最終更新: 2024年3月11日
yahyel(ヤイエル)による5年ぶりの新作アルバム『Loves & Cults』というタイトルが発表された時、彼らの最も重要な2つの要素を抽出した言葉だと思った。
つまり『Loves & Cults』というアルバムはyahyelというセルフタイトル作と言っても過言ではない。
そして、アルバムのラストには衝撃的な展開が待ち受けている。
yahyelの進化と苦悩を克明に刻んだ『Loves & Cults』を是非、聞いてほしい。
また、姉妹サイト“A-indie”では、池貝自ら今回の回答を英語にしたためたインタビューを掲載している。
是非、そちらもチェックして池貝のコミュニケーションと対話を妥協しない姿勢を感じてほしい。
yahyelが4月に開催した東名阪のライブが終了し、東京公演が完売したため、6月に東京での追加公演が決定した。(2023年4月6日追記)
目次
yahyel インタビュー2023
アーティスト:池貝峻(Vo.) インタビュアー:yabori『Human』リリース後の5年間について
-前作『Human』から5年ぶりに『Loves & Cults』のリリースが発表されました。それまでの間、杉本さんの脱退やコロナの感染拡大など、大きな環境の変化がありました。池貝さんはこれまでのインタビューで、“バンドとして耐え忍ぶ時期”だと言っていましたが、この5年間はどのように過ごしていたのでしょうか。
池貝峻:2019年の頃から次作への制作はしていて、その頃からアルバム1枚以上の曲は書いていました。そこから世界はパンデミックの混乱に突入し、バンドは制作に対するコンセンサスがとれなくなって迷走しました。ここ5年間の世の中のムードには良い変化も、悪い変化もあり、それはそれぞれが結論を書くべきことなのでここでは割愛します。個人的には、今までの我々が享受してきた音楽活動は、本当に複合的な要素の上に成り立ち、支えられていたんだなと感じていました。世のムード、産業の動向、個人のメンタルヘルス、人と人の関係性、その他諸々の優先順位。個人か、共生か、みたいな擦られたお題目ではなく、もっと個人的に一人でできることの限界を強く感じて何度も立ち止まりましたが、できる範囲で観察とアウトプットだけは止めないようにしてきたつもりです。ソロでも曲を書いたりとかもしましたし。面白いことに、今作で2019年から考えてきたテーマが、より時代性という輪郭を帯びたものとして出来上がったので、このアルバムはドキュメント的だなと思います。
-2020年に開催されたワンマンライブ”THE CHOIR”は、全員がメンバーであるという特殊な形で開催されました。コロナ感染拡大の時期に開催するのは躊躇することも多々あったと思いますが、あの時はどのような心境で開催したのでしょうか。
我々らしい、下品な皮肉というか、ブラックジョークだったので、いろいろな誤解も受けましたが、当時を今振り返ると最後の最後まで開催することを迷っていました。ライブハウスという現場を守るために音楽という営みは止めたくない、当時の救いのない間が抜けたコロナ対策にも疑問を呈したい、自分たちにできる最大の感染対策をしたい、ということの間で悩んであのような形になりました。
-また、この5年間の間に池貝さんは香取慎吾のアルバムに参加したり、篠田ミルさんはプロテストレイヴやMay J.のプロデュース、山田健人さんは数々の映像作家として活動、大井一彌さんはHUMANIZE IN DUBを開催したりするなど、個々の活動も活発に行われていました。他のメンバーの活動に刺激を受けることやそれらの経験がyahyelでの活動に反映されることはありましたか?
良くも悪くも、我々はそれぞれのことに干渉しないので、美談にはしたくないですね。表舞台では、とても活発みえるのかもしれないですが、それぞれの葛藤もあったと思います。個人的にも、本当はyahyelとしての活動を優先したいという思いがあったこともありました。今になって思えば、それぞれやってきたことが音楽的にというよりも、個々の人間的な成長として我々がバンドとして”一緒に作業”をするということに還元されたなと思います。それは、もしかしたら、シンプルな”思いやり”のようなものなのかもしれないです。
ここ数年の音楽シーン、特にインディーシーンは何もいいことばかりではなかった。苦しい時間だったんです。”それしかなかった”という視点で、この時間のことを振り返ることも必要だと思います。
-yahyelは電子音楽家からスタートし、今作ではライブを中心に据えたバンドとして再出発しました。これまでは先に曲ありきで後からライブを仕上げていった印象ですが、今作はセッションが先にきて曲が仕上がっていった印象です。音楽の制作スタイルも以前とは変化した部分がありましたか?
僕らは未だセッションは苦手です。セッションという取り組みは、この期間中にやりましたし、個人的にも憧れはありますが、機能したかと言われると微妙ですね。変わったところでいうと、僕が書いてくる曲の完成への道のり(いわゆる1から100の部分)を、より4人で行うための工夫をしたことですね。今まで、僕が完成までをコントロールしすぎていた部分があり、それを4人のものにするということを数年間トライし続けてきました。これは、自分のパーソナルな体験のニュアンスを共有するという精神的な部分も含めて、実際にはかなり複雑な要素があるので、イメージよりずっと難しいことです。
ギタリストとしての山田健人
-当初はVJとして参加していた山田健人さんが、今作から本格的にギタリストに転向しています。彼がギターを弾くようになってから、yahyelのサウンドはどのように変化していったと思いますか?本人も言っている通り、これはまず山田自身に新しい自己表現領域をもたらす嬉しい出来事でしたよね。本人は、音像の雰囲気への影響くらいと謙遜してますが、結果的にギターの音がわかりやすくライブバンドらしい音像を作り出しているなと思います。今の我々のムードに、それはかなりハマっているし、僕が作る曲を骨とするなら、それに対してどのようにメンバーが反応するのかという肉としてのプロセスをバンドに浸透させてくれたと思います。バンド内の非言語的なコミュニケーションを作り出してくれたのは本当に助かりました。特に、僕はそれが苦手なので。
-先日のライブを見た時に池貝さんのボーカルは個人的な感情を超えて、祈りのように感じました。また、今作では曲に合わせて柔軟に歌い方を変える様は今までにないものを感じました。何か心境の変化があったのでしょうか。
内から外へという視点の変化はありますね。今までの、1作目、2作目に関しては徹底的に1人の孤独を歌っています。今作からは、自分も人間の群れの中に存在していて、相対性を無視できないものとして扱っています。それでも、共感だけは求めないようにしてますが。あくまで、自分の視点、1人称ですね。もしそれが祈りに聞こえるのなら、祈りというものもまた、相対的な関係の中にあるものなのかもしれませんね。
-今作から自主レーベル“Loves & Cults”を立ち上げましたが、どうして自主でやろうと思ったのでしょうか。
特にないですね。それがその時にできることだったからです。僕らはBEATINKと一緒に1作目、2作目を作れたことを光栄に思っていますし、あの家族のような雰囲気がとても好きでした。彼らと一緒にしかできないこともあれば、自主レーベルをやってみないとわからないこともある。今回のプロセスの中で、すごく学びは多かったし、今我々は音楽に対してできることを考えるきっかけにもなった。リスナーの皆さんには、メジャーだろうが、インディペンデントなレーベルだろうが、自主だろうが、分け隔てなく、それぞれのアーティストの声に耳を傾けてほしいと願ってます。
Loves & Cults
-『Loves & Cults』は曲順も考え抜かれた作品だと思います。“Cults”から始まって“Love”で終盤を迎えるという流れなのですが、これにはどのようなストーリーを思い描いていましたか?
20年代のこれまでは、熱量の時代だなと思っていて。僕はそこで抜け落ちていくものに、目を向けたいと思っています。そこで、僕は、この”信じること”の表裏一体性をアルバムのテーマにしようと早い段階から思っていました。”Cult”は狂信じみた自己肯定に対する皮肉ですが、”Love”は結果的に残ったものでしか愛の実体性を捉えることはできないという矛盾を歌っています。自分の愛は狂信かもしれない、あの狂信じみた光景は愛と言われているのかもしれない。その可能性の中で、僕は悩んだし、ここからはそんな想像力が、実態のある対話に繋がっていくのではと思っています。
初の日本語歌詞、kyokou
-最終曲のタイトル「kyokou」は日本語で歌われていてびっくりしました!どうしてこの曲は日本語で歌おうと思ったのでしょうか。また、曲タイトルは“虚構”だと思うのですが、英語に直訳した“fiction”ではなく、どうして“kyokou”にしたのでしょうか。
僕が今まで徹底して英語詞にこだわってきたのは、そもそも日本の英語圏へのコンプレックスを刺激したかったからなんです。英語で、英語圏の人たちがやっていることに対して、しっかりと同じ土俵でやれることを見せたかった。でも、結果的に言語なんてツールであって、何を言うかの方が大事なわけです。正直、どんな言語を使おうが”日本的”なステレオタイプしか受け付けない西洋圏側の姿勢にも、近年さらに失望していたので、もうどうでもいいやと思って。ここ数年は、僕自身も国内に閉じ込められて、その中で色々なことに気づかされた。だからこそ、”Love”までで一度テーマへの結論を書いた後で、身近な人たちへのラブソングを書こうと。fictionじゃ、日本語的なニュアンスとして違うかなあと。逆に、虚構ではなく、kyokouにしたのは照れ隠しです。
Love
-「Love」の歌詞の一節には、デビューアルバムのタイトルで使用されていた“Flesh and blood”が出てきます。これは偶然でしょうか。それとも意図したものだったのでしょうか。
もちろん意図したものです。血と肉は、”人間”を意味する一番プリミティブな比喩表現ですが、そこから”Human”になって、”Loves & Cults” みたいな社会的な相対性をもっても、人間の在り方にはどうしようもない普遍性があるということが言いたくて。セルフサンプリングってやつですね。これに限らず、僕はかなり比喩表現を擦るので、探してみたら楽しいかも。
-『Loves & Cults』の収録曲をみると、曲名全て1単語なのですが、これにはどういった意図がありますか?
前作も全部1単語です。僕はタイトルをシンプルにしたいなと思っていて。普遍性のある曲は、タイトルを言い当てているなあと思うんです。PJ Harveyの”Dry”とか僕は本当に格好いいと思うんです。文字面から。
アルバムタイトルの意味
-『Loves & Cults』というアルバムタイトルを聞いた時、yahyelを構成する最も重要な要素2つを抜き出した言葉だと思いました。つまり自分にとって『Loves & Cults』というアルバムタイトルは“yahyel”というセルフタイトルのように受け止めています。それらを踏まえて『Loves & Cults』というアルバムタイトルの意味を教えてください。
面白いですね!セルフタイトルと言われると、確かにそうかもと思います。
“Loves & Cults”はあくまで愛と狂信には、表裏一体の類似性があるということがこのアルバムのテーマですが、裏を返せば我々の人生には、そんな表裏が溢れているということだと思います。近視眼的に、信じたいものを信じて戦うというやり方は、必ず何かの見落としがあって、簡易化されているからこそリスクがある。今までも、これからも、僕の書く曲はその矛盾を前提としたものになるでしょうね。だからこそ、そこにyahyelらしい、ヒリヒリとした緊張があるのだと思います。
-どんな人に最新アルバム『Loves & Cults』を聴いてほしいと思いますか?
今までと同じように、くまなく全世界の全ての人に聞いてほしいですね。そのために、作っていますし、作品を出すことはそういうことだと思うので。難しいですけど、ここ数年で”woke”(※)みたいな言葉で代表されるような動きに突き動かされてきた人たちにも聞いてもらえたらいいなと思います。これは、同志を鼓舞するための曲たちではないですが、対話への願いが溢れている作品なので。
※wokeは“目覚めた・悟った”を意味する“Wake”の過去形からきた黒人英語(AAVE)に由来する。
yahyelのこれから
-4人編成となり久しぶりのアルバムがリリースされようとしている今、yahyelはこれからどのようなキャリアを歩んでいきたいと思いますか?
色々考えていたんですが、最近改めて、なるようにしかならないと思っています。
どうなるかわからないけど、僕は日本の音楽シーンにおけるインディペンデンスが生き残るためには、我々のような存在が相対的な価値に流されず、やり続けることも、ひとつ大切なんじゃないかなと思っています。海外のシーンを見ていると、いつもそんな存在がいるので。
-最後に私たちを含め、5年間アルバムを待ち望んでいたyahyelのファンがたくさんいます。彼らにメッセージを頂けますか?
お待たせしてしまって、本当にごめんなさい。でも、我々の中で納得できる作品がやっと出来上がりました。ぜひ、聞いてそれぞれの反応を聞かせてください。
我々のものづくりは生々しいんです。お洒落でもないし、時代のスターダムにもまるで興味がない。ただただ、作品に飛び込んで、その軌跡を追体験できるようなものになっていたらとても嬉しい。
”Loves & Cults” がカルトのように消費されることなく、生きるということに目を開けて立ち向かうための、ひと時の寄り道になることを願います。
我々と出会ってくれて、本当にありがとう!
yahyelアルバムリリース
yahyel(ヤイエル)はこれまでに3枚のアルバム(『Flesh and Blood』、『Human』、『Loves & Cults』)をリリースしている。
3rdアルバム『Loves & Cults』
発売日: 2023年3月8日
収録曲:
1.Cult
2.Karma
3.Highway
4.ID
5.Mine
6.Sheep
7.Slow
8.Eve
9.Four
10.Love
11.kyokou
フォーマット:Mp3
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2ndアルバム『Human』
発売日: 2018年3月7日
収録曲:
1.Hypnosis
2.Nomi
3.Rude
4.Battles
5.Polytheism (feat. Kim Ximya)
6.Acedia (Interlude)
7.Body
8.Iron
9.Pale
10.Lover
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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1stアルバム『Flesh and Blood』
発売日: 2016年11月23日
収録曲:
1.Kill Me
2.Once
3.Age
4.Joseph-album ver.
5.Midnight Run-album ver.
6.The Flare
7.Black Satin
8.Fool-album ver.
9.Alone
10.Why
11.Take Me Back
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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yahyelライブ情報
- 2023年3月22日(水)@愛知・名古屋CLUB QUATTRO
- 2023年3月23日(木)@大阪・梅田CLUB QUATTRO
- 2023年4月5日(水)@東京・渋谷WWWX
- 2023年6月27日(火)@東京・恵比寿リキッドルーム
yahyel(ヤイエル)が4月に開催した東名阪のライブが終了し、東京公演が完売したため、6月に東京での追加公演が決定した。
追加公演のチケットの詳細はこちら(2023年4月6日)
18:45 開場/ 19:30 開演
18:45 開場/ 19:30 開演
18:30 開場/ 19:30 開演
18:30 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc
yahyelバンドプロフィール
“2015年東京で結成。池貝峻、篠田ミル、大井一彌、山田健人の4人編成。エレクトロニックをベースとしたサウンド、ボーカルを担当する池貝の美しいハイトーンボイス、映像作家としても活躍する山田の映像演出を含むアグレッシブなライブパフォーマンスで注目を集める。2016年、ロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアー、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージへの出演を経て、11月にデビュー・アルバム『Flesh and Blood』を発表。翌2017年には、フジロックフェスティバル〈Red Murquee〉ステージに出演、さらにWarpaint、Mount Kimbie、alt-Jら海外アーティストの来日ツアーをサポートし、2018年3月に、さらに進化した彼らが自身のアイデンティティを突き詰め、よりクリアで強固なものとして具現化することに挑んだセカンドアルバム『Human』をリリース。その直後のSXSW出演を経て、フランスのフェス、韓国・中国に渡るアジアツアー、SUMMER SONICなどに出演。同9月にはシングル「TAO」をリリース。楽曲、ミュージックビデオの両方を通じて、yahyelの芸術表現が完全に別次元に突入したことを証明した。同じく11月には水曜日のカンパネラとのコラボ楽曲「生きろ」をリリース。2019年には再びSXSWに出演、米NPR、英CRASH Magazineなど数多くの海外メディアに紹介される。パンデミックの最中に開催された2020年のワンマンライブを最後に、突然の沈黙期に入ったyahyelは、扇情と混沌のユーフォリアから起き上がろうとする2022年の世界に呼応するように、新たなフェーズへの密かな胎動を繰り返している。”
yahyel代表曲(Youtube)
- yahyel(ヤイエル) – TAO (MV)
- yahyel(ヤイエル) – Hypnosis (MV)
- yahyel(ヤイエル) – Once (MV)
yahyel関連記事
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ライター:yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori