最終更新: 2025年6月24日
音楽で伝える抵抗と希望
ガザへの想いを込めた「Struggle」
-Tomohiro Yabe:「Struggle」では、ガザ在住のシンガー、Amalさんのボイスサンプルが使用されています。原摩利彦さんとの出会いから実現したとのことですが、彼女の声を起用した理由と、この楽曲に込めたメッセージについて教えてください。
下田法晴:アルバム制作を始めて間も無く、ガザでのジェノサイドが始まりました。これは長年に渡る不当な占領であり、アパルトヘイト政策であり、明らかなジェノサイド、民族浄化だと思いました。そんな中で、せめて自分にできる事として、デモに参加したり、署名したり、寄付したり、SNS上で発信したりする中で、直接、ガザ在住の人たちからメッセージが届くようになりました。今もやりとりを続けています。その流れで、同じように活動されてた音楽家の原さんと出会って、彼がチャリティの楽曲制作の為にAmalさんの家族から提供を受けた歌声のデータを、私にも提供してくれたんです。私もちょうどその時、制作中に起きたこの非人道的行為に対して、表現者として沈黙したくなかったので、ガザをテーマにしたこの曲のトラックを作っていたところで、当事者の声や歌を入れられたらと思っていたところでした。そして偶然にも歌とトラックが絶妙にマッチしたんです。そして、さらに私の心の師でもあり、同じくパレスチナ解放に言及し続けているトランペッターのこだま和文さんに参加していただきました。この曲は、長年の不当な占領や暴力に対して、自分たちの故郷と尊厳を守るために、抵抗し闘うことを強いられ続けてきた悲しみ、苦しみ、怒りを表現した曲です。あくまでも報復や暴力を助長する意味ではなく、抵抗運動としてのStruggleです。
収益の一部寄付に込めた想い
-Tomohiro Yabe:今作の収益の一部を“国境なき医師団”へ寄付されるとのことですが、この決断に至った理由や、そこに込められた思いについて教えてください。
下田法晴:ガザの住人と直接やり取りする中で、食糧や医療の問題が大きな事は痛いほど伝わってきて、少数の方に限って個人的に支援もしていますが、人数も継続するのも限界があります。もちろんSILENT POETSの規模の収益など微々たるものかも知れませんが、寄付をするという行為を一人でも多くの人に周知してもらい、関心を持ってもらう事も必要だと考えました。どうか後に続いて欲しいと思います。ウクライナの紛争の時にも、今回のガザの初期段階にも“国境なき医師団”には寄付をしましたが、活動内容にとても感銘を受けて、信頼できるし、即効性もあると思うのでここを選びました。
アルバムタイトル『HOPE』
-Tomohiro Yabe:アルバムタイトルを『HOPE』とされた理由、そしてこのタイトルに込められた意味について教えてください。
下田法晴:パンデミック、紛争、虐殺、政治不信、気候危機、差別、ヘイト、誰もが希望を失うような事が次々に起り続けています。そんな中で、日常でも、日々人それぞれに何かしら問題を抱えて生きていかなければならない。私自身、この数年間、もちろん喜びもありましたが、怒りや悲しみ、大きなストレスの中で生きてきました。そこで感じたのは、やはりどんな困難な状況でも希望を捨ててはいけないという事。自分の事も社会のことも、諦めてはいけないという事。思うようにいかず、しんどいけど、一歩ずつでも希望を持って前を向いて進むしかないのだと。もちろん皆さんに向けて、そして自分自身を鼓舞する為にも、あえてこの使い古された“希望”という言葉を選びました。この年齢になって、ようやく“希望”とか“勇気”とか、若い頃は恥ずかしいと思っていた言葉をストレートに自然に言えるようになりました。
今、このアルバムを届けたい人々へ
-Tomohiro Yabe:この『HOPE』というアルバムを、どのような人々に聴いてほしいと思いますか?
下田法晴:聴いてくれるならば、誰でも歓迎します。そして前の質問と被りますが、困難の中にいる人、問題を抱えた人、何かと闘っている人、自分の事も社会のことも諦めかけている人の顔が見えます。これは大なり小なり殆どの人に当てはまるかも知れません。また、純粋に音楽として、サウンドとして楽しむ事も可能な作品だとも思います。何より、これまで長年SILENT POETSを聴いてくれていた人たちはもちろんですが、いまだ音楽に政治や思想を持ち込むな的な意見が根強くあるので、今回の変化をどう受け止めてくれるのだろうか、きっと冷笑や揶揄はあるだろうと予想しつつ、期待と不安が入り混じっています。あえてこのような考えを音楽と共にはっきり打ち出すのはとても勇気が必要でしたから、是非皆さんの意見を聞いてみたいです。
SILENT POETSアルバムリリース
ニューアルバム『HOPE』
発売日: 2025年6月25日
収録曲:
1. Chariot I Plead feat. Tim Smith
2. Hope feat. Denise Sherwood
3. Sending Rockets to (tha) Moons feat. Ursula Rucker
4. Rise Up feat. Salami Rose Joe Louis
5. Why? feat. Killa P
6. Something Kind feat. Lady Blackbird
7. Liberty Piano
8. Journey feat. LSK
9. Other feat. maassai
10. Struggle feat. Kazufumi Kodama
11. Money for War faet. Ranking Ann
12. Bystander to History
13. Lost and Found
14. Almost Nothing (Timeless piano mix) feat. Okay Kaya
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SILENT POETSプロフィール
下田法晴のソロ・プロジェクトである。1992年にデビューし、ダブとブレイクビーツを基盤とした映像的なサウンドで独自の音楽世界を築いてきた。海外レーベルからもリリースされ、世界的な評価を得る。2005年に活動休止するも、2013年に自身のレーベルを設立し活動を再開。2018年のアルバム『dawn』収録曲がゲーム『DEATH STRANDING』に使用され、再び世界的な注目を集めた。2025年、7年ぶりとなるアルバム『HOPE』をリリース。本作は、紛争や社会不安が渦巻く現代において「希望」をテーマに、国内外の多彩なアーティストと共作。挫折と再生、社会への抵抗と連帯へのメッセージを込めた作品である。
ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori