最終更新: 2024年3月17日
アメリカはユタ州出身の4人組女性インディーポップ・バンド、The Aces。
彼女らは音楽活動を通して、自身の性的アイデンティティやジェンダーに対する問題に声をあげてきた。
ここ数年特にジェンダーの問題で、ライターである自分が個人的に判断に迷うものが女性アーティスト、女性バンドに対する紹介の仕方である。
“女性”や“ガールズ”という表記をアーティストやバンドの前に加えるかどうかだ。読み手としての立場に立つと、男性なのか女性なのか気になるところだが、男性のアーティストやバンドの場合は“男性”の表記はないのである。これはジェンダーバランスにおける格差がもたらしたものであるのだが、平等を示すためにはどちらも同じであるべきだ。
書き手である自分がひとつの例として挙げたが、当事者であるアーティストが抱える問題はこんなものではないだろう。
そして自分自身も表記に対するベストアンサーは未だ見いだせてない。
今回はそんな問題意識を提示するためにあえてここでも、“4人組女性インディーポップ・バンド”と表記させていただいた。
このインタビューではそのThe Acesが思う性的アイデンティティやジェンダーに対する問題について。そして間違いなく演奏やヴォーカル、歌詞、どこを切り取っても過去最高傑作となった3rdアルバム『I’ve Loved You For So Long』について、余すことなく聞いた。
その回答を受けてひとりのライター、そしてリスナーとして、これからもThe Acesの活動と音楽には、全力で支持していきたいと思う。
目次
The Aces インタビュー
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アーティスト:The Aces インタビュアー:滝田 優樹 翻訳:BELON編集部
バンドの結成とユタの音楽シーン
-まずはBELONG Mediaでははじめてのインタビューとなりますので、The Acesの基本的なことから教えてください。ユタ州出身で2012年に結成されたそうですね。今も活動の拠点はユタですか? ユタの音楽的な環境について興味がありますので教えてください。また幼馴染で組んだバンドということですが、それぞれの出会いとバンドの結成に至った経緯を教えてください。
私たちはユタ州の出身ですが、今はLAに住んでいます。私たちは子供の頃に出会いました。アリサと私(クリスタル)は姉妹なので小さい頃から一緒に音楽を演奏していました。10歳の時ケンナをバンドに誘い、ケイティは13歳くらいの時でした。それ以来私たちはずっと一緒にやっています。私たちは同じユタ出身のただの友達なんです。ユタはとても宗教的な場所で、私たちのうち3、4人はクィア(性的指向が異性愛に限らない人たちによって使われる言葉)です。なので、バンドを通して音楽を演奏し、属していると思えるコミュニティを見つけることができました。
ユタの音楽シーンは当時私たちがやっていたこととはかなり違っていました。地域の音楽シーンが根強く、幸運にも宗教的に厳格だったため、ライブハウスでアルコールが提供されなかったんです。私たちは若い頃から実際の会場で演奏することができました。だから、本当に助かった。けど私たちは地元のシーンとは違うことをやっていたんです。ユタ州プロボの音楽シーンはフォーク系が多くて、私たちはポップやインディーポップを演奏していました。だから私たちはそういう意味で違っていて、目立つことができました。
バンド名の変更とその意味
-結成当初のバンド名は“The Blue Aces”でしたよね? なぜ“The Aces”に改名したのでしょうか? “The Aces”というバンド名の意味についても教えてください。
The Acesに変えたのは、私たちのことをみんながblueを抜いて短くしたThe Acesという名前で呼んでいたからなんです。ちょうどレコード契約を結んで、バンドとして別のステージに向かうところでした。私たちも歳を取りましたしね。そしてblueを抜くことにしたんです!
The Acesに影響を与えたアルバム
-The Acesの音楽に影響を与えたアルバム3枚について教えてください。
Paramore『Riot』
The 1975『The 1975 (debut album)』
Michael Jackson『Off The Wall』
ジェンダーや人種についてのメッセージ
-今年の国際女性デーにはインスタグラムで投稿をされていましたね。ジェンダーや人種についてのコメントも添えられていました。あなたたちが音楽活動を行う理由のひとつにこういった問題に対して向き合うことへの意思表明だと思うのですが、改めてこちらの投稿に至った理由や音楽活動を通して伝えたいメッセージがあれば教えてください。私たちもあなたたちの投稿したメッセージについて、全力で支持したいと思って質問させていただきました。
私たちが育ったところでは、典型的な女性性や性自認に外れたことは支持されず、受け入れられませんでした。なので、自分のことがわからなかったり、自分が誰なのかを見つけようとしている人たちが安心できたり、快適にいられるようにすることは私たちにとってとても重要なんです。
-また、日本の女性4人組バンドが過去に海外でツアーを行った際には現地で「なぜ女性が4人も集まってロックバンドをやっているんだ。ダンスミュージックをやらないのか?」と聞かれて驚いたそうです。あなたたちが活動するなかでそういったジェンダー的な価値観などの問題にぶちあたったことはありますか?
はい、世の中の大多数は女性がポップスを歌い、グループとして活動することに慣れすぎていると思います。特にロックやオルタナにおいて、多くの人は女性が音楽家として楽器を演奏するのに見慣れていません。
なので初めてアメリカツアーを行った頃、私たちがバンドとしてオルタナティブミュージックを演奏することに大きな反発を受けました。
人々はミソジニー(女性嫌悪 、 女性蔑視)的であったり非協力的だったりするんです。私たちは常に反発を受け、それでも自分たちのしたいことを貫いてきました。幸運のことにファンもついてくれ、彼らのサポートで私たちは自分たちの音楽を追求してきました。今では女性が楽器を演奏することにもっとオープンになってきたと感じますが、まだまだやるべきことはたくさんあります。
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-あなたたちのアルバムがリリースされるたびに楽曲はもちろんなのですが、ジャケットやアートワークもスタイリッシュで毎回楽しみです。今回『I’ve Loved You For So Long』のリリースが決まり、ビルボードでのパフォーマンスやアップルミュージックのアートワークでもそうでしたが、全員スーツを着用していますね。こちらの理由を教えてください。
スーツは私たちにとってとてもインスピレーションの源となっています。このアルバムでは、私たちが提示したものと似たような感じで、ジェンダーを探求し、アンドロジナス(男女両性の特徴をもつ)になりたいと思っていました。宗教的な町で育った私たちは、スーツは男性的な服装を代表するものであり、私たちは決して着ることも興味を示すことも許されなかったものでした。
だから、女性として男性用のスーツを着ることは、その物語を取り戻すことになりました。私たちはThe Rolling Stones、The Beatles、The Kinksなど、60年代のボーイズバンドに影響を受けています。それらのバンドはみんなスーツを着るのが当たり前で、当時はそれが革新的なことだったと思います。だから私たちは、その現代版は何だろうと考えました。私たちはクィアな女性であり、バンドであり、バンドの物語を新たに作り直しています。
I’ve Loved You For So Long
-インスタグラムでは『I’ve Loved You For So Long』は自己反省と自己探求のアルバムだとコメントされていましたが、こちらについて詳しく教えてください。そして同時に衣服に対するコメントもされていました。私自身もファッションは“誰も傷つけずに自己表現や発散できる”もののひとつだと思っています。こちらの投稿についてやファッションについての考えがあれば教えてください。
前述していますが、このレコードではアンドロジナスさがとても重要でした。ファッションを通して、スカートやドレスのような、子供の頃に不快だったものをたくさん取り戻しています。
また、よりアンドロジナスな服装ができるようになったことも、その理由です。
-制作上でブレイクスルーになった曲やThe Aces にとって最も変化を感じさせる楽曲はどれでしょうか? 理由も併せて教えてください。個人的には「 I’ve Loved You For So Long」はきらびかなシンセとそれに共鳴するコーラス、力強いドラム、流麗的なギター、ダイナミクスを与えるベースなどどれもとってもThe Aces本来の魅力が詰まった楽曲だと感じました。
そうですね。「I’ve Loved You For So Long」は私たちにとって大きなブレイクスルーでした。そのシンプルさが私たちに自信を持って若い頃にやっていたことに戻る勇気を与えてくれました。私たちは自分たちの音楽性やシンプルさに自信を持つことができました。それはドラム、ベース、ギター、ボーカルというシンプルさですが、それがどれだけパワフルかを感じました。
また、「Solo」は私たちが本当に楽しくやってみて、恐れずに新しいことに挑戦したり、音や電子楽器で実験したりする曲となったのも印象深いです。
アルバムジャケットとファッション
-アルバムジャケットは車の積み荷に乗りながら、トンネル内で撮影されたものですよね。過去2作とまた色合いも変わってこちらも印象的だったのですが、コンセプトや撮影時のエピソードがあれば教えてください。個人的には「Suburban blues」のイメージが重なるジャケット写真でした。
その写真はアルバムの心情を描きたかったからです。このアルバムは私たちにとって懐かしさがたくさん詰まっています。写真は夜中にトンネルを走る車の荷台に乗っている私たち4人だけの小さな世界です。
トンネルは象徴的であり、このアルバムでは現在から過去へと時間移動しています。ティーンエイジャーだった頃ですね。だからトンネルはそのタイムラインやレコード全体で起こる変化を象徴しています。それはノスタルジックで、ちょっとダークで、でもエキサイティングな感覚を与えてくれます。
25歳という年齢
-「Person」や「Miserable」、「Younger」などの歌詞では25歳であることについて書かれていますね。こちらの理由や10代のころからバンドをやってきて、25歳になったことで生活面や考えなど変化を感じたことは何ですか? もし、作詞者以外のメンバーが回答の際は今回のアルバムで一番自分の今のモードにフィットしている楽曲があれば、理由も併せて教えてください。
25歳になったとき、私(クリスタル)は直感的に“年をとった”と感じる変化がありました。自分に自信が持てるようになったと感じます。若い頃の自分を振り返ることができるようになったのです。
アメリカでは、年齢が非常に重視されます。21歳以上になると、年を取っているように感じるようになるんです。だから私は年齢というものを遊んでみました。私はまだ25歳ですが、まだ子供のように感じる部分もあり、若いと感じながらも大人でもあり、実に奇妙な年齢だと感じます。だから、歌詞で語るにはとても面白いコンセプトだと思いました。
-『I’ve Loved You For So Long』をどのような人に聞いてほしいですか? もしくはどのようなシチュエーションで聞いてほしいですか?
このアルバムはリスナーの方々が必要とする時に側にいるようなアルバムになってほしいです。The Acesのメンバーにはそれぞれ人生において完璧なタイミングで出会ったアルバムがあります。それらのアルバムは私たちを見守って、ひとりぼっちでないような気持ちにしてくれ、不思議なことに今の瞬間を完璧に表現してくれたりします。
だから私たちは、このアルバムが必要としている人たちに届き、人々がそれを通してコミュニティや自分のことを受け入れてくれる場所を見つけられることを願っています。私たちの究極の目標は、このアルバムを通してもっとつながりを生み出し、ファンや自分たちのためにもっと大きなコミュニティを作ることです。
日本のファンへのメッセージ
-最後に、日本でもあなたたちのファンはたくさんいます。その人たちに向けて、メッセージをください。(日本でのライヴはまだかと思いますが、来日でのライヴも決まることを祈ってます!)
皆さんのことが大好きです!とても日本に行きたいし、そのために頑張っています!応援してくれて本当にありがとう、そして想いのある質問をしてくれてありがとう!
The Acesアルバムリリース
3rdアルバム『I’ve Loved You For So Long』
発売日: 2023年6月2日
収録曲:
1.I’ve Loved You For So Long
2.Girls Make Me Wanna Die
3.Always Get This Way
4.Solo
5.Not The Same
6.Suburban Blues
7.Person
8.Miserable
9.Attention
10.Stop Feeling
11.Younger
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The Acesバンドプロフィール
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“ユタ州プロボ出身のThe Acesは、シンガー兼ギタリストのクリスタル・ラミレス、ギタリストのケイティ・ヘンダーソン、ベースプレイヤーのマッケナ・ペティ、ドラマーのアリサ・ラミレス(クリスタルの妹)によって2008年に結成されました。グループのメンバーは長年の友人であり、彼らが作曲家やミュージシャンとしてクリックするまで時間はかかりませんでした。彼らはThe Blue Acesという名前で演奏を始め、すぐにティーンイベントや学校の集会で演奏するようになりました。彼らの人気が高まるにつれて、彼らはプロボの音楽クラブに進出し(多くの会場がアルコールを提供していないため、ティーンエイジャー向けバンドが開放されていることが助けとなり)、彼らの評判は2012年に7曲入りEPを発表することで州全体に広がりました。オンラインマガジンProvo Buzzは彼らを市内10傑バンドの1つに選び、Paste Magazineは“知っておくべき10傑ユタバンド”特集に彼らを含めました。
彼らは2016年にThe Acesという名前に短縮し、レッドブル・ミュージックと契約しました。同レーベルは2016年3月にシングル「Stuck」をリリースしました。「Stuck」はストリーミングサービスで200万回以上再生され、彼らに初めて大きな成功をもたらしました。レッドブルから2枚目のThe Acesシングル「Physical」が2017年4月に続きました。2018年2月には、「Lovin’ Is Bible」というシングルがフルレングスデビュー作『When My Heart Felt Volcanic』を前提にリリースされました。その後、同年4月に到着しました。アルバムが出た後、The Acesは5 Seconds of SummerやCOINのオープニングツアー、そして自分たち自身のショーも開催しました。
2020年、The Acesから3つの新曲「Daydream」、「Lost Angeles」、「My Phone Is Trying to Kill Me」がストリーミングサービス上に登場しました。これらのトラックはよりクリーンで硬いサウンドと顕著なR&Bエッジを見せており、2020年6月にリリースされた2ndアルバム『Under My Influence』からに先行シングルとなりました。2021年初頭、『Under My Influence』のボーナストラック「Sleepy Eyes」と「Aren’t You」がオンライン上でリリースされました。The Acesは2023年、『I’ve Loved You for So Long』というフルアルバムのリリースを発表しました。バンドとキース・バロンが共同製作したこの作品では、彼らがモルモン教会で成長した経験や愛やメンタルヘルスなどのテーマに取り組んでいます。「Always Get This Way」と「Girls Make Me Wanna Die」というシングルも収録されています。”
ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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