最終更新: 2024年10月17日

オリヴァー・コーツ(Oliver Coates)は、クラシック音楽の枠を超え、電子音楽やアンビエント、実験的な音楽まで幅広く手掛けるアーティストだ。

彼はロンドン生まれであり、幼少期から音楽に囲まれた生活を送り、チェリストとしてそのキャリアをスタートさせた。

王立音楽アカデミーとロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ出身といった経歴もある彼は、Radioheadのアルバム『A Moon Shaped Pool』への参加や同バンドのメンバーであるジョニー・グリーンウッドが手がけたサントラへの参加、そして数々の映画スコア作成の仕事でも知られている。

映画音楽の制作を手掛ける一方、自身の音楽作品では自由で深みのある音楽を追求し、今回最新作『Throb, shiver, arrow of time』をリリースした。

過去6年間の個人的な共鳴と記憶を音楽で表現する本作は、静けさの中に強い感情の波を起こしながら、リスナーの心に深く浸透していく。

クラシックの名門で教養を身につけ、The CureやManic Street Preachersなどのオルタナティブロックからも影響を受け、独自の音楽を展開し続けるオリヴァー・コーツとは一体どのようなアーティストなのか?

それを探るべく本人にメールインタビューを行った。

Oliver Coates インタビュー

Oliver-Coates
アーティスト:オリヴァー・コーツ インタビュアー:滝田 優樹 翻訳:BELONG編集部

-私たちはアーティストのルーツや音楽が生まれた背景、そして影響を受けた音楽・文化・芸術を大切にしているメディアです。今回私たちとは初めてのインタビューなので、まずはあなた自身のことから教えてください。ロンドンの出身かと思いますが、今も拠点はロンドンですか? もしそうであれば、幼少期から現在までのロンドンでの暮らしぶりや、そこでどのようなものに触れて影響を受けたのか教えてください。
オリヴァー・コーツ:はい、私はロンドン出身ですが、今はスコットランドのグラスゴーに住んでいます。グラスゴーは音楽制作に集中できる静かな環境があり、とても素晴らしい街です。幼少期はロンドンでパフォーマンスを始め、初めてのライブもそこで経験しました。ミュージシャンとしての興奮や活気に満ちた街でした。長年、ロンドン中を駆け回りながらチェリストやセッションミュージシャンとして多くのコンサートに出演し、音楽やアートに支えられた忙しい生活を送っていました。

-王立音楽アカデミーとロンドン・コンテンポラリー・オーケストラに所属していたようですが、それらに所属しようと思った経緯とそこでの活動について興味があるので教えてください。また、それらの活動が現在の音楽家としての活動にどのように影響しているか教えてください。
王立音楽院は私の音楽訓練の一環で、初期のキャリアでは多くのオーケストラやグループで演奏しました。しかし、現在、私が所属しているレーベルRVNG Intl.での作品は、独学で学んだ電子音楽の影響を強く受けています。そのため、エレクトロニクスやアンビエント、実験的な制作手法は、これらの経験とはまた別のものだと感じています。

20歳から23歳の間に、日本でクラシック音楽のソリストとして3度ツアーを行い、和歌山、福岡、京都、東京など、多くの都市で演奏しました。日本の多様性と広がりに感銘を受け、若いツアーチェリストとして成長しました。クラシックの曲だけでなく、人気テレビ番組のテーマ曲も演奏し、日本での公演やレストラン、YMCAでのパフォーマンス、交響楽団のホールでのコンサートを通して多くのことを学びました。

Oliver Coatesのルーツ

The Cure_Disintegration_
-続いて、あなたの音楽に影響を与えたアルバム3枚を挙げるとすれば、どれですか。また1枚ずつ、どのような部分に影響を受けたかやエピソードがあれば教えてください。
難しいですね、でも涙や感情、強い思い出が湧き上がります。

1. The Cure の『Disintegration』。誰かが作ってくれたカセットテープで、長いドライブ中に聴きました。
2. The Blue Nile の『Hats』。これもまた、誰かが作ってくれたカセットです。
3. Manic Street Preachers の『The Holy Bible』。これもカセットでした。感情の強さに惹かれました。

また、子どもの頃はショスタコーヴィチ(ドミートリイ・ショスタコーヴィチ)の作品をよく聴いていました。彼の音楽はすべて知っていたと思います。特に第2ピアノ三重奏曲(「ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 作品67」)と第11交響曲(「交響曲第11番 ト短調『1905年』作品103」)が印象的でした。

他にも、エリアーヌ・ラディーグやBurial、トーマス・ニューマンが好きです。テツ・イノウエのグリッチ・アンビエント電子音楽も大好きです。

-自身の音楽制作以外にRadioheadやローレル・ヘイロー等の作品への参加、ジョニー・グリーンウッドが手がけたサントラへの参加、Mica Leviとのコラボ作、映画スコア制作など、活動が多岐にわたります。特に自身の音楽制作と映画スコア制作について詳しくお聞きしたく、それぞれを制作するうえでの共通点や違いがあれば教えてください。というのも、あなたのアルバム作品を聴くとどれも私自身の心象風景を呼び起こすものばかりで、そういう意味では映像と音楽は切っても切り離せないように感じて、映画スコア制作と共通点も多いのではないかと思ったからです。
映画の音楽制作は、監督と二人三脚で協力し、音楽がどのようにして物語や映像に寄り添い、情報を与えていくのかを共に発見していく作業です。監督は、私の音楽的アイデアと映画の劇的な要素を結びつける役割を担っており、私が提供する音楽素材について一緒に話し合い、分析しながら映画に合わせてテストを行い、何が合うのかを見極めます。その過程には多くの心理的な要素や共感が関与しており、監督の言葉やボディーランゲージから小さな手がかりを読み取ろうとします。プロジェクトに対する自分の感情的な反応を活かしつつ、監督の感受性や映画に合う音楽を理解していきます。

一方、RVNG Intl.のためにソロアルバムを制作する際は、最終的に音の形や強度、密度など、すべての“イメージ”を自分で決定する自由があります。しかし、それでも他のアーティストや友人、さまざまな芸術形式との対話が私の音楽に影響を与えており、協力的な側面は残っています。

-Radioheadやローレル・ヘイロー等の作品への参加やジョニー・グリーンウッドが手がけたサントラへの参加で影響を受けたものやエピソードがあれば教えてください。
ジョニーから学んだことは、録音のシンプルさ、どこにでもマイクを設置できること、そして正式な手法や“正しい”やり方にとらわれないことです。

Radiohead (レディオヘッド)
【関連記事 | “Radiohead、2021年4月から超貴重なライブ映像を続々公開!”】

radiohead(レディオヘッド)
【関連記事 | “【和訳】Radiohead「I Might Be Wrong」からこぼれる、トム・ヨークらしさ溢れる歌詞とは?”】

Throb, shiver, arrow of time

Oliver Coates-Throb, shiver, arrow of time

-ここからは最新作『Throb, shiver, arrow of time』についてお聞きします。まずはタイトル”Throb, shiver, arrow of time”について。このタイトルを冠した理由は何ですか?
論理的な理由は特にないと思います。むしろ感情的なものです。これらの言葉はアルバム自体を象徴している気がします。音楽を作る動機や、ここ数年で私や家族に起こった出来事に関係しています。また、この感情を『Aftersun』や『skins n slime』での作品を引き継ぎたいという思いも込められています。

-アルバムの資料によると『Throb, shiver, arrow of time』は”過去6年間に集められた個人的な共鳴と記憶のカプセルを提供している”と説明されていました。これについて詳しく聞きたくて、これらはどういった記憶に基づくものなのか教えてもらえますか。
それが記憶のカプセルかどうかは定かではありません。音楽は何かの容器のようなものであり、私たちが完全に制御できるものではないからです。私が目指しているのは、自分の感情を変容させるような作品を作ることです。『Aftersun』の制作を通じて、記憶のもろさや、音楽がどのようにして記憶に寄りそうかをよく考えるようになりました。

-また、今作は2020年にリリースした前作『skins n slime』でおなじみのメタリックな構造と粘性のある弦の変調をなぞったようですが、ディスカッションやアイデアの交換を持って、制作は進められたのでしょうか。前作との共通点や相違点があればそちらも教えてください。
このアルバムはサラ・シーの芸術作品と何か関係があると思います。私はサラ・シーやピエール・ユイグのようなビジュアルアーティストに、他の音楽よりも多くのインスピレーションを受けています。印刷し、崩壊させ、そして生の反応をレイヤーに再び取り込むことを考えています。音楽の中の時間のずれは、聴くという行為を反映しています。素材の中で焦点が移動し、レイヤー間の視点を操作しています。

私はいつも、周波数のきらめきでもある痛みに立ち返ります。それは、癒すのと同じくらい傷つける滑らかな動きなのです。

-今作のトーンとしては一貫して静けさを感じるものになっていて、その分感情の機微が際立ち、小さな暴力性やきらめきが時間をかけて聴き手の脳を浸食していくような印象を受けました。一言で表現すると余韻を楽しむ音楽だと感じましたが、今作のコンセプトやイメージはどのようなものだったのでしょうか。
私は、この音楽が不安定で、川底に潜むような感覚を持ってほしいと思います。泥や砂利が混ざり合い、新しい方法で音楽の色彩とともに頭の中に入り込んでくるような感覚です。これによって、私たちをあらゆるものの平坦さから解放したいのです。

つまり、この音楽は天候のように作用し、聴く人を風化させるのです。あるいは、物の側面をなめる炎のようでもあります。

-7曲目の「Shopping centre curfew(ショッピング・センターの夜間外出禁止令)」で、5年前にパンデミックによるロックダウン中にサウス・ロンドンで起こった2つの現実世界の出来事が夢の中で融合したときに生まれたそうですね。その夢について詳しく説明することはできますか?
夢だったのか、単なる混乱だったのか、私にはよくわかりません。しかし、ある記憶の感情を別の記憶の想起に重ね合わせることができると気づきました。全く関係のない二つの出来事がありました。一つはエレファント・アンド・キャッスルのショッピングセンターの取り壊し、もう一つは警察官による女性殺害事件後の、すべての男性に対する外出禁止令の提案です。これら二つが一緒になって「Shopping Centre Curfew」という曲を生み出しました。この曲は、本来は関係のないはずのそれらの感情をなぜかひとつにまとめています。

-今作『Throb, shiver, arrow of time』におけるブレイクスルーもしくは最も変化や進化を感じさせる楽曲はどれですか?
他のアーティスト、Malibu、フェイテン・カナアン、Chrysanthemum Bearといった他のアーティストたちとの会話を通じて、私は固定された存在や安定したオブジェクトではないことがわかります。むしろ、私が出会った人々、話をした人々、一緒に仕事をした人々からの影響の集合体のようなものだと言えるでしょう。

-『Throb, shiver, arrow of time』をどのような人、もしくはどのようなシチュエーションで聴いて欲しいですか?
音楽そのものが一連の楽器や道具となり、曲はそれ自体が機械や郵便物のようになります。時々、この音楽をインスタレーション作品の中のオブジェクトのように考えることがあります。聴く人がその周りを歩き回れるようなイメージです。私は、人々にこの音楽の痛みや感情の強さを体験してほしいと思っていますが、聴き方に関して特に好ましいやり方はありません。この音楽は、揺らぐ世界からの伝達のようなものだと感じています。

-最後に日本のリスナーにメッセージをいただけますか?
日本の方々が私の音楽を聴いてくださることを、心から光栄に思います。20年前、私は日本で演奏していましたが、その時はまったく異なる種類の音楽を演奏していました。そのため、現在、自分のレーベルであるRVNG Intl.を通じて日本とつながりを感じ、リスナーの皆さんに届けられることをとても幸運に思います。

音楽を通じて伝わるさまざまな感情に対する好奇心以外に、特別な障壁や技術、育むべきものは何もありません。

Oliver Coatesアルバムリリース

5thアルバム『Throb, shiver, arrow of time』

Oliver Coates-Throb, shiver, arrow of time
発売日: 2024年10月18日
収録曲:
01. Ultra valid
02. Radiocello
03. Please be normal
04. Apparition (feat. Malibu)
05. Address
06. Backprint radiation (feat. Faten Kanaan)
07. Shopping centre curfew
08. 90
09. Living branches (feat. chrysanthemum bear)
10. Make it happen
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
Amazonで見る

Oliver Coatesプロフィール

Oliver-Coates
オリバー・コーツは1982年ロンドン生まれのチェリスト、作曲家、音楽プロデューサー、電子音楽家である。6歳でチェロを始め、ロンドンの王立音楽アカデミーで学び、史上最高得点で卒業した。

2009年にはワープ・レコーズのコンピレーションに参加。ポール・トーマス・アンダーソン監督作品の音楽でジョニー・グリーンウッドと協力し、ミカ・レヴィとも複数の作品で共作している。

2016年にはRadioheadのアルバム『A Moon Shaped Pool』に参加し、同年ソロアルバム『Upstepping』をリリース。2018年には3作目のソロアルバム『Shelley’s On Zenn-la』を発表した。

映画音楽の分野でも活躍し、「Agatha and the Curse of Ishtar」「The Stranger」「Aftersun」などの作曲を手がけている。スティーブ・マックイーン監督のドキュメンタリー『Occupied City』にも参加した。

現在はロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの主席チェリストを務め、スコットランドを拠点に活動しており、モダン・クラシカルとエレクトロニックを融合させた独自のサウンドで、トム・ヨークをはじめとする多くのアーティストから高い評価を受けている。

【New songs playlist | 新曲プレイリスト】
We update our playlist with new songs every week.

We are always happy to accept songs that you would like to add to the playlist, so please send us your information using the contact form: ✉️

BELONGでは毎週新曲プレイリストと更新しています。

プレイリストに追加希望の曲も随時受付ですので、問い合わせフォームから情報をお送りください✉️

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

今まで執筆した記事はこちら
他メディアで執筆した記事はこちら
Twitter:@takita_funky