テキスト:pikumin 撮影:Atsuki Umeda

教会でライブをするということに、憧れを抱いたバンドマンは多い。 人々が真っ直ぐに祈りを捧げる神秘的な空間で、自分たちにとって真っ直ぐな音楽を演奏すること。そして、プレイヤーの奏でる原音までも響き渡り、壁や天井からいくつも反射する音をデザインする教会という特別な場所。そこで観る・聴く音楽はライブハウスでの演奏とは大きく違う。それを言葉やイメージではわかるけれど、実際に体感してみないとわからないものがたくさんある。それをみんな、知りたかったのだ。 しかし実際、教会でのライブはバンドのアコースティック編成やソロで出演するアーティストが多い。 来たる8月25日。品川グローリアチャペルで行われた「ROSES」で THE NOVEMBERSは“バンド”として教会でライブを行った。 メンバーの他にトランペットに竹内悠馬、トロンボーンに須賀 裕之、そしてピアノ&シンセイザー&コーラスに鎌野愛をゲストに迎えた特別編成で彩る聖夜。 彼らは夢をまたひとつ、実現したのだ。 そしてこの日、教会で見たTHE NOVEMBESは今までにない程の大きい存在感と気高さを持った特別な夜になった。

彼らがステージに上がると同時に、世界は一瞬にして作られた。 はじまりの合図のように歪みのリフレインを重ね始め、小林祐介(Vo./Gt.)がSigur Rosのヨンシーさながらのボウイング奏法を見せ、観客を一気に轟音の海に引き込む。凛と滑るような音というよりは鉄を擦る強度を持ったギターが空気を響かせる中、それを支える他楽器が織りなす重みの層は海底を作り、轟音の海の深さと大きさを体感させる。 「救世なき巣」からシルクに包まれるようなあたたかさを持つ甘いアルペジオで「小声は此岸に響いて」が始まり、出す音の全てで観客に話しかけるように、そして余すことなく伝えるように彼らは演奏する。 「ようこそ、今日は楽しんで帰ってください。」と一言挟んで「終わらない境界」へと繋げる。輪郭がゆっくりとしっかり描かれていくように音はひとつひとつ丁寧に紡ぎながら重なり、バンドアンサンブルとして厚みを増してゆく。

ライブというよりはコンサートのような時間に感じられ、それはまるで一つの映画を観ているようにめくるめく繰り広げられていく。 いつものTHE NOVEMBEERSが見せる研ぎ澄まされた威圧感やアグレッシブさとは違い、柔らかくてマイルドな音選びと演出だ。穏やかな遊びが基盤に置かれているこの日の演奏では、美しく描かれたフィードバックに包まれる浮遊感と幸福感と温かみを持つ音色の気持ちの良さが埋め尽くす夜だった。その効果をもたらすのは、小林の普段よりもゆっくりと吐き出されるボーカルと今回初の試みという高松浩史(Ba.)のアップライトベースの丸みのある立体的な音。そして今夜の特別ゲスト3人の麗らかなサウンドやメロディラインにある。

教会ライブならではの選曲の中には彼らが厳選したカバー曲も披露された。Leonard CohenやJeff Buckleyが恋の悲しみを切なく歌い継いできた「Hallelujah」では ステージ上の十字架が暗闇に浮かび上がるように光り、小林のギターと歌声のみで始まる演出は教会という場所に見合った説得力があった。音の重なりを経てバンドアンサンブルに変わることで壮大な音楽となり、まさに賛美歌のように響き渡っていた。 次にdipのカバーである「human flow」はリビュート・アルバム『dip tribute ~9faces~』に参加した曲であり、今度リリースされるベストアルバムにも収録されている曲。
原曲に加え、とても情緒的でファンタジア。中央でぐるぐると回る照明が合わさり、まるで真夜中のメリーゴーランドのように怪しげで綺麗に巡る音楽の渦は会場ごと取り込んでいた。 そして以前小林がBELONGのインタビューで「美しい音楽を作ってみたいなって強く思ったきっかけのひとつ」と話していたFiona AppleもカバーしたThe Beatlesの「ACROSS THE UNIVERS」を心穏やかに、開放的に歌いあげた。

「今度は僕たちのHallelujahです」と、カバーに続き自身の曲「Hallelujah」を演奏すると、会場はまさしく歓喜に満ちた。いつものように身体を揺らし、彼らから発するサウンドやメロディを、何より誰よりも彼らが楽しんでいる。交わるコーラスはいつもよりもストレートに飛び、管楽器のハーモニーが曲をより鮮やかに彩っていく。 曲が終わると力強い拍手と共に大きい歓声が上がった。「Hallalujah」のみならず、ライブを観ていて、「THE NOVEMBERSってこんなにもスケールの大きいバンドだったのか」と圧倒される瞬間がいくつもあった。「あなたを愛したい」ではまるでslowdiveを彷彿とさせる純粋な煌めきと美しさで構成された轟音たちが彼らなりの“聖域”を作っていた。全身で歌い上げるボーカルに、全身で応えるバックのメンバーたちのサウンドが共鳴していた「Moiré」は ゲストメンバーがいてこそ再現できた音源の表現部分のみならず、原曲よりもドラミングの強さ、全体的なバンドとしての音圧、メロディラインを先導する管楽器の熱意と迫力を増した世界。それには涙が出そうになるほどの喜びを感じた。

ライブも佳境を迎え、ラストスパートへと向かっていく。 ベストアルバム『Before Today』に収録される「最近あなたの暮らしはどう」は荒削りだったギターは丸く伸びやかになり、優しい気持ちが人から人へ渡るような音楽になり、昔の自分たちに捉われない今のスタイルがしっかりと反映されていた。 爽やかで柔らかいが、紛れもなく警笛である「Misstopia」は演奏する度に進化をやめない。

「改めまして今日は来てくれてありがとうございます。またここでやってもいいですかね?」と小林の最後のMCが始まると 「先に楽しみがあるといいもんですよね。今日が楽しみだった。」と続けた。 先の楽しみ、いい未来を考えてと最後の演奏として「今日も生きたね」を選ぶ。 光が差し込むような透明感あるギターの音色がこぼれおち、心地よさにうっとりとしてしまうような重厚な低音たちが一つずつ拾い上げるメロディに乗せられる。

あらゆる生き物と同じ世界で同じように生きている歌詞に、ラストを飾る最善の選択だと強く感じた。 自分の求めるものに対して真っ直ぐなだけのこと。それを疑問視し、意思を持ち、実現した姿で歌うこの曲を教会で披露できる今は、小林がよく言っている「自分にとってのいい未来」にいるということではないだろうか。

昔、品川グローリアチャペルでのライブを提案したところ、NGを出されたという。確かに昔の彼らの音楽では突き刺す衝動や尖った感性が主体の音楽で、主張の強さが特色であり、教会に合わなかった部分かと思う。しかし、今選べる曲が増え、バンドとしての技術やアプローチの幅が広がった。そして進化する度に純度が増したこと。 それが今、満を持して彼らはこのステージに立っている。 「教会って綺麗ですよね。」 そう彼らは言っていたが、彼らの“綺麗なもの”への追求の道のりの中に“教会”というのは一つのポイントであったのだと思う。 「自分の楽しみの為に遊びにきてくれてありがとうございます。」そう小林はMCで話していた。追求の道は自分たちの楽しみで出来ている。そして彼らの楽しみは、リスナーたちをまた新しい景色に出会わせてくれる。そんな予感が、年々強くなっていく。彼らを信じ、応援するファンが着実と増えている要因でもある。教会でのライブは、彼らにとってもリスナーにとっても心待ちにしていたイベントだった。 それを見事成功させたTHE NOVEMBERS。 「またここでライブをしたい」
最後に次を見据えてコメントを残し、舞台は幕を閉じた。 「彼らの楽しみ」が見せてくれる綺麗な景色に、これからも期待していきたい。

※記事初出時に誤りがありました。訂正してお詫び致します。

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