最終更新: 2020年9月15日
BBHF(ビービーエイチエフ)が、9月2日に2ndアルバム『BBHF1 -南下する青年-』をリリースした。
2019年、長年在籍したメジャー・レーベルを離れたBBHF。『Mirror Mirror』『Family』という異なる2つのEP作品をリリースし、その充実ぶりから彼らの行く先に注目していた音楽ファンも多いだろう。
昨年のツアー中のMCで、”来年の半ば頃には2枚組の新しいアルバムを出す”と話していたフロントマンの尾崎雄貴。その時点では新しい楽曲は一つもなかったが、BBHFは半年にも満たない驚異的なスピードでアルバムを作り上げた。
“南下する青年”-そのサブタイトルに込められたものとは。
目次
BBHFとは
BBHF(ビービーエイチエフ)は、Galileo Galileiのオリジナルメンバーである尾崎雄貴(Vo./Gt.)、尾崎和樹(Dr./雄貴の実弟)、佐孝仁司(Ba.)の3人と、同バンドのサポートギタリストを務めたDAIKI(Gt.)を迎え結成された。
2018年より”Bird Bear Hare and Fish”として活動を開始。同年、ソニー・ミュージックより1stアルバム『Moon Boots』をリリース。
2019年7月1日には”BBHF”へ改名し、Lastrum(ラストラム)内に新設されたインディー・レーベルであるBeacon LABEL(ビーコン・レーベル)へ移籍。
2020年9月2日、2ndアルバム『BBHF1 -南下する青年-』をリリースした。
ちなみに、LastrumはSEKAI NO OWARI、あいみょん、Official髭男dismなどを輩出したことでも知られており、現在Beacon LABELにはニトロデイも所属している。
対をなす『Mirror Mirror』と『Family』
2019年7月1日、”BBHF”へと改名するタイミングで、配信作品『Mirror Mirror』を事前告知なしでリリースした彼ら。同年11月には対をなすCD作品『Family』をリリースした。
リリースの形態で対になっているのは言うまでもないが、『Mirror Mirror』と『Family』は音楽的なコンセプトやアプローチも異なっている。
電源を切ったスマートフォンの画面からタイトルの着想を得たという『Mirror Mirror』は、SNSなどを通して交わされるコミュニケーションについて、打ち込みを多用したデジタルなサウンドで表現した。
対して『Family』では、そこから踏み出して面と向かったフィジカルな関係性にフォーカスを当てており、サウンドも有機的で躍動感あふれるものとなっているのだ。
Galileo Galilei時代から所属していたメジャー・レーベルを離れてインディー・レーベルへ移籍したことで、一つの方向性に縛られず、より柔軟でインディペンデントな活動を志向していく姿勢が、この時点で明確に打ち出されていたのだ。
『BBHF1 -南下する青年-』に込められたもの
BBHF(ビービーエイチエフ)の2ndアルバム『BBHF1 -南下する青年-』は、2枚組全17曲の中で”北から南を目指す青年の物語”を描いたコンセプト・アルバムとなった。
2枚のCDは小説をイメージして”上”と”下”と名付けられている。
アートワークには、メンバー3人と同じ北海道稚内市出身の現代美術家、故・因藤壽(いんどう ひさし)の作品『麦ふみ』を使用。
プロデュースはメンバーと岩井郁人(ex. Galileo Galilei/FOLKS)が共同で行い、一部の楽曲でThe 1975やArctic Monkeysなどを手がけるマイク・クロッシーがミックスを担当した。
サウンド面は、The NationalやBon Iverなど、インディーロック~ネオ・フォークの潮流に位置するサウンド・プロダクションに仕上がっている印象で、全編に渡ってバンド・ミュージックの躍動感と楽しさにあふれた作品となった。
前作『Family』のリリースから短期間で17曲を作り上げ、壮大な物語を表現してみせたBBHF。現在の彼らを取り巻く環境の充実ぶりは想像に難くない。そして、これまで培ってきたものが作品として見事に結実していることが窺い知れる。
BBHFはいかにしてこの場所にたどり着いたのか。3つのキーワードから解き明かしてみたい。
”南下”という言葉の意味
“南下”という言葉は、単に物理的な移動を指しているだけではない。もっと言えば、それは精神的な変化を象徴するメタファー(=隠喩)のようなものだろう。
本作『BBHF1 -南下する青年-』のコンセプトが生まれた背景について、フロントマンの尾崎雄貴はこのように語っている。
“僕らは北海道を中心として活動しているし、生活の拠点も北海道なので、例えばツアーを回るとかプライベートで旅行に行くとか、日本国内を移動する場合、基本的に南下するのみなんですよ。”
“そういう現実的な感覚に加えて、今後自分の人生にとっても大事になるだろうキーというか、これさえ手にしてしまえばという何かを、BBHFとしてEPを2枚出したり、自分の生活を送ったりする中で得た気がしていて、それもインスピレーションの1つになっていますね。その鍵を得たことで、精神的にもより遠くへ旅をしたくなったというのがあって。今自分は安心できる環境にいるとは思っているんですけど、そこから精神だけでも離れていこうとするような冒険心。それに加えて、最近僕の中で大きなテーマになっている、人との関係に対しても物事に対しても、自分の仕事に対しても、愛情をもって継続していくということについてのエネルギーや、それらを続けること自体の価値のようなもの……そういうことと向き合った結果、今回の「南下する青年」というテーマがでてきたように思います。”
“安心な僕らは旅に出ようぜ”-かつてくるりは「ばらの花」でそんな風に歌っていたが、現在の尾崎雄貴のマインドはそれに近いのではないだろうか。
新たに引っ越した札幌のプライベート・スタジオ。そして、柔軟な活動の後押しをするレーベルの存在。心身共にリラックスできる理想的な条件がそろったことで、BBHFのクリエイティビティは大いに飛躍したのだ。
また、インタビューで語られた”継続”と”続けること”という言葉は、「南下する青年」の中でも、まるで心情を吐露するかのように朗読されている。
“継続、耐えること、関係、やりとり。
日が昇って沈むように 感情は回転していく。”
“愛してるよ。
それは確かなんだ。
だから…続けるんだ。”
Galileo Galileiの時代から、常に形を変化させながら、ミュージシャンとしての在り方を模索してきた彼ら。そうした、過去から現在(そして未来)まで繋がる”継続”の螺旋が、北から南へと続く道筋として浮かび上がってくるのだ。
『PORTAL』との関係性
『BBHF1 -南下する青年-』を紐解く上で、Galileo Galileiが2012年にリリースした2ndアルバム『PORTAL』は重要な鍵となるだろう。
『PORTAL』は、とある街を舞台に、そこに住む人々の物語を描いたコンセプチュアルなアルバムだった。1曲1曲をなぞっていくと、川に沿って海へと繋がっていくストーリーが立ち上ってくる。
つまり、“川から海へ”という流れは、『BBHF1』の”北から南へ”というテーマに重ねることができるのだ。
これが意図されたものではないにせよ、Galileo GalileiとBBHFが全くの別物ではなく深い部分で繋がっていることを、何よりも証明しているように思えてならない。そして、このことは前述した”継続”の話とも結びついてくる。
ただ、あくまでファンタジーの枠を出なかった『PORTAL』のストーリーに対し、『BBHF1』ではリアリティーのある生活や関係性を通して”愛情”について描いており、その点で両者は決定的に異なる。
しかしそれは、長い年月を経て彼らの人間的な深みが増したがゆえだろう。今や、尾崎雄貴も二児の父。私生活における様々な要素が、特に歌詞の面においてBBHFの音楽からは自然と滲み出ている。
また、『PORTAL』を共に作り上げた元メンバーである岩井郁人が、サポート・ミュージシャンとして本作のプロデュースに関わっている点も見過ごせない。
“節くれた木々に 押し潰されて
利己的な愛情 押し付けられて
もう教え込まれた クソ我慢も 限界なんだ”
“答え合わせの時間もなく、挨拶みたいに飛び交う複雑な問いに、俺たちは曖昧で幼稚な答えをだしてきた。”
“僕が楽しそうなのは 簡単なことじゃないよ
自分自身の心を どうにか一色にとどめてる”
かつての自分たちを回顧するかのようなフレーズからも感じられるように、彼らは10代からメジャー・シーンに身を投じ、ある意味で苦しい時間を過ごしてきた。音楽的に正当な評価を得られていない部分もあっただろう。
やがて、暗闇を走り抜けてきたGalileo Galileiという車から、自ら降りる選択をしたのだ。
それが今はどうだろう。新しい車に乗ってたどり着いた”南”で、BBHFは太陽の光を全身に浴びている。Galileo Galileiでは到達できなかった場所に、仲間たちと共に足を踏み入れている。
そんなバンド・ストーリーとも重ね合わせることで、作品としての奥行きが深まるのも、また趣深いのではないだろうか。
対話するということ
未曾有のコロナ禍。マスクの着用がある種の義務となり、ソーシャル・ディスタンスが求められ、急速にオンライン化が進む社会。ウイルスの脅威は僕らを見えない壁で隔絶しようとしている。
そのことは、他者との対話の重要性を浮き彫りにした。人間は誰かと繋がり、お互いに関係していく中で生きていけるのであって、その大切さは多くの人々が改めて自覚していることだろう。
そういった現在の社会を踏まえれば、人間として根源的に求める触れ合いやあたたかさを徐々に知っていく青年の物語が、より一層現実的な意味を帯びてくる。
“気が触れる 寸前の一瞬 僕らの目はお互いをみる
ひとりで頭を抱えないで お互いをみて”
そうして”流氷”の上で漂っていた青年は、他者との対話を通して複雑に浮き沈みしながら、自分自身を理解していく。
“穴の空いた船を漕いでいた 君が乗る前に 必死になって
夜明けを待たず 出発するよ お前を見捨てて 狂わぬように”
“君にひどいことをたくさん言った 君に傷つけられて狂いそうにもなった
それでも 2人は 言い合える”
“そして病むまで飲め 愛そのもの何杯でも
聞こえるだろう 愛そのもの 喉を通り過ぎ”
“うつくしき僕らの生活 子供たち
認め合って 慰めあって 喜びを分かち合える”
“僕もわからない 愛するほど 君がわからないように
僕もわからない 愛するほど 君といる自分自身のこと
僕といる君自身のこと”
愛を求め、葛藤し、苦しみながら、少しずつ成長していく青年。そして、たどり着いた”太陽”で、彼はこう言い放つのだ。
“僕らは太陽 だってさ はだしの体温 氷河を溶かして
落ち着けないよ だってさ ここにいれないよ ずっとは”
“ここにいれないよ/ずっとは”という言葉は一見してネガティブにも思えるが、ここでは変化していく日常や様々な関係性を柔軟に受け入れていくポジティブなものとして捉えることができるだろう。
これは、いわゆるコロナ以降の”新しい日常”を受け入れようとする僕ら自身ともリンクしてくるのだ。
BBHFの音楽は生活と共にある
人間として、ごく自然で当たり前な”生活するということ”が、随分と難しい時代になってしまった。
BBHFは、音楽を通してメッセージや主張をこちら側に押し付けることはしない。
『BBHF1 -南下する青年-』は、人生の様々な局面を表現した壮大な叙事詩だ。そこに否定はなく、悲しみも苦しみも肯定し、むしろ賞賛していこうという気概さえ感じ取れる。
ありのままの歌に、誰もが自己を投影し、生活に溶け込んでいく音楽が、そこにはある。とても自然で、とても自由なのだ。
BBHFは今回のアルバムを『BBHF1』と題しているが、このナンバリングは続いていくという。彼らと同じ車に乗り込んで、新しい夜明けと共に、僕らも一緒に旅に出ようじゃないか。
リリース
2ndアルバム『BBHF1 – 南下する青年』
発売日: 2020年9月2日
フォーマット:CD
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1stアルバム『Moon Boots』
発売日: 2018年9月5日
フォーマット:Mp3、CD
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プロフィール
“2016 年武道館公演を最後に活動を終了したGalileo Galilei。そのメンバーを軸に新たに結成された尾崎雄貴(Vo,G)、尾崎和樹(Dr)、佐孝仁司(B)、DAIKI(G)からなる4人組バンドBird Bear Hare and Fish。鳥と熊と野うさぎと魚という4匹の動物たちは、メンバーそれぞれのモチーフとして当てはめられている。メンバー全員が北海道出身、札幌に拠点を置いて活動している。
2019年7月1日より、バンド名の正式な呼称をBird Bear Hare and Fishから、BBHF(ビービーエイチエフ)へと変更。
同日7月1日に配信限定EP ”Mirror Mirror”をゲリラRelease。
各所で話題になりiTunesのオルタナティブチャートで1位を獲得。
7月2日に渋谷hotel koeで行われたゲリラLIVEに会場に入れないほど人が押し寄せた。 その後ONE MAN TOUR “Mirror Mirror”では、ファイナルの赤坂 BLITZ 公演も早々に SOLD OUT。
そんな中2nd EP ”Family”がリリースされ、11 月から全国10カ所を廻るBBHF ONE MAN TOUR ”FAM!FAM!FAM!”を開催。 2020年5月配信限定シングル”かけあがって”をRelease。”
BBHF代表曲(Youtube)
- BBHF『僕らの生活』Music Video
- BBHF『なにもしらない』Music Video
- BBHF『かけあがって』Music Video
ライブ情報
BBHF LIVE STREAMING -YOUNG MAN GOES SOUTH-
- 日付:2020.10.25(sun)
- 時間:OPEN 19:30 / START 20:00
- アーカイブ視聴期間:10.28(wed) 23:59まで
- オフィシャルファンクラブ先行期間:9.4(fri) 19:00 ~ 9.13(sun) 23:59
- 料金:¥2,500+tax
- 一般販売:9.16( wed) 10:00〜10.28 wed 21:00
- 料金:¥3,000+tax
1992年生まれ、札幌出身。都内のレコードショップで働きながらブロガー/ライターとして活動しています。現在、シューゲイザー専門メディア『Sleep like a pillow』などを運営中。ホラー映画ばかり観ている古生物オタクです。
今まで執筆した記事はこちら
- Twitter:@soft_as_salmon
- Sleep like a pillow:http://www.sleep-like-a-pillow.com/