ロックバンド、おとぎ話が記念すべき10枚目となる新作アルバム『REALIZE』を先日リリースした。

彼らの楽曲を聴いているととても結成20周年を迎えたバンドとは思えない。

現行の国内や海外音楽シーンにも目配せしつつ、自身のバンドに還元。おとぎ話ならこう表現するといった具合で常に彼らならではのアンサーを音で表してきたバンドだからだ。

一言でいうならば、独創的であり普遍的。おとぎ話の音楽には古いも新しいもない。

この言葉の補足については、前作『眺め』と新作『REALIZE』を対比させながら論じていきたいと思う。

まずはおとぎ話というバンドについて。

おとぎ話とは

おとぎ話(バンド)
今年2020年に記念すべき結成20周年を迎えたロックバンド、おとぎ話。

同じ大学のメンバー、有馬和樹(Vo./Gt.)と牛尾健太(Gt./Cho.)、風間洋隆(Ba.)、前越啓輔(Dr./ /Cho.)の4人で編成される。

2007年、1stシングル『KIDS / クラッシュ』にてUK PROJECTからデビューを飾ったおとぎ話は、その後2010年に曽我部恵一主催のレーベルROSE RECORDSから4thアルバム『HOKORI』をリリースする。

そして現在、身を置くfelicityは2015年にリリースされた6thアルバム『CULTURE CLUB』からの所属となる。

今回発表された新作『REALIZE』で、アルバム作品は10枚となるおとぎ話だが、改めてバンドとしての歩みを振り返るにはこれだけでは足りない。

山戸結希監督とコラボ映画『おとぎ話みたい』への出演や根本宗子が制作と演出を手掛けた舞台『ファンファーレサーカス』では楽曲の生演奏コラボを行った。

このように音楽以外のカルチャーとの関わりを持ちながらインプットとアプトプットを繰り返してきた。

『眺め』

おとぎ話にとって9枚目となるアルバム『眺め』は、2018年のリリースだ。

極めてシンプルなアレンジと抜け感のある音模様、そしてムード歌謡を彷彿とさせる唄メロを全面に押し出した楽曲内容。それらにはちょっとした歪さが同居する。そんな作品であった。

例えば、“毎日働いて 毎日働いて”という労働者にとって憂鬱な歌詞を淡々と繰り返す「HOME WORK」。サイケ調なギターサウンドは先述の歌詞も相まって妙なかったるさを演出する。

そこに“味気のない世界を 裏がしてしまえば 少しマシな世界が 見つかってしまうかもね”と言った救いのリリックをお見舞いする展開には思わずハッとさせられる。

「HEAD」は、ネオンの光のように艶な響きを聴かせるギターアレンジとシンプルなリズム隊に支えながら“恋に沸く男と女”を描いた1曲。

劇場的な展開も派手なサウンド演出もないが、聴き手を煽りたてる禍々しさがある。緊張感をもって“恋に沸く男と女”を見届けることとなる。

スロウなリズムで空いた隙間を雷鳴みたいに刺激的なギターで埋めていく「素顔のままで」。“アーティストを気取ってる君には興味がない”といきなり拒否しながらも“妖しく踊っている君だけが好き”とすぐにドギマギさせる。

そして最後には“単純に暮らしていたって 疲れてばっか 疲れてばっか”と絶望する。単純に自分だけが好きな君を唄った曲。

『眺め』は、このようにおとぎ話の視点から観測された何の変哲のない現代に生きる人間模様が歌詞に反映されている。

そこにあるのは日常に潜むちょっとした歪さである。

ちょっと間違えば多様性に囚われ、無個性でナンセンスになりがちな作品テーマであるが、『眺め』にはそういった多様性を受け入れつつも確固たるおとぎ話の個性がしっかりと確立されている。

その個性として特筆すべきはやはり、全面に打ち出されたムード歌謡チックな唄メロだ。現代に生きる人間模様を映す語り手としてこの唄メロは程良い温度感で聴き手に豊かな心象風景を描かせる。

『REALIZE』

そんな9thアルバム『眺め』から約2年ぶりのリリースとなった『REALIZE』は、昨年2019年に配信限定でリリースとなったものにインストバージョンを加えてフィジカル化された。

完全に蛇足だが、ジャケット写真を確認した時に元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎を思い出してしまった。

『眺め』からさらにグッと絞られた音数、代わりに深みを極めた禍々しさ。静穏な水面に映し出された夕闇の情景のようである。

これは昨今のネオソウルを受けての音作りによるもので、意識的なアプローチだという。そのように舵を切った『REALIZE』は、実にクレバーで技巧的な作品になっている。

同一のリフをリフレインさせた「NEW MOON」は、“新しい思い出が消える時 新しい月に出逢えた”と希望に満ち溢れたフレーズをキザに唄いあげるブルースナンバー。新機軸へと取り組むおとぎ話の成功を唄っているかのよう。

「REALIZE」は、ネオソウルやジャズを基盤としたグルーブ感に秘境的な音像が結晶化した1曲。破裂音を挟んだ変拍子のループとサイケデリックなギター、靄がかったヴォイス。穏やかながらも胸に沁み入る。

ノイズギターでカウンターを浴びせる「M」は“現代人は悩みが多すぎて 考えれば考えるほどに精神は崩壊”と世相を斬ってみせる。サウンドはヘヴィーだが、やはりここでも音数自体は少なめ。

そんな現代人に対して“捨て去れ精神 戦うな精神 脱ぎ捨てろ精神 関わるな精神に”とおとぎ話流のアドバイスを与える寛容さも。

本作『REALIZE』においても現代社会に生きる人々を映し出す鏡と悩める人々に対しての助け船は用意されている。

つまり同じテーマと同じ視点をもって作られた作品であるが、その視点に映し出された景色は確実に更新されている。その証拠に前作とは別のアプローチからのサウンドメイク。

情報過多が進む現代社会に対して本当に聴いて欲しい音だけを鳴らすシンプルさを携えた作品だと言えるだろう。

複雑で入り組んだ社会や人間模様をそのまま映し出すのでは抽象的になってしまう。だからこそ無駄なものをそぎ落とすことによってより具体的なものとして、1人1人にダイレクトに突き刺さるものを作りあげたかったのではないかと推測する。

おとぎ話の普遍性

今回紹介した『眺め』と『REALIZE』の2作品のようにおとぎ話の音楽にはいつも悩める人々や混乱する社会が映し出されている。

しかし、それらの作品にはそれぞれ“じゃあ、こうしたらいいんじゃない?”や“こう生きてみたら楽になるよ”と言った救いの言葉が付け加えられている。

ただもがくだけではなく、ちょっと意識の切り替えることによって楽になる。禍々しい音像でありながらも胸がすっとするのはこういった救いがあるからなのだろう。

おとぎ話というバンドは、そんな普遍的なアンサーを作品毎に表現を変えながら人々に訴えかけてきた。

そうこれが大事だ。決してぶれない1つの軸を起点にして、表現を更新すること。

だからこそ、何年経ってもおとぎ話の音楽は廃れることなく輝き続けるのだ。

リリース

10thアルバム『REALIZE』

発売日: 2020/7/3
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
収録曲:
01. NEW MOON
02. HELP
03. REALIZE
04. AGE
05. BYE
06. M
07. BREATH
08. GAZE
09. NOTICED IT
フォーマット:Mp3、CD
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9thアルバム『眺め』

発売日: 2018/6/6
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD
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8thアルバム『ISLAY』

発売日: 2016/10/26
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD
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7thアルバム『CULTURE CLUB』

発売日: 2015/1/13
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD
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6thアルバム『THE WORLD』

発売日: 2013/1/23
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD
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5thアルバム『BIG BANG ATTACK』

発売日: 2011/10/12
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD
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4thアルバム『HOKORI』

発売日: 2010/11/11
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD、アナログ、カセット
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3rdアルバム『FAIRYTALE』

発売日: 2010/1/20
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD
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2ndアルバム『理由なき反抗』

発売日: 2008/10/8
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD
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1stアルバム『SALE!』

発売日: 2007/9/5
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
フォーマット:Mp3、CD、アナログ、カセット
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プロフィール

おとぎ話(バンド)

“2000年に大学で出会った有馬と風間により結成。その後、同じ大学で出会った牛尾と前越が加わり現在の編成に。2007年にファーストアルバム『SALE!』以来、8枚のアルバムをリリース。felicity移籍第一弾アルバム『CULTURE
CLUB』(2015年)が話題に。映画『おとぎ話みたい』での山戸結希監督とのコラボレーションは熱烈なフォロワーを生み続けています。同じく山戸監督による映画『溺れるナイフ』提供曲「めぐり逢えたら」を収録した前作は『ISLAY』(2016年)。2018年6月、アルバム『眺め』をリリース。2019年9月、10枚目のアルバム「REALIZE」を配信のみでリリース。ライブバンドとして評価の高さに加えて映画、映像、演劇、お笑い等、各界クリエーターよりのラブソングは止みません。「日本人による不思議でポップなロックンロール」をコンセプトに掲げて精力的に活動中。”

引用元:おとぎ話プロフィール(felicity)

Youtube

  • おとぎ話 – BREATH
  • おとぎ話 “HELP” (Official Audio)
  • FEVER配信 GIG FEVER ON THE CORNER “GUEST おとぎ話”

ライブ情報

    『REALIZE』LIVE
    2020年8月15日(土)@東京・キネマ倶楽部

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ライター:滝田優樹

北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky