最終更新: 2020年8月10日

4AD(フォーエーディー)という音楽レーベルをご存じだろうか。

4ADは設立以来、”退廃的”や”ゴシック調”、あるいは”耽美”といったイメージを持つアーティストを輩出し、音楽シーンに大きな影響を与えてきた。

しかし、その枠に留まることなく、レーベルカラーを守りながら時代に沿って新たな才能も発掘してきた。

そんな4ADの新たな魅力に、所属する新世代アーティストの紹介と共に迫っていく。

4ADとは

4AD
1979年にイギリスで設立されたインディー・レーベル、4AD(フォーエーディー)。

これまで、インディペンデントかつニッチな視点で数多くのアーティストを輩出してきた。

2019年には設立40周年を迎え、ここ日本でもショーケースイベント”4AD presents Revue”が行われたことも記憶に新しい。

また、現在も新人の発掘に余念がなく、コンスタントに気鋭のアーティストを世に送り出している。

4ADの特徴

では、そもそも我々が4AD(フォーエーディー)に惹きつけられる理由はどこにあるのか。これから挙げる3点の特徴について考えていく。

通底する美意識

4AD
4ADに所属するアーティストには、ある共通するものが存在している。

1980年代初頭は、レーベル設立者の一人であるアイヴォ・ワッツ=ラッセルの趣味が色濃く反映されたアーティストが名を連ねていた。

Bauhaus、Cocteau Twins、Dead Can Danceなど、ニューウェイヴやゴシック調のテイストが、当時のレーベルカラーだった。

1980年代半ばになると、Throwing Musesと契約したことを皮切りに、PixiesなどのUSオルタナティヴ・バンドのリリースが増え、

1990年代にはThe BreedersやRed House Paintersなどを輩出。レーベルカラーも徐々に変化していった。

また、同時期にLushやPale SaintsといったUKのシューゲイザー・バンドとの契約にも派生している。

それ以降も、インディー・ロックを中心に様々なアーティストを輩出しているが、それらに通底するのは、やはり退廃的でアンダーグラウンドな美しさを秘めている点だろう。

近年では、その枠に留まらないアーティストも増えている印象だが、どこかダークな雰囲気や独自の美意識を持っている点など、やはり一貫したものがあるように感じる。

耽美的なアートワーク

4ADが音楽シーンに与えた視覚的影響の強さは計り知れない。特に、所属アーティストのアートワークを数多く手がけたヴォーン・オリヴァーの存在無くして4ADを語ることはできないだろう。

ヴォーン・オリヴァーはグラフィック・デザイナーとして、1982年から1998年まで4ADと共に素晴らしい仕事をした。

Cocteau Twins、Dead Can Dance、Pixies、The Breeders、Lush、Pale Saints、This Mortal Coilなど、手がけたアートワークは枚挙にいとまがない。

オリヴァーの作品は、官能的で耽美的、あるいは神秘的でエレガントなものだった。そのヴィジュアル・イメージが、レーベルの方向性を決定づけたのだ。

残念ながら、オリヴァーは2019年12月29日に亡くなっており(享年62)、これは大きな文化的損失と言える。

商業的成功

インディー・レーベルらしい審美眼で魅力的な才能を発掘し続ける一方で、同時に商業的成功も収めている点が、4ADをさらに稀有な存在にしている。

1987年、A.R. KaneとColourboxによる限定ユニットM/A/R/R/Sが「Pump Up The Volume」でUKチャート1位を獲得。

同曲は訴訟問題なども後押しして世界的なヒットとなり、現在もクラブ・ミュージックの古典として君臨している。

シューゲイザー全盛期の1990年代前半にはLushやPale Saintsがヒットを飛ばし、2000年代以降もBlonde RedheadやDeerhunterといったバンドが成功を収め、インディー・シーンで着実に成果を上げ続けているのだ。

また、近年ではGrimesやThe Nationalといったメジャー級のアーティストも活躍している。

特に、The Nationalが2018年に『Sleep Well Beast』(2017年リリース)でグラミー賞の最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞を獲得したことは、大きなトピックではないだろうか。

4ADの新世代アーティスト5組

さて、そんな4AD(フォーエーディー)の現在の姿を映し出す”鏡”として、今回は5組のアーティストを紹介させていただく。

いずれも、レーベルの魅力を端的に感じられる女性ヴォーカルのアーティストだ。

Becky and the Birds

Becky and the Birds
スウェーデン出身のシンガー、テア・グスタヴソン率いるBecky and the Birds(ベッキー・アンド・ザ・バーズ)。

2020年7月24日、デビューEP『Trasslig』を4ADよりリリースする。“Trasslig”は、スウェーデン語で”もつれた”や”複雑な”といった意味を表し、繊細で女性的な心情を描いた楽曲を収録している。

その美しいヴィジュアルと歌声もさることながら、ネオソウル~オルタナR&Bといった現代的感覚のサウンドは、新人とは思えないほど洗練されている。

レーベルの新たな顔として、今最も目が離せない存在だ。

『Trasslig』

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Big Thief

Big Thief
ニューヨーク州ブルックリンを拠点に活動するインディーフォーク・バンド、Big Thief(ビッグ・シーフ)。

4AD移籍作となった2019年のアルバム『U.F.O.F.』がグラミー賞にノミネートされるなど、レーベルの中でも勢いに乗るバンドの一つだ。

紅一点のエイドリアン・レンカーの歌声は、一度聴けば忘れられない。どこかノスタルジックなフォーク・サウンドも相まって、心が浄化されていくような美しさがある。

そして、そこには時代を超えていく普遍性が静かに横たわっていることに気づくだろう。

ちなみに、Big Thiefは今年来日予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期。2021年に振替公演が決定している。

『U.F.O.F.』

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Grimes

Grimes
カナダのバンクーバー出身の女性アーティスト、Grimes(グライムス)。2012年のサード・アルバム『Visions』より4ADからのリリースとなり、頭角を現した。

エキセントリックなヴィジュアル・イメージは、Grimesが幼少期から親しんできた日本のアニメ・カルチャーに色濃く影響を受けたものだ。

最新作『Miss Anthropocene(ミス・アントロポセン)』は初期に回帰しつつ、よりダークな終末的退廃美に満ちた作品となっている。

ジャケットに登場するCGキャラクターのヴィジュアルなどは、同じく日本から影響を受けているグラフィック・アーティスト、トレヴァー・ブラウンの作品とも通ずるアングラ感があるのも興味深い。

いずれにせよ、レーベルに新たな風を吹き込み、現在の4ADを代表するアーティストと言って遜色ないだろう。

『Miss Anthropocene』のレビューはこちら。

『Miss Anthropocene』

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Aldous Harding

Aldous Harding
ニュージーランド出身のシンガーソングライター、Aldous Harding(オルダス・ハーディング)。

2017年に4ADからリリースされたセカンド・アルバム『Party』が高い評価を受け、レーベルの新時代を担うアーティストとして注目されている。

最新作『Designer』では、さらに洗練されたメランコリックなサウンドと、美しくも力強いヴォーカルを存分に堪能できる。

そのダークな雰囲気は、まさに4AD的と言っていいだろう。

『Designer』の関連記事はこちら。

『Designer』

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Dry Cleaning

Dry Cleaning
サウスロンドンを拠点に活動するポストパンク・バンド、Dry Cleaning(ドライ・クリーニング)。

これまで2枚のEPをリリースしてきたが、満を持して4ADにサイン。現在デビュー・アルバムの準備を進めているという。

ポストパンクを通過したギターとポエトリーリーディングようなヴォーカルが、Sonic Youthにも通ずる独特な存在感を放つ期待のバンドだ。

レーベルの初期を考えると、こういったバンドが所属することは、ある意味で原点回帰的な趣があると言えるかもしれない。

『Boundary Road Snacks and Drinks』

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神秘の音楽レーベル

4AD新世代アーティスト
設立から40年以上経った今でも、時代を超えて愛され続けている4AD。

そこには、レーベルの礎を築いた先人たちの存在と歴史、そしてアーティストたちの美学があった。

現在も、新しい才能は次々と湧き上がり、止まることを知らない。

まさに神秘の泉だ。

この先も、我々を驚かせ、そして楽しませてくれるに違いない。

Youtube

  • Becky and the Birds – Pass Me By (Official Video)
  • Big Thief – Not (Official Audio)
  • Grimes – Delete Forever (Official Video)
  • Aldous Harding – The Barrel (Official Video)
  • Dry Cleaning – Viking Hair (Official Video)

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ライター:おすしたべいこ/Taku Tsushima
おすしたべいこ
1992年生まれ、札幌出身。都内のレコードショップで働きながらブロガー/ライターとして活動しています。現在、シューゲイザー専門メディア『Sleep like a pillow』などを運営中。ホラー映画ばかり観ている古生物オタクです。
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