最終更新: 2025年3月23日

“偶然の出会いこそが、最も価値ある創造の源泉である”

前回のコラムでは、坂本龍一の創作アプローチにおける”Chaos(混沌)”と”Order(秩序)”の融合について紹介した。

直感的な混沌から生まれるアイデアと、それを論理的に整理する秩序の繰り返しが、オリジナリティを生み出す鍵であることを見てきた。

“編集”をテーマとしたシリーズの5回目は、その考え方をさらに発展させ、偶然性を積極的に創作プロセスに取り入れる方法論として、ブライアン・イーノが考案した“オブリーク・ストラテジーズ”に焦点を当てる。

この独創的なツールは、行き詰まりを突破し、予想外の創造性を引き出すための強力な“編集装置”として“創作の新しい扉”を開いてくれる。

プロを目指すインディーバンドにとって、創作の行き詰まりは避けられない。

しかし、その壁を乗り越えるための方法は必ずしも明確にあるわけではない。

今回は、ブライアン・イーノの革新的なアプローチから、偶然性やエラーを味方につけ、創造的な編集プロセスひいては、オリジナリティーの源を見つけるためのヒントを探っていきたい。

今回のマインドマップ

オブリーク・ストラテジーズのマインドマップ

それでは記事に入る前に、記事の全体像をつかんでもらうためにマインドマップを紹介したい。マインドマップの左側は、有料記事の内容である。

※このコラムは記事の中盤から会員登録制の有料(月額500円、記事の単体購入は200円)で更新している。

テキスト:Tomohiro Yabe 使用ツール:Claude、Manus、genspark 編集:Tomohiro Yabe

ブライアン・イーノとは

ブライアン・イーノ

ブライアン・イーノは、現代音楽の最も影響力ある革新者であり、音楽家の一人である。

1948年、イギリスに生まれたイーノは、美術学校出身という異色の経歴を持つ音楽家だ。

1971年にロキシー・ミュージックに加入し、シンセサイザー奏者として独特のサウンドとファッションで注目を集めた。

しかし、彼の真価が発揮されたのは、バンドを脱退した後のソロ活動とプロデューサーとしての仕事においてである。

1975年の『Discreet Music』では、テープループを用いた実験的手法でアンビエント・ミュージックの原型を確立。

“音楽を環境の一部として機能させる”という革新的なコンセプトを提唱し、1978年の『Ambient 1: Music for Airports』でその理念を具現化した。

プロデューサーとしての功績も特筆すべきものがある。デヴィッド・ボウイの『ベルリン三部作』、トーキング・ヘッズの『Remain in Light』、U2の『The Joshua Tree』など、数々の歴史的アルバムを手がけ、“音楽の錬金術師”と称されるようになった。

イーノの創作手法の最大の特徴は、偶然性を重視する姿勢にある。

幼少期からテープレコーダーを使った音響実験を続け、予測不可能な要素を積極的に取り入れる手法を開発してきた。

その集大成とも言えるのが、“オブリーク・ストラテジーズ”である。

彼は自らを“ノン・ミュージシャン”と称し、伝統的な音楽家像を超越した存在として、アートとテクノロジーの融合を追求し続けている。

70代を超えた現在も精力的に活動し、視覚芸術やインスタレーション作品も手がけるなど、常に新たな表現領域を開拓している。

“オブリーク・ストラテジーズ”とは

オブリーク・ストラテジーズ

“オブリーク・ストラテジーズ”は、ブライアン・イーノが音楽家ピーター・シュミットと共同開発した創造的行き詰まりを突破するためのカード型ツールである。

1975年に初版が発表されて以来、デヴィッド・ボウイやU2、Coldpaly、MGMTなど数多くのアーティストが制作現場で活用してきた。

このツールは113枚のカードで構成され、各カードには“古いアイデアを使え”“エラーを隠れた意図として尊重せよ”など、抽象的な指示が記されている。

創作の行き詰まりに直面した際、ランダムにカードを引き、その文言を制作に反映させることで、意識的に“偶然性”を創作プロセスに組み込む仕組みだ。

これまでの発言をまとめると、イーノ自身はこのツールを“直感が知性に追いつくのを待つ装置”だと考えているようだ。

つまり、無意識の創造性と意識的な編集作業の間に橋を架ける役割を果たすものと言える。 計画的な創作と偶然の出会いのバランスを見出す方法論なのだ。

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