最終更新: 2025年3月16日

“最初の直感を信じること”と“その直感を論理的に発展させること”—この二つの相反する姿勢を融合させた音楽家、坂本龍一。

前回のコラムでは、“編集工学”を提唱した松岡正剛の思想をもとに、Radioheadの事例を紹介し、オリジナリティの本質について解説した。

今回は、日本が世界に誇る音楽家・坂本龍一の創作アプローチに焦点を当て、“Chaos(混沌)”と“Order(秩序)”の概念から、音楽におけるオリジナリティの正体に迫る。

2023年に71歳で逝去した坂本龍一は、その生涯を通じて常に音楽の可能性を探求し続けた革新者であった。

YMOのテクノポップから映画音楽、環境音と電子音の融合まで、ジャンルの境界を超えた彼の創作活動には、一貫して“編集”という思想が息づいている。

坂本龍一と編集のマインドマップ

それでは記事に入る前に、今回の記事のマインドマップを紹介したい。

※このコラムは記事の中盤から会員登録制の有料(月額500円、記事の単体購入は200円)で更新している。マインドマップの左側は、有料記事の内容である。

テキスト:Tomohiro Yabe 使用ツール:Manus、Claude、genspark 編集:Tomohiro Yabe

坂本龍一と編集の深い関係

ライター募集(タイプライター)
クレジット:pexels

実は坂本龍一は、名編集者であった坂本一亀(かずき)の息子であったことをご存知だろうか。

父・一亀は河出書房新社で純文学雑誌“文藝”の編集長を務め、三島由紀夫の『仮面の告白』など数々の名作を世に送り出した人物である。

この家庭環境が、坂本龍一の創作における“編集的視点”の源流となったのであろう。

今回は、坂本龍一の音楽制作における核心的な考え方を“ChaosとOrderの融合”という枠組みから、紹介していく。

この概念は、坂本龍一だけでなく、様々な著名音楽家にも当てはまり、単なる作曲テクニックを超えた創造の哲学であり、インディーミュージシャンが自分らしさを確立するための重要な指針となる。

坂本龍一とは

坂本龍一
『Ryuichi Sakamoto | Opus』公式サイトより

坂本龍一は、日本の音楽史上最も国際的な影響力を持った作曲家の一人である。

クラシックから電子音楽、映画サウンドトラックまでを横断する革新的な作品群で知られ、その創作活動は常に時代の先端を走り続けた。

東京藝術大学卒業後、1978年に細野晴臣、高橋幸宏と共にYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)を結成。

シンセサイザーを駆使した「コンピューター・ゲーム」「Rydeen」などが世界的ヒットとなり、1980年代のテクノポップ・ムーブメントの礎を築く。

彼らのサウンドはデヴィッド・ボウイやクラフトワークにも影響を与え、日本発の音楽が世界を変えた瞬間であった。

映画音楽の分野では、『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞を受賞し、『ラストエンペラー』ではアカデミー作曲賞を日本人として初めて獲得した。

中国楽器と西洋オーケストラの融合によるサウンドスケープは、ベルナルド・ベルトルッチ監督から絶賛された。

2000年代以降は環境問題への関心を音楽に反映させ、『async』(2017)では東日本大震災で被災した“津波ピアノ”の音を楽曲に採用。

坂本龍一の国際的評価の特徴は、単なる“日本的サウンド”の輸出ではなく、文化横断的な編集能力にある。

ChaosとOrderの基本概念

クレジット:pexels

坂本龍一の音楽制作における“Chaos(混沌)”と“Order(秩序)”の相互作用は、オリジナリティを生む編集プロセスの核心である。

この概念は、単なる作曲テクニックを超えた創造の哲学であり、音楽における“編集”の本質ともいえる。

創造のダイナミクス:混沌と秩序の交差点

坂本の作曲プロセスの特徴は、“即興と構成の往復運動”にある。

最初に“Chaos”として自由なジャムセッションを録音し、その中から核となるモチーフを抽出するというアプローチである。

この手法の鍵は、無意識に生まれた音の偶然性を“Order(秩序・順番)”として再構築する際の厳選プロセスにある。

要するにはじめに作ったアイデアから、不必要な要素を可能な限り削ぎ落とせば、重要な基本要素だけを残すことができるということだ。

この編集作業により、初期の混沌とした状態から、作品として残すべき音楽の本質が浮かび上がってくる。

坂本龍一の音楽における編集的アプローチ

坂本龍一の音楽には、東西文化の融合という編集作業が顕著に表れている。

北京交響楽団をモチーフにしたYMOの「Tong Poo」では、アジアのエッセンスを西洋のシンセサイザーで再構築する手法を提示した。

この東西文化の編集が、後の国際的評価の基盤となる。

坂本龍一の音楽制作における“Chaos”と“Order”の往復運動は、前回紹介した松岡正剛の編集工学における“見立て”、“組み替え”、“接続”と通じるものがある。

松岡が情報の再構成による新たな意味の創出を説いたように、坂本は音の偶然性と必然性の間を行き来することで、独自の音楽世界を構築したのである。

次の章からの有料部分では、坂本龍一のアプローチをより具体的に掘り下げ、実践的な応用方法について考えていく。

特に、坂本龍一の“ChaosとOrder”を実践するための具体的手法と、インディーバンドのための応用フレームワークについて詳しく解説する。

この記事を単体で購入する場合はわずか200円。さらにお得な月額サブスクリプションはたったの500円で、すべての記事をいつでも好きなだけ読んでもらえる。

サブスクは今なら3日間の無料お試し付き。音楽知識の補強だけでなく、私たちが取材してきた100を超えるアーティストへの取材活動継続のためにも是非、記事の購読を検討して欲しい。

これまでのプロインディーの記事について

 

この続きを読むには