最終更新: 2025年3月11日

日本には、“盆と正月が一緒に来たよう”という、嬉しいことが重なるという意味の表現がある。

この言葉を聞いた時、そんな事あるかい!と思ったものだが、先日インタビューを行ったMatt Hsu’s Obscure Orchestraのマットからメールが来た時、本当に盆と正月が一緒にやって来たと思った。

Matt Hsu’s Obscure Orchestraとは、オーストラリアを拠点に活動する25人編成のオーケストラだ。

台湾系オーストラリア人のマルチ奏者のマット・シューが指揮を執り、オーケストラとパンク、ヒップホップを融合させた、従来のジャンルを超えた音楽を生み出している。

多様な背景を持つアーティストが集結し、音楽を通じた”歓びある抵抗”を表現しているのだ。

先日、子どもがもうすぐ生まれると言っていたマットであるが、無事に男の子が生まれたというお知らせと、なんと対談の記事掲載があったのだ。

これは私たちが企画したものではなく、マット自身が企画・記事化し、トクマルシューゴと対談したものである。

この記事では、マットとトクマルシューゴが交互にインタビューし合うものとなっており、私たちが10年間インタビューや対談を行ってきた中でも初めて形式となった。

トクマルシューゴは、様々な楽器を使用し、一人で作詞・作曲・録音までを行う、音楽家である。

最近では、“めざましテレビ”内で放送されているテレビアニメ“ちいかわ”の音楽を担当している。

マットは先日のインタビューでは、トクマルシューゴがルーツであると語っていたとおり、2011年のアルバム『Port Entropy』との出会いから深く影響を受け、自身の音楽の中核的なインスピレーションとなったことを熱く語っている。

まずは、マットからトクマルシューゴの音楽と出会ったきっかけ、両者のアイスブレイクから、対談の本編を楽しんでもらえたらと思う。(テキスト:Tomohiro Yabe)

マットよりトクマルシューゴについて


トクマルシューゴの音楽に初めて出会ったとき、それはまるで空に放り出されて、雲の精霊たちが集う幻想的な遊園地に迷い込んだような感覚でした。

2011年のアルバム『Port Entropy』に出会い、その世界観にすっかり魅了されました。

当時、“インディーミュージック”といえばギターを弾く白人男性ばかりのイメージが強かった中で、たった一人でこんなにも豊かで異世界のような音楽を生み出していることに完全に引き込まれました。

時に陽気で、時に内省的なその音楽は、ブリスベン/マガンジンのウェストエンド(クリルパ)で自転車に乗って街をふわふわと漂うときや、フォークパンクバンド“The Mouldy Lovers”(のメンバー)として各地を巡るときのサウンドトラックになりました。

そして、大切な友人たちと共有する音楽にもなりました。

歌詞の意味がわからなくても、その音楽がくれる感覚が大好きだったんです。

トクマルシューゴは、やがて“Matt Hsu’s Obscure Orchestra”としての自分の音楽の中核的なインスピレーションのひとつになりました。

そして今、まさに第一子が生まれるというこのタイミングで、こうしてトクマルシューゴ本人と対話できることに驚きと喜びを感じています。

彼はとてもユーモアがあって、気さくで、温かい人でした。すべての瞬間が楽しくて、心から幸せな時間でした。ぜひ楽しんでください!

このインタビューは、日本のマルチインストゥルメンタリストであり実験的オルタナポップアーティストのトクマルシューゴと、オーストラリア/台湾のマット・スーのオブスキュア・オーケストラの対談です。

マットの第一子誕生の直前と直後、眠れぬ日々の朦朧とした中で、メールとビデオを通じて行われました。(テキスト:Matt Hsu)

はじめに


マット:シューゴ さん、こんにちは!僕はMattです。Obscure Orchestra のメンバーです。今、僕が尊敬するアーティストについて、アーティスト同士の対談形式で記事を書いているのですが、シューゴさんこそがそのアーティストです! ぜひご一緒できたら嬉しいです。
素晴らしい音楽をありがとうございます。シューゴ さんの音楽は、僕にとって本当に大きな影響を与えてくれました。どうぞよろしくお願いします!

トクマルシューゴ:できる形でぜひ参加できたら嬉しいです!写真に写っていたタオル(手ぬぐい)を見たのですが、John John Festivalのお知り合いですか?

マット:インタビューをお引き受けいただき、本当にありがとうございます!はい、2010年代にオーストラリア各地のフォークフェスティバルで演奏していた時に、Toshiさん、Manaさん、Hirofumiさんに出会いました。皆さんとても素敵な方々ですね!シューゴさんも彼らと一緒に音楽を作られているので、こうしたご縁があるのはとても楽しいですね。P.S. 明日か日曜日に第一子が生まれる予定です!

トクマルシューゴ:明日、第一子が生まれるなんて!!!本当にすごいことです!!!ぜひ、まず、その時間を大切にしてください!!!

マット:シューゴさん、ありがとうございます!!昨日、赤ちゃんが生まれました。感謝しています!

トクマルシューゴ:赤ちゃん、おめでとうございます!!!本当にすごいことだと思います。これから、目が回るくらい忙しく、そしてとっても楽しい毎日が待っていると思います!!!

トクマルシューゴとMatt Hsuの対談


マット: 大人になってからも繰り返し楽しんでいる子ども向けのメディア(番組、アニメ、音楽、本など)はありますか?それはインスピレーションの源になったり、リラックスするためのものだったりしますか?
トクマルシューゴ:私の親が漫画の編集者だったのもあって、(特定のものにハマったというのはないのですが)、たぶんリラックスやインスピレーションのためというより、子どものころからの癖で、今もたくさん漫画は読んでいます。
また、いま私は保育関連の仕事に携わっていたり、子ども向けのテレビやアニメの音楽にも関わっていることもあって、最新のものもよく見たり聞いたりしています。

あと、僕は世界の玩具楽器を集めるのが好きですが、楽器じゃなくても、普通に子ども向けの玩具を買ってひとりで遊んだりしています。

マット: なんて楽しい偶然でしょう!最近、子ども向けの演劇のために作曲をしているだけでなく、美術館の子ども向けセクションでも働いているんです。

トクマルシューゴ:子どものころはどんな子どもでしたか?また幼少期に好きだった歌を覚えてますか?
マット: 幼稚園の頃、遊び場の砂をこっそり靴に入れて持ち帰り、お昼寝の時間に床に広げて指で動物の絵を描いていました。小さい頃からずっと、特に自然に関するものを作るのが好きだった気がします。
僕の最初の思い出は、音楽に囲まれていたことです。父のカセットテープやCDのコレクションはすごくて、本棚一つ分もありました。世界中のエクレクティックなポップやジャズが並んでいて、それが僕たちの子どもの頃のサウンドトラックでした。あと、ある日、母が収納からギターを取り出して、手で音楽を作れることに僕はすごく驚きました。

小学校の頃、二人の親友は僕に大きな影響を与えました。カルロスはコロンビア出身で、彼の両親はサルサバンドをしていて、僕にラテンジャズを教えてくれました。僕たちは一緒に、武道をする猫と犬の冒険を描いた漫画を作り、僕がそのイラストを担当しました。広志は日本から引っ越してきて、最初は英語が話せませんでしたが、僕たちに日本の音楽を教えてくれました。『エヴァンゲリオン』のオープニングテーマを聴いたとき、11歳の僕たちは本当に驚きました。

マット: ミュージシャンはあまりスポーツやアウトドアのイメージがないかもしれませんが、個人的には長いサイクリングをすると音楽作りのアイデアが浮かびやすくなります。シューゴさんにとって、生活や創作のバランスをとる上で大切な身体的なアクティビティはありますか?
トクマルシューゴ:クライミングをよくしています。アイデアに影響があるかはわかりませんが、普段あまり使わない脳と筋肉を使っている感じがあって、バランスをとる上でも大切なものだと感じます。

トクマルシューゴ:毎日、必ずしていること(ルーティーンやインプットなど)はなんですか?
マット: ほぼ毎日自転車に乗っています。通勤や買い物で、乗らないと変な感じがします。その時にアイデアや考えを整理したり、音楽やポッドキャストに集中したりすることが多いです。

これはかなり普遍的なことですが、僕は毎日ある程度外にいないとダメなタイプです。家→車→オフィスという生活は、太陽と空気を感じずにはいられません。

数日前にうちの子、レムが生まれました。今は病院で休んで、家の中にいますが、昨日の“お出かけ”は小さな裏庭でガーデンツアーをしたことです。葉っぱが優しく揺れるのを見ているのがとても美しかったです。これからレムと一緒にキャンプや水泳に行くのが楽しみです。


【関連記事 | “Matt Hsu’s Obscure Orchestraとは?アリアとプニポンがレンジタウン・ノートで徹底紹介!”】

マット: マルチインストゥルメンタリスト同士として、“どうやってたくさんの楽器を演奏できるようになったの?”とよく聞かれます。でも、個人的には“どうやってさまざまな音を組み合わせて、一つの音楽としてまとめ上げるか”のほうが面白いと感じます。シューゴさんは、異なる音をうまく織り交ぜて自分なりの音楽にするコツをどのように身につけましたか?
トクマルシューゴ:私は、自分ではうまく織り交ぜられているという自信もあまりなくて、そう思ってもらえていたとしたらとても嬉しいです!

いつも、聞いたことのない組み合わせを試してみたり、聞いてみたいと妄想した組み合わせを試しています。
だから一般的には失敗していることの方が多いかもしれません。

逆に、楽器が持つルーツや意味を調べることで、どこまでトライして良いのかを考えることもあります。

あとは例えば、木製のシェイカー、プラスティックのシェイカー、新品のシェイカー、ビンテージのシェイカーを、歌詞の意味によって使い分けたり、LR(左右)に振ってみたり、というような、誰も気付かないことをやることが多いです。楽器は楽しいですよね!

トクマルシューゴ: たくさんの人と一緒に演奏してやっていますが、難しさもあると思います。余白やノイズや即興性も活かしているように感じますし、全てをしっかりコントロールしているようにも感じて、そのバランス感が絶妙です。そのバランスを大切にしている部分が自分ともとても似ていると感じます。たくさんの人たちのそれぞれの良さを活かすように指揮者のようにコントロールしてつくりだしていく時の魅力と、全てを人に委ねてしまって偶然性を活かすことの魅力、それぞれ教えてください。
マット: ありがとうございます、シュウゴさん。15年間ずっと聴き続けてきたあなたからの言葉、本当に大きな意味があります。あの“混ぜる”、“織り交ぜる”、“作り出す”という過程が簡単ではないという点、私もすごく共感します。試行錯誤を繰り返して、ようやくあの魔法のような形にまとまる瞬間が来ると、すごく興奮します。時々、アイデアが行き詰まって数ヶ月放置することもありますが、突然、音や楽器、コラボレーションのアイデアがひらめくと、それはまるで大盛りのごちそうを作るような気分です。

私は素晴らしいミュージシャンたちと一緒にやっていて、オルタナティブやインディーのソロアーティスト、実験的なサウンドアーティスト、ヒップホップのアイコンたちが集まっていて、本当に特別な才能を持っている人たちが音楽を生き生きと形にしていくのを見ているのはすごいことです。自分にはない深いフレーバーや混ざり合いが生まれるので、まるで初めて観た映画が大好きな作品になるような、実際の魔法のような感覚です。“わあ、次はこれ?”という瞬間が毎回あります。

私はあまり“ボス的”な存在ではないと思っていますし、私のオーケストラのメンバーたちは、私の作曲を編成に合わせて積極的にアレンジしてくれます。私の役目は、みんなが一緒にいる感覚を作り出すことにあります。ショーの前には、みんなの感情をチェックします。誰かが緊張していたり、パートを確認したい場合もあるので、時間をかけて一緒に確認し、励まします。実は内心、私自身はすごく緊張していて不安もありますが、ショーが始まり音楽が流れ出すと、いつも安心感が湧いてきます。“ああ、みんながお互いに支え合っているから、これで大丈夫だ”と感じる瞬間です。

以前、あなたがインタビューで「Gellersで演奏していなかったら、“トクマルシューゴ”の音楽は作れなかっただろう」とおっしゃっていたのを覚えています。私もまさにその通りだと思っています。私は“The Mouldy Lovers”で音楽の大切なことをすべて学びました。たとえ私たちが“ソロアーティスト”だとしても、決して一人ではないですよね?私たちの音楽には、いつでもコミュニティが関わっています。

マット: 楽器以外でコレクションしているものはありますか?
トクマルシューゴ:漫画や哲学書は好きでたくさん読んでいますが、今はあまり物をもつのは、楽器だけにしておこうと思って、コレクションはしないようにしています!

王舟
撮影:Takahiro Higuchi

【関連記事 | “王舟が語る、トクマルシューゴからの影響”】

トクマルシューゴ:ICHIさん&Rachael Daddもお好きなんですね。ICHIさんやパスカルズやジョンジョンなどなど、ぜひ日本でみんなと一緒にできたら良いですね。とても合うと思います。どうですか?
マット:彼らが大好きです。ICHIが自分だけの楽器を作り、鈴のついた足でステージに歩いて登場するのを見て、音楽は本当に何でもありだと気づきました。

ICHI、Pascals、John John Festival、そしてあなたと一緒に日本で演奏できたら、夢がかなったようなものです。本当に願いが叶う感じです。いいお話をありがとう!

トクマルシューゴ:こちらこそ、ありがとうございました!

トクマルシューゴアルバムリリース

『Other Tracks』


トクマルシューゴのレアトラックス集(2003-2023)
発売日: 2024年12月24日
bandcamp

『Song Symbiosis』


発売日: 2024年7月17日
bandcamp

Matt Hsu’s Obscure Orchestraリリース情報

アルバム『Forest Party』


Release Date:February 1, 2025
bandcamp

アルバム『Noodle』


Release Date:February 1, 2025
bandcamp

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クレジット:pexels
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ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
Tomohiro Yabe
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・​後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻

これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。

過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。

それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。

現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。

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Twitter:@boriboriyabori