最終更新: 2022年8月14日

テキサス出身のスリーピース・バンド、クルアンビン(Khruangbin)がサードアルバム『Mordechai(モルデカイ)』をリリースした。

クルアンビンはこれまでインストバンドとしてキャリアを重ねてきたが、今作『Mordechai』ではほぼ全曲に渡ってヴォーカルを導入し、大胆とも言える変化に身を投じている。

新たな境地に達したクルアンビン。彼らは今作で何を得たのだろうか。

また、クルアンビンの来日公演が2022年11月に行われることが決定し、東京の追加公演も決定した!(2022年8月14日追記)

クルアンビンとは

Khruangbin
クルアンビン(Khruangbin)は、テキサス州ヒューストンを拠点に活動するスリーピース・バンド。メンバーはローラ・リー(Ba./Vo.)、マーク・スピアー(Gt.)、ドナルド”DJ”ジョンソン(Dr.)の3人。

60~70年代のタイ・ファンクに影響を受けた異国情緒溢れるサウンドが特徴だ。

これまでに『The Universe Smiles On You』(2015)、『Con Todo El Mundo』(2018)と2枚のアルバムをリリース。世界各国をツアーで回り、高い評価を得てきた。

2019年には初来日を果たし、3月に渋谷クラブクアトロで行われた公演は即完売。同年のフジロックにも出演し、ここ日本でも着実に人気が高まっている。

『Con Todo El Mundo』

2018年にリリースされたセカンドアルバム『Con Todo El Mundo』はインストバンドとしての自身の地位を不動のものとする作品だったと言えるだろう。

2015年のデビュー以降、グラストンベリーやSXSWといった大型フェスに出演するなどして、バンドのパフォーマンスを磨き上げてきたクルアンビン。

その経験値を還元した『Con Todo El Mundo』は、スペイン語で”世界中のみんなと一緒に”という意味のタイトル通り、あらゆるジャンルを内包している。

そして、それらを違和感なくブレンドし、国境をシームレスにしようとする作用がある。

シンプルで安定したドラム、色気のあるベース、印象的なメロディやフレーズを自由自在に操るギター。

それらが三位一体となってサイケデリックかつグルーヴィーなサウンドを創出するバランス感覚は、やはりクルアンビンならではだろう。

評価の高さは数字にも表れており、同作収録「Friday Morning」のMVは1,000万回再生を突破している。

悟りがもたらした『Mordechai』

では、前作『Con Todo El Mundo』に続いて不思議な題名を冠した最新作『Mordechai(モルデカイ)』はどうだろう。

『Mordechai』の意味

2019年の夏までの約3年半、世界各国をツアーして回ったクルアンビン。帰国後にアルバムの制作をスタートさせたが、よりじっくりと作り上げていくために、スタジオでの作業は程なく中断した。

そんな中、ローラ・リーはとある”友人”からの連絡を受け、彼の家族と一緒にハイキングへ行くことになった。

滝を目指して歩んでいた際、ローラは悟ったという。ただ目的地を目指すのではなく、その過程を楽しむことが重要である、と。

それは、バンドが名声を得ていく中で忘れかけていたことだった。そんなきっかけを与えてくれた友人の名こそが”Mordechai”だったのだ。

その経験から生まれた言葉たちを、ローラは何百ページにも渡ってノートに書き留め、それらはやがて歌詞へと繋がっていった。

クルアンビンは以前にも歌詞を書いたことがあったが、今回は特に”言葉にして言うべき何か”があるという思いから、必然的に楽曲が出来上がっていった。

”記憶”や”思い出”について書かれた言葉たちは、消えていってしまうものへの寂しさと、だからこそ美しいものについてリスナーに投げかけてくる。

サウンド

当然、サウンド面にも言及すべきだろう。今作『Mordechai』でも様々な土地の音楽的要素を吸収しており、ツアーで訪れた西アフリカやパキスタン、韓国など、まさに”古今東西”といった様相だ。

先行配信されていた「Time (You and I)」や「Pelota」など特にポップでノリやすいものから、ドリーミーでメロウな「Dearest Alfred」まで、幅広い楽曲を楽しめる。

さらには「So We Won’t Forget」とそのダブ・リミックス版のような「One to Remember」も飛び出し、懐の深さは底知れない。空間系のエフェクト処理も心地良い。

そこへヴォーカルという新たな”楽器”が加わることで、これまでにない芳醇さや恍惚感が生まれ、聴き終える頃には一種のカタルシスすら覚える。

クルアンビンという言葉がタイ語で”空飛ぶエンジン=飛行機”を表す通り、今作でも極上の空の旅が約束されているのだ(なんと言っても1曲目が「First Class」である)。

クルアンビンの魔法Khruangbin

そもそも、インスト・バンドは日本国内ではなかなか定着しない傾向にあるが、クルアンビンの快進撃はそれを覆すものだ。

ロック、ファンク、ソウル、レア・グルーヴ、クラブ、ヒップホップ、R&Bなど、彼らは多国籍かつ多言語な要素をバックグラウンドに持ち、ジャンルレスにリスナーを獲得していくポテンシャルを元々秘めていた。

絶妙な具合に抜け感のあるサウンドがチル・ウェイヴやネオソウル以降の現代的感覚にフィットしたとも言えるだろう。

ローラ・リーの美貌も決して無関係ではないはずだ。

このタイミングでローラがヴォーカルをとったことで、『Mordechai』が新たなリスナーの入り口となることは想像に難くない。

クルアンビンのサウンドに様々なジャンルが溶け込んでいるように、リスナーの壁すらもなくなっていくようだ。

「Time (You and I)」を聴けば誰しもが踊りたくなってしまうだろう。どこか呪術的なバンドの雰囲気も相まって、僕らはたちまち魔法にかけられていく。

クルアンビンは今作『Mordechai』で大きなターニング・ポイントを迎えた。彼らにとって記念碑的な作品となったことは間違いない。

ぜひ入門編としても聴いていただきたい1枚だ。

リリース

3rdアルバム『Mordechai(モルデカイ)』

発売日:2020/6/26
フォーマット:Mp3、CD
収録曲:
1. First Class
2. Time (You and I)
3. Connaissais de Face
4. Father Bird, Mother Bird
5. If There is No Question
6. Pelota
7. One to Remember
8. Dearest Alfred
9. So We Won’t Forget
10. Shida
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コラボアルバム『Texas Sun』

発売日:2020/2/6
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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2ndアルバム『Con Todo El Mundo』

発売日:2018/1/26
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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1stアルバム『The Universe Smiles Upon You』

発売日:2015/11/5
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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クルアンビン来日公演詳細

Khruangbin来日公演フライヤー
クルアンビン(Khruangbin)の来日が2022年11月に東京、大阪で決定した。

東京公演は即日完売し、追加公演も決定した!

追加公演のチケット先行販売は8月18日まで受け付けており、一般販売は9月3日(土)10:00~受け付け開始の予定。(2022年8月14日追記)

  • 東京公演
  • 2022年11月15日(火)東京・豊洲ピット
    チケット料金(前売り):スタンディング 7,800円(税込) ※別途1ドリンク代

  • 東京公演
  • 2022年11月16日(水)東京・Zepp羽田

  • 大阪公演
  • 2022年11月17日(木)大阪・なんばHatch
    チケット料金(前売り):スタンディング 7,800円(税込) ※別途1ドリンク代
    チケット料金(前売り):2F指定席 8,800円(税込) ※別途1ドリンク代

    開場・開演:18:00 / 19:00
    チケット購入先:
    e+
    ローチケ
    チケットぴあ

    プロフィール

    Khruangbin
    米・テキサス州ヒューストン出身の3人組ファンクバンド。メンバーはローラ・リー(Ba.)、マーク・スピアー(Gt.)、ドナルド”DJ”ジョンソン(Dr.)の3人組。2004年に結成され、スピアーとジョンソンがヒューストンの教会でゴスペルバンドを結成していたことが始まり。60年代のタイのファンクから影響を受ける。ボノボに見出されたのを機に注目され、グラストンベリーやSXSWなどの大型音楽フェスにも出演。2015年に『ジ・ユニバース・スマイルス・アポン・ユー』でアルバム・デビュー。2018年に2ndアルバム『コン・トード・エル・ムンド』をリリース。

    Youtube

    • Khruangbin – Time (You and I) (Official Video)
    • Khruangbin – Friday Morning (Official Video)
    • Khruangbin & Leon Bridges – Texas Sun (Official Audio)

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    ライター:おすしたべいこ/Taku Tsushima
    おすしたべいこ
    1992年生まれ、札幌出身。都内のレコードショップで働きながらブロガー/ライターとして活動しています。現在、シューゲイザー専門メディア『Sleep like a pillow』などを運営中。ホラー映画ばかり観ている古生物オタクです。
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