最終更新: 2024年3月21日

NOT WONKの加藤修平(Vo./Gt.)によるソロプロジェクト、SADFRANK(サッドフランク)。

デビューアルバム『gel』リリースのニュースを目にして、まず驚いたのが、石若 駿や本村 拓磨、香田 悠真らをはじめとする参加プレイヤーの多さだ。

地元苫小牧を拠点とするNOT WONKのフロントマンとして活動してきた加藤自身が、これまでに築いてきたコミュニティでの延長線でかつ、集大成とも言えるだろう。

そこに付随して内省的な日本語歌詞とギリギリの緊張感をはらみながら創造した深淵なる音世界。

正直、カテゴライズを拒むような音のバリエーションとあまりの荘厳さにこの作品について満足のできる理解ができていない。本人と話しても、何度聴いても、ライヴパフォーマンスを目にした後でさえもだ。

あるいは一生わからないままなのかもしれない。

そんな気にすらさせる圧倒的なアルバム『gel』について、私自身も今回のインタビューを精読することで、もう一度向き合いたいと思う。

SADFRANKとは

SADFRANK(サッドフランク)

SADFRANK(サッドフランク)とは、NOT WONKを率いる加藤修平のソロプロジェクトである。

NOT WONKは2010年に北海道・苫小牧で結成されたロック・バンドで、加藤修平(Vo./Gt.)、藤井航平(Ba.)、高橋尭睦(Dr.)の3人組。

2015年に1stアルバム『Laughing Nerds And A Wallflower』をリリースし、大型フェスにも出演。2021年に通算4枚目のアルバム『dimen』をリリース。

そんな加藤が主催するSADFRANKは2020年に始動し、2023年3月に1stアルバム『gel』をリリースする。

SADFRANK インタビュー

苫小牧港(Photo AC)
苫小牧港(Photo AC)
アーティスト:加藤修平 インタビュアー:滝田優樹

-まずはSADFRANK(サッドフランク)についてお聞きする前に、加藤さん自身についてお聞きしたいと思います。地元苫小牧を拠点するNOT WONKとしての顔がありますよね。今も個人の活動拠点としては苫小牧なんですか?
はい、相変わらず苫小牧に住んでいます。

-というのも今回SADFRANKとして初のアルバム『gel』の参加ミュージシャンを目にしたときに、あまりの豊富さに驚きました。こちらはNOT WONKとして2019年にメジャーからリリースされたアルバム『Down the Valley』以降に築かれた新しいコミュニティの延長線上だと思ったのですが、今回ソロプロジェクトSADFRANKとして活動するに至ったきっかけはなんだったのでしょうか? 
2018年の終わり頃にふと日本語で歌うことについて考えるようになったのが一番の理由かもしれません。それまでも周りのバンドマンやミュージシャンから、”加藤は日本語で歌うべきだ”というような言葉をもらったことがあったけれど、なかなかその意味がわからず。ただちょうどその頃になんかわかんないけど、日本語で歌いたいという欲求や興味が急に高まったからです。

NOT WONKとの違い

NOT WONK(ノット・ウォンク)
-サウンド面でも『Down the Valley』がソウルやR&B、ジャズに接近した作品で、今回の『gel』もそこからの影響がより濃く感じられるものとなっています。あくまでも別のプロジェクト作品ではありますが、SADFRANKとして活動して、NOT WONKとの違う表現などは意識されましたか?
考える頭がおんなじなので、最初からなにか差をつけようとは考えていないと思います。曲ができたときにこれはSADFRANKでやるべきだと思った曲をSADFRANKでやったり、後はNOT WONKでも SADFRANKでもメンバーの顔を思い浮かべて曲を作ることも多くあります。

-またSADFRANKとNOT WONKの違いとしては日本語歌詞と英語歌詞があるかと思います。そのうえで歌詞を見てみると、より俯瞰して自己を省みたように思えたのですがいかがでしょうか。特に「肌色」や「I Warned You」ではそれが顕著に感じました。
自己を省みるという意味では間違いないのですが、そもそもその自己っていうものを、自分はデッサンできてるのかってのが今作を作るにあたり自分の中で巻き起こっている論争でした。だから、特に内省を伝えたいわけでも、独白を垂れ流したつもりもなく、その上で踏むべき道程がそこにあっただけかもしれないですね。私より先に聴く人がそこにいるので、聴いた印象がそれそのものだと思います。

gelについて

SADFRANK『gel』
-『gel』の参加ミュージシャンを見ると日本を代表するジャズやソウル、ハードコアミュージックなどなどそれぞれの分野の旗手たちが集まった大所帯な作品となっていましたが、それぞれの楽曲はどのように制作されたのでしょうか?
基本的には自分がデモを作って、それを一旦再現してみるところからスタートした曲が多いかもしれないですね。リハーサルスタジオに一回も入ってなくて、一緒に演奏してアレンジメントを詰めてということは一度もありませんでした。

-また、基になる楽曲があってそこからアレンジを加える段階で各ミュージシャンたちを招聘していったのか、それともミュージシャンを集めてから楽曲を制作していったのでしょうか?
石若駿、香田悠真、本村拓磨以外のメンバーは、曲を書いたあと、アレンジメントの段階で自分のイメージする音を出しているミュージシャンにお声掛けしたパターンが多いです。むしろコアメンバーの3人に関しては、SADFRANKを始まるにあたって、そのとき一曲も曲は無かったんですが、この3人でしか有り得ないなと思い、ラブレターをしたためた次第です。

-そういった中で制作された楽曲ですが、加藤さん個人として気づきとなったが曲や進化となった楽曲はありますか?「I Warned You」や「Quai」はストリングスが入っていたり、参加ミュージシャンが多い分、コントロールやトーンの調整、楽曲自体の着地点などを決めるのが大変だったのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
結局デモ通りになった曲は一曲もないので全部変化はしています。そもそもイメージが固まった段階で録音に臨み、メンバーにも聴いてもらってから現場でディレクションしたので、そういう意味での着地点に迷うことはほとんどありませんでした。だけど、すべて録れた音の方が素晴らしかったので、それをそのまま聴いて欲しくなったり、いい演奏がいい音で並んでいることの物足りなさを感じたり、そういう天秤は常にありました。

SADFRANK – The Battler / Quai | Live at Glass Pyramid

-ちなみに楽曲ごとにレコーディングスタジオが違いますね。こちらは単純に参加ミュージシャンによる事情ですか?
ミュージシャンによるというよりかは、楽器によるところが大きいです。苫小牧のroomに関しては、そこでしか有り得ない鳴りや時間を録りたいという気持ちがあったので、太遥(觸澤 太遥)と陽ちゃん(松浦 陽)に付き合ってもらって一緒に録音しました。

-クリエイティブディレクターを松尾紀さん、アートディレクションおよびデザインは星加陸さんが担当していますね。こちらについてもお聞きしたのですが、これはどういった経緯でお願いしたのですか?
松尾くんは彼が10代のときからの付き合いで、いつか何か一緒に作りたいという話は常々していていたんですが、お互いのベストを発揮できるときがいいと思っていたのでその機を狙っていて、今回私が私からなるべく距離を取りたいという願望があったもんで、このプロジェクトの主にクリエイティブディレクターとして松尾くんに立ってもらいたいというイメージが割と最初の段階でありました。星加くんに関しては、その松尾くんのアイデアだったんですが、普段よく2人で制作をしているということ以上に、SADFRANKの音楽やアーティストとしての像のようなものをビジュアルで表すこと、もしくはその危険性みたいなところを含めてディスカッションして一緒に作っていくデザイナーとして最適な人だと僕が思ったので、一緒にやってみたって感じです。

-SADFRANKとしての初のライヴパフォーマンスが“RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO”で、その後モエレ沼公園・ガラスのピラミッドで初めてのバンドセットライヴを行っていました。特にモエレ沼公園のガラスピラミッドは北海道人からすると芸術的な場所としてのイメージが強いと思います。まさに『gel』にとって最適な場所だと思うのですが、加藤さん自身そこで演奏してみての感想はいかがでしたか?
いやー気持ちよかったっすねー。自分が遠くから近づいてくるような感覚でした。全ての音のアタックに注意を払う感覚も、陽ちゃんと一緒に歌うのも最高だった。ただ、ああいった場所で音楽をやって、芸術家振りたいスノッブな気持ちは一切なく、たぶんあのタイミングでは、あのメンバーでモエレ沼で演奏することにかなりの必然性があったのでそれを選択しただけです。

-アルバムタイトル『gel』の意味について教えてください。ツイッターでは“ゲルい”という発言もありましたが、なぜ“gel”と名付けたのでしょうか?
録音を進めてるうちに、これは全然“gel”じゃない物ができるかもなって思ってたんだけど、思ってたより“gel”な音楽になって、もしかしたら聴く人によっては全く“gel”に感じられないかもしれないけれど、俺にとってはまさにこれが“gel”なんだよって、それをわかってほしくてタイトルにしました。

-SADFRANKの音楽に影響を与えたアルバム3枚について教えてください。また1枚づつ、どのような部分に影響を受けたかについても教えてください。

Flume 『Palaces』
下には下があるということ

ナンシー梅木「愚かなり我が心」(『アーリー・デイズ1950~1954』収録)
時間はいつでも止まるということ

岡村孝子『liberté』
モラルだけが残ったってはつまりどういうことなのかってこと

-『gel』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
これから出会うかもしれない人と、聴いてしまった全ての人に送ります。

地元・苫小牧について

苫小牧駅前(Photo AC)
苫小牧駅前(Photo AC)
-外から見た北海道は自然の豊かなイメージだったり、大らかな人間性などのイメージがあるといった感想を聞くことが多いです。実際の苫小牧は寂れた駅前だったり、少し離れたイオン周りの賑わいだったり、綺麗なものだけでは語れない生々しさがある街だと思うんです。そういったギャップが今作の『gel』と重なるところもあるように感じましたが、加藤さんから見た苫小牧はどうですか?自分が住んでいたころ(10年前)からはだいぶ環境も変わっているかと思うのですが。
相変わらずクソくだらねえ街だなと思ったり、綺麗なところだなと沁みたり思わせぶりな街だと思います。場所ってのは、つまり人なので、誰かとっては加藤自身が苫小牧なんだって考えられていても、なんの不都合もないとは思うので、自分がどういう変化をしたのかということを“苫(苫小牧)”を鏡に眺めることもありますね。俺らとBANGLANGが真面目にロックンロールやってる限り大丈夫だと思いますよ。

- NOT WONK が出てきて、音楽メディアでも苫小牧という街の名前を目にすることが増えました。さらに今回SADFRANKが始動して、地元の友人である松浦 陽、觸澤 太遥、yoneyuが参加したことでさらに注目を浴びるのではないかと思います。こういった形で苫小牧の名前を目にすることは個人的には嬉しく思います。今後も活動の中心は苫小牧になっていくのでしょうか。実際にNOT WONK が出てきてからバンドのツアー地としても、苫小牧での音楽イベントが増えたようにも思えます。
俺が苫小牧に住んでるのは、東京の人が東京に住んでいるのと全く同じ理由だと思います。そこにやりたいことがあるからだったり、なし崩しでそこに住んでいたり、好きな人がそこにいたり。なんで東京に住んでるんですか?早く苫小牧に来ないんですか?って聞かれてもちょっと困るでしょう。俺だっていつもそんな気持ちですよ。大体なんでも東京にしかないってのは、どう考えてもつまらねえだろうって俺はそう思ってる。もし遊びに来たくなったら、一声かけてくれたら、いいとこ案内できるんでお気軽に言ってくれ!

SADFRANK – offshore | Live at Glass Pyramid

SADFRANKアルバムリリース

1stアルバム『gel』

SADFRANK『gel』
発売日: 2023年3月1日
収録曲:
1. 肌色
2. 最後
3. I Warned You
4. per se
5. 瓊 (nice things floating)
6. offshore
7. 抱き合う遊び
8. the battler
9. Quai
フォーマット:Mp3
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ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky