最終更新: 2019年1月1日
2016年の春、大手下着ブランドPEACH JOHNのCM曲に起用された「distance」はあまりにも刺激的過ぎた。もちろん良い意味で。布が風でめくれあがって下着が見えるというCMのインパクトに負けないエッジの効いたサウンドに、 外国人のような紡ぎ方をする甘い歌声と ベーシックなリズムに乗せた風を巻き起こすようなサーフロックメロディ。“出れんの!?サマソニ!? 2015”にてサマーソニックに出演、 そしてCMのタイアップと認知される機会を自分たちの力で掴んできたPAELLASは着実に人々の関心を集めてきている。関西から東京に拠点を移して3年。新たなフィールドで新しい刺激を幾度と体験した今、彼らが見定める自分たちの道を9月6日にリリースされるミニアルバム『D.R.E.A.M.』を通して見つめる。
PAELLASの新たな魅力やアプローチを詰め込んだという『D.R.E.A.M.』。その中でも印象的なのがトップナンバー「Togather」と「Shooting Star」と 2曲続けて歌詞に登場する日本語。今作では初めて日本語の歌詞が取り入れられている。日本詞が入ることで英詞に多々見られる破裂音が目立たなくなる分、 甘く絡みつくようなMATTON(Vo.)のボーカルがより艶めかしく響く。
そして、英詞よりもわかりやすく並ぶ言葉たちはまるでムーディーな 夜を飾るオレンジ色のシティライツのように曲たちに優しい彩りをプラスしている。その中でも、リード曲「Shooting Star」はそのバランスが非常にマッチしている。ボーカルとエフェクトをかけた柔らかいカッティングギターの色気と甘さが先行するセクシュアルなムードに、しっとりかつ軽やかなリズムとシンセがより世界をかたどって広がっていくのがとても気持ち良い。その他、サウンド面でも新しいアプローチが取り入れられているということで、シンセサウンドの使用範囲が広くなっていたり、 クールでアーバンな音をベーシックに置きつつ、レトロさと宇宙空間のようなスペースサウンドがより色濃く反映されている。テクノポップテイストな「Eyes On Me」ではしとやかな音色と同調するボーカルに、夢の中に溶けていく時の穏やかな時間を感じる。リズム的にも全体を通して夜のドライブに似合うしっとりしたナンバーが揃えられている。
今作は完全にハウスミュージック主体のファンクとUSポップのエッセンスを加えた路線でまとめられている。しかし、頭から最後まで同じテイストで統一されている分、そこに囚われてしまっているようにも見える。そして何より残念に思ったことは、エッジの効いたサーフロック要素や 胸が躍るストレートなインディR&B感 がほぼなくなってしまったことだ。以前のPAELLASの音楽にあったThe Drumsのように駆け抜けるリズムとテンポを軸にクセのあるボーカルラインと共にときめきを狙い撃ちする ギターのリフのかっこよさに、同じく関西出身のLillies and Remainsにも見られるような国内のバンドにはあまりいない男のかっこよさと色気を感じていた。そこにポップスから影響を受けたとされるわかりやすいメリハリのある展開と、 サーフやハウス、R&Bを融合させるといった既存ロックに固執しないスタンス がPAELLASのオリジナリティだと思った。その部分が今作では大きく隠されてしまっている。
これは今後のPAELLASのスタイルになるのか。もしくは今作のテーマとしての“チャレンジ”なのか。今後の方向性の基盤となってしまうのであれば、おしゃれブランドを持つバンドの二の舞にならないようなインパクトがもっと欲しい。もしこれが“チャレンジ”なのであれば脳が痺れるようなパンチ力が足りない。様々なバンドが良くも悪くもブランド化されていく中、PAELLASの目指すルートは別にあると思う。そしてそこに取り込まれない存在であってほしいと願う。落ち着いた安定感や安心感がある音楽よりも、彼らには胸を躍らせ心を痺れさせる音楽が似合う。そしてその片鱗をPAELLASはずっと見せている。ここからがまた選択の道である。彼らは今作をリリースして、これからどう道を進めていくのか。これからのPAELLASに注目したい。 (pikumin)