最終更新: 2020年4月24日
ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)はどうして海外を目指すのか?
そしてアメリカ、カナダの次なる目的地をどうしてイギリスにしたのか?
現地で出会ったクリエイターと作り上げた楽曲、映像をベースに彼らが海外に向かう理由を三船雅也に聞いた。
またROTH BART BARONの独特な活動姿勢に迫るインタビューはBELONG Vol.21の特集“インディペンデントに生きる”に掲載。
目次
ROTH BART BARONインタビュー
アーティスト:三船雅也 インタビュアー:yabori 撮影:SLEEPERS FILM
『The Ice Age』
-1st Album『The Ice Age』はアメリカ・フィラデルフィアでレコーディングしたそうですね。どうしてフィラデルフィアでやろうと思ったのでしょうか。
僕はスタジオや機材にすごく興味があって。ある時、インターネットで海外のスタジオの設備やここからどうやって行くのかを調べていたんですよ。1st Album『The Ice Age』を作る前に自主制作で『化け物山と合唱団』を作ったんですが、その時、僕らが憧れていたサウンドにはならなかった。そんなある日京都のツアーの帰り、次の作品はどうしようかっていう話になった時、僕がせめてボーカルトラックだけでも海外で録れないかっていう話をしたのがきっかけでした。アメリカ・フィラデルフィアのマイナーストリートというスタジオでレコーディングしたんですが、当時、音楽メディアのPitchforkが出てきてアメリカのインディーバンドに勢いがあった時で。Pitchforkが紹介するアメリカのバンドの音楽を聴いていたら、マイナーストリートのエンジニアの作る音が好きになっていって。他にもいくつかスタジオの候補があってそれぞれに曲を添付してメールしたら、マイナーストリートのブライアンから5分で返事が返ってきて、一緒にやろうよって話になりました。思いの外、扉を早く開けてしまったもんだから、そこからどうしようっていう感じだったんですが、そのタイミングで今のfelicityに所属する事が決まってレコーディングできる事になりました。
-インタビューでは自分たちでアメリカに渡ったとありましたね。レーベルに頼らず自分たちでやろうと思った理由について教えてください。
ニューヨークにブッキングを手伝ってくれる方がいたんですけど、CMJというSXSWのニューヨーク版みたいなサーキット・フェスに出れるよ、というお誘いを頂いて。それをきっかけにアメリカツアーを行う事ができたんですけど、こういうチャンスがあるって事自体、レコーディングでアメリカに行ったからだと思いました。だからむしろ行かない理由の方が見つからなかったんです。
-アメリカツアーでは向こうのインディーレーベルJagjaguwarの人たちにも会ったそうですね。彼らとはどのような話をしましたか?
彼らはとても誇らしげで、自分たちのやっている事にプライドを持っていました。ちょっとの事には動じない強さがあって。自分たちのスタイルで自分たちの良いと思う音楽を、自分たちの良いと思う方法で広めていたんだと思います。彼らと話していると悲壮感などなく、規模の小さい会社かも知れないけど、ちゃんと上を見て活動しているんです。そういう懐の広さを感じていたので、話していて心地良かったですね。
『ATOM』
-なるほど。では2nd Album『ATOM』はカナダ・モントリオールで制作されたようですね。 モントリオールでレコーディングしようと思ったのはどうしてでしょうか。
モントリオールの音楽シーンが面白くて。ドローンのような実験音楽が盛んなんですよ。オーウェン・パレットはもともとトロントの人だけど、今はモントリオールに住んでいて。ポップスの要素もあるんだけど、どこかストレンジな要素も入っていて、ヨーロッパ風のクラシックな要素も持っているっていう。Godspeed You! Black Emperorってバンドがいて、彼らの音楽が好きだったし、カナダのバンドが持っている自然観にも興味があって。それから色々な縁があってGodspeed You! Black Emperorのスタジオに知り合いがいる事が分かって録音する機会があったから、次はそこでやってみたら自分たちの作りたい音楽に合うんじゃないかと思って。
-カナダでは現地のミュージシャンとセッションしたそうですが、どのようなきっかけがあってセッションを行う事になったのでしょうか。また実際にやってみていかがでしたか?
『ATOM』には色んな人種を混ぜてみたかったんですよ。前作のツアーで一緒に演奏した日本人ミュージシャンと、移民の国、カナダの現地のミュージシャンとセッションして、それをたくさんの人で共有する多幸感、それができるのはモントリオールじゃないか、そこに秘密があるんじゃないかと思って。実際、カナダに行ってみたら色んな人種が住んでいました。そして気づいたことはモントリオールはもともとフランス領だったから、英語も喋れるんですけど、古いフランス語を未だに話していてプライドがあるんです。でもプライドは持ちつつも色んな人種がいてもギスギスしてなくて。みんなが肩を寄せ合いながらもそれぞれの意見を持っているから、もしかしたらそういう風土がカナダの音楽から出ているのかもしれないですね。
-先日、ヨーロッパへ向けてのクラウドファンディングで目標金額を達成されましたね。そもそもどうしてこの手段を取ろうと思ったのでしょうか。
たとえ成功してもしなくても僕らはヨーロッパに行ったんだろうと思うんです。でも同時に、どうして僕らが海外に行っているのかをみんなにも知ってもらえたらな、と思った事も理由の一つです。音楽だけで伝えるのも良いんですけど、実際にみんなも海外に連れて行ってみたら面白いんじゃないかとも思いました。それと自分もクラウドファンディングで支援した経験があって、面白そうだなとは思っていました。クラウドファンディングはCDを出したいとか、イベントをやりたいっていう具体的な目標に対して、ギブ&テイクしていくものだと思うんですけど、僕らはUKデビューする為っていう目標があって。もちろん音源はリターンとして作るんだけど、その先にある何を成功とするのかっていう所について慎重に話し合っていて。例えばUKデビューしたら成功なのかというと、そこからイギリスでも活動していかなきゃいけないから、それだけだと成功したとは言えないし。だから僕らも真摯に考えなきゃいけない。僕らがこれからやろうとしているビジョンをみんなと共有したかったし、それゆえに人に手伝ってもらうのは身が引き締まる思いがありました。でも実際、クラウドファンディングが成功した時は、イギリスに行った時よりも嬉しかったかもしれない(笑)。でも喜んだ後でちゃんと期待に応えなくちゃいけないって気持ちも出てきて、複雑な気持ちでしたね。ただいつも通りにイギリスに行ってたら、ここまでの気持ちで行ってないと思います。
-ではどうしてイギリスに行こうと思ったのでしょうか。
僕らはもともと北米大陸の音楽が好きな所から始まったバンドなんですが、その時もヨーロッパでは色々な事件が起こっているっていうのをニュースで見ていて。でも日本でいたらそういう事って肌感覚ではほとんど分からないんですよ。実際にどういう事が起こっているのが知りたくて、いつかは必ず行こうとは思っていて。そんな時に幸運にも現地のプロダクションからイギリスで一緒にやってみないか、と連絡が来たことが大きかったと思います。面白い事はやろう、って、直観でした。
ROTH BART BARONのルーツ
-ヨーロッパの音楽だとどういうものを聴かれていましたか?
RadioheadやSuper Furry Animalsは一時期よく聴いていました。New Orderの「Ceremony」という曲はバンドを始めた当初よく練習していて、それとJoy Division後期の曲はコードが3つしかなくて簡単なんですよ。だからひたすらそういう曲をやっていた時期もあって。アメリカのフォークミュージックはグルーヴのフィーリングみたいなものがすごく大事で、楽器を始めた当初は難しくて全然できなかったんです。一方でイギリスのバンドはフィーリングに根差した音楽ではなくて、手数さえあっていればできたって思える音楽だから、楽器を始めた当時は分かりやすくて。イギリスのキッズは全然楽器ができなくて下手くそなんですけど、とにかく生意気なんですよ。そういうイギリス特有の雰囲気も好きだったし、元を辿ればThe BeatlesやThe Whoも好きだったんです。イギリスは、バンドのルーツとして大きいはずだったんですけど、実際に行けたことでリンクした、というところでしょうか。
-そうだったんですね。イギリスはどのような場所でしたか?
特に、ロンドンはアメリカと違って表向きには人種差別がないように感じました。白人と黒人のカップルが平気でいるし、そういう意味ではカナダに近いんですけど、もっとフラットな感じなんです。今回のMVを撮ってくれたジュリア(ジュリア・ショーンスタット)はドイツ人なんですが、ドイツはつまらないから、イギリスに上京してきたみたいで。ヨーロッパは国と国が近くて、東京に来るみたいな感覚でロンドンに来るそうなんですよね。だからロンドンでは色んな国の人のアイデアが混ざっていくし、ロンドンは真の多民族国家で色んな事がフラットなんだなと思いました。
-先日、UKでのリリース第一弾として「Demian (UK mix)」が公開されましたね。この曲は Alt-j、Radiohead、Kasabianなどのレコーディングに関わったブラッドリー・スペンスが手掛けているそうですが、彼との作業はいかがでしたか?
最初ミックスの立ち合いがあるから、スタジオに来てって言われて、彼がいるDean Street Studiosまで行ったんですけど、待ち合わせの時間に行ったのに来ていなくて。アシスタントエンジニアが新しくミックスした僕らの曲を聴かせてくれたんですけど、リミックスしたというか曲自体が新しく生まれ変わっていました。そこに徹夜明けのブラッドリーが来て、大丈夫?って僕らが心配する所から始まりました (笑)。彼もNew Orderが大好きで、彼らにまつわる色んな話をしました。実際、彼はサウンドスケープを大事にするエンジニアでした。例えば各楽器の音量やレイヤーを調整するエディット画面を見る場合でも数字を見るんじゃなくて、目を閉じて音がどう広がっているかを大事にしていて。何が美しいとか、これがどこそこの映画の一場面のようだって話しながらミックスしているんですよ。
-そうなんですね。サウンドスケープっていう話も出ましたが、イギリスの場合と日本やアメリカ、カナダとの制作の違いがあれば教えてください。
結局は人によるんでしょうけど、海外の場合だと自分の直感を大事にするし、気持ちで会話するんです。日本だと自分の気持ちを出すのはご法度で、なるべく平静に思った事とは違う部分で良さを伝える会話の仕方だと思うんですけど、海外の人は「超感動した」っていう風にどストレートにくるんですよね。それは海外だと自分が行った所はどこも同じだったんですけど、今回イギリスに関して言えば“綺麗”っていう一言に集約できると思っていて。“美しい”っていうのはたとえ汚くても美しさが見いだせるものだから、それよりも純度の高い“綺麗”っていう言葉が当てはまると思っています。結果的にミックスした曲もボーカルを録り直したり、楽器を入れ直したりしながら、彼らは日本語の歌詞が分からない中で、何が綺麗なのかを探しながらミックスしていました。音の配置の綺麗さを求めているから、大げさに言うと人工的なんですよ。確かにロンドンの街は自然や建物も全て人の手が入っていて、放置されたところが少なくて。理路整然とした綺麗さはありますけど、街にいて本当の自然がないところに息苦しさも多少は感じていました。でもそれがロンドンの文化だと思うし、てこでも動かせない巨大な何かを感じましたね。
-イギリスでは先ほどの話にも出てきたジュリア・ショーンスタットが「ATOM」のMVを手掛けていますが、日本のものと映像の見せ方に違いなどはありましたか?
やっぱりヨーロッパの人だからなのか音楽と一緒で映像も綺麗に作るんです。チームは少ないし、実際予算も少ない中で「ATOM」のMVは一日で撮りました。日本でこのクオリティの映像を作ろうと思うと数倍くらいの値段がかかるのでは?とか思いながら、彼らは限られた人材と予算の中で進めていて。日本だと何かが起きる前にトラブルシュートができているんだけど、海外だと何か起きた時に考えるから(笑)。ジュリアは頭の中に映像のビジョンがあって、それについてディテールまで説明することはなかったから、彼女の言う通りに撮影を進めていました。MVの撮影日はブライトンの山奥にいたんですけど、ちょうどマンチェスターでアリアナ・グランデのライブ会場にテロが起きた日で。僕はその日の朝にみんなから大丈夫か?っていうメールが届いて初めて何が起きたのか知りました。そういう事があったから、撮影スタッフの落胆ぶりはすごかったんですけど、僕らはできる事をしよう、とその日は撮影をしていました。
-まさか撮影当日にそんな事があったんですね。ROTH BART BARONの音楽は自然観というのがテーマになっていると思いますが、今回のMVもその自然観みたいなものが出ているように感じました。あの映像を見返してみて、どのような事を感じましたか?
彼女のみぞ知る部分はありますけど、自然観と人工的な感覚が同居しているんだと思うし、僕らの音楽からキャッチしてくれたものが自然を感じさせるものだったんじゃないかと思います。彼女が僕らの音楽を聴いてくれて、見えてくるサウンドスケープをMVで描こうと思う、と言ってくれて。僕らが映像は事前にこういう風にしてくれって言った訳じゃなくて、感じ取ってくれたものをリスペクトするよという進め方でした。普段、僕は色んな事をコントロールしたいと思うことが多いんですけど、今回はなるべく自由にやってもらえるように気を付けました。いざ映像ができて見返してみると自分では作れないな、と。彼女が僕らの音楽から感じた事と僕らが彼女の作品から感じた事が遠い所で繋がっていて、実は一緒だったのかもなとかそんな事を考えました。
-それでは最後に今作をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
もちろんいろんな人に聴いて欲しいですし、聴いて欲しい人は決めてはないです。ただ最近思うことはiphoneが10年前に出た時は“i”っていう私だけが持っている、自分だけが所有している喜びっていうものが大事だったと思うんですけど、今はみんな持っているし、何でも共有できるんですよね。“We”の時代になってきたと思うんです。それゆえに共有できるからこそ、それを享受できなくてこぼれちゃう人がいて。そういう人の事にも無関心でいたくないから聴く人は決めてないです。
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