最終更新: 2025年3月8日

第3回:編集工学が導くオリジナリティ—松岡正剛の思想

先日、NHKの番組『世界サブカルチャー史』を見ていると、とても興味深いことを言っているおじいさんがいた。

彼は、2024年に放送された“ジャポニズム編”で、“日本文化が世界に与えた影響は“編集の技法”そのもの”と言う。

世界サブカルチャー史
クレジット:NHK

浮世絵が印象派画家の構図を一新した事実から、昔からの日本文化の積み重ねが現代のアニメという視覚体験を再構築する過程まで、文化の広がりは常に“情報を新しく組み替えること”であると・・・。

彼の名前は“編集工学”を提唱した松岡正剛という人物で、惜しくも2024年に逝去した。

松岡の思想から紐解くと、ミュージシャンにとって“編集”とは、単なる録音後の作業ではなく、創造性の核心に関わる行為であるということだ。

既存の要素を分解し、再構築することで、独自の音楽を作ることができる。

単に演奏技術を磨くだけでなく、音の組み合わせ方や配置を工夫することで、オリジナリティが宿るのだ。

前回のコラムでは、ボブ・ディランが自分らしさを確立していった過程を例に“模倣から創造へ”のプロセスを解説した。

今回は、“編集工学”という独自の思想を展開した松岡正剛の視点から、オリジナリティの本質について考えていく。

また、記事中盤以降の有料部分では、松岡の“編集工学”という発想をもとに、Radioheadの編集術を紐解き、彼らのオリジナリティの真相を明らかにしていく。

記事の最後には、ミュージシャンが自身の音楽を編集する際に、役立つチェックリストを設けているので、今後の楽曲制作に役立ててほしい。

テキスト:Tomohiro Yabe 使用ツール:Claude、genspark 編集:Tomohiro Yabe

松岡正剛と編集工学について

松岡正剛(遊刊エディストより)

松岡正剛(1944年-2024年)は“編集工学”という概念を提唱した日本の編集者・評論家・文明研究家である。

彼は雑誌『遊』の編集長を務め、のちに編集工学研究所を設立し、“千夜千冊”というウェブサイトでは独自の視点で1000冊以上の書籍を紹介した。

“編集”と言われると、編集者がやっている記事を執筆するような行為が頭に思い浮かぶと思うのだが、実はそうではなく、皆さんも間違いなくやっていることだ。

松岡は編集という行為について下記のように語っている。

“編集は人間の活動にひそむもっとも基本的な情報活動だ。会話も、旅行の手配も、国政も、編集行為とみることができる。”

また、彼の方法論によると編集とは“情報を収集・整理・再構成し、新たな関係性や意味を見出していく行為”である。

この考え方は音楽制作にも直接応用できる。

特に今日のような情報過多の時代において、何もないところから完全にオリジナルな音楽を作り出すのではなく、既存の要素を独自の視点で再構成することがオリジナリティの本質だといえるだろう。

音楽創作における編集工学の実践

クレジット:pexels

編集工学の視点から見ると、音楽創作は以下の3つのステップに分けることができる:

1. 見立て(認識): 既存の音楽や音素材を新しい視点で捉え直す

2. 組み替え(変形): それらの要素を解体し、新しい組み合わせを試みる

3. 接続(統合): 再構成した要素に新たな文脈や意味を与える

具体例として坂本龍一の作品を見てみよう。

彼はクラシック音楽の様式美と電子音響技術を組み合わせ、さらに伝統音楽のエッセンスを取り入れることで、独自の音楽世界を構築した。

「戦場のメリークリスマス」のテーマ曲では、西洋的なメロディーとアジア的な音色を編集的に融合させることで、映画の内容と相まって強い印象を私たちに残したくれた。

異なる要素の意図的な衝突

松岡正剛が編集で重視したのは“異質なもの同士の化学反応”である。

彼は雑誌『遊』で科学的テーマと芸術的要素を意図的に衝突させることでクリエイティブな火花を生み出した。

この手法は音楽にも応用できる。

例えば、椎名林檎は歌謡曲的なメロディーとロックサウンド、そして文学的な歌詞を衝突させることで独自の世界観を確立。

「ここでキスして。」という楽曲では伝統的な日本の調性と現代的なプロダクションが共存し、新しい音楽体験を生み出している。

彼女の「歌舞伎町の女王」という曲は、タイトルからして伝統的な日本文化(歌舞伎)と現代都市文化(歌舞伎町)を組み合わせており、松岡の言う“見立て”と“接続”の好例といえるだろう。

情報の海からの編集的発見

クレジット:pexels

松岡は“接続詞の思想”という考え方も提唱した。

これは一見無関係に見える情報同士をつなぎ合わせることで新たな意味を発見する方法である。

音楽制作においても、意図的に異なるジャンルや時代の要素を結びつけることで、新しい表現が生まれる。

例えばCORNELIUSは『FANTASMA』でクラシカルなコード進行、The Beach Boys風のハーモニー、エレクトロニカのビートを組み合わせ、さらにその映像表現でも異なる文化要素を編集的に統合している。

彼の作品は、松岡が提唱した“多層的な情報の整理と再構成”を体現しており、異なる時代・文化の音楽要素を“編集”することで独自の音楽世界を構築している。

 

Radioheadに見る編集工学的アプローチ

Radiohead May 1997 BBC Radio 2 Golders Green London
Radiohead May 1997 BBC Radio 2 Golders Green London(credit:TOM SHEEHAN)

ここからは有料記事となり、購読してくれた方は、Radioheadの創作アプローチから、“編集工学”を実践するインディーバンドのためのチェックリストまで詳しく解説する。

また、次回は、坂本龍一が提唱する“ChaosとOrder”の概念について考察し、創造における自由と構造のバランスについて掘り下げていく。

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この企画を始めて二ヶ月経ったが、記事単体と月額のサブスクを併せて、15回購入されているので、ぜひとも参考にしてほしい。

この機会に加入していただき、“編集”から生まれるオリジナリティの秘密や知られざる音楽ビジネスの裏側について知っていただきたい。

それではRadioheadと“編集工学”をテーマに、オリジナリティの正体について、深く迫っていきたい。

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