最終更新: 2020年9月13日

ポストロックの代表格にして重鎮のMogwai(モグワイ)が『Every Country’s Sun』をリリースした。

Mogwaiこそがポストロックの進化を体現してきた代表格にして、シーンのお重鎮である。

ポストロックの歩み

“ポストロック”が持つ歴史は長い。1994年に音楽雑誌MOJOに掲載された音楽レビューから生まれた言葉だというこの”ポストロック”という言葉は、

「従来のロックとは異なるが、ロックに分類される音楽」というざっくりな説明しかあがってこない。

しかしこれがポストロックのあるべき姿であるかのように、時代によりポストロックと称される音楽は変化している。

フォークロックが印象強い大御所・The Velvet Underground(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)が先駆者となったその後、

エレクトロサウンドやジャズ要素が加わり幅が広がっていった。ポストロックの中で共通して進んでいったこと。

それは楽器を定義化されたコード進行やリフとして使うだけでなく響きや音色の彩として使うなど実践的な音楽を拡大していく様だ。

ポストロックにインストルメンタルの風が吹いたのは1990年後半から2000年にかけて。

“シューゲイザー”同様「こういう言葉で一括りされたくない」と主張するアーティストが増えた中、

新たなポストロックのスタイルとしてインストを用いるアーティストが目立つようになってきた。

そして、その代表格がMogwai(モグワイ)なのだ。

Mogwaiとは

Mogwai(モグワイ)
1996年に自身のレーベルよりデビューしたMogwai(モグワイ)は、スタートからわが道を切り開きたいスタンスだった。

インストを主体に置いた音楽は、透き通って聞こえる各々の楽器パートの味わい深さをそのままに、ダイナミックなエフェクトや電子音を重ね、

静かなる心地よさから頼もしく動きのある展開が特徴的であり、それは変わらないMogwaiの音楽の定義化された部分だ。

Mogwaiの来日公演

Mogwaiは日本との関わりも多く、数々の夏フェスへの出演はもちろんFUJI ROCK FESTIVALでは2006年にトリを飾り話題となった。

2011年に行われた来日公演もソールドアウトし、変わらぬ人気を集めたまま2012年から続くイベントHostess Club Weekenderではヘッドライナーとして来日。

そして今年2017には同イベントにて再びヘッドライナーとしての出演が決まっている。

ライブだけではなく、国内のオルタナティブロックバンドART-SCHOOLの『PARADISE LOST』にメンバーのバリー・バーンズ(Vo./Gt./Key.)がゲストで参加したり、

昨年には広島への訪問にインスパイアされたサウンドトラック『Atomic』を発表する等、様々な形で日本との繋がりがある。

Every Country’s Sun

久々の来日も決まっているMogwai(モグワイ)から通算9枚目、3年ぶりのスタジオアルバムとなる『Every Country’s Sun』が9月1日に発売となる。

1999年に発売された彼らのセカンドアルバム『Come on Die Young』のプロデュースを務めたデイヴ・フリッドマンとの再びタッグを組んで制作された今作。

ちなみにデイヴは前述のART-SCHOOLのアルバムにエンジニアとして携わっている。

モノクロームの世界で人間や車・ガラスといったそこにあって当然のものが空に浮かびあがるMVが公開された「Coolverine」から彼らのサウンドは活きている。

前作『Rave Tapes』との比較

ダークさとダウナー感を交えたスタートを切った前作『Rave Tapes』と比べ、透明感のある真っ直ぐな抜けたサウンドがあまりにも気持ちが良い。

転調を迎える度に血の巡りを循環させるようにどくんと胸を揺らせる。目をゆっくりと開いていくかのように世界がどんどん広がっていく感覚に「ああ、Mogwaiだ」という期待と安心に満たされていく。

スケールの大きさと轟きが最大を迎えたあとにやってくる哀愁含んだアウトロにもぐっと心が掴まれるよう。

ボーカル入りナンバーでノスタルジーに無垢が溶けるようなスチュアートの声が印象的な「Party In The Dark」や「Crossing The Road Material」は、

電子的なスペースサウンドを混じえたポップチューンで難解さなどはなくとても聴きやすい仕上がりだ。

先日新譜リリースが話題となったThe Pains of Being Pure at Heartが近年持つようなノイズポップが電子音でミックスされたサウンドたちは、ドラマチックに弾けて爽やかに響く。

ローファイなムードからスタートする「aka 47」や壮大な星空に浮かぶ光のような音たちがこぼれてゆく「1000 Foot Face」は、

アンビエントで透き通っているのにも関わらず、全体を必ず纏う重厚感に年の功を感じさせる曲になっている。

失禁する程の美しさは作品ごとに増していく。しかし、それだけでは終わらない。

しとやかで綺麗な音像を描くと共に、彼らには欠かせないもう一つトレードマークが存在する。それは鋭利に滾るハードなロックスタイル。

「Battered At The Scramble」から「Old Poisons」はド頭からエグい歪みサウンドでスタート。

ポストロックスタイルにハードロックのソウルを加えた爆発的な音楽は今でも健在はおろか、エネルギッシュで暴力的だ。

結成20年を経たMogwaiが放つエネルギーは凄まじく、強気に精力が溢れた若者バンドマンが発するオーバードライブなサウンドなど、ねじ伏せてしまえる程の脅威力がここにはある。まさに凶暴で、攻撃的。

体内の血が燃えたぎる興奮からのアルバム名にもなっている「Every Country’s Sun」は、まるでライブで最後の曲が始まった時のような、熱気を引き連れたままスモークのかかった世界から冷たい空気と照明が光差すあの高揚感が胸の内からじわじわとやってくるスタートを切る。

センセーショナルな音楽がバーストしたのちに訪れるは宇宙空間に重いエフェクトサウンドが旋風のように巻き起こり雄大な景色を写し、最大のフィナーレを迎えてまるで一つのライブが終わったような感覚に陥る。

それは終わった寂しさを迎えるのではなく、怒涛の一日が終わり、新しい太陽が昇る瞬間を見て晴れやかな気持ちになるということ。

ポストロックの進化

Mogwai(モグワイ)の『Every Country’s Sun』の魅力はアンビエントだけで終わらせないところだ。

躍動感や緊張感、あるいは凶器になりえる程の鋭さを組み込んでいるところが飽きを起こさせず、高揚感を巻き起こすことを実践しているところだ。

これは現在のポストロックのスタイルにとって重要なことであり、実際にsigur ros(シガーロス)やThe Album Leaf(アルバムリーフ)にも共通している。

その中の手法が違う中、Mogwaiは一曲の長さ・メリハリのある転調・優しさを覚えるクリアトーンからのハードサウンドという趣向の振り幅など目に見える形で表れている。

ポストロック界の重鎮のその煌びやかでエネルギッシュな爆音サウンドを、ぜひご賞味あれ。 (pikumin)

リリース

発売日:9月1日