最終更新: 2020年12月27日
2014年にリリースしたファースト・アルバム『Jungle』が、50万枚以上の売り上げを記録し、同年のマーキュリー賞にノミネート、
iTunesの最優秀オルタナティヴ・アーティスト、SpotifyのTop5 Breakthrough Artistに選出されるなど、デビュー作ながらに大成功を収め、華々しいデビューを飾ったエレクトロソウルバンド・Jungle。
衝撃の前作から4年が経過した2018年。彼らは満を持して帰ってきた。
目次
Jungle『FOR EVER』
5月にはリリースの詳細を明らかにせず、新曲2曲のMVを公開。その後、新曲先行リリースと共に、9月14日にニューアルバム『For Ever』をリリースすると発表した。
幼馴染であるジョシュ・ロイド・ワトソンとトム・マクファーランドを中心に結成されたJungleは、現在7人編成と大所帯となり、
シンセサイザー、パーカッションなど多くの機材を用いたり、複数がボーカルを務めるなど、大所帯ならではの多彩な表現に挑み続けている。
あのノエル・ギャラガーに「クソ素晴らしい」と言わせたJungle待望の新作は、恐ろしくも美しい“終わりとはじまり”だった。
70年代ファンクをベースに、エレクトロとモダン・ソウルをミックスさせた華やかなベッドルームミュージックをベースに、2年をかけて世界ツアーを行うなど、
ライヴから培った奥行あるサウンド・スケープや開放感あるメロディ展開を用い、独特ながらも限りなく自然体な世界を作り上げたのが今作だ。
跳ね上げるリズム・セクションに、ディレイやリバーヴで甘く響くギターと彩を加えるエレクトロサウンド。角が丸い音には圧がなく、心地良いまどろみを携えて身体へ流れ込んでくる。
そして、唯一無二の官能的なファルセットだ。アップテンポで華やかなファンク・ポップを描く「Smile」や「Heavy,California」では色香を漂わせつつ軽やかに舞い上がり、「Cherry」では甘美なファルセットが闇夜に溶けていくように消えていく。曲ごとに七変化する様も美しい。
まどろみを助長するサイケデリズムとロマンティックなソウルミュージックの組み合わせはRyheにも近しいが、ひとつの空間の光と音の反響に溶けていくRyheの音像に対して、Jungleには反響が届かないほどの広大な自然の元で鳴り響くオープンマインドな印象が強い。
この作品を聴いた時に、遥かなる大地と新たに芽吹く緑を見た。 ただ一人、荒れた地に取り残され、空から空気を伝い、この音楽が流れているのをただ、その光景に圧倒されながら聴いている。
弦を揺らす音はまるで葉がなびく音に、なだらかなリズム・セクションは空気の流れを具現化した音に、多くの電子音は自分の心音や思考、あるいは血液の流れる音に聞こえる。
ひとつひとつは映画のワンカットのように、鮮明で立体的。視覚と体感が同時に味わえる映画的効果を感じるのだ。音と風景と自分がこんなに一体化する経験は初めてだった。
この情景を彷彿とさせる要因は、自身が掲げる「世界が滅亡した後にラジオから流れる別れの音楽」という今作へのイメージにあるだろう。
特に中盤からはテーマのストーリー性がぐっと深まっていく。
「House In LA」
「House In LA」は、選りすぐりのきれいな音を丁寧に重ねていくも、どこか不穏な空気を常に漂わせたままだ。壮大なのに、こんなにも切ない。
最後に聞こえるヘリコプターの音はゆっくりと遠ざかって行き、取り残された気持ちになる。
物語は続き、「Cosurmyne」では、ラジオと思われる別音声と本編がミックスされることで、ふかん的に見る情景と内面的感情を行き来する感覚になる。
鼓動をなぞるようなリズム・セクションと流れるように連打するキーボードの交わりがあまりに綺麗で、切ない。終焉した世界を前にして孤独を痛感しながら、自然の美を思い知るように。
ボーカルとシンセだけのシンプルな構造に、忘れられないノスタルジアを乗せる「Home」を経て、躍動感あるグルーヴと多彩なサウンドで、民族音楽のようなメロディを盛大に奏でる「Pray」で華やかに締めくくる。
タイトルも含めて、ディストピアとして終わらないのが彼ららしさなのかもしれない。終焉、そして未来の息吹を感じさせるこの曲は、今作に最もふさわしいラストシーンだ。
この世の終焉と残された自然を前にして、恐怖や孤独を感じると共に、美しさや尊さを知る。
その人間的で繊細な感情を、彼らは壮大なファンク・ポップや甘いモダン・ソウル、そして唯一無二の気高きファルセットを用いて巧みに表現している。 音楽を通し、空気の移ろいまでもリアルに感じさせる今作は、多彩な表現に挑み続けた彼らの妙ならではの産物である。(pikumin)
リリース
『FOR EVER』
発売日:2018.09.14
レーベル:XL RECORDINGS / BEAT RECORDS
品番:XL972CDJP
国内版特典:ボーナストラック2曲追加収録 / 歌詞対訳・解説書封入