。だから今回日本語の声を入れたいって言ったら即ヒナコを連れてきてくれた。楽しかったよ。
-今作のアートワークやビデオに使用された『LSD Dream Emulator』についても教えてください。これは実際に誰かがゲームをプレイして見つけたのですか?サイケデリックながら静寂を感じる雰囲気は楽曲やアルバムタイトルである『Relaxer』にぴったりだと思うのですが、これをアートワークとして採用した決め手が何かあったのでしょうか?
ガス:いや、僕らのうち誰もプレイしたことはないんだ。トムがツイッターで見つけた画像で、僕らみんなそれを気に入ったんだよ。これまでのアルバムのアートワークよりもダークだけれど鮮やかさもあってさ。
ジョー:トムが「この画像がすごく気に入ったんだけど」ってメッセージで送ってきたんだ。
トム:見てすぐに良いアルバムジャケットになると思ったし、むしろもう既に誰かのアルバムに使われてるんじゃないかと思ったよ。
ジョー:送られてきたときに僕も同じことを思ったんだ。まだ他の誰かに使われていなければ、僕らで使うべきだってさ。
トム:僕らもプレイしたことがないから、あれがゲームの中のステージの一つなのか、誰かがプレイしていて偶然出てきたシーンなのかすら分からないんだけど。
ジョー:よく分からないっていうのがまたいいんだと思う。
-プレイしてみたいとは思いますか?それとも知らないままの方が良い?
ガス:もしも誰かにもらったら是非プレイしてみたいと思うよ。
トム:僕らのレーベルはビデオを作るためにゲームを入手したみたいだけどね。かなり強烈そうなゲームだけど。
-それでは最後に日本のファンにメッセージをお願いします!
ジョー:コンニチワ!
ガス:(笑)。日本にはまた早く行きたいと思っているし、次はもっと長い期間滞在できるといいな!
ジョー:僕の彼女がもうすぐ旅行で日本に2週間行く予定で、それをすごく楽しみにしているんだ。楽しみにするのもよく分かるよ、すごくいい場所だからね。僕が今まで行った場所の中でも特に面白い場所の一つだよ。
ガス:うん、きっと近いうちにまた行くと思うよ!
【Release】
『Relaxer』
2017年6月2日発売
【Profile】
英リーズ出身の3人組ロックバンド。卓越したソングライティングでフォークからダブ・ステップまでの様々な音楽的要素を取り入れている。12年に発表したデビュー・アルバム『アン・オーサム・ウェーヴ』(全英13位/インディー1位)がイギリスで最も権威のある音楽賞「マーキュリー・プライズ」を受賞。翌年、英国/アイルランドの優れたソング・ライター/作曲家へ贈られるミュージック・アワーズ、第58回アイヴァー・ノヴェロ賞において「最優秀アルバム賞」を受賞し世界的ブレイクを果たす。ここ日本でもフジロック’12、サマーソニック2013、15年の単独公演と、3度に渡って来日し圧倒的なパフォーマンスを披露し人気を集めた。14年1月、ベーシストのグウィルがバンドを脱退。同年発売されたセカンド・アルバム『ディス・イズ・オール・ユアーズ』が全英1位を記録し、グラミー賞/BRITアワードにノミネートされるなど、話題作となる。17年6月、2年9ヶ月ぶりとなるサード・アルバム『リラクサー』がリリースされることが決定。現在のライナップは、ジョー・ニューマン(ギター/ヴォーカル)、ガス・ウンガー・ハミルトン(キーボード)、トム・グリーン(ドラム)。