最終更新: 2020年5月16日

2019年にTHE NOVEMBERS(ザ・ノーベンバーズ)がリリースした7枚目のアルバム『ANGELS』。

2019年は、THE NOVEMBERSとってデビュー11周年というアニバーサリーイヤーであると同時に、

近未来SF作品『AKIRA』と『ブレードランナー』の舞台となった年だ。

『ANGELS』は、そんな年に発表された。

アルバムのリリース後には“NEO TOKYO – 20191111 –”と題されたワンマンライブも行われ、

上記SF作品と交差しながらロックバンドとしての表現の幅をより一層広げた作品になっている。

そして先日、8枚目となる新作アルバム『At The Beginning』をリリースすることが発表された。

シーケンスサウンドデザイン/プログラミングは、yukihiro(L’Arc~en~Ciel、ACID ANDROID)が担当。

一足早く聴かせていただいたアルバムは、前作である7thアルバム『ANGELS』からの流れを引き継いだ作品となっていた。

『At The Beginning』を語る前提として、まず『ANGELS』におけるサウンドや歌詞、ライブパフォーマンスについて解説しておく必要がある。

そのため、『At The Beginning』のリリースを控えるこのタイミングで『ANGELS』についてレビューさせていただく。

『ANGELS』とは

ANGELS

2019年にリリースされた7thアルバム『ANGELS』は、THE NOVEMBERS(ザ・ノーベンバーズ)が確立した音楽性をさらに更新し、別次元へと突入した1枚だ。

『ANGELS』の前に発表された6枚目のEP『TODAY』では、音の鳴り方や配置を意識。

アンビエント・ミュージックの作法を取り入れ、より深遠なる表現を獲得した。

その新たなる表現のもと、これまで鳴らしてきたTHE NOVEMBERSのサウンドを再解釈して出来上がったのが『ANGELS』である。

そして、今作も確固たるコンセプト持って、メッセージ性の高い作品であることも無視してはならない。

実際にどのようなメッセージが込められているかについては、1曲ずつ解説する必要がある。

まずは、以下をご覧いただきたい。

『ANGELS』全曲紹介

「TOKYO」

火花のようジリジリと弾けるノイズで幕をあける「TOKYO」は、ビート・ミュージックをTHE NOVEMBERSが積み重ねてきた音楽性に落とし込んだ新機軸。

インダストリアルからバロックポップ、ニューウェイヴなど姿を変えながら、生ドラムやドラムパッド、打ち込み、そしてノイズを駆使してトラップ的ビートを多方面から表現する。

ブレイクビーツを主体することで“アナログ”と“デジタル”、“繊細”と“凶暴”の2面性を打ちだし、異様な緊迫感と妖しい雰囲気をまとった1曲。

「BAD DREAM」

レトロフューチャーなシンセが彩る本曲のMVが公開された当初、ヴォーカルの小林祐介は「雨の風景の曲・MVを、“2019年”になったら作ってみたいと思っていた」とコメント。

“森の中を 青白い ユニコーンがかけぬける”

“YOU’RE AWAKE IN SOMEONE’S BAD DREAM”

上記の歌詞などからも象徴されるとおりモチーフなっているのは、リドリー・スコット監督のSF映画『ブレードランナー』(原作は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)である。

「Everything」

不穏な雰囲気を持つ上記2曲と打って変わって、安らぎに満ちたシンセが全体を優しく包む「Everything」。

教会で歌われる讃美歌のように開放的で荘厳なムードと甘美な唄メロとの溶けあいは、『Hallelujah』からの流れ。

そんな幻想的なサウンドの中でも高松浩史のベースラインは肉感性があり、やけに生々しく聴こえる。

その生々しさこそが歌詞に深みを与える。

“目に映るものがみな 誰かが描いた 絵だったとしても”

「plastic」

「Everything」で表出した肉体的なベースが一気に主役に躍り出るのが「plastic」だ。

ピコピコと跳ねるエレクトロサウンドや粛々と刻まれる機械的なドラム、あちらこちらから鳴らされる悪戯なギター。

規則性と不規則が入り混じった混沌をかき分け、しなやかに踊って魅せるベースラインは、渋さのある音色だが全体に彩りと潤いをもたらす。

ベースが主要なメロディを担い、メインディッシュとして味わうことができるのは、これまでのTHE NOVEMBERSになかったアプローチだ。

「DOWN TO HEAVEN」

4thアルバム『zeitgeist』で打ち出したインダストリアル性を、6th EP『TODAY』で獲得したアンビエントの様式で再構築。

ノイズの直後に水面に雫が滴るような音を配置したり、金属プレス音や小鳥のさえずりを想起させるギターサウンドも織り交ぜたりと、音響的な工夫が随所になされている。

総じてノイズミュージックにおける手法のひとつではあるのだが、機械的な音と自然音との階調が豊かに描かれ、それらとの融和を織りなすサウンドメイクが絶妙である。

「Zoning」

シンセや打ち込みもなく、重厚なバンドサウンドで勝負した「Zoning」の特筆すべき点はギターとベースのレイヤーである。

そこらかしこでただ無骨にかき鳴らされて、3本の弦楽器はぶつかりあっているようだが、そうではない。

ざらついたもの同士のサウンドたちは、少しずつ重なり合い精巧な層を成す。シンプルな構成だが、掘りがいのある音像だ。

“俺とお前が ちょっとでも よくなるように めちゃくちゃにやるだけ”

このリリックを己の手さばきで見事に体現してみせた。

「Ghost Rider」

アメリカのロックバンドSuicideのカバーで、アルバム収録前からライブで披露されている。

今までにTHE NOVEMBERSは、L’Arc~en~Cielの「cradle」やレナード・コーエンの「Hallelujah」、そしてNIRVANAの「STAY AWAY」など数多くの楽曲をカバーしてきた。

そのどれもがオリジナルにしっかりと自らの血を注いだ巧みなアレンジが光るものとなっている。今回の「Ghost Rider」も例外ではない。

まるで高速回転しながら演奏しているかのよう錯覚させるサウンドワークは、原曲でも成しえなかった境地だ。

感覚を頼りにあらゆる試行錯誤のもと、ここに達したに違いない。

「Close To Me」

「Close To Me」はヴォーカルとシンセ、ギターとの溶けあいを心ゆくまで楽しみあれ。

一枚絵で鑑賞すると、恍惚感を演出するドリーム・ポップの音像である。

しかし、パレットに並べられたひとつひとつのサウンド解像度は高い。

程良いエコーがきいた芳醇なヴォーカルが、そのサウンドたちを融解させ煌めきある結晶体へと昇華させている。

このように小林のヴォーカルがメロディの親密度を高めているのは初期からの特色だが、「Close To Me」においては特にそれが顕著である。

「ANGELS」

5枚目のフルアルバム『Rhapsody in beauty』を彷彿とさせる七色のノイズハーモニーを下地に、卓越した音響デザインが施された「ANGELS」。

この曲には、THE NOVEMBERSの進化が凝縮されている。

立体的な奏でもって聴覚を刺激するギターアルペジオやピアノタッチや躍動感を増幅させるベースライン、そして遠近感のあるドラムプレイ。

これらはまるで飛び出す絵本ように右から左、奥や手前など全方位から響かせる。

構造美にあふれ、はりめぐらされた音の数々と仕掛けにわくわく感を抑えきれない。

「NEO TOKYO」の意味

NEO TOKYO – 20191111 –
THE NOVEMBERS(ザ・ノーベンバーズ)は『ANGELS』のリリース後、2019年11月11日にTHE NOVEMBERSは“NEO TOKYO – 20191111 –”と冠されたワンマンライブを開催している。

2019年は、大友克洋の漫画・アニメ映画作品『AKIRA』とリドリー・スコット監督の映画『ブレードランナー』の舞台である。

どちらも1980年代に発表された近未来SF作品で、退廃的なムードを持って都市を描いている。

“NEO TOKYO – 20191111 – ”では、「TOKYO」にアレンジを加えた「NEO TOKYO」と『AKIRA』のテーマ曲をアレンジした楽曲も披露された。

THE NOVEMBERSは、明確な意図を持って2019年に作品をリリースし、ライブパフォーマンスを行った。

“NEO TOKYO – 20191111 –”と上記の楽曲解説をもって、『ANGELS』に込められたメッセージとは――。

『AKIRA』と『ブレードランナー』

現在の東京は、過去に描かれた『AKIRA』と『ブレードランナー』の舞台と一致しているところが多くある。

現実の2019年時点ではオリンピックの延期は決まっていないにせよ、まるで

“目に映るものがみな 誰かが描いた 絵だったとしても”(Everything)

“今、いったい何が起こっているのかわからないけれど”(DOWN TO HEAVEN)

のように予め誰かが描いたシナリオのなかにいるかのようだ。

それこそ2020年4月時点における現実の世界は“BAD DREAM”であって欲しい。

ただ、そうであっても

“ほんとうの海を見にいこう 寝ぼけまなこでも きっと、見えるから タネも仕掛けもない この日常も あの茶番でさえも” (Everything)

このように目の前の現実が受け入れられなくても、自分が信じるものを再確認することで見えてくるものがある。

『ANGELS』という到達点

今回のこだわり抜かれたサウンドからもわかる通り、THE NOVEMBERS(ザ・ノーベンバーズ)はいつだって、現状に満足することなく自身の音楽と美学に磨きをかけてきた。

“リズムに合わせて、呼吸を合わせて やっぱ合わないなってところを 愛すのさ ちょっといいかげんくらいで 別にかまわない さあ歌おう 天使たち”(ANGELS)

そして、醜いものを排除することなく受け入れ、それさえも愛することで悲しい現実も意味をかえることを教えてくれる。

そういったマインドが、ひとつの到達点をこえて別次元へと突入したTHE NOVEMBERSの音楽性を形成させたのだろう。

飽くなき探求と深遠なる表現、そして慈悲深さがつまった7thアルバム『ANGELS』はロックバンドにおける音楽表現の幅をも広げた1枚である。

リリース

7thアルバム『ANGELS』

発売日:2019年3月13日
収録曲:
01.TOKYO
02.BAD DREAM
03.Everything
04.plastic
05.DOWN TO HEAVEN
06.Zoning
07.Ghost Rider
08.Close To Me
09.ANGELS

最新アルバム『At The Beginning』

『At The Beginning』 Album Cover
発売日:2020年5月発売
価格:¥3,080(税込)
品番:MERZ-0209
収録曲:
1. Rainbow
2. 薔薇と子供
3. 理解者
4. Dead Heaven
5. 消失点
6. 楽園
7. New York
8. Hamletmachine
9. 開け放たれた窓

6thアルバム『Hallelujah』


発売日:2016年9月21日
収録曲:
01.Hallelujah
02.黒い虹
03.1000年
04.美しい火
05.愛はなけなし
06.風
07.時間さえも年老いて
08.!!!!!!!!!!!
09.ただ遠くへ
10.あなたを愛したい
11.いこうよ

5thアルバム『Rhapsody in beauty』


発売日:2014年10月15日
収録曲:
01.救世なき巣
02.Sturm und Drang
03.Xeno
04.Blood Music.1985
05.tu m’(Parallel Ver,)
06.Rhapsody in beauty
07.236745981
08.dumb
09.Romancé
10.僕らはなんだったんだろう

4thアルバム『zeitgeist』


発売日:2013年11月30日
収録曲:
01. zeitgeist
02. We
03. Louder Than War (2019)
04. Wire (Fahrenheit 154)
05. D-503
06. 鉄の夢
07. Meursault
08. Sky Crawlers
09. Ceremony
10. Flower of life

3rdアルバム『To (melt into)』


発売日:2011年8月3日
収録曲:
01. 永遠の複製
02. 彼岸で散る青
03. 瓦礫の上で
04. はじまりの教会
05. 37.2°
06. ニールの灰に
07. 日々の剥製
08. 終わらない境界
09. holy

2ndアルバム『Picnic』


発売日:2010年3月10日
収録曲:
01.Misstopia
02.Figure 0
03.dysphoria
04.pilica
05.パラダイス
06.sea’s sweep
07.Gilmore guilt more
08.I’m in no core
09.Sweet Holm
10.ウユニの恋人
11.tu m’

1stアルバム『Picnic』


発売日:2008年6月4日
収録曲:
01.こわれる
02.Arlequin
03.chernobyl
04.アマレット
05.ewe
06.僕らの悲鳴
07.ガムシロップ
08.アイラブユー
09.白痴
10.picnic

プロフィール

THE-NOVEMBERS/ANGELS

“2005年結成のオルタナティブロックバンド。2007年にUK PROJECTより1st EP「THE NOVEMBERS」でデビュー。様々な国内フェスティバルに出演。
2013年10月からは自主レーベル「MERZ」を立ち上げ、 2014年には「FUJI ROCK FESTIVAL」 のRED MARQUEEに出演。海外ミュージシャン来日公演の出演も多く、TELEVISION,NO AGE,Mystery Jets,Wild Nothing,Thee Oh Sees,Dot Hacker,ASTROBRIGHT,YUCK等とも共演。

小林祐介(Vo/Gt)はソロプロジェクト「Pale im Pelz」や 、CHARA,yukihiro(L‘Arc~en~Ciel),Die(DIR EN GREY)のサポート、浅井健一と有松益男(Back Drop Bomb)とのROMEO`s bloodでも活動。ケンゴマツモト(Gt)は、園子温のポエトリーリーディングセッションや映画「ラブ&ピース」にも出演。高松浩史(Ba)はLillies and Remainsのサポート、吉木諒祐(Dr)はYEN TOWN BANDやトクマルシューゴ率いるGellersのサポートなども行う。

2015年10月にはBlankey Jet CityやGLAYなどのプロデュースを手掛けた土屋昌巳を迎え、5th EP「Elegance」をリリース。
2016年は結成11周年ということで精力的な活動を行い、Boris,Klan Aileen,MONO,ROTH BART BARON,ART-SCHOOL,polly,Burgh,acid android,石野卓球,The Birthday等錚々たるアーティストを次々に自主企画「首」に迎える。2016年9月に6枚目のアルバム「Hallelujah」をMAGNIPH/HOSTESSからの日本人第一弾作品としてリリース。11周年の11月11日新木場スタジオコーストワンマン公演を実施し過去最高の動員を記録。2017年FUJI ROCK FESTIVAL WHITE STAGE出演。

2018年2月には、イギリスの伝説的シューゲイザー・バンドRIDEの日本ツアーのサポート・アクトを務める。同年5月、新作EP『TODAY』をリリース。”

引用元:THE NOVEMBERS公式HP

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ライター:滝田優樹

北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky