最終更新: 2025年6月10日
新作アルバム『Singapore Dreaming』を深掘り
タイトルに込めた皮肉とテーマ
-滝田優樹:ここからはアルバム『Singapore Dreaming』について教えてください。まずはタイトルから。アルバムタイトルは同名の映画から取られたようですが、『Singapore Dreaming』というタイトルはどのような感情や雰囲気が反映されているのでしょうか。改めて説明してもらえると嬉しいです。
シンガポール人の究極の夢は5つのC(現金、キャリア、車、クレジットカード、コンドミニアム)を持つことだっていう考え方があって、仕事とか達成することにすごく焦点が当てられてて、それ以外のことに時間や考えをあまり使わないっていう。そういうのをちょっと皮肉ってるんだ。世界中の他の多くの場所でも同じような感じだと思うけどね。アルバムの大きなテーマは、そういう状況全体にどう対処して、僕たちがいる環境をどう乗り越えていくかってことなんだ。
無駄を削ぎ落としたソングライティング
-滝田優樹:アルバムの制作時はメンバー間で、どのようなディスカッションやアイデアの交換をして、進められたのでしょうか。
これが僕たちの5枚目のアルバムになるんだけど、この時点ではもう“自分たちのサウンドを見つける”とかソングライティングについては問題じゃなかったんだ。話し合いの多くは、曲の中で何が本質的なのか、何を削れるか、どの部分が冗長だったりダラダラしてたりするか、ってことについてだった。とにかく無駄を削ぎ落として、核心に迫ることをたくさんやった。だから曲がかなり短いんだと思う。
ピュアなギターサウンドとレコーディングの哲学
-滝田優樹:サウンド全体の印象としては非常にギターサウンドが甘美でピュアなものでした。これだけ高い美意識に貫かれたギターサウンドをきかせる楽曲が多くあるなかアルバムという形にまとめ上げていく過程で見えてきたサウンドの方向性、コンセプトはどういったものだったのでしょうか?
僕たち自身が曲の中で聴きたいと思うものを演奏するっていうこと以外に、意識的なサウンドの方向性やコンセプトがあったとは言えないな。でも、新しいレコーディングプロセスに取り掛かるときはいつも、大まかなガイドラインが2つあるんだ。
ひとつは、余計なギターパートやレイヤーを足さないこと。だから、僕たち5人がライブで演奏できる範囲に留めてる。
もうひとつは、レコーディングプロセスを“一気にやる”こと。だから、ベース(Ba.)は1日で、ドラム(Dr.)も1日、ボーカル(Vo.)は1~2日、ギター(Gt.)も1~2日で終えるようにしてるんだ。
歌詞に描かれる現代社会への葛藤
-滝田優樹:そういったサウンドに対して、歌詞は社会と個人の乖離に対する葛藤や不安を反映しているものが印象的です。仕事と生活の曖昧な境界線に対する批評とも感じたのですがいかがでしょうか。歌詞に対して共通しているテーマや個人的な社会に対する主張があれば教えてください。
このアルバムに共通するテーマは、僕たちが抱えているペースの速い労働文化に対する一般的な不安感、達成や他人との競争社会における無力感、ソーシャルメディアと現実の生活との断絶、そして“非生産的”なときにいつも感じる罪悪感、みたいなものなんだ。そういった全ての根底には、混沌とした中で僕たちを取り囲んでいて、当たり前だと思っちゃってる自然の存在がある!僕たちはみんな、たまたま“意識”を持つようになったサルで、浮遊する岩の上でなんとかやっていこうとしてるだけなんだってことを忘れがちだよね。
バンドが迎えた新たなフェーズ
-滝田優樹:制作上でブレイクスルーになった曲やSubsonic Eyeにとって最も変化を感じさせる楽曲はどれでしょうか? 理由も併せて教えてください。
特定のブレイクスルーになった曲っていうのはないと思うんだけど、むしろこのアルバム全体が、僕たちにとってすごくスムーズで自信に満ちた作曲プロセスだったっていう事実そのものかな。以前のアルバムではまだ多少の不確かさがあったのに比べて、僕たちの核となるサウンドが何なのかについて全員が同じ認識を持てているのは素晴らしいことだよ。これはある意味、僕たちのこのサウンドに関しては、これが僕たちが出せるベストなもので、そろそろ他のことを探求する時期に来ているっていうサインなのかもしれないね。
リスナーへのメッセージ
-滝田優樹:『Singapore Dreaming』をどのような人に聴いてほしいですか? もしくはどのようなシチュエーションで聴いてほしいですか?
基本的には大都市に住んでいる人たちを思い浮かべていたかな。というのも、僕たち自身がそういう人間だからね。僕たちは運転しないし、いつも歩いたり、電車やバスに乗ったりして移動してる。だから僕の頭の中では、このアルバムは移動中に聴くもの、そんな風に捉えて聴いてもらえるんじゃないかって思ってるんだ。でももちろん、それでもアナログ盤は買ってほしいな(笑)!
-滝田優樹:最後に、『Singapore Dreaming』は日本の音楽ファンもきっとあなたたちの音楽を気に入るはずです! その人たちに向けて、メッセージをください。
二つの言葉…またすぐに会いましょう 😉
Subsonic Eyeアルバムリリース
5thアルバム『Singapore Dreaming』
発売日: 2025年6月11日
収録曲:
1. Aku Cemas
2. Why Am I Here
3. Sweet
4. My iPhone Screen
5. Overgrown
6. Lost
7. Being Productive
8. Situations
9. Brace
10. Blue Mountains
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Subsonic Eyeプロフィール
シンガポールの5人組バンドであるSubsonic Eyeは、10年足らずでジャングルポップ、インディーポップの分野で豊富なディスコグラフィーを確立した。2023年のアルバム『All Around You』では、都市環境と自然界の絡み合いへの新たな認識とともに、特徴的な歯切れの良いフックを洗練させた。彼らは常に自然とその周辺環境に魅了され、音楽の多くを環境への賛美に捧げてきた。5枚目のアルバム『Singapore Dreaming』は、彼らの故郷であるシンガポールをより焦点の定まったレンズを通して中心に据えている。『All Around You』が強烈な世界に触発された複雑な感情と向き合う空間であったのに対し、『Singapore Dreaming』はその強烈な世界そのものであり、エネルギッシュな都市の文脈を、緊張感を帯びたストレートでポップな楽曲を通して解釈したものである。新たなビジョンにもかかわらず、魅惑的な音の壁、キャッチーなリフ、軽快なリズム、完璧なタイミングでのパンチといった特徴的な要素は健在であり、ボーカルNur Wahidahの夢のような声が全体をまとめている。
ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky