テキスト:pikumin 撮影:Takahiro Higuchi、OX4、credit Julian Hayr

 “靴(Shoe)を見つめる人(Gazer)”
ムースのボーカルであるラッセル・イェーツが床に貼り付けた歌詞を見ながら歌っていたことを比喩した表現として音楽誌に登場したのがはじまりと言われている。今では同じく靴を見るようにエフェクターを複雑に切り替え、ディストーションを駆使した歪みを深く尖らせ、フィードバックノイズを鳴らす音楽たちを総称するジャンルとして確立された”シューゲイザー”。

だが、筆者がその存在を知った頃には、シューゲイザームーブメントは縮小し、引率していたバンドたちは活動休止。過去に生まれた音楽たちをただ何度も聴き、彼らの活動が盛んだった当時に思いを馳せるばかりだった。しかし、ここ数年で数々のレジェンドたちが活動を再開し、再びシューゲイザーブームが巻き起こっているではないか。昨年にはスロウダイブがジャパンツアーを決行。今年夏にはマイ・ブラッディ・バレンタインがソニックマニアへ出演することも決定しているなど、シューゲイザーにおけるスターたちが自身の活動を活発化させており、リアルタイムで彼らの活動を見ることができなかった若い世代にとってはまるで夢のような出来事のように思える。

RIDE Ovada Oxford Mark Gardener Andy Bell Loz Colbert Steve Queralt by Andrew Ogilvy Photography OX4

今回取り上げるのは、シューゲイザー御三家のひとつとしても知られるライドが先日行ったジャパンツアーについて。昨年6月に20年ぶりの新作となる『Weather Diaries』をリリースし、同年8月にはHOSTESS CLUB ALL-NIGHTERで来日したライドは、即日ジャパンツアーを告知し、話題となっていた。2015年以来の3年ぶりとなる単独来日公演はサポートアクトに彼らのファンであり、今や日本が誇る轟音ロックバンド、ザ・ノーベンバーズを起用し、東京と大阪の2都市で開催された。明確にデザインする轟音ノイズと輪郭をしっかりと持つロックサウンドを密接させ、それらをポップに昇華させた音楽という面で強く共鳴し合う2バンドの共演は、発表直後から大いに話題を呼んでいた。今回は、2月21日に大阪はなんばHatchで開催されたライド・ジャパンツアー2018の模様をじっくりとお届けしたい。

「THE NOVEMBERSです。」
ノイズまみれのSEの中、颯爽と現れた彼らに大きな歓声があがる。素早く楽器を手に取り、小林祐介(Vo.&Gt.)一言自身の名を告げると、軽快なギターリフで「Hallelujah」を演奏し始める。彼らがより大きな世界へ一歩進めた、確かな夜が始まった。

煌びやかなギターサウンドは進路を迷わないように明確な音の並びを描きながらも、身体を取り込んで無空間に連れていくようなバンドアンサンブルと合わさり、まるで大海原を小舟で旅をするような景色を彷彿とさせた。いつもより弾むようなアタックを見せる高松浩史(Ba.)のベースはより歪みが深く聴こえ、吉木諒祐(Dr.)のドラミングが躍動感を助長させている。

一曲目から彼らはとても生き生きとした表情を見せ、楽しそうに弾いていた。まるで、子供があたたかな陽だまりの中を無邪気に遊びまわるように自由で、何にも囚われないザ・ノーベンバーズの姿をひしひしと感じた。続いて爽やかに刻むビートに最初からのっけからノイズのベールをかけた幻想的なナンバー「Rhapsody in beauty」へ続く。小林と高松のコーラスワークがとてもきれいで、ライドのマークとアンディのハーモニーのような美しさを感じさせた。疾走感あるノイジーな音像が鮮やかに彩る最中、マイルドな音たちから一転、轟音の渦が突如やってくる。そのインパクトといえば、ザ・ノーベンバーズを初めて観たであろう観客は今までの雰囲気との違いに驚いたようにステージを見つめ、この曲を知っている人も思わずぞくりとしてしまうほど。彼らの”本性”が垣間見える瞬間だった。ライトで白む景色の中、凛とした姿のまま、全員が前傾姿勢になって轟音に打ち込むシルエットが浮かびあがり、観客は見惚れるように彼らを見つめた。

アウトロから、小林のギターが「Wire (Fahrenheit 154)」へと繋ぎ、前半の穏やかな雰囲気を塗り替えるように赤い照明に照らされたステージからは不穏さが漂い、張り詰めた空気に会場は支配されていく。後半の小林のひたすらに叫び続ける姿は人が人でなくなり、感情が溶けだしていくようだった。彼らの狂気的部分がくっきりと浮かび上がり、オーディエンスはそれまで身体を揺らしていた人でさえ動き止め、無心で彼らの音楽を見つめ、聴いていた。続く「Xeno」ではアグレッシブなアプローチで最後の追い込みをかける。中でも、ケンゴマツモト(Gt.)が凄まじかった。

ギターのナットを弾き甲高い音を鳴らしては、ひたすらサイレンのようなおぞましくも魅惑が溢れ出すノイズギターを鳴らしている。オーディエンスを見下ろしながら、自身の胸をどんと叩きニヒルに笑うケンゴの姿が妖しく、それでいて頼もしく映った。「なあ、この単調にさ、耐えられるか?」そう小林が真理を問うように真っ直ぐ歌う後ろで、ヘヴィなドラミングが加速していく様は、心臓ごと身体を揺さぶるような衝撃を持っていた。

「ラスト!」と声をかけて、勢いを絶やさぬままラストナンバー「黒い虹」へ。
今までのザ・ノーベンバーズのステージで一番と言っても過言でない程の轟音ノイズと響き渡るシャウトはあまりに美しく、なんばHatchという大きい会場でも収まりきらないほどの熱量を持っていた。むしろ大きいステージこそ彼らに似合う場所なのだと、そう強く思わせる圧倒的なパフォーマンスを見せた。演奏を終わると、メンバー全員やりきったと言わんばかりの清々しい顔をしていた。小林は「今夜のライド、思いっきり楽しみましょう」深くお辞儀をし、メンバーはあいさつ代わりに手を上げてステージを後にした。

30分の転換ののち、じっくりとSEを聴かせたあと、ライドの面々が続々とステージにやってくると大きな歓声と拍手が巻き起こった。マーク・ガードナー(Vo.&Gt.)が「まいど!」と言うとどっと笑いが起きる。関西向けに挨拶を考えてくれたと思うと、なんともいとおしい。今夜のスタートを飾ったのは昨年発売された21年ぶりの新作アルバム『Weather Diaries』のトップナンバー「Lannoy Point」。美しい音色に低音の重厚感、そしてロックバンドとしてロックサウンドを鳴らす姿勢。まるで音源をそのまま聴いているような安定感にレジェンドの貫録を感じさせる。後半のきらきらと輝くギターサウンドと崩さない疾走感はこんなにもリアルなのに、甘く響くボーカルが夢の中にいるような無重力を感じさせた。

アルバムの流れと同じく「Charm Assault」へ繋ぐとライドも観客もテンションがあがっていくのが目に見えてわかるように、確実に会場が熱くなっていく。そしてオーディエンスのボルテージをぐんと上げたのが、彼らの人気ナンバー「Seagull」。お馴染みの印象的なリフが流れると「待っていました!」と歓声が大きくあがった。うねるようなベースラインにリズミカルなドラムというリズムセクションが勢いを作るエネルギー満ち溢れる音楽なのに、マークとアンディ・ベル(Vo.&Gt.)の年を経て得た味わい深い歌声が合わさり、どこかムーディーな空気を演出しているところも気持ちが良い。どんどんスピードとリズムが速くなっていくと同時に重たく響いていくあたり、彼らの音楽は衰えることを知らないようだ。重低音が会場を包み、海に溶けていくような儚いアンディの歌声が澄み渡る「Weather Diaries」を挟み、人気アルバム『Nowhere』から「Taste」を披露。余計な小細工など必要がないシンプルな構造の音楽をそのままぶつけるライドが、何よりもかっこよく、勇ましく映る。心地よいビート感に人々は歓喜し、手を挙げてライドに応える。

この日のセットリストは新譜『Weather Diaries』から半分と、『Nowhere』『Going Blank Again』など過去の作品からも多数選曲されていた。その中でも、つい先日配信リリースされたEP『Tomorrow’s Shore』収録曲もこの日観ることができた。みずみずしいイントロから一転マイ・ブラッディ・バレンタインの「Sometimes」を彷彿とさせるような甘いノイズワールドとノスタルジーなメロディが優しい「Pulsar」、R&Bテイストに鈴の音のようなささやかなギターを乗せてメロウな世界観を描く「Catch You Dreaming」と、昔の曲を生で観ることはもちろん、再活動してリリースした作品を通して2018年に生きるライドを観ることができるという贅沢さ。前回の来日では新譜という存在がなかったので、今回新しい音楽を携えたライドを直に観ることができるというのは奇跡のような瞬間でもあった。全盛期だったライドを観ることが叶わなかった人たちにとって、活動を再開し、再び全盛期になり得る今に出会えたことがとても幸せなことだろう。

大阪公演のみで演奏されたドラマチックでハッピーなメロディが爽快な「Twisterella」が続き、再び観客のボルテージを上げる曲がやってきた。「Dreams Burn Down」。ライドファンにとっても人気で特別な一曲でもあり、自身のライブのSEに使用していたことがあるザ・ノーベンバーズにとっても思い入れのある曲だ。共演して直に聴くこの曲は、ザ・ノーベンバーズにとってはとびきり輝いて聴こえていたに違いない。『Nowhere』のジャケットを思い浮かべるような、真っ青な景色に時折轟音が波を打つ場面。シューゲイザー御三家と言われる力を存分に見せつけるほどの美を追求したノイズが鮮やかに響き渡っていた。

尊く広大な世界を引き連れて「Cali」へ繋いだ後は、ハングリーなロックンロールを刻みつけるナンバーを立て続けに披露。「Time of Her Time」「Lateral Alice」「All I Want」とパワーみなぎる曲たちにオーディエンスの熱気はさらに上昇。と、そこに束の間の静寂、テレビの砂嵐のようなノイズ、そして穏やかにしっとりと聴かせる「OX4」に歓声が沸いた。どこかせつなさを漂わせるメロディとマークが手をあげた瞬間にボーカルだけが浮かび上がる瞬間に胸をぎゅっと締め付ける「Vapour Trail」と続き、終わりへ向かう。

幸せに浸りながら聴き浸るスーツ姿の男性、嬉しそうに笑いながらステージを見つめる大柄の外国人、興味津々に身体を揺らしながら聴く若い男女。さまざまな世代、さまざまな人たちの意識を吸い込むようなライドの圧倒的存在感をひしひしと感じながら、最後の曲を迎える。「Drive Blind」はミドルテンポなやわらかな空気に異質のエフェクト音を重ね、まるで華やかなエンドロールを見ている感覚を味わうも、突如吹きすさぶ轟音の嵐に覆われる瞬間がたまらない。ゲインマックスのディレイは上下左右わからない浮遊の世界へ誘い、ノイズが頭から足先まで血液となって流れていく。何分経ったのかわからないほど目の前の轟音のみに酔いしれる幸福の時から、元のメロディに戻る瞬間はモグワイの「Mogwai Fear Satan」を彷彿とさせる。オーディエンスのボルテージは最高潮。何度も歓声を上げては両手を挙げて喜んでいた。日本語で「どうもありがとう!」と伝えると、彼らはステージから離れた。

アンコールの手拍子がはじまる。
ほどなくしてステージのライトが灯り、マークが一人先にステージへ戻った。メンバーが揃うまで会話を繋ぎ、少し時間をあけて一番最後に戻ったスティーヴ・ケラルト(Ba.)を見た瞬間「スティーブ!!!」とちょっかいをかけて会場を再び笑わせていた。そんな和やかなムードから、奇怪な雰囲気へ。アンコール1曲目はこちらも大阪公演のみの披露で、リフレインする歌声が迷宮へ誘い、不穏な重低音と耽美なギターリフが不思議な世界を見せる「White Sands」。目の前のライドに集中するように両手を挙げて揺らめきながら楽しむ人々をそのまま離さないとばかりに、「Leave Them All Behind」「Polar Bear」と、盛り上がりや音の変化、すべて細かくデザインされたライドの音楽、そしてパフォーマンスに見惚れるばかりだった。最後をにおわせる切なさが場内を漂いはじめるが、そんな寂しさを蹴飛ばすようにアップテンポなナンバーを持ってくる。ファンに大人気のナンバー「Chelsea Girl」でどこまでも突き進んでいくロックンロールに最後まで心の熱が収まらない。歪みが加わるごとに大喝采は増してゆき、華やかに、盛大な終演を迎えた。

「今日僕たちもとても楽しかったです。そしてライドも本当に良かった。」そうザ・ノーベンバーズの小林は終演後話してくれた。会場の広さの倍、いや、それ以上を感じさせる広大な景色を見せてくれた両バンド。ザ・ノーベンバーズもライドも振り切ったプレイや音に身を任せて表情を変えたり、動きまわったりと、終始楽しそうに演奏しているのがしっかりと伝わってくるライブパフォーマンスだった。シューゲイザー界、そしてロックバンドとしてレジェンド的存在であるライドと、日本で随一のハイセンスと美を追求した轟音を持つザ・ノーベンバーズ。双方が楽しむ姿が伺える、ファンたちにとっても至福の一夜はこうして幕を閉じた。

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