最終更新: 2022年7月27日
エクスペリメンタル・ソウルバンド、WONK(ウォンク)が4thフルアルバム『EYES』をリリースした。
22曲が収録された『EYES』は“高度な情報社会における多様な価値観と宇宙”をテーマとしたコンセプトアルバムで、完全予約限定生産盤には楽曲毎のビジュアルイメージと初の歌詞/対訳が付けられている。
さらには新作記念として、仮想空間上でライブパフォーマンス行う“EYES SPECIAL 3DCG LIVE”を開催することが発表された。
新作『EYES』は、こだわり抜かれた作品で明確なメッセージをもって制作された。
ジャズからソウル、R&B、ヒップホップなどの多要素を抽出しながら分類不能で、耳から脳に愉しい刺激を与える音楽を奏でてきたWONKがひとつの到達点に達したアルバムと言っていいだろう。
具体的にどのような境地に達したかを語る前にまずは、WONKがどのようなバンドでどのように歩んできたのかから紹介しよう。
また、WONKはフジロック2022に出演し、Youtubeでライブを配信することも決定している。(2022年7月27日追記)
目次
WONKとは
WONK(ウォンク)というバンド名はアメリカのジャズピアニスト、セロニアス・モンクの“MONK”をもじって冠せられた。
メンバーはヴォーカルの長塚健斗、キーボードの江﨑文武、ベースの井上幹、ドラムでリーダーの荒田洸の4人。
2013年に結成されたWONKは、2015年に自身が運営するレーベル“epistroph”から1st EP『From the Inheritance』をリリースする。
2016年に1st アルバム『Sphere』をリリース。石若駿やTweli Gらが参加した『Sphere』は、第9回CDショップ大賞にてジャズ賞を受賞した。
2017年には『Castor』と『Pollux』のアルバムを同時リリースすると、ブルーノートレコードとepistrophの共同企画でセロニアス・モンク生誕100周年トリビュート盤『MONK’s Playhouse』やNYのネオソウルバンド、The Love Experimentとのコラボレーションアルバム『BINARY』も立て続けに発表。
その後2018年に『Castor』と『Pollux』の楽曲をDJ SpinnaやBallheadらがリミックスを手掛けた『GEMINI: FLIP COUTURE #1』を、2019年に2nd EP『Moon Dance』をリリースした。
WONKは、多くのアーティストとバンドたちと共鳴しながら作品を重ねてきた。
また、フジロックやサマソニ、TOKYO JAZZといった日本屈指の音楽フェスへの出演からパリとベルリンでの公演を行うなど活動もボーダーレスである。
millennium paradeでの活躍
バンドとしてはホセ・ジェイムズのアルバム『Love In a Time of Madness』への参加や香取慎吾、Chara 、iriらへの楽曲提供やプロデュースも行ってきた。それだけではなく、WONKはメンバーが個別で他のアーティストへの楽曲参加するほかプロデューサー、エンジニアとしても活躍する。
King Gnuやmillennium parade、ちゃんMARI( ゲスの極み乙女) 、Elephant Gym (大象體操)などのアーティストたちとのコラボがその例だ。
King Gnuのギター・ヴォーカル常田大希によるソロプロジェクトであるmillennium parade(ミレニアム・パレード)では、江﨑文武がメンバーとして所属。
millennium paradeはアーティスト~デザイナーなど多くのクリエイターを擁する集団で、「Stay!!!」ではCharaがヴォーカルを務め、「lost and found」のMVにはダンサーの菅原小春が出演している。
そんな強者たちが出入りする集団がリリースした「Fly with me」には、ヴォーカルとして長塚健斗も参加。
作曲を常田大希、作詞をermhoiが手がけ、NETFLIXにて配信されている『攻殻機動隊 SAC_2045』の主題歌に抜擢されている。
レコーディングには12名という大所帯で臨まれたが、ヒップホップやジャズ、ファンクなどが行き交うアヴァンポップな楽曲は、まさに大乱闘。
手練れたちがテクニックやエゴを出し惜しみなく誇示し、爆発を起こす。まさに“芸術は爆発だ”。
そのなかで長塚健斗と江﨑文武の2人は、負けず劣らず戦ってみせてくれた。
『EYES』について
そんなWONK(ウォンク)がリリースした新作アルバム『EYES』。
前作のEP『Moon Dance』に収録されている楽曲は今作の『EYES』にも全て収録されており、作品の序盤から終盤に日本語と英語のポエトリーリーディング「Skit 1 – Behind The World」、「Skit 2 – Encounter」、「Skit 3 – Resolution」、「Skit 4 – Prayer」が挿入されている。
オープニングナンバー「Introduction #5 EYES」は、レトロフューチャーなインスト曲でこれからはじまる宇宙旅行のはじまりを告げる。
続く「EYES」は、オープニングからの音像を下地にエクスペリメンタルなビート・ミュージックを乗せていく。左右の耳に不規則に届けられるサウンドは宇宙船の軌道、旋回の様子を想像させ、心音のようなビートは宇宙飛行士の心境かのよう。
「Rollinʼ」は、宇宙船に向かってくる無数の星たちをかわすくらい身のこなしが軽い鍵盤さばきと、その星たちを打ち落とす光線が可視化するサウンドでわくわくさせる、ジャズ~フューチャー・ソウルナンバー。
「Filament」は、エキゾチック感漂うジャズファンクな入口でも出口ではオーセンティックなジャズへと変容。
そして流れる「Skit 1 – Behind The World」では“知らないことだらけだ。目に映るこの街のことも、周りの人々のことも、自分自身のことさえも。一体何を信じたらいい?”と問いかける。
悲哀に満ちたピアノが耳を引くバラード曲「Signal」。アンビエントな音響で絶え間なくクラップや鈴、シンセが響き渡る。
サイバーパンク色の強いインダストリアルサウンドをトラップビートの上で泳がせる「Third Kind」や虹の道を走るレインボーロードのようなエレクトロニカポップ「Depth of Blue」。
「HEROISM」は、ワウワウとしたシンセとカッティング風味のギターが主役のエレクトロ・ソウル、ディスコ。
そして、精悍な爪弾きギターを軸にしてモダン・フォークからジャズ、エクスペリメンタルへと階調していく「In Your Own Way」で幕を閉じる。
『EYES』が22曲必要だった理由
全体的にテーマである宇宙を直接的に表現したサウンドであることは言うまでもなく、『EYES』で顕著なのは音の必然性である。
今作においても分類不能で先鋭的な音楽は健在であるが、どの音もこう表現したいという具体性と確信をもって鳴らされた思慮深さがある。
どうやらWONKにとって、明確なテーマとコンセプトを設けて作品を作りあげることは正解だったらしい。
聴き手との意思疎通とサウンドで描いた景色の共有が可能となったからだ。
“高度な情報社会における多様な価値観と宇宙”というテーマの中で、それぞれが異なる視点からサウンドを鳴らし、22種類の景色を描いてみせた。
しかし今回、WONKがひとつのテーマから22種類の楽曲を作り出せるまでの技量があったから、22曲もの楽曲を詰め込んだわけではない。
このヴァリエーションにも必然性はあった。
例えば虹を見て美しいと感じて写真を撮るのか、おぞましいと感じて目をそらすのかといった具合に感性や価値観は決してひとつではない。
そのことを伝えるためにも『EYES』には、22曲もの楽曲が必要であったに違いない。
WONKから届けられたメッセージを受け取り、どう解釈して、どうアクションを起こすかは聴き手次第である。
大事なのは、目の前にある景色を受け入れた上でよく考えて行動すること。
情報過多な社会では、思考停止も信じすぎるのも良くない。
『EYES』にてそういったメッセージを多角的な視点から届けられる表現力と多くの引き出しを獲得したWONKが今後、何に疑問を持ってどう表現していくのか今から楽しみである。
WONKリリースアルバム
4thアルバム『EYES』
発売日:2020/6/17
レーベル: Caroline (S&D)
収録曲:
01.Introduction #5 EYES
02.EYES
03.Rollin’
04.Orange Mug
05.Sweeter, More Bitter
06.Filament
07.Skit 1 – Behind The World
08.Mad Puppet
09.Blue Moon
10.Signal
11.Esc
12.Skit 2 – Encounter
13.Third Kind
14.Depth of Blue
15.If
16.Skit 3 – Resolution
17.HEROISM
18.Fantasist
19.Nothing
20.Phantom Lane
21.Skit 4 – Prayer
22.In Your Own Way
購入はこちら
3rdアルバム『Pollux』
発売日:2017/9/5
レーベル: Epistroph
2ndアルバム『Castor』
発売日:2017/9/5
レーベル: Epistroph
1stアルバム『Sphere』
発売日:2016/9/13
レーベル: Epistroph
WONKフジロック2022出演決定
WONK(ウォンク)が2022年に開催されるフジロックに出演することが決定した。
彼らは7月29日(金)、RED MARQUEEに登場する。
フジロック2022
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日)新潟県苗場スキー場
WONK:フジロックでライブ生配信決定
WONKのフジロックでのライブ配信はチャンネル3の14:00~を予定している。
FUJI ROCK FESTIVAL ’22 LIVE Channel 3
https://youtu.be/6qZWsvov2jc
フジロック2022プレイリスト
BELONGスタッフで、フジロック2022に出演するWONKを含めたアーティストのプレイリストを作成した。
フジロックを120%楽しむためにこのプレイリストを聴いて欲しい!
プロフィール
“東京を拠点に活動するエクスペリメンタル・ソウルバンド。2016 年に1st アルバムを発売して以来、国内有数の音楽フェス出演、海外公演の成功を果たす。2020 年1月リリースの香取慎吾ソロアルバム 『20200101』にて「Metropolis(feat.WONK)」の楽曲提供・共演を果たしたほか、メンバーそれぞれがKing Gnuやmillennium parade、堀込泰行、iriとコラボレーションを行うなど活動領域を広げている。2020 年4月に シングル「HEROISM」、6月に「Rollin’」を配信。6月17日にアルバム『EYES』のリリースを控えている。”
Youtube
- WONK – Rollin’ (Official Audio)
- WONK – HEROISM (Official Audio)
- 香取慎吾 – Metropolis (feat. WONK)
- WONK – Midnight Cruise (Official Music Video)
- WONK – savior
ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky