最終更新: 2021年8月9日
イギリス・ブライトンの5人組ポスト・パンクバンド、squid(スクウィッド)のデビューアルバム『Bright Green Field』がテクノの名門Warp Recordsからリリースされる。
荒削りなポスト・パンク・サウンドが魅力であった前作『Town Centre』から一転して、構造的なサウンドに大きく舵を切った『Bright Green Field』。
真夏にも関わらず、エアコンもつけずにレコーディングしたというデビューアルバムについて、メンバーのオリー・ジャッジ(Dr./Vo.)とルイス・ボアレス(Gt./Vo.)にインタビューを行った。
アーティスト:オリー・ジャッジ(Dr./Vo.)、ルイス・ボアレス(Gt./Vo.) インタビュー:yabori 通訳:原口美穂 取材協力:BEATINK
目次
squid結成のいきさつ
-squid(スクウィッド)のバンド結成のいきさつについて教えて下さい。
オリー・ジャッジ:俺たち全員、同じ街で大学に通ってたんだ。俺(オリー・ジャッジ)とアントン(アントン・ピアソン)とアーサー(アーサー・レッドベター)は一緒に音楽を勉強してた。あとの二人(ルイス・ボアレス、ローリー・ナンカイヴェル)とも音楽が好きなもの同士で交流していた流れで出会って、色々と実験しながら、一緒に音楽を作り始めたんだ。それが雪玉のようにどんどん大きくなって、気づいたらキャリアになってたというわけ(笑)。
-今のメンバーで曲を作り始めたのはどれくらい前ですか?
オリー:多分5年くらい前かな。そのくらいからsquidとして自分たちが表現したいものがわかってきて、それを曲にするようになったと思う。
バンドメンバーとの出会い
-ジャズやアンビエントの音楽が好きなメンバーで結成したそうですね。学校で一緒に音楽を勉強していた3人以外のメンバーとはどのようにして出会ったのかもう少し聞かせて下さい。
オリー:俺とルイはブリストル出身だから、ルイとはブリストルのクラブナイトで知り合った。それから大学で俺がアントンとアーサーと出会って、ローリーはなにがきっかけだったかあまり覚えてないけど、彼がメンバー同士をつなげたマッチメイカーだったんだよね。ローリーは全員を知っていて、彼がいたから5人が集まったんだ。
ルイス・ボアレス:俺たち、友達になる運命だったのさ(笑)。
-Squidはオリーのドラムボーカルがとても特徴的だと思うのですが、どのようにしてこのようなスタイルにたどり着いたのでしょうか?
オリー:偶然そうなったんだと思う。ボーカルに関しては、これというものを見つけるまでに結構時間がかかった。俺の場合、ドラムを叩きながら歌っていたら、たまたまそれが定着したんだ。
ルイス:オリーのドラムボーカルは、バンドにとってメトロノームのような役割も果たしてる。すごく良いサウンドだと思うね。
Squid(バンド名)の意味
-Squidというバンド名は直訳すると“イカ”ということになりますね(笑)。どうしてこのようなバンド名になったのか教えて下さい。
オリー:実はあまり覚えてないんだけど、街で“Squid”って書いてある看板を見つけて、それがそのままバンド名になったんだ。俺たちは簡潔で覚えやすい名前をつけたいと思っていたし、イカって知的ですごい生き物だからさ(笑)。
Bright Green Field
-『Bright Green Field』はWarp Recordsからリリースされますね。どうしてテクノミュージック色の強い〈Warp〉からリリースしたのでしょうか?
オリー:〈Warp〉は、ジャンルを気にかけないレーベルだから。それは、俺たちにとっても音楽を作る上でとても重要なことなんだ。それに、〈Warp〉は伝説的なレーベルでもある。俺たち全員がずっと好きで聴いてきたのが〈Warp〉なんだよ。
-一方で『Bright Green Field』はこれまでと同じくダン・キャリーをプロデューサーに迎えて制作したそうですね。どうしてダンと一緒にやろうと思ったのでしょうか?
オリー:この2年間で、彼とはすごく良い関係が築けている。だから、彼は俺たちのことを人としてもよく理解してくれているんだ。俺たちにとって、今回はそれが重要なことだった。新しいアイディアを一緒に作りながらも、一歩下がったところから俺たちの音楽を見ることもできる人物。それが彼だったのさ。
ルイス:以前よりも緊張しなくなったし、今では彼は友達のような存在に感じられる。レコーディングにおいて大切なことの一つは、スタジオという空間の中で良いヴァイブを作ることだと思うんだけど、それをもたらしてくれるのがダンなんだよ。
-またダンは現在のサウスロンドンの音楽シーンを語る上で、避けては通れないほど重要人物だと思います。私もダンのレーベル(Speedy Wunderground)や手掛けたアーティストは欠かさずにチェックしているのですが、彼はどのような人物なのでしょうか?
ルイス:ダンは、アーティストに心から共感してくれるし、感情移入する才能を持っている。そこが人の心を引き付けるんだ。あと、彼は彼自身がミュージシャンでもあるから、そこもより深い繋がりを感じられるポイントなのかもしれない。ダンはとにかく、スタジオの中でミュージシャンのベストを引き出し、最高の音楽を作るのに情熱を注いでいる人。その彼の姿勢は本当に素晴らしいと思う。
オリー:ダンは本当に経験が豊富。それでも、彼はまだまだ学ぼうという意思を持ってるんだ。俺たちももちろん彼から学ぶし、彼も俺たちと作業することで新しい経験を積み、自分を磨き続けているんだ。
ルイス:そうだな。
-『Bright Green Field』の製作時は地下スタジオでエアコンを切り、極力ノイズを避けてレコーディングされたそうですね(笑)。どうしてここまでノイズを避けることにこだわったのでしょうか?
ルイス:ノイズを避けること自体はそこまで意識していなかったけど、とにかくその日がものすごく暑い日で、選択肢が、エアコンのうるさいバックグランド・ノイズが入るか、汗だくになるかの2つだったから、汗だくになるほうを選んだんだ(笑)。でも振り返ってみると、エアコンよりも断然うるさい音をレコーディングしてたから、エアコンをつけていても同じだったかもしれないけどね(笑)。でも、あの暑い時期にアルバムをレコーディングするのは、俺たちにとってすごく重要なことだったんだ。春はロックダウンで皆家にいなければならなかった。だから、夏になってやっと集まれるようになったとたん、皆でロンドンにいってアルバムをレコーディングしたんだ。毎日が30℃以上ですごく暑かった。あの、“今のうちにレコーディングしとかないと!”っていう切羽詰まった感じが、アルバムにとって逆にすごくよかったと思う。
-こだわっていたこと、意識していたことはありますか?
ルイス:睡眠だな。ちゃんと一旦スタジオから出て、睡眠をとってから起きてまたスタジオに向かうことは意識してた。
オリー:そうだな。24時間ずっとスタジオにいて、何テイクもずっとレコーディングして、レコーディングに圧倒される羽目にならないようにはしていたね。バスケをしたりして、クールダウンタイムはとるようにしていた。リフレッシュしてからレコーディングしたほうが、良いものが録れるからね。
アルバムのコンセプト
-また、このアルバムは建造物のような構造的なサウンドになっていることにとても驚きました。架空の都市がコンセプトということで、小説家のダグラス・クープランドと評論家マーク・フィッシャーから影響を受けたそうですね。彼らの見解から、どのような心境の変化があったのでしょうか?
ルイス:特にマーク・フィッシャーがそうなんだけど、彼は、資本主義・大量消費主義文化という暗いテーマを、美しいもの、例えば音楽や映画といったポップ・カルチャーを通して観察している。そこがすごく刺激的だったし、自分たちの音楽にも取り入れたいと思ったんだ。
オリー:これまでの音楽は、パーソナルな経験が直接的に影響していた。だから今回は、ちょっと“逃避”という意味で架空のものをコンセプトにしようと思って。だから、自分の個人的な人生と完全に一致さなければということを心配せずに作品を作ることが出来たんだ。
-「Narrator」の歌詞では、“I’ll play mine”というフレーズが何度も繰り返され、とても印象的です。この歌詞にはどのようなメッセージが込められているのでしょうか?
オリー:そのフレーズを繰り返すことによって生まれる緊張感が好きだったんだよね。この曲は、信頼できない語り手(小説や映画などで物語を進める手法の一つ。語り手の信頼性を著しく低いものにすることによって、読者を惑わせたりミスリードする)について。自分がやっていることが正しそうに見えて、実はそうじゃないかもしれない、という内容なんだ。
Bright Green Fieldの意味
-どうして『Bright Green Field』というアルバムタイトルにしたのでしょうか?
ルイス:窓の外を見た時に見える葉っぱや木、芝生といった自然を想像してみるとする。その色は、明るい緑色だと思うんだけど、それが鮮やかな緑というのは、よく考えてみると、どこか人工的な感じがすると思うんだ。このアルバムタイトルは、メンバー全員が好きな同じタイトルの本から取ったんだけど、その本の素晴らしさは、隠れたストーリーがあり、一つ以上の形態を持っていること。このアルバムの音楽もすごくインダストリアルっぽいし、コンクリートっぽい都市の景観を思わせる。でもそこから一歩退いて考えてみると、 このアルバムの音楽が持つもう一つ別のリアリティが見えてくる。そういうニュアンスを込めて、このアルバム・タイトルにしたんだ。
-『Bright Green Field』をどんな人に聴いて欲しいと思いますか?
オリー:このアルバムに境界線はない。
ルイス:だから、誰でもだな。
メッセージ
-残念ながら2020年は中止となっていますが、SUPER SONICでの来日を楽しみにしていた日本のファンもたくさんいると思います。来日を待っている日本のファンにメッセージをお願いします。
オリー:自分の国から離れた場所でSquidの音楽を聴いてくれている人たちがいるなんて感激だし、心から感謝してる。日本に行くのが待ちきれないよ!
ルイス:早く皆に会えたらいいな〜。
オリー:日本食も早く食べたいし(笑)。
ルイス:そうだな(笑)。
オリー:今日は楽しかったよ。ありがとう。またね!
アルバム
1stアルバム『Bright Green Field』
発売日: 2021/5/7
収録曲:
1.Resolution Square
2.G.S.K.
3.Narrator ft. Martha Skye Murphy
4.Boy Racers
5.Paddling
6.Documentary Filmmaker
7.2010
8.The Flyover
9.Peel St.
10.Global Groove
11.Pamphlets
フォーマット:Mp3、CD、アナログ、カセット
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プロフィール
“大学在学中の2015年にイギリスのブライトンで結成された、オリー・ジャッジ (ドラム & リードボーカル)、ルイス・ボアレス(ギター&ボーカル)、アーサー・レッドベター(キーボード、弦楽器、パーカッション)、ローリー・ナンカイヴェル (ベース&ブラス)、アントン・ピアソン (ギター&ボーカル)から成る5人組バンド、スクイッド。アデルやサム・スミス、ハイムなどのトップスターたちを輩出してきたBBC【Sound of 2020】候補に選出され、〈Warp〉との電撃契約も大きな話題となった次世代UKロック・シーン最大の注目株が、デビュー・アルバム『Bright Green Field』のリリースを発表!”
squidの評価
“”今世紀最高のデビューアルバムのひとつ”
– The Quietus“これは無鉄砲でスリリングな音楽だ”
– The Times“『Bright Green Field』は一つの場所に固定できない。多くの曲が分裂し、それ自体の中に無人の不気味な世界を宿している”
– New Yorker“堂々のデビュー作は、ジャズ、ファンク、クラウトロック、ダブ、パンクを通り抜けていく。賞賛されるスタイルよりも、彼らを際立たせているのは、それらをコントロールするレベルの高さだ”
– Pitchfork“時代を超えたデビュー作”
– The Line of Best Fit (10/10★)“完璧というほかない”
– Gigwise (10/10★)“「Narrator」はハイパーグルーヴを展開させ、輝くメロディーと煽られたノイズが融合している。『Bright Green Field』の残りの部分は、野生の奔放さと思慮深い抑制の間で揺れ動いている。”
– Uncut (9/10★)“バンドの可能性の全てを満たした妥協のないデビュー作”
– NME (5★)“スクイッドは常に壮大なアルバムを作る運命にあるように思えたが、まさにそれを実現した”
– DIY (4.5★)“不確実性の高い時代にあって、彼らの野心的なレコードは、それ自体が絶対的な強壮剤となる”
– Mojo (4★)“スクイッドは常にジャンルの境界を押し広げてきたが、今回はそれを永久にぶっ潰した”
– The Independent (4★)“タイトなリズムはノイ!ののモトリック・ビートを想起させる。 一方、狂ったように落ち着かないファンクネスは、このグループをポストパンクの伝統に位置づけている”
– Financial Times (4★)“トラックのドラマ性が増していく様子は、不安すら覚えるほど見事だ”
– ipaper(4★)“これが我々のディストピア的な未来の音であるならば、サインアップするよ”
– DORK (4★)“カオスな音像がどんどんと広がっていく様子が頭に浮かび上がる”
– MUSIC MGAZINE“UK音楽シーン引っ張るポスト・ジャンル世代の注目株”
rockin’on“多様な要素が交錯した刺激的かつ濃密なバンドサウンド”
– FUDGE“緊張と緩和を行き交うスリリングな音像を聴かせる”
-men’s FUDGE“刺激的なアートロック集が誕生”
– SPUR”
squid代表曲(Youtube)
- Squid – Narrator (Official Video) ft. Martha Skye Murphy
- Squid – Pamphlets (Official Audio)
- Squid – The Cleaner (Official Audio)
ライター:yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori