最終更新: 2025年5月1日

インディペンデントだからこそできること

Beach Fossils × DYGL 対談
撮影:まりりん

Beach Fossils 創造性の自由と時代の変化

-まりりん:これまでの活動の中で、制作、ライブ、その他の活動において、「これはインディペンデントだからこそできた」と強く感じた経験はありますか?
ダスティン:もちろん、インディペンデントだからこそできたことがあると思うよ。少なくともアメリカでは、かつてはメジャーレーベルに所属して巨大になるか、ガレージで曲を作って誰にも聞かれないかのどちらかだったんだ。でも70年代から2000年代にかけて、僕らが始めた頃にはインディペンデント・レーベルを取り巻く状況は大きく成長していたんだ。だから、僕はラジオでかかるような曲や、すごく売れて人気が出るような曲を書こうというプレッシャーを感じたことは一度もないよ。インディペンデントの良いところは、自分が聴きたいものを書く自由があること。ポップソングやポップなレコードを作ろうというプレッシャーがなかったこと、それがインディペンデント・アーティストであることの大きな利点だと思うね。ポップミュージックを聴きたい人には、すでにたくさんの曲があるからね。インディペンデントなアーティストとして、自分自身を表現し、作りたいものを作る自由があるんだ。
トミー:僕たちは、絶妙なタイミングで音楽活動を始められたのかもしれないね。活動初期、インターネットはあったけど、まだ商業主義やアルゴリズムに支配されていなかった時期だったんだ。契約に縛られてバンドが失速するような時代でもなく、かといって今のように、誰もが発信できることによる情報のノイズが多い時代でもなかった。インターネットを通じて、民主的なプロセスで自然に人気が広がっていく、そういう“スイートスポット”にいたのかもしれないね。
ダスティン:どの時代にも、インディペンデント・ミュージシャンにとっては新しい機会と挑戦があると思うよ。常に変化しているからね。

DYGL チーム作りと専門性

-まりりん:ありがとうございます。秋山さんは、DYGLが完全にインディペンデントになったからこそ、できることがあると感じていることはありますか?
秋山:そうですね。事務所に所属していた時から、ただの所属バンドというよりは、その中に自分たちのレーベルがあるような形で活動させてもらっていました。どれだけ意味があったかは分かりませんが、お互いがそういう対等な気持ちで関わるためにも、自分たちの屋号を作って会社のラインナップとは別に表示してもらったりと、スタンスとしては当時からインディペンデントな視点を意識していました。独立して1年半ほど経ちますが、事務所に入る前からずっと自分たちの足で歩こうという意識は変わっていません。ダスティンが言っていたように、時代によってインディー・アーティストのメリット・デメリットが変化していくというのは非常に面白い視点だし、実感もあります。TuneCoreのようなサービスで誰もが自分の音楽を配信できたり、YoutubeやSpotifyによって誰でも世界中の音楽に簡単にアクセスできるようになりましたが、一方で今度は情報が多すぎてコントロールが難しい。この新しい時代に何が最大のメリットなのか、僕自身もまだ掴みきれていない部分はあります。ただ、オンライン(配信など)とオフライン(現場作り)、このハイブリッドなバランスをどう取るかが、今後のポイントになってくる気がします。もう一つ付け加えると、以前はレーベルかマネジメントと契約して全てを任せるしかなかったですが、大きな会社の中には必ずしも積極的に音楽や宣伝を学ぼうという気のない、専門家とは呼べない人もいました。今はインディペンデントな時代だからこそ、宣伝なら宣伝の専門家、というようにピンポイントでショットで仕事を振ることで必要に合わせてその道の専門家と直接仕事をすることもできます。そうやって自分たちでチーム作りをコントロールしながら、より専門的な活動ができるのは、インディペンデントの利点かもしれません。
ダスティン:それは興味深い点だね。ビジネス的な考え方と、クリエイティブな感性や良いテイストを持つこと、そのバランスが重要だよ。アメリカでは幸運なことに、インディペンデントのインフラがしっかりしているおかげで、そのバランスが取れている人が見つけやすいんだ。賢くて、かつ音楽を理解している人たちがいるからね。キャリアの初期には、僕たちのことをよく理解していなかったり、どう売り出せばいいか分かっていなかったりするブッキングエージェントと仕事をしたこともあったんだ。だから、今のチームにたどり着くまでには、色々な人を経てきたんだ。自分たちに他社から割り当てられるのではなく、自分たちでチームのメンバーを選べるというのは、間違いなく大きな利点だよ。彼らは音楽を本当に理解し、信じているからこそ、一生懸命働いてくれるんだ。
ジャック:今の世代、特に若い世代は、本物でないものを見抜く感覚が鋭いと思うよ。だから、チーム全員がプロジェクトを信じて、取り組むことが重要なんだ。そうすれば、人々が自然に反応してくれるものが生まれると思う。オンラインとオフラインのバランスも、そういう本物感を伝える上で大切だね。

ニューヨークDIYシーンの現在について

pexels-Brooklyn,
ニューヨーク・ブルックリン(クレジット:pexels)
ダスティン:僕たちがBeach Fossilsを始めた頃は、オンラインでの評価も得ていたけど、同時に週に4日はライブをしていたね。ニューヨークにはたくさんのDIYヴェニューがあったから、あらゆるショーのオファーを受けて、とにかくいつも演奏していたんだ。倉庫だったり、DIYスペースだったりね。そうした現場での経験が、僕らを成長させてくれたんだよ。
秋山:今のニューヨークってDIYヴェニューがどんどんクローズしていると聞きますが、実際のところはどうなのでしょうか?
ダスティン:うん、クールな新しいヴェニューもできてるよ。少し予算は大きいかもしれないけど、DIYの雰囲気はあるね。
トミー:そう、色々なタイプの場所があるよ。
ジャック:例えば友人も、今2つの新しいヴェニューを準備してるんだ。ジャズと食事の店と、ナイトクラブ兼コンサート会場だよ。アンダーグラウンド・ミュージックシーンはニューヨークのカルチャーの非常に大きな部分を占めているから、常に存在し続けると思うよ。常に変化し、常に自己再生している。決してなくならないよ。
ダスティン:うん、シーンは常に形を変えながらも、決してなくならない。ニューヨークのカルチャーの根幹だからね。

これからのアーティストへのアドバイス

Beach Fossils × DYGL 対談
撮影:まりりん
-まりりん:それでは最後の質問ですが、この対談を読んで、変化していく音楽シーンの中でこれから活動しようと思っているアーティストたちに向けて、何かアドバイスやメッセージがあれば教えてください。
ダスティン:そうだね… クリエイティブな面で言えるアドバイスは、「他の誰かのようになろうとしないこと」かな。特定のアーティスト1人か2人のサウンドを目指すんじゃなくて、何千もの異なるものからインスピレーションを受けて、それを自分のものにすることだね。例えば他のバンドにそっくりという音楽を何度も聴いたことがある。もちろん、彼らにインスパイアされるのは素晴らしいことだけど、他のものからも、そして複数のジャンルから同時にインスピレーションを受けることが最も重要だと思う。“この音楽だけが好きで、これみたいになりたい”じゃなくて、あらゆる種類の音楽を聴いて、その中に楽しめるものを見つけて、インスピレーションの幅をできるだけ広く保つことだよ。そうすれば、全てが溶け合って、他の誰にも真似できない、あなただけのものになるはず。ニューヨークのパンクシーンがクールだったのは、Suicideがいて、Televisionがいて、イギー・ポップがいて、Talking Headsがいて…みんな“パンク”と呼ばれていたけれど、サウンドは全く異なっていたからだね。彼らはただ自分自身を表現していた。それが最高なんだ。友達のバンドと同じようなサウンドを目指すんじゃなくて、自分自身のことをやる。違うサウンドのバンド、全く違うジャンルのバンドと共演するのもいいね。ラッパーと演奏したり、何でもいい。自分だけのものを作り上げてほしいな。
トミー:ミュージシャンであるだけでなく、インディペンデント・アーティストとして活動するためのインフラやコミュニティを作ることも大切だね。
ジャック:オフラインでの繋がり、つまりコミュニティを見つけることも重要だよ。同じような考えを持つ人たちと繋がり、シーンを構築し、お互いのライブに出演し合うんだ。一人で突き進むだけでなく、コミュニティの中で繋がり、お互いをサポートし合うことで、独自のサウンドを生み出すこともできると思う。

-まりりん:秋山さんはいかがでしょうか?
秋山:ダスティンが素晴らしい回答をしてくれたので、付け加えることがあるか分かりませんが… 僕から言えることは2つです。一つは、イマキュレート・ハート・カレッジのシスター・コリータのルールにもあるんですが、“想像と分析を同時に行わない”こと。作るときはただ作ることに集中し、その良し悪しは後で判断する。もう一つは、“毎日楽器に触ること”。この2点ですね。
ダスティン:うん、本当にそう思うよ。創作のプロセスは、常にスケッチブックのように扱うべきだと思うんだ。“よし、これがキャンバスだ、最高の絵を描くぞ”と意気込むんじゃなくて、スケッチブックなら、良くなくても誰にも見せる必要はないだろ? もし良ければ、最高なものができたってことだからね。
トミー:プロセスを結果よりも楽しむ、ということだね。
ダスティン:まさにその通りだよ。100%同意する。
ジャック:批判的になろうとすれば、いつでもできるからね。スケッチだと思って後で見返したら、実はすごく良いものだったり、逆に時間をかけすぎたものが良くなかったりするしね。どちらも真実だよね。

アルバムリリース

Beach Fossils 4thアルバム『Bunny』

Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)『Bunny』
発売日:2023年
レーベル:Bayonet Records
収録曲:
1.Sleeping On My Own
2.Run To The Moon
3.Don’t Fade Away
4.(Just Like The) Setting Sun
5.Anything Is Anything
6.Dare Me
7.Feel So High
8.Tough Love
9.Seconds
10.Numb
11.Waterfall
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DYGL 4thアルバム『Thirst』

Thirst DYGL
発売日: 2022年12月9日
収録曲:
1.Your Life
2.Under My Skin
3.I Wish I Could Feel
4.Road
5.Sandalwood
6.Loaded Gun
7.Salvation
8.Dazzling
9.Euphoria
10.The Philosophy of the Earth
11.Phosphorescent / Never Wait
フォーマット:CD
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プロフィール

Beach Fossils

Beach Fossils by Sinna Nasseri
クレジット:Sinna Nasseri

“ビーチ・フォッシルズは、2009年にギタリスト兼ボーカリストのダスティン・ペイソーのリバーブ重視のソロレコーディングのために結成されました。同年、ペイソーが単独でグループの最初のアルバムを構成するレコーディングをまとめた後、ベーシストのジョン・ペナとギタリストのクリストファー・バークがビーチ・フォッシルズのラインナップに加わりました。ビーチ・フォッシルズのデビュー7インチシングル「Daydream/Desert Sand」は2010年2月にCaptured Tracksからリリースされ、同年に同レーベルからセルフタイトルアルバムがリリースされました。ペナとペイソーは、2011年の「What a Pleasure EP」で共同作業を行いましたが、ペナは自身のグループ「Heavenly Beat」に集中するために脱退しました。次回のビーチ・フォッシルズアルバムには、ドラマーのトミー・ガードナーと、メンズのベン・グリーンバーグによるプロデュースがフィーチャーされています。「Clash the Truth」は2013年初頭にCaptured Tracksから発売されました。

休憩を取った後、バンドはHBOの番組「Vinyl」で70年代初期の「パンク」バンド「the Nasty Bits」のメンバーとして出演し、新しいアルバムの制作を開始しました。今回、ペイソーは他のメンバーを作曲プロセスに参加させ、ベーシストのジャック・ドイル・スミスとギタリストのトミー・デビッドソンもアイデアを提供しました。レコードはニューヨーク市とロサンゼルスの様々な場所で制作され、エンジニアのジョナサン・ラドの自宅スタジオやニューヨーク州北部のキャビンなどが含まれ、スロウダイブのレイチェル・ゴスウェルとシティーズ・アヴィヴからゲストボーカルがフィーチャーされました。「Somersault」は2017年初頭にペイソーが妻のケイト・ガルシアと共同で立ち上げたBayonet Recordsからリリースされました。2018年にはYung Lean の「Agony」 のカバーやWavves とのツアー用スプリットシングルが発表されました。”

引用元:Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)バンドプロフィール(Allmusic)

DYGL

DYGLアーティスト写真

“2019年、DYGLはSXSWを皮切りに、フジロックを含むアジア各地の主要フェスからオファーを受け、The Mystery lightsやBad Sunsとヨーロッパ、SWMRSやGirlpoolとアメリカをツアーしている。

また、Rory Attwell (Test Icicles, The Vaccines, Palma Violets)をプロデューサーに迎えたセカンドアルバム『Songs Of Innocence & Experience』をリリース。アルバムタイトルは、William Blakeの詩集『Songs of Innocence and of Experience』のタイトルから引用しています。”このアルバムの曲は、特定の答えを提示するのではなく、この人生や世界に対する個人的な疑問や矛盾を歌っています。もしかしたら、それは青春についてかもしれないし、それ以上かもしれない。個人的な感情にかなり関係しています。”

DYGLは、このメッセージを伝えるために、インディー界の様々な側面からアプローチしている。リード・シングル「A Paper Dream」と「Bad Kicks」では、The LibertinesやThe Cribsを彷彿とさせる。一方、「Spit It Out」では、ビーチボーイズのサーフィンとDIIV譲りのシューゲイザーが組み合わされています。「Ordinary Love」では、IceageやShameのような硬質なローファイ・インディーロックを聴くことができる。『Songs Of Innocence & Experience』には、アルバムのオープニングを飾る「Hard To Love」、「Only You (An Empty Room)」、「Nashville」そしてアルバムを締めくくる「Behind The Sun」などの美しく繊細な瞬間も散りばめられている。(中略)

『Songs Of Innocence & Experience』は、2017年に高い評価を受けたDYGLのデビュー・アルバム『Say Goodbye To Memory Den』に続く作品である。アルバート・ハモンドJr.がプロデュースしたこのアルバムは、DYGLを東京で最もホットなインディー・バンドにする一方で、NME、ClashなどのUKの称賛を呼び起こした。”

引用元:DYGL(デイグロー)バンドプロフィール(anniversarygroup)

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まりりん(@Igor_Bilic)
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音楽イベントの企画運営やメディアでの取材を手掛ける音楽好き。

DaisyBarでのスタッフ経験を経て、個人企画“SECOND SUMMER OF LOVE”を主催。

ライターとしてはBELONG MediaでSuchmosやYkiki Beat、Never Young Beachなどのインタビューを刊行。

さらに、レコード会社での新人発掘、メジャーレーベルでの経験を背景に、多角的な視点で音楽シーンを追い続ける。

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