最終更新: 2019年1月1日
UCARY & THE VALENTINE。彼女の名前を知る機会はたくさんあった。
それもそのはず。彼女は、くるりや銀杏BOYZをはじめとする多くのアーティストのバックコーラスやゲストボーカルに参加。最近では、3月にリリースされたART-SCHOOL『In Colors』へのコーラス参加や、リリースツアーの東京・大阪公演にてステージ出演するなど、個人出演のイベント以外にも、多くの作品やステージに携わっている。
しかし、彼女だけでつくられた彼女だけの音楽に触れたことがある人は、意外と少ないのではないだろうか。
前作『New Dance』から、3年もの月日が流れた今。これまでひっそりと温めていた音楽たちを解放する時がやってきた。
6月27日に自身初のフルアルバム『Human Potential』をリリースする。
【Magazine(限定500部)】Vol.23はART-SCHOOLのインタビューと、『In Colors』のルーツになったジョン・フルシアンテやヴェルヴェッツについて木下理樹が語った内容を掲載。
ルーツの話から彼らの最新作『In Colors』への理解が一段と深まる内容になっています。
詳細はこちらhttps://t.co/ucXs5hpQVZ pic.twitter.com/r5Ef47RyAT
— BELONG Media (@BELONG_Media) April 30, 2018
キュートなルックスと独創的な感性を活かして、国内外を飛び越えたモデル活動、デザインワークなど、声のみならず身体まるごと使ってマルチな才能を発揮してきたUCARY。
自主レーベル・ANARCHY TECHNOとしてフリーランスで活動する彼女は、まさに自由の象徴だった。透明感に満ちた澄んだヴォーカルは何にも囚われずふわりと飛んでいくよう。歌う時は力強い眼で真っ直ぐに先を見据えているのに、曲が終わるとふにゃりとした言葉と空気で周りを笑顔にさせる。そんな不思議な少女のような人だった。
様々なステージを経て培った感性を、あたためておいた大切な曲たちと合わせた時、何が起こるか。それを証明したのが『Human Potential』。今作で彼女は、全11曲を通して自身のポテンシャルの高さを駆使して、多彩な表現に挑んでいるのだ。
再生ボタンを押すと、すぐにUCARYの極上キュートボイスが流れてくる。
ここは、とびきりポップなスペースワールド。宇宙空間にカラフルな花々が散りばめられているような異世界があった。天使の息遣いのようなコーラスワーク、弾むようなギターフレーズ、甘く拙い魅惑のヴォーカル。
YUKIの「長い夢」のように、キラリと輝く音を小さく散りばめては緩急をつけてゆっくりとスケールが大きくさせてゆく。音が紡がれるたびに、甘くて可愛い砂糖菓子が零れ落ちていくような、とことん甘いスイートポップミュージックにどんどん引き込まれてゆく。
UCARY & THE VALENTINEの唯一無二の武器は、メルヘンにもダークにも変貌するコンピューターミュージックにある。
インストから繋げる「NEW DANCE」では、先ほどまでのポップな印象とは違い、EBM譲りのダークサウンドをファンシーに昇華させて新型ダンスミュージックを作り上げている。
一方「Bondage of virtual」では、レトロゲームのような歪みエフェクトや速弾きギターなど、多彩な音を駆使したクセ強いサウンドメイクだが、サビではシンプルなリズムとキャッチーなフレーズを貫くという絶妙なバランスを図っている。
アクの強さももちろん彼女の魅力なのだが、ストレートなアプローチもお手の物。
「Time loop」ではしっとりと歌を聴かせるミディアムテンポで、曲構成もとてもシンプルでわかりやすい。英語と日本語を織り交ぜて歌うのは、失った愛について。キーボードの一音で終わるラストシーンは、まるで愛の灯が消える瞬間のように切なくてきれいだ。こういった繊細な表現にも長けているところにも、UCARYの音楽のレンジの広さを感じられる。あらゆる現場や音楽を通して培った感性がゆえの、多様性をこのアルバム一枚を通して見つめることができる。
なにより、彼女の独特な声に、すべての秘密が隠されている。
全11曲(M-2はインストだが)を通して、どれも何度も思い出しては聴きたくなってしまうような中毒性を感じてしまうのだ。
UCARYの歌声といえば、天使のような澄んだ声に、いたすらっぽく拙い歌声がチャームポイント。しかし、今作では子供っぽい歌声から大人な色気を醸し出す美声まで、幅広いUCARYの声を堪能できるのだ。
時折Charaのように甘くひっかかっては、吐息混じりに消えてゆく脳溶けボイスはもちろん、驚きなのは大人の一面の方。「Cold Mountain」や「Shadow」ではハスキーな歌声で儚さと強さを描き、掠れ声で歌い上げたり色香を漂わせるシーンもある。
しっかりと大人の魅惑も表現のひとつとして取り入れてくるところも、今作の大きな魅力のひとつだ。
まさに、“Human Potential”。多彩に変貌するコンピューターミュージックと巧みな声色の使い方に、ソロシンガー・UCARY & THE VALENTINEとしてのポテンシャルの高さを感じざるを得ない作品となっているのだ。
今後コーラスやゲストボーカルとしての存在よりも、彼女だけのヴォーカルと彼女だけの世界を堪能できる“UCARY & THE VALENTINE”の名を馳せることは間違いないだろう。(pikumin)
【Release】
『Human Potential』
2018年6月27日(水)発売
2,000円(税込)
全11曲収録
【Live】
“TABOO”vol. 2
2018年6月27日(水)@東京 青山 月見ル君想フ
出演:UCARY & THE VALENTINE / and more