最終更新: 2025年6月24日

沈黙は、時に何よりも雄弁な詩となり得る。SILENT POETS(サイレント・ポエツ)と名乗り、言葉を持たないインストゥルメンタルからキャリアをスタートさせた下田法晴。

ゲーム『DEATH STRANDING』への楽曲提供で、その名がさらに広く知れ渡ったSILENT POETSが、7年ぶりとなるアルバム『HOPE』を完成させた。

この7年間、世界は大きく揺れ動き、彼自身も様々な困難を経験したという。そうした中で生まれた本作は、これまでの静かで穏やかイメージを更新する、明確な意志とメッセージを持った作品となった。

ガザ在住のシンガーをフィーチャーするなど、社会的なテーマにも果敢に踏み込んだ意欲作である。

SILENT POETSはいかにして『HOPE』へとたどり着いたのか?その軌跡と、音楽に託したメッセージについて語ってもらった。

SILENT POETSの原点と哲学


アーティスト:下田法晴 インタビュアー:Tomohiro Yabe(yabori)

沈黙が詩になるとき

-Tomohiro Yabe:私たちとは初めてのインタビューになりますので、基本的なところから伺いたいと思います。まずは、SILENT POETSというアーティスト名で活動されている理由について教えてください。また、この名前にはどんな意味がありますか?
下田法晴:結成当初、インストのバンドであった為、言葉を持たずに詩的なものを音で表現するという意味合いで、この名前にしました。もっとルーツを辿れば、私自身が子供の頃から人と話すのが苦手な無口な人間で「SILENT」という単語には、特別な思い入れがありました。そんな自分が、何かを表現するにあたり、SILENT POETSという名前はとてもしっくりきました。ただ、時代が変わり、まさに現状、SILENT、沈黙という単語が、ある意味ネガティブなイメージを持ってしまった感があります。しかし、今作は、それを意識こそしていませんが、払拭するかのような、雄弁な作品になりました。

バンドからソロユニットへ

-Tomohiro Yabe:もともとSILENT POETSは、1991年に結成されたインストレゲエ・バンドを母体にしていたそうですね。そこから、2000年に下田さんのソロユニットになったそうですが、これにはどのようないきさつがあり、今のような活動スタイルになったのでしょうか?
下田法晴:80年代の終わりに武蔵野美術大学の学生だった私は、友人に誘われ、ドラマーとして、NEW WAVEやJAZZ的なサウンドのバンドに参加しました。それを経て、レゲエのカバーバンドを結成し、その後、インストのレゲエ、DUBを中心にしたサウンドに移行したのがSILENT POETSの原型となります。そして、90年代初頭HIP-HOPやHOUSEなどの打ち込み、サンプリングのサウンドへと興味が広がる中で、同時期に現れたブリストルサウンドにもシンパシーを感じ、影響されながら、より自由な表現を求めバンド形態から二名の打ち込み中心のユニットへとなりました。そこから約8年の活動を経て、メンバーの春野が脱退し、現在のソロユニットという形になりました。

ミニマリズムの美学

-Tomohiro Yabe:下田さんは“POET MEETS DUBWISE”というオリジナルブランドを展開し、デザインをされていますね。制作された衣服のデザインを見させて頂いたのですが、余白があって洗練されたデザインが印象的です。ミニマムであるということは、SILENT POETSの音楽においても重要な要素だと思いますか?
下田法晴:このブランドは、グラフィックデザイナーであり、ミュージシャンでもある自分の感覚、経験から、模索しながら実験しながら進めているもので、SILENT POETSがインディペンデント性を重視した音楽制作や活動を行う上での、財源的な役割としても機能しています。

ミニマムというのは自分の創作において基本のようなもので、もちろんSILENT POETSの音楽の重要な要素だと思います。そもそも作曲において音楽的なセオリーも何も持っていなかったので、ミニマムにならざるを得ませんでした。むしろその制限の中で、自分らしい個性を出せる方法を探ることが、SILENT POETSを成長させたのだと思います。今回はそのミニマムさを従来よりバージョンアップできたと思っています。変則的であったり、色づいていたり、抑揚があったり、メリハリがあったりするのを感じてもらえたら嬉しいです。

音楽的ルーツを辿る

新作『HOPE』に繋がる3枚のアルバム

-Tomohiro Yabe:私たちは音楽の“ルーツ”というコンセプトを大切にしている音楽メディアです。SILENT POETSの音楽的ルーツとなったアルバムを3枚教えていただけますか?また、それぞれどのような影響を受けられましたか?各アルバムにエピソードがあれば教えてください。

下田法晴:たくさんあって3枚選ぶというのはとても難しいので、その中でも今回のアルバムにつながる3枚を選んでみました。

MUTE BEAT『Still Echo』
MUTE BEATは、SILENT POETSを始める直接的なきっかけとなり多大な影響を受けた唯一無二の存在。当時、DUBエンジニアを内包する日本のインスト・レゲエ・バンドに世界に通用する可能性を感じました。残念ながら解散するも、今でも大きな存在として残っています。今回のアルバムには、前作『dawn』に続き、元MUTE BEATのこだま和文と、初期ドラマーで、のちにシンプリー・レッドのドラマーにもなった屋敷豪太が参加しています。

SPECIAL AKA『In The Studio』
このアルバムは反レイシズムのアンセムとも言うべき、たとえ友人や家族であってもレイシストであれば容認すべきではないという「Racist Friend」や南アフリカの人種隔離政策アパルトヘイトの解放運動で投獄されていたネルソン・マンデラの釈放を訴えた「Nelson Mandela」、82年にベイルートでパレスチナ難民が虐殺されたサブラー・シャティーラ事件を受けて書かれた「War Crimes」も収録されていて、社会に対するメッセージ、政治的なメッセージを持ったアルバムであり、音楽的な素晴らしさと共に自分の音楽性や思考に深く浸透し根付いた作品で、今回のアルバムの制作中にも何度も聴き返した作品です。5曲目の「Why?」は正にオマージュと言える曲となっています。

NEW AGE STEPPERS『Foundation Steppers』
NEW AGE STEPPERSは、パンクで音楽に目覚めた自分がパンクからダブへ進化する過程でとても重要だった存在。レゲエがこんなにも洗練されエッジの効いた音楽にもなり得るのだと感じた、いわゆるジャマイカ的レゲエではないレゲエ、ダブのパイオニア的存在として影響を受けました。
特にこのアルバムは一番のフェイバリットです。MIXのエイドリアン・シャーウッドは今回のアルバムの2曲目「Hope」のボーカリストのデニス・シャーウッドの父親です。

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