最終更新: 2025年5月1日

セルフプロデュース・レコーディングの実際

クレジット:Pexels

Beach Fossils 自由とエンジニアの重要性

-まりりん: その制作体制の話に関連して、Beach Fossilsの新作『Bunny』 はダスティン自身がプロデュースし、DYGLも2022年リリースの『Thirst』はセルフレコーディングでした。ご自身で制作を手がけるプロセスはいかがでしたか? また、そのメリットとデメリットはどんな点にあると感じますか?
ダスティン: メリットは、何と言っても自分たちのペースで作業できることだね。プロのスタジオだと、まず費用が気になってしまう(笑)。
一同:(笑)。
ダスティン: “時間を無駄にできない”というプレッシャーで、自由なアイディアを出すのが難しいんだ。自宅スタジオなら、例えばブリッジのアイディアを出すのに丸一日かけたって費用はかからないしね。それに、よく知らない人が周りにいると、リラックスして制作に集中できないんだ。制作過程では、良くないテイクや失敗もたくさん生まれるものだから、気心の知れたメンバーだけでやる方が“ゾーン”に入りやすいんだ。内輪のジョークを言い合えるようなリラックスした雰囲気が最高だよ。
トミー:プロのスタジオを借りる費用で自分たちの機材を買えば、それはずっと使えるわけだよね。だから、自宅でやるのが自然なんだ。
ジャック:もちろん、ドラムの録音のように、特定の楽器でより良いサウンドを求める場合や、ストリングスのアレンジなど、専門的な技術が必要な部分ではプロのスタジオやエンジニアの力も借りるよ。今回もドラムだけは友人のスタジオで録音したんだ。
ダスティン:実は2013年にリリースした『Clash the Truth』の時は、元々は自宅で録音したんだけど、周りの宅録から始めたバンド(Wild NothingやDIIVなど)がプロのスタジオを使い始めたのを見て、“自分たちもレベルアップしなきゃ”というプレッシャーを勝手に感じて、プロのスタジオで録り直したんだ。正直、スタジオ版のサウンドには100%満足していたわけではなかったんだけど、費用をかけたからそちらをリリースしたんだ。
ジャック:前作の『Somersault』の時も同じようにプロのスタジオで録り直すプロセスがあったけど、最終的には自宅録音のテイクとスタジオ録音のテイク(特にドラム)を組み合わせる形に落ち着いたんだ。結果的に、テープとデジタルの両方の質感が混ざった面白いサウンドになったと思うよ。
ダスティン:新作の『Bunny』では、これまでの経験を踏まえて、最初から完全に自分たちでレコーディングすることに決めたんだ。色々な経験を経て、結局、自分たちに必要だったのは、クリエイティブな部分に口を出すプロデューサーではなく、サウンド面をサポートしてくれるエンジニアだったんだと気づいたんだよ。

DYGL 経験と客観性のバランス

-まりりん: すごく共感できる話です。秋山さんはいかがですか?
秋山: 僕らは最初の3枚のアルバムをそれぞれ違うプロデューサーと制作したので、誰かと一緒に作品を作る経験を積んできました。1枚目はニューヨークの大きなスタジオ、2枚目はロンドンのスタジオ、3枚目は東京のhmcスタジオ、そして4枚目の『Thirst』で完全にセルフレコーディングになりました。スタジオの規模も徐々に身近な規模になってきて、どんどんDIYなプロセスになっていきましたね。今回制作中の5枚目のアルバムは、友人であるロサンゼルスのSlozzaaというエンジニアを日本に呼んで、クリック(メトロノーム)も一切使わず、ボーカル以外はほぼ一発録りでレコーディングしました。どんどんインディーな方向に向かっています(笑)。ダスティンが言うように、インディペンデントでやるということは、自分たちでクリエイティブ面をコントロールできるのがメリットですが、客観的な視点がなくなるというデメリットもあります。そこは良し悪しですね。どちらが良いかは、その時のバンドのビジョンによるので、ケースバイケースで判断が必要だと感じています。
ダスティン: セルフレコーディングによる客観性の欠如という難しさは僕も感じるね。だからこそ、エンジニアの役割が重要だと気づいたんだ。最初はプロデューサーが必要だと思っていたけれど、実は求めていたのはエンジニアだったんだ。Televisionの『Marquee Moon』が良い例だと思うよ。彼らはあの曲をライブで何年も演奏し続けてからレコーディングしたそうなんだ。ライブ音源を聴くと、あのアルバムの形になるまでそれだけの時間が必要だったことが分かるよ。彼らもレーベルにプロデューサーを付けられたけれど、それを押しのけてエンジニアとしての役割に徹してもらい、バンドのビジョンを貫いたそうなんだ。だからこそ、あのアルバムは素晴らしいものになったんだと思う。

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