最終更新: 2021年8月9日
彼らのことは初めて見たのだが、想像以上に圧倒的なライブだった。JUNGLEはモダンR&Bとよく形容されるが、それだけだと彼らの持っているスケール感は決してとらえられない。
本公演の前、彼らに対面インタビューを行い、分かったことがある。彼らのルーツにはザ・フーやビートルズのようなクラシック・ロックとテーム・インパラに代表されるモダン・サイケデリックがあったのだ。それゆえ往年のロックバンドが持っていたようなライブでの圧倒的な爆発力があるのもうなづける。
今回のインタビューは3月下旬発刊予定のBELONG本誌に掲載予定。彼らの新作『FOR EVER』とルーツアルバムについて取り上げたインタビューは下記のVol.24デジタル版に掲載。
そんな本公演の模様は『モリッシー・インタヴューズ』を手掛けたフリーランスの音楽ライター、新谷洋子氏によるオフィシャルレポートをどうぞ。
3日前にはモスクワで公演し、翌々日はインド西部のナーシクでのライヴが控える、文字通りに世界を縦断する大規模ツアーを敢行中のジャングルが、昨年9月に発表したセカンド『FOR EVER』を携えて来日。ファースト『JUNGLE』のリリース直後のフジ・ロック・フェスティバル’14で一度日本を訪れている彼らだが、1月31日に東京・渋谷のWWW Xで実現した本公演は、本邦初めての単独ライヴだ。
ご存知の通り、ジョシュ・ロイド=ワトソンとトム・マクファーランドのふたりがロンドンで始動させたジャングルは、『JUNGLE』が登場する前からバンド形態でのライヴ活動に乗り出し、その評判も手伝って世界中にファンを獲得。以来、7人編成の現在のラインナップに落ち着いた。そして『FOR EVER』をプレヴューするツアーを2017年末に早々と開始して、来日前にこなしたライヴは100本を越えている。よって新しい曲もすでに血肉と化した感があり、優美にも、軽快にも、重厚にも、自在に変容する精巧なグルーヴ・マシーンの威力を存分に見せつけて、2枚のアルバムから均等にセレクトした計17曲のセットを披露してくれた。
車のエンジンがかかる音とサイレンが鳴り響く中、満場のオーディエンスに迎え入れられた7人。中央にトム&ジョシュ、両脇にアンドロ・カウパースウェイトとルディ・サーモン(共にバッキング・シンガー)、背後にフレイザー・マッコール(ギター、ベース)、ジョージ・デイ(ドラムス)、ドミニク・ウォリー(パーカッション)が、バンドのロゴを配した決して広くないステージの上にひしめくようにして並び、『Smile』でショウをスタート。『FOR EVER』のオープニング曲である。
実際にトム&ジョシュが体験したハートブレイクを題材に歌詞を綴り、サイケデリックなサウンドスケープを掘り下げて表現の幅を一気に広げた『FOR EVER』。同作の収録曲が、こうしてファーストのクールなファンク/ディスコ・ソングの数々と並置されると、その奥行きとエモーショナルな含みはいっそう際立つ。他方で、当初からずっと変わっていないのは、ヴォーカルのアプローチだ。キーボードで厚いテクスチュアを構築し、曲によってはギターやベースも弾きながら歌うトム&ジョシュを中心に、4人のシンガーがアンドロジナスなファルセットのユニゾンを紡ぐという基本スタイルがいかにユニークか、改めて思い知らされる。それはコミュニティ精神を象徴しているようでもあるが、強いて言えば、アクションも大きいトムが、歌い手として一番情熱的なタイプなのかもしれない。MCを積極的に挿むのも彼で、フジ・ロックを振り返って、「初めて日本に来た時はまだアルバムが出たばかりだったけど、今ではこうしてみんなが僕らの曲を知ってくれていて、本当にうれしい」と語ったものだ。
ハイライトはなんと言っても、本編の締め括り。2枚のアルバムのそれぞれ最もエクスペリメンタルな曲、『House in L.A.』と『Drops』にさらに大胆なアレンジを加えて、前者は壮大なスペース・ゴスペル、後者はプログレッシヴなアフロ・ブルースに仕立てて聴かせると、シンセのアルペジオのカオスの中で一旦幕を引く。デビュー当時は安易にビー・ジーズに比較されることも多々あったが、今のジャングルはボン・イヴェール、或いはテーム・インパラのようなモダン・サイケ・バンドに並べて語ることも可能なんじゃないだろうか?
かと思えば、押すべき時は押して引くべき時は引く彼ら、アンコールでは一転、オールドスクール・ジャングルと呼びたくなる初期の代表曲『Busy Earnin’』と『Time』を、脚色せずに踊らせることに専念してプレイ。待っていましたとばかりに沸くオーディエンスのリアクションに、トム&ジョシュもうれしそうな表情を浮かべる。ボディに訴えて逃避を促すファーストのジャングルと、ハートに訴えて共感を誘うセカンドのジャングルを交錯させ、進化の軌跡を浮き彫りにする、実に雄弁な75分間だった。(レポート:新谷洋子 ライブ撮影:Masanori Naruse)
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