最終更新: 2020年5月16日



テキスト:pikumin 撮影:Bunta Igarashi

ROTH BART BARONの熱いパフォーマンスを、終わり間際までステージ後方から見ていたWOMANの面々。 準備を始める直前、「ROTH BART BARONがめっちゃヤバかったんで、俺らもヤバいっすよ」宇都宮は笑顔で言い放ち、 ステージへ向かった。
共演者から多大なエネルギーを受け継ぎ、20分をかけ入念に機材をセットした彼らの準備と気合は満タンだ。
SEと共にメンバーがステージに登場。息を吸う声を合図に、崎山の歌声だけが多重に合わさる「ballad」が、開会宣言のように凛と場内へ響き渡った。

この日のセットリストは、前回の“Soul#2”とほぼ同じ。真ん中に新曲とリアレンジした楽曲の計3曲を加えた以外は、あえて同じ内容で組んだという。
それは、同じ楽曲でも以前とは違って聴こえるのだと、自分たちのパフォーマンスに自信を持っているからだろう。
その思惑通り、続く「breaking dawn」から想像を軽々と飛び越えていった。
以前までは生音とデジタル・ミュージックが対となっている印象が強かったが、今では上手く調和され、同率で共存している。ギターのノイズは相変わらずガツンと歪み、ベースは本来のあたたかみと深みのある音色に寄せているが、ぴったりと音が合わさり、じっくり絡み合ってゆく。
それぞれが堂々と自らの音に集中して紡ぎ出すことで、むしろ一体感が増し、より奥行きのあるサウンド・スケープへと変化したのだ。
それに合わせ、息を呑んで歌声を待つ瞬間、一瞬のブレイクタイム、空白の訪れるひと時がより際立ち、曲中にメリハリがついたように思える。

特に「butterfly」は大きく迫力が増したと言えよう。
水泡のように連なる柳本のベースラインが主導権を握り、松永と団長は不穏な空気を絶えず生み出す。この3人のアンサンブルは以前にも増して密接となり、WOMANのダークサイドを垣間見せる。
後半にかけて、崎山の歌声と宇都宮の創り出すエレクトロ・ノイズが息をぴったり合わせて上り詰めていく瞬間には、思わずゾクゾクとしてしまうほど圧巻だった。

続いては“今の自分たちを詰め込んだ”という新曲「replica」「tobacco」を披露。
前作『beautiful』では、強烈なノイズや激しいエレクトロ・チューンに潜む美に迫ったが、新曲たちは全て静かな曲調で、自然体な美を求めたサウンドに焦点を当てている。空気に溶け込んでいくようなギター使いや、風音のような低音をフィードバックさせ続けるなど、環境音楽のような音色を取り入れたり、R&Bテイストな甘めのグルーヴで閉鎖的で濃密な世界を作るなど、今までにはないアクションを試みている。
また、既存の「bystander」をリアレンジした「re:bystander」は、より綺麗な音像をミニマムに追求し、楽曲の持つ穏やかな美しさを際立たせていた。
こういった静かできれいな音に着目した音楽は、今の崎山の歌声にも絶妙にマッチングする。
というのも、音源とは違いライブではエネルギッシュな姿を見せる崎山のボーカルにゆとりが芽生え、Ryheを彷彿とさせるような繊細に甘い響きを持つようになった。元より彼の武器であって“ジェンダーレス”な魅力がさらに開花したのだ。
この3曲により、リズミカルでノリの良い曲たちの中に緩急が生まれ、ライブの流れがぐんと良くなった。そして、彼らが次のステップに進んだ証拠でもあった。

「ミュージシャンシップを大切に、異端とも孤高とも思わず王道と思ってこれからもやっていきます」
最後は今までのテクニカルなアプローチを取っ払った王道的バンド・スタイルで挑む。彼らの本質がロック・ミュージックであることを示す「regret」から、宇都宮の「全部壊して帰ります」という言葉と共に「You are everything」で締めくくる。
メンバーのボルテージも上がり、楽器に感情を叩きつけるように音を鳴らし続ける。宇都宮がギターを掲げると観客から歓声があがった。そのまま額に当て、木の鳴りと場内に響き渡るノイズを全身で味わっている姿には目を奪われた。デジタルという枠組みを飛び越えたソウルフルなパフォーマンスに、会場からは大きな拍手が巻き起こる。
デジタルとアナログの垣根を越え、エモーショナルな魂とオルタナティヴな精神だけがステージに浮かび上がる。それがWOMANの在り方なのだ。これはROTH BART BARONと強く共鳴している。また、そういった音楽たちが出会うために“Soul”という企画が存在するのだ。

普段はアンコールをしないWOMANだが、熱烈な拍手に応え、崎山と宇都宮でアンコールに応えるという。フロアの中央に座り、ボーカルとアコースティックギターだけで未発表曲「birthday」を披露するというのだ。ささやかなスポットライトが2人を照らし、その周りを観客が囲む。先日宇都宮が衝動買いしたというアコースティックギターはあたたかな音色でアルペジオを紡ぎ、崎山は目を閉じながら軽やかに歌う。先ほどまでの爆音を忘れるほどに、穏やかな時間が訪れた。
マイクもアンプもない、贅沢な時間。ROTH BART BARONがキーボードとボーカルだけで「HAL」を披露した光景がよみがえる。
「ROTH BART BARON とWOMANの共演って、腑に落ちる感じしません?」宇都宮はMCでこんなことを話していた。
デジタルとアナログの垣根を越え、オルタナティヴ(型にはまらない)に生きる彼らは、出会うべくして出会ったのだと、最後に強く噛みしめながら、“Soul#3”は幕を閉じた。

【Set List】
2018年11月7日(水)@心斎橋CONPASS
1.ballad
2.breaking dawn
3.bloom
4.butterfly
5.secret
6.replica
7.tobacco
8.re:bystander
9.regret
10.You are everything
en.birthday