最終更新: 2025年5月26日
内面に存在する“ダークな部分”
-桃井:今おっしゃった“ダークな部分”というのは、今でもご自身の中にあるものですか?
木下理樹: 今でもあるし、生きている以上、絶対に闇や影というのはあるものなので。それが全くないものには、僕は惹かれない。例えば、キラキラしててもどこか空っぽな感じや、満たされているんだけど寂しいという。そういう人間の葛藤がないと、単純に“明るい”“暗い”だけでは解決できないことはあると思うんです。僕が生きている限りは、暗い部分というのは絶対に出てくると思います。
-桃井:前回の『luminous』も今回の『1985』も、根底にはあるのかもしれませんが、以前よりもその影の部分、ダークな部分が表に出てこなくなった印象があります。影よりも光の部分を描きたい、というお気持ちの変化があったのでしょうか?
木下理樹: うーん・・・。どうなんだろう・・・。実際に今回のアルバムでボツになった曲はかなり暗かったりして、メンバーが“この曲はやりたくないな”と言ったものもあったりして。だから、ダークな歌詞、暗い歌詞は少なくなってはいるとは思うんですけどね。でも、それが“めちゃくちゃ明るいバンドなのか”と言ったらそうでもないし。他のバンドに比べたら、暗いとは思いますけどね。それは、自分ではわからないですね。
ファンからの声と木下の思い
-桃井:リスナーの方からの質問にもありましたが、「Trust Me」は今までのART-SCHOOLにはないメッセージ性の強い、聴いている人により寄り添ってくれる歌詞だと感じました。この曲はどのようなお気持ちで書かれたのでしょうか?(@rinne_):新曲の「trust me」は、アートにしてはとても珍しい、メッセージ性の強いタイトルだと感じました。ライブで1度聞いただけですが、歌詞も印象的です。この曲を制作するに至った経緯、歌詞はどのようにして生まれたのか。タイトルに“trust me”と名付けたエピソードなどがあれば知りたいです!
木下理樹: “生きる才能が欠落している”と一行目に書いてますけど、そういう気持ちで書きました。心が弱っている人や、病んでいる人たちが、この曲を聴いて、少しだけでも楽になれたらいいな、という思いがありますね。
-桃井:今のお話にも繋がりますが、ファンの方から“以前のART-SCHOOLは木下さん自身が音楽に救済を求めていたと思います。今はリスナーに対して開かれ、寄り添う気持ちが前面に出ていますが、木下さん自身が音楽に救済を求めなくなったようで寂しい”というご意見がありました。木下さんご自身としては、ご自身の音楽でリスナーに寄り添いたいという気持ちが強くなっているのでしょうか?(@takita_funky):『YOU』以降のART-SCHOOLのテーマないしは活動意義として、かつて木下さんが音楽に救われたように人を救う音楽を作るというように感じでいます。かつての『SWAN SONG』をリリースされていた時期のART-SCHOOLは自分が救われるように音楽をやっていた印象があって、自分の好きなものを提示していたような気がします。1人のファンとして、自分のために音楽をやって欲しいという気持ちでいるのですが、今作はどんな思いで作品を作られたのでしょうか。)
木下理樹: 僕が倒れていた時期は、音楽をずっと聴けないでいて。だんだん音楽が聴けるようになってきて、やっぱり音楽は僕にとってすごく救いだな、と思ったんです。それで「Just Kids」を作ったんですけど。僕は、そういう形でしか表現できない。落ちていってた当時の、闇に飲み込まれていたような気持ちを、ちゃんと歌詞や音にしているつもりです。リスナーの方がどう思っているのかはわからないですけど、ずっと昔から音楽は僕にとって救いなんですよね。それは今でも変わってないです。
-桃井:ご自身を救ってくれる音楽、そこから吸収したものを消化して生み出すご自身の音楽で、誰かに寄り添えたら、待っている人を助けられたら、というお気持ちもあるのでしょうか?
木下理樹: アウトサイダーのような人たち、生きづらさを感じているような人たちにとっての・・・。そうですね、生きにくいな、と感じる人たちがART-SCHOOLを聴いてくれれば、嬉しいなと思っています。
現在の心身の状態と創作への向き合い方
-桃井:木下さんご自身、体調が落ちていた時期から『Just Kids .ep』を経て、少しずつ上向きになっていった感じですか?光に向かっているような。
木下理樹: 光を求めてもがいている、というイメージですね。
-桃井:なるほど。『luminous』と『1985』を聴いて、本当にきらびやかとは違うキラキラしたものを感じたので、今、心身ともにすごく上向きなのかなと感じているファンの方も多いと思います。結成からの25年間で、心と体の健康バロメーターは今が一番良好な状態ですか?
木下理樹: もう40代後半なんで、“マックスいい感じ”なんて日はあんまりないですよ(笑)。
-桃井:でも、歌声が安定されていたり。
木下理樹: 歌声が安定しているというのは、やっぱりツアーをやったり、個人レッスンに入ったり、そういうことで声が安定してきている部分はあると思います。
-桃井:バンドマンとしての今の自分は、結成当初と比べて“しっかりしてきたな”と思いますか?
木下理樹: 村上春樹さんが昔言ってたことが頭に残っていて。“作品を作るのには体力がいる”と。作品を作るには、やっぱり相当深いところに潜っていかないといけない。そうするとメンタル面でぐちゃぐちゃになるのはしょうがないけど、せめて体力だけでも持たないとダメになっちゃうから、せめて体力だけは作っておいたほうがいい、というアドバイスをしていて。僕も作品を作るにあたっては深いところに潜っていかなきゃ作れないんで、気力のようなものが削がれていくかもしれないけど、体力までダメになったら動けなくなっちゃう。だから、その辺は気をつけてはいますね。