最終更新: 2024年7月16日

Mount Kimbie(マウント・キンビー)の4作目となるスタジオ・アルバム『The Sunset Violent』は、長年のコラボレーターであるアンドレア・バレンシー・バーンとマーク・ペルの2名がメンバーとして加入し、4人体制となったはじめての作品である。

加入のきっかけは前作『Love What Survives』におけるライブ再現の問題を解決するためだったという。

しかし、最新作『The Sunset Violent』が提示したのはMount Kimbieが築き上げてきた音楽を更新、拡張するというよりも一から構築し直したという印象だ。

これまでの作品はUKインディー・エレクトロニックを土台にインディー・ロックのテイストをブレンドしたサウンドプロダクションであったが、今作においてはインディー・ロックを土台にアレンジを加えていったような音の構成になっている。

それによりバンドサウンドが前景化され、より各メンバーの色が色濃く反映されているといえるだろう。

15年近いキャリアのなかで作品を重ねるごとにポスト・ダブステップの確立から、エレクトロニック・ミュージックとバンドサウンドへの接続、そして今回のインディー・ロックを土台にしての再構築といったグラデーションは一見自然のようにも思える。

ただ、ここでしっかりと宣言させてもらう。『The Sunset Violent』は、Mount Kimbieにとって新たな可能性であることは間違いない。

そして今作がbar italiaやThe Last Dinner Partyといった若手バンドが活躍するロンドンのインディーシーンにもリンクしていくことで、再度インディー・ロックが復権していくのではないかという希望的観測も抱かずにいられない。

今回のインタビューではそんな期待をぶつけたわけではないが、新体制となったMount Kimbie自身のことや『The Sunset Violent』がどのように制作されていったのかなど、ドミニク・メーカーとカイ・カンポスの2人が細部に渡って回答してくれた。

アルバムを聴いて、インタビューを読むことで、新たな可能性を見出したくなる私の気持ちがわかるはずだ。

Mount Kimbie インタビュー


アーティスト:ドミニク・メーカー、カイ・カンポス インタビュアー:滝田 優樹 通訳:近藤麻美

アンドレアとマークの加入について

-まずはアルバムのリリースおめでとうございます! これまでの作品とはまた新機軸の内容でとても興奮しました! アルバムについてお聞きする前に今回4名体制になってはじめてのアルバムでBELONGでもはじめてのインタビューということもあるのでMount Kimbie自体のことにお聞きします。もともと、ドム・メイカーとカイ・カンポスの2人だったところにアンドレア・バレンシー・バーンとマーク・ペルが加わりました。Mount Kimbieが結成されて約15年がたったこのタイミングになぜ2人が加わったのでしょうか。理由や経緯を教えてください。
ドミニク・メーカー(以下D):基本的に二人を加える必要があったんだ・・・。いや、必要があったからというよりは、そうしたかったんだ。ライブ演奏をもっと幅広く展開させるためにどうすれば良いかを常に考えていた。そこでマーク(マーク・ペル)がドラムとして加入して、ほぼ同じ時期に?(とカイに訊く)、アンドレア(アンドレア・バレンシー・バーン)も参加することとなった。ちょうど、前作の『Love What Survives』をどうやってライブで再現するのかという問題を解決しようとしていた時だった。彼らは瞬く間に、ライブ演奏できるように、既存の曲の新しいセクションを考え始めたんだ。彼らのやり方はとても素晴らしくて、僕らはチームとしてアルバム・トラックを違う方法でプレイできるように組み立てたんだんだ。彼らはこのアルバムで本当に重要な役割を担っていて、それ自体は僕らにとってはとても自然なことのように感じている。だから彼らがバンドに参加したことに関しては、そんなに大袈裟なことではなくて、彼らはもう5、6年?いやもっと長く僕らの小さなエコシステム(生態系)の一部だったんだよ。彼らが正式に加入したことによって、僕らがやろうとしていることに、より多くのスキルを加えることができたと言える。

-アルバムをライブで再現するにあたり、ステージにプレーヤーが必要になった。そこで長年知っている二人を加えることは、とてもオーガニックに発生したということなのですね。
D:そうだね。そう、その通り。

音楽性の変化について

-アルバムを聴いてみるとアンドレア・バレンシー・バーンとマーク・ペルが加わったことで、Mount Kimbieはインディー・エレクトロニック要素よりも、よりインディー・ロックの要素が強くなった印象を受けました。新たにロックバンドとしてのスタートをはじめたというような・・・。特にドム・メイカーとカイ・カンポスから見て、4名体制になったことでの変化や影響ということでいうとどのような印象を持っていますか?
カイ・カンポス(以下K):僕らはずっと長い間同じ方法で音楽をやってきたんだけど、少しずつ変わっていったんだ。以前は、二人でスタジオに入って、ドムがそこですべての曲を構想し、演奏しながらそれを膨らませていった。でもそれがゆっくりと逆の方向に進むように仕事をするようになった。というのも、このアルバムは非常にスタジオ・アルバム的ではあるけれど、ライヴ・パフォーマンスは、僕たちがレコードに収めたいと思うものにより近づいていて。そういう意味では、僕たちのライブでの経験が間違いなくアルバムに反映されていると思う。あと、現実的なレベルでは、僕ら4人のケミストリーによって前進しているようなところがあって、お互いがお互いの良さを引き出しているという、とても良いコラボレーションになっていると言えるね。

-今までは2人だったのが4人になったわけで、リハーサルにもより時間がかかったのではないですか?会話が増えるという意味で。
K:確かにオーガナイズしないといけないことは増えた(笑)。でも同時により多くの選択肢を持つことができたんだ。
D:しかも彼らは二人ともとてもプロフェッショナルだしね。ステージでどうプレイするかを今いろいろと試しているところなんだけど、二人が参加していることでとてもスムーズなんだ。来週から4週間のリハーサルが始まる。

-その後は、大規模ツアーが始まりますね。
D:そうなんだ。4~5月はツアーに出る。新しい曲もたくさんあるし、どう演奏してどう見せるか考えないといけない。できるだけ多くの人にレコードを聴いてもらうためにベストを尽くすよ。

ロサンゼルス(pexels-rdne-stock-project-8783142)
クレジット:Pexels

ロンドンとカルフォルニアでの制作

-アルバムの制作自体はロンドンとカルフォルニアで行われたと思うのですが、現在Mount Kimbieのメインの活動拠点はロンドンですか?今回の制作プロセスを教えてください。
D:最初僕はロスに8年間住んでいたんだけど、ロンドンに戻ったんだ。だから今はずいぶんとやり易くなったよ。でも、当時は僕がイギリスへ行ったり、カイがアメリカへ来たりしてたから大変だった。カイがLAに来た際に、ロサンゼルスから車で2時間のところにあるジョシュア・ツリーの隣にある、ユッカ・バレーの砂漠に行く機会があったんだ。僕らは小さなバンドだったから、あまり多くの荷物を持ち運びたくなかった。だから基本的なギアだけ持ち込んで。最初の目的はただそこに何があるかをを見ることだけだった。僕らは長い間、一緒に仕事をしていなかったから、そういう意味では、物事がどこに向かうのかを確かめるためのちょっとした実験のようなものだったんだ。でも、僕たちはすぐに、グルーヴに戻ることができた。僕がインストゥルメンタルを作り始めて、二人でスケッチのようなものを書き上げたんだ。その後、僕はLAに滞在し、カイはその断片をロンドンに持ち帰って、彼とマークとアンドレアの3人でスタジオに入った。そうしているうちに、このデモが思ったよりも、もっと重要でエキサイティングだということに気づいたんだ。最初は実験みたいなものだったんだけど、最終的に僕はロンドンに6ヶ月間滞在して、すべての曲作りを終えて、カイと一緒に最終的なミックスまですべてをやり終えた。1年半か2年くらいかかったと思うけど、あの時は渡航制限があったから、作業はかなり分裂していた。それにカイはDJをやっていたし、アンドレアとマークはそれぞれほかにもやっていることがあったから。だから、かなり流動的ではあったね。

-ドムは今ロンドンに住んでいるのですね?
D:うん、2週間前にカリフォルニアから引っ越してきたんだ。

London(クレジット:Pexels)

ロンドンの音楽事情について

-別のロンドンのバンドにインタビューしたときにロックダウン以降、ライヴハウスが減ってしまったということも聞いたのですが、最新のロンドンの音楽事情などを教えてください。
K:ロンドンのミュージック・シーンは、いつも何か面白いことが起こっている。18歳の子供たちが、まったく違うことやワイルドなことをやっていたりする。ロンドンは大都市だから、ミュージック・シーンを正確にピンポイントで特定するのは難しいな。ダンス・ミュージックは、たぶん僕が一番よく知っているシーンだと思うけど、常に新しいものが試されているし、古いものも再試行されている。シーンはとてもヘルシーだと言えるよ。(ライヴハウスが減ってしまったと言うことに関しては)うーん、ロックダウンがどれだけ関係しているかは分からないけど、確かにそうかな。僕は北ロンドンと東ロンドンに11年くらい住んでいるんだけど、10年くらい前にダルストンの近くに住んでいた時は、あの通り全体に小さなヴェニューが今よりもあったかな。恐らく中規模なヴェニューの方が大変なんじゃない?最近では、とても小さなヴェニューがひょっこりできてたりして、それはとてもいいことだと思うよ。

歌詞について

-アルバムの歌詞を見てみると私生活を反映したものも確認できます。
D:うーん、歌詞は見た目よりも直接的ではないと思う。もっとフィクションのような感じかな?そしてもっと、僕が知らない誰かの視点から書かれた、つまり架空の人物のような?でも、イギリス人として、アメリカに住み、この2つの間を常に行き来していたことの経験が反映されているのは確かだよ。この15年間、まったく典型的とは言えない生活をしてきたからね。いろいろなことを経験することは、もちろん自分に影響を与えるしね。歌詞の内容の主なものは、道から外れて怠惰になり、何もかも見逃してしまうというアイデアで遊んでいるようなものだと思う。時間を無駄にして、今を生きずに、すべてを失ってしまうような。それが、僕が確実に格闘していることのひとつであり、歌詞のトーンの多くを形成していると思う。それと、僕は子供のころから短編小説を書くのも好きで、よくクリエイティブ・ライティングをしていたんだ。シリアスすぎず、ちょっとコミカルな魔界のようなもの想像したり、ちょっとしたシーンやシチュエーションを思い浮かべたり、それについて書いてみたり。それがメインのタッチだったんだ。

-今回の新作のバイオに「ロアルド・ダールの短編小説の暗い錯乱が、”カオスでヘルタースケルター”なメーカーの最近の私生活を反映した歌詞に命を吹き込み・・・」という部分があって、「ドムに一体何があったんだ!?」と思ったのですが・・・。
D:ハハ(笑)。それは読んでないな。つまり、僕にとって人生とは、いろんな意味で、とても挑戦的なものなんだよ。そんなに重苦しい話をしているのではないんだけど、人生は誰にとっても挑戦だと思う。僕が歌詞の内容をどう捉えているかということの焦点は、そういうことではないんだ。まったく内向的でも内省的でもない。日常生活でよくやっていることなんだけど、ネガティブな状況をちょっとコミカルな要素に変えてみるんだ。そうすることで、少しばかり内容が緩和される。そして、それはおそらく僕が歌詞の内容でやっていたことだろうと思うけど、決して内省的なものではないんだ。

バンド結成15周年を迎えての心境

-バンド結成15周年を迎えられたこともあるので聞きたいのですが、結成当初と今とでモチベーションの変化はありましたか? 心境を教えてください。
D: どんなキャリアにも浮き沈みはつきものだと思う。僕は長い間今を生きていなかったんだ。自分のやっていることすべてを楽しめていなかった。音楽を作るプロセスを楽しめていなかった。それから、移動することに関しても疲れたとか、様々なことに関して不平不満ばかり言っていた。だから、心配しすぎたり、分析しすぎたり、ストレスをためすぎたりせずに、楽しみながら、今を生きることができるような場所に自分自身を置くことを考えるようにしたんだ。そして今、僕はそこにいると感じている。 正直、今ほど音楽を作っていること、自分たちの曲を演奏しようとしていることに興奮したことはない。つまり、最初に始めたときと似たような感覚なんだ。若かったころは、ラジオで曲が流れたり、記事が出たりすることは、僕らにとっては一大事のようなもので、本当に興奮していたし、すべてのギグが僕らにとっての積み重ねのようなものだった。そのようなエネルギーが戻ってきたのは素晴らしいことだし、本当に幸せなことだと思う。

ポスト・ダブステップについて思うこと

-Mount Kimbieは結成以来、ポスト・ダブステップという新しい潮流を生み出し、そのシーンの第一人者として意欲的に音楽作品を発表して、開拓してきたという印象をもっています。今はポスト・ダブステップの第一人者というよりは、自分たちがやりたいことをやっていきたいという気概が感じられますが、いかがでしょうか。
K:(ポスト・ダブステップという位置づけは)多分、いや全然重要じゃないと言えるね。特定のジャンルやラベル、レッテルをありがたく受け入れるバンドなんて今まで見たことがないし、そもそもジャンルなんて自分たちで決めてやるようなことでもないし。ほとんどミュージシャンは、自分たちがそういう風に活動していることを実感していないと思うんだ。本当に自分自身を表現しようとしているときは、そんなことは考えない。実を言うと、さまざまなジャンルの小さなルールとか、そういうものを楽しんでいるんだ。時にはそれに合わせたり、時にはそれを受け入れなかったり。でも、本当に純粋にジャンルにこだわって仕事をしている人なんていないと思う。全くいないとは言わないけど多くのミュージシャンはそうだと思うよ。僕らがジャンルにこだわっているわけではないのは確かだ。それに、(ポスト・ダブステップという)レッテルがこんなに長く続いているのはおかしなことだと思う。2010年から2013年まで、僕らが活動していた期間は、ダブステップのオリジナル・シーンが別のものに変わっていくような、小さなものだった。ダブステップ・シーンに参加するにはまだ若すぎたり、ダブステップの終わりにキャリアをスタートさせたばかりのアーティストの小さなグループがいて、僕らはそのグループの中で、基本的に半径5マイル四方に住んでいたんだけど、僕らが今いる場所とはあまり関係ないと思う。

Mount Kimbieのルーツ

Micachu and the Shapes『Jewellery』
Micachu and the Shapes『Jewellery』
-Mount Kimbieの音楽に影響を与えたアルバム3枚を挙げるとしたら、どのアーティストのどのアルバムですか? また、1枚ずつ、どのような部分に影響を受けたかやエピソードについても教えてください。
K:まず最初の一枚は、Micachu and the Shapesの『Jewellery』だね。偶然にも僕らと一緒に仕事をしているDilip Harrisがミキシングを担当しているんだ。本当に素晴らしい曲ばかりだし、とてもオリジナルなサウンドで、今でもすごく好きな作品だ。

アレックス・キャメロン(Alex Cameron)『Jumping the Shark』
アレックス・キャメロン(Alex Cameron)『Jumping the Shark』
K:次は...(ドムに『Jumping the Shark』?と訊いて、ドムが同意する)アレックス・キャメロン(Alex Cameron)の『Jumping the Shark』だね。彼はこのアルバムでソロ・キャリアをスタートさせたんだ。かなり大胆な決断だったけど、思いがけないサウンドを作り出して、ポスト・パンクのようなSuicideのような、僕らが探求してきた影響にも似ているんだ。(ドムが「ソングライティングも」と言う)そう、ソングライティングもすごくエキサイティングなんだ。最後は・・・。

Stereolab『Dots and Loops』
Stereolab『Dots and Loops』
D:やはりStereolabの『Dots and Loops』だろうね。アンディ(・ラムゼイ)とは親しい関係なんだ。彼はドラマーなんだけど、彼のスタジオでよくレコーディングしたんだ。そう、僕らは二人ともあのバンドのサウンドが大好きなんだ。僕はLAで彼らを観に行ったんだけど、ライブは完璧で、最高のショーを見せてくれた。彼らが使う革新的なエレクトロニクスのようなものや、ミキシングに使うサウンド、ライブのグルーヴなんかは素晴らしいよ。抽象的で不完全なヴォーカル、そして面白いメロディとか、シンプルに、紛れもなくハイクオリティーな作品だね。

The Sunset Violentについて

The Sunset Violentの展望について

-ここからは最新作『The Sunset Violent』について教えてください。アルバムを聴かせてもらいましたが、率直な感想としては、改めてロンドンのインディー・ロックと向き合った作品だと感じました。アルバムを制作するうえで、今回はどのようなディレクションやアイデア、ヴィジョンを持って進められたのでしょうか。
K:僕たちは最初にいくつかの小さな決断をするようなやり方で仕事をしていると思う。それは僕の場合、大抵機材に関することなんだ。どの機材が特定のサウンドを呼び起こすことができるかを考えたり、正直普段はかなりテクニカルなことをやっていて。特定のサウンドを試して音楽を作ってみたいとかいう感覚なんだけど、他の音楽を聴いて、そういう方向でやってみたら面白いんじゃないかと思ったりする。だから今回のアルバムでは、ギターをメイン楽器にした曲をたくさん書きたいし、これまであまり関わってこなかった楽器がそう作用するかも見てみたい、という単純なものだったから、作業はとても新鮮だった。僕はいつもギターを手にしていたんだけど、ギターを使った音楽にはあまり集中していなかったから、ギターの弾き方を勉強することになったんだ。そこには、非常にエキサイティングな展望があって、それは、どうプレイすればいいのかわからなくなったとき、それがうまくできるようになる期間があるんだけど、その期間に良い仕事ができることがよく起こるんだ。そういう面もあったし、もっと面白いのは、かなり早い段階から、シンプルと言うと、効果的だと思えるようなものを作りたいと考えていたんだ。できるだけ短い時間で、できるだけ無駄を抑えて、できるだけ効果的なものをね。だから、ダイレクトなものにしたかった。その結果、よりキャッチーで、ポップミュージックの影響を受けたものになったんだけど、それは、僕らにとっては、他のスタジオ・ベースやスタジオありきなレコードを作るよりも、もっと冒険的なことだったんだ。それで、僕らは、ドムが持ってきたものをちょっとずつ組み合わせていったんだ。彼自身の直感や、ここ数年の間に起こった影響をね。状況としては、ただ試してみてどうなるかみてみる。そして、うまくいけばアイディアが浮かんでくるかもしれない。というのも、本当に良いものではないにしても、非常に興味をそそるもの、小さな摩擦のようなものがどこかにあるかもしれないから。僕らが考えつかなかったことや、うまく説明できないことがそこにあっても、面白い仕事ってたいていそういうところから発生するから。だから少し遠回りをして、もっと親しみやすい曲のレコードを作りたかった。キャッチーさを楽しんでもらいたかったし、曲作りの技術も磨きたいと思ったんだ。

ユッカ・バレーでの制作

クレジット:Pexels
-レコーディングはロンドンでの仕上げ作業の前まで、カリフォルニアのユッカ・バレーという西部の田舎町で行われたそうですね。こちらの理由と、ユッカ・バレーはどのような街なのか、あなたたちから教えてほしいです。
D:妻のおばあさんがユッカ・バレーの近くに住んでいて、何度か行ったことがあったんだ。おばあさんはパーム・デザート・エリアに住んでいるんだけど、そこは、お金持ちのお年寄りたちが住んでいて、ゴルフコースがあるんだ。っていうか、場所自体がゴルフコースのようなところなんだけど。ユッカ・バレーはそれとはまったく正反対で、かなり標高が高くて、まるで月の表面のようなところなんだ。(近くの)ジョシュア・ツリーには皆が知っている多くの伝説や過去の物語がある。ユッカはそのジョシュア・ツリーの従兄弟のような存在だと言えるかな。だから、とても興味深い場所なんだけど、まるで人がほとんどいないような、奇妙な空き地のような感じもする。でも実際は、この砂漠に住む人たちはとても健康的な生活を送っている。僕たちが行ったのは夏だったから、雲ひとつない、美しい大空があった。星空は素晴らしかったけど、明らかに暑さはとても攻撃的で、一日の大半はみんな家の中に閉じこもっていた。僕たちは、そこに6週間ほど小さな場所を借りて、小さなスタジオを2つセットアップしたんだ。音楽を作るには本当に奇妙な場所だった。気が散ることがないから、実は完璧な場所だったと言える。集中するためのスペースが必要だったんだ。

アンドレアのヴォーカル

-今回からアンドレアの担当する女性ヴォーカルという新しい要素も加わり、無骨なサウンドに色彩が感じられ、インディー・ポップ的なアプローチも効いているようにも感じました。ヴォーカルを中心に、サウンド面なども変化させていったということはありますか。
D:最も重要なことのひとつは、ヴォーカルがとても前面に出ていて、リヴァーブなどのような加工があまりかかっていない、つまり、ヴォーカルにトリックがあまり使われていないことなんだ。とてもクリーンなんだよ。実はギターも同じなんだけど、すべてのサウンドが、以前よりも自信に満ちていると思う。すべてに確信が感じられると思うよ。サウンドは、”シンプル”という言葉を使い続けているけど、シンプルというのとはまた違うんだ。(カイが「洗練」と言う)そう、もっと洗練されている。音がより凝縮されているんだ。それは、時間と経験、そして僕らが今いる場所、僕らが今いる空間を感じることから得られるもので、正しい選択だったと思う。アンドレアはクラシック音楽の訓練を受けているから、ヴォーカル・ピッチが完璧なんだ。そのアンドレアのヴォーカルが、未熟で荒削りな僕の声と混ざり合う。この2つのバランスのようなものを見出したんだ。僕らの音楽制作のやり方は、ほとんどすべてそうなんだけど、残すべきものを見つけるまで練習を続けることが重要で、それはこのレコード全体にも表れていると思う。

-今回の作品のクレジットを見ると、アンドレアはいくつかの楽曲のソングライティングにもクレジットがあります。彼女のソングライティングにおける役割はどういったものだったのでしょう?
K:カリフォルニアでは、できるだけ多くの新しいアイデアをスタートさせようとしていたんだけど、そこですべてを完成させようとは思っていなかった。だから、ロンドンに戻ってきたときは、たくさんのアイデアがあったんだ。その多くは、ドムが最初にメロディーなどを録音したようなものだったんだけど、それらは完成からは程遠いものだった。そこで僕らはこれらの曲を完成させるためにワークショップを始めた。その1曲にアンドレアがバッキング・ヴォーカルとして参加してくれたんだけど、ドムが言ったように、これに取り組んでいるうちに、この最強トリオの組み合わせは、この音楽にとても合う雰囲気を持っているように思えたんだ。アンドレアの声は徐々に、そしてあっという間にこのレコードにおいて重要な楽器のひとつになった。それで、まだアイデアの半分も完成していない段階で、僕ら3人、僕、ドム、アンドレアが一緒に、メロディがどう機能するかを突き詰めていくのが一番いい方法だと分かったんだ。彼女は本当に重要な存在で、僕らにたくさんのアイデアを与えてくれたし、明らかに彼女のヴォーカルの能力が、僕らが思いつかないようなことを可能にした。つまり彼女は技術的にとても幅広いものを持っているんだ。
D:アンドレアと一緒に作業して、本当に素晴らしいなと思った要素のひとつは、このレコードの中には、彼女が“ハー”とか“フー”とか言葉を含まない歌を奏でている。それは本当に美しいハーモニーベッドのようなもので、今回これをたくさん使ったんだ。これは自分たちでは決してできないことだった。彼女はそのようなアイデアを閃き、ハーモニーを作るためにさまざまなレイヤーを追加してくれた。
K:アンドレアが参加した時点で、曲がどこに向かっているのかわからないような状況にはならなかった。僕らを前進させてくれるんだ。だから彼女はとても重要だった。

リン・ドラムのサウンド

-今作は80年代のポストパンクやニューウェイヴ的なドラムが印象的でした。特に「Fishbrain」と「Empty and Silent (Feat. King Krule)」はその要素が際立っていました。資料によると”より直線的なサウンドを求めて1980年代のドラム・マシンのみを使用した”とありましたが、80年代のドラム・マシンのみを使用するに至った経緯と理由を教えてください。
K:実は最初は曲作りに集中するためだったんだ。リン・ドラムといって、80年代にプリンスやアーサー・ラッセルのようなアーティストがよく使っていた、とても有名なドラムマシンなんだけど、僕はそのサウンドをとても気に入っているんだ。本物のドラムキットのようなサウンドになるように設計されているんだけど、ある種の人工的なクオリティがあって、それがとてもいいんだ。しかも、リン・ドラムの良いところは、セッティングを変えることはできないけど、本当に少しのディテクトは変えることはできるから、変わった音を出すんだ。だから、いったんパターンをプログラムしてしまえば、それをいろいろ変えようとして迷うことはあまりない。だから、あとは実際に曲を書くだけなんだ。砂漠にいたときは、本当に曲作りに集中したかったから。実は当初、このアルバムのかなりの部分を本物のドラム・キットでレコーディングするつもりだったんだけど、僕らが作ったレコーディングやリン・ドラムの使い方に、失いたくないエネルギーがあることに気づいたんだ。それで結局、それらのレコーディングを何度も戻っては、そこに更なるレコーディングを重ねることになったんだ。ギターやある種のキーボード、そしてリン・ドラムのようなサウンドとのコントラストがすべてだった。僕にとっては、それらが一緒になるとどう感じられるか、そしてそれがテクスチャー的にどう作用するかを確認したり、バランスをとったりすることが常に重要なんだ。本当にうまくいったコンビネーションだった。

King Kruleからの影響

-今作でも2曲でKing Kruleが参加していますね。彼との付き合いは長く、深い関係です。もはや5人目のメンバーといっても過言ではありません。あなたたちから見てKing Kruleはどのような存在で、どのような印象をお持ちですか? リスナーから見てもあなたたちとKing Kruleは良い関係を築いているように思います。
K:King Krule、実の名はアーチー・マーシャルなんだけど、彼は世界中で愛されているアーティストで、大成功を収めている。 僕たちのキャリアは、彼とほぼ同時期か少し早いくらいにスタートしたんだ。僕たちがセカンド・アルバムに取り組んでいた時、アーチーの初期の曲を聴いたんだ。彼は僕らがレコーディングしていた場所のすぐ近くに住んでいて、僕らがやっていたセッションに何度か来てくれた。僕らは彼と一緒に音楽を作りたいと常に思っていたところ、2013年のセカンド・アルバムに参加してくれたんだけど、その時の経験は僕らにとっても彼にとっても素晴らしいものだった。それ以来、僕たちはいつもお互いの周辺にいるようになり、セカンド、サード、そして今作と、僕たちが作ったすべてのレコードに彼が参加してくれている。彼は、5人目のメンバーのようなもので、彼自身とても才能のあるアーティストだ。僕らはいつも彼がやっていることに興味があるし、同じように僕らが作業しているときはいつもスタジオに来てくれるんだ。

Mount Kimbie – Empty And Silent (feat. King Krule)

カリフォルニアの寿司レストラン

-「Fishbrain」のMVでは実在する寿司レストランの”Aki Sushi”が登場していますね。日本の寿司を出すレストランで親近感を感じました。MVの内容自体はかなりSF的で不穏な雰囲気になっていましたが、こちらをモチーフにしようとした理由は何ですか? 
D:この砂漠がいかに変わっているかを示すに十分に奇妙なものの一つがこのレストランだった。事実、ユッカ・バレーに、とてもおいしい新鮮な寿司があるのは本当に奇妙なんだ(笑)。なぜかわからないけど、”Aki Sushi”は、少なくともLAでは寿司がとてもおいしい場所として知られていて、しかも僕らが滞在していた場所の比較的近くにあった。砂漠のアパートで4週間も自分たちだけで過ごしていたから、この時点で僕たちは少しおかしくなりかけていたんだけど、レストランに行って、他の人たちと一緒に過ごすのはいいことだった。食事も本当に美味しかった。
K:僕は寿司には何か温かいものを感じていて、大好きなんだ。世界中のほとんどのレストランよりも、そのレストランが好きだった。

-生魚大丈夫なんですね。
K:全然大丈夫だよ!寿司は 僕のフェイヴァリット・フードだ。
D:不思議なのは、最近また行ったんだけど、とても美味しかったんだけど、(カイが「僕もまた行きたい」と言う)僕らの経験では「めちゃくちゃ美味い!」みたいな感じがあったけど、そこまでなかったというか。うん、でもまあ大丈夫だった。
K:だったら次はホットドッグかな(笑)。
D:僕らにとっては、とても濃い時間だったから、新しいことは何でも素晴らしく、驚くべきことだったんだ。でも、”Aki Sushi”が「Fishbrain」のビデオに登場したのは、砂漠で過ごした時間が僕らの心に響いたからなんだ。レコードのことを考えたり、プレイしたり、聴いたりするときはいつも、”Aki Sushi”も当時は大きなパートだったんだ。監督のTegan (Williams)は、バンドが最初に出会う場所として、砂漠を使ったらクールだと思ったみたいなんだ。

Mount Kimbie – Fishbrain

The Sunset Violentの意味

-『The Sunset Violent』というタイトルを付けた理由と今作はあなたたちにとってどのような作品だったと位置付けることができるか教えてください。
D:アルバム・タイトルは歌詞に由来していて、カイが僕が書いたたくさんの歌詞の中から、名前の候補になりそうなフレーズやセリフをいくつか選んでくれたんだ。「The Sunset Violent」はその中でいつも際立っていて、インタビューでその話をすればするほど、考えれば考えるほど、パーフェクトに合っていると感じたんだ。この言葉には、二重の意味があるから、この作品にはぴったりの名前だと思う。少し変に聞こえるかもしれないけど、夕日(サンセット)はピースフルであるべきなのに、しかも暴力的(バイオレント)なんだ。つまり同時に、ある種の並置的なものにつながっているんだ。ドムの声とアンドレアの声。夕焼けと暴力。乾いたギターと何か・・・みたいな。カリフォルニアの砂漠で、2人のイギリス人の男が何かやっている、そういう状況に理にかなっていると思ったんだ。本当に素晴らしいタイトルだと感じたよ。このアルバムは、僕らにとってとてもヴィジュアル的で、あの砂漠を、僕らがいた風景を忘れることはできない。

-そういう意味では、“美しい夕日の中に道を外れた車”という、アルバムのアートワークもタイトルを参照にしているように感じました。
D:タイトルが最初にあって、アートワークは素晴らしいフォトグラファーであるT-bone Fletcher が合いそうなイメージをいくつか提示してくれた。その中でこれが一番印象的だったんだ。文字通りのサンセットを使うのは退屈だと思っていたからそのままのイメージにはしたくなかった。この写真の素晴らしいところは、ちょっとシュールで、瞬きすると見逃してしまうような種類の作品だということ。というのも、裏面は同じイメージなのに車が無くなっているんだ。フレームには誰も映っていないし、なぜこのようなことが起こったのかの説明もない。“(道を外れた車は)正しい道から外れる”という歌詞の内容にも少し関わってくるし、このアルバムは、僕らにとって、アメリカという国には概してとても魅力的な何かがあるという意味も含んでいるんだ。あと、小さな田舎町の裏道には、いつもちょっとした滑稽さがあって、僕たちがいたところのコラージュとして本当に良く合っていたんだ。

Mount Kimbieからのメッセージ

-最後に日本のリスナーにメッセージを頂けますか?
D:日本に行くのが待ちきれないよ。日本は僕ら2人とも大好きなところで、バンド以外にも何度も訪れている場所なんだ。僕らの音楽があんなに遠くまで届くなんて、信じられないよ。僕らの音楽を聴いてくれて、そして楽しんでくれて、ありがとう。
K:ドムが言うように、日本は僕らのお気に入りの場所で、世界で一番好きな場所のひとつだから、行けることにとても感謝している。国内やインタナショナルプロモーターに僕たちがはやく日本で演奏できるようにお願いして。でも、年内には絶対に行くよ。僕たちの音楽を聴いてくれて本当にありがとう。

-以前の来日で、メイド・カフェやネコ・カフェなどを訪問したようですが、次回日本で行ってみたいところなどありますか?
D:日本には、マネージャーのヒロキを通して親しくなった東京ベースの友人がたくさんいるんだけど、彼らがいろいろなところに案内してくれて、素晴らしいレストランに連れて行ってくれるから、日本への旅はいつも驚きに満ちている。あと、名前は思い出せないんだけど。島の全周を歩くことができる巡礼の旅があって、僕と妻はそれをやってみたいと思っているんだ。どの島かわからないけど、本土の下半分に位置している場所だと思う。3ヶ月くらいかけて、海岸線全周を歩くんだけど、とても美しいと聞いたから、それをやってみたいなあ。

Mount Kimbieアルバムリリース

4thアルバム『The Sunset Violent』


発売日: 2024年4月5日
収録曲:
1. The Trail
2. Dumb Guitar
3. Shipwreck
4. Boxing (Feat. King Krule)
5. Got Me
6. A Figure In The Surf
7. Fishbrain
8. Yukka Tree
9. Empty and Silent (Feat. King Krule)
※国内盤のみ上記以外にボーナストラック追加予定
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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