最終更新: 2025年7月13日

誰かの帰りを待ちわびるような気持ち。

インディー・ロック・シーンにおいて、Jay Somことメリナ・ドゥテルテの6年にわたるアルバムリリースの空白期間は、まさにそんな心境にさせるものだった。

思えば、私がインディー・ロック、特に女性アーティストの作品を積極的に聴くようになったきっかけの一つが、彼女の楽曲「Tenderness」だった。

あのどこか懐かしく繊細でありながら、芯のあるサウンドは、私の音楽体験を確実に豊かにしてくれた。

だから、6年ぶりとなる新作アルバムの知らせ、そして『Belong』というタイトルを目にした時、まるで自分のことのように心が揺さぶられた。無視できるはずがないタイトルだ。

これは、彼女のリリースに歓喜するのと同時に、私たち自身の“インディー”の“居場所”をめぐる物語でもあるのだから。

Jay Somが見つけた新たな“居場所”

撮影:Daniel Topete

Jay Somに惹かれ続ける理由

Jay Somの音楽には、常にパーソナルな手触りと、子守唄を聴くかのような懐かしさ、聴き手を優しく包み込むような普遍性が同居していた。

かつて“ベッドルームポップ”という言葉で表されたその音楽は、メリナ・ドゥテルテという一人の人間の内省から生まれながら、多くの人々の心象風景に寄り添うサウンドスケープを描き出してきた。

2019年の傑作『Anak Ko』以降、彼女は自身のプロジェクトを一時的に離れ、プロデューサーやツアーミュージシャンとして多忙な日々を送っていた。

特にboygeniusのグラミー受賞作『the record』やboygeniusのメンバーでもあるルーシー・ダカスの作品にプロダクションで関わるなど、その才能はシーンの最前線で鳴り響いていた。

しかし、だからこそ私たちは待ち望んでいた。彼女自身の言葉で、彼女自身の音で語られる、新しいJay Somのアルバムを。

『Belong』というタイトルに込められた想い


そして届けられたのが、10月10日にリリースされる新作アルバム『Belong』だ。このタイトルは、まさに彼女がこの6年間で直面してきた問いそのものだという。

「インディーロックのエコシステム(生態系)の中で、自分はどこに属しているのか」。

この問いは私たちが“BELONG”という音楽メディアを立ち上げたときにも同じことを感じていた。

プロデューサーとしての成功、様々なアーティストとのコラボレーションという華やかな経験の裏で、彼女は自身のアイデンティティと“Jay Somであること”の意味を探求していた。

その葛藤と探求の軌跡が、このアルバムには刻まれている。それは、キャリアや人生の岐路に立つ誰もが共感しうるテーマでもある。

2000年代エモと現代インディーの交差点

先行曲「Float」が鳴らす、懐かしくて新しいサウンド

アルバムの発表と同時に公開された新曲「Float (feat. Jim Adkins)」は、今回のJay Somのモードを雄弁に物語っている。

イントロのギターリフが鳴った瞬間、思わず胸が高鳴るように。

そこには、メリナが10代の頃に夢中になったという2000年代初頭のポップパンクやエモの衝動的な熱量と、彼女特有のドリーミーな浮遊感がバランス良く共存している。

まさに、私が思っていた“インディーの良いとこ取りでありながら、洗練されているけど、程よく粗さが残っている”という印象そのものだ。

Jimmy Eat Worldのジム・アドキンス(Vo./Gt.)をゲストに迎えるという選択も、このサウンドへの確信を裏付けている。

過去の自分を手放すことへの恐怖と、それでも前に進もうとする意志を歌ったこの曲は、懐かしさと新しさが交差する、本作のハイライトの一つとなるだろう。

ヘイリー・ウィリアムスも参加、開かれたコラボレーション

本作『Belong』は、これまで頑なに守られてきた“Jay Somはメリナのソロプロジェクト”という定義を、彼女自身がしなやかに更新している。

ジム・アドキンスに加え、Paramoreのヘイリー・ウィリアムス、Mini Treesのレクシー・ベガといった豪華なゲストボーカルが参加。

つまり、どうしようもないくらいの注目作である。

さらに、追い打ちをかけるようにジョアン・ゴンザレス (Soft Glas)やMal Hauserといった気鋭のミュージシャンたちとの共同作業によって、サウンドはよりオープンでダイナミックなものへと進化した。

この変化は、他者との関わりの中で自分自身を再確認していく、というアルバムのテーマとも深くリンクしている。

信頼できる仲間たちに身を委ねることで、Jay Somはかつてないほど豊かなレイヤーの音の世界を獲得したのだ。

リリースとツアー情報

Jay Somアルバムリリース

ニューアルバム『Belong』

発売日: 2025年10月10日
収録曲:
1. Cards On The Table
2. Float (feat. Jim Adkins)
3. What You Need
4. Appointments
5. Drop A
6. Past Lives (feat. Hayley Williams)
7. D.H.
8. Casino Stars
9. Meander/Sprouting Wings
10. A Million Reasons Why
11. Want It All
bandcampで見る

ワールドツアー日程

現在、Lucy Dacusとの北米ツアーに続き、秋にはPitchfork Music Festivalへの出演を含むヨーロッパツアー、そして冬には北米ヘッドラインツアーが発表されている。

現時点で日本公演の発表はないが、これだけの規模のツアーが組まれていることを考えると、今後のアナウンスに期待せずにはいられない。

UK/EU Tour Dates:
01/11 – Amsterdam, NE @ London Calling – Paradiso
03/11 – Berlin, DE @ Kantine am Berghain
05/11 – Paris, France @ Pitchfork Paris – Le Trabendo
06/11 – Brussels, BE @ Botanique, Rotonde
08/11 – London, UK @ Pitchfork London

US Tour Dates:
23/11 – Los Angeles, CA @ El Rey
02/12 – Austin, TX @ The Parish
03/12 – Dallas, TX @ Club Dada
05/12 – Atlanta, GA @ Aisle 5
06/12 – Nashville, TN @ The Mill
08/12 – Washington, DC @ Atlantis
09/12 – Philadelphia, PA @ Foundry
11/12 – New York, NY @ Warsaw
12/12 – Pittsburgh, PA @ Spirit Hall
13/12 – Chicago, IL @ Lincoln Hall
14/12 – Minneapolis, MN @ Fine Line

Jay Somプロフィール

撮影:Daniel Topete
Jay SomことMelina Duterteによるソロ・プロジェクトである。 2019年の評論家から評価されたアルバム『Anak Ko』のリリース後、6年間の活動休止期間に入る。その間、彼女はプロデューサーとしての情熱を追求し、boygeniusのグラミー受賞作『the record』やLucy Dacusの作品などを手掛けた。また、boygeniusのツアーメンバーとしても活動した。6年ぶりとなる本作『Belong』は、Hayley WilliamsやJimmy Eat WorldのJim Adkinsなどをゲストに迎え、インディーロックシーンにおける自身の居場所を探求する作品となっている。

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ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
Tomohiro Yabe
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・​後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻

これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。

過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。

それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。

現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。

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Twitter:@boriboriyabori