最終更新: 2025年7月22日
私が海外の音楽を聴き始めた頃、ポストパンクというジャンルは、どこか近寄りがたい、それでいて抗えない魅力を持っていた。
Joy Divisionが体現したような、閉塞感や内省的な苦悩を映し出す、冷たくて鋭いサウンド。
それは確かに、行き場のない感情を抱えた私の心を鷲掴みにし、過去にはBloc Partyにどハマりした。
しかし、時を経て、数え切れないほどのバンドと出会う中で、いつしかその“暗さ”や“反骨精神”だけがポストパンクの全てではないと知るようになった。
そして今、インドネシアでポスト・パンクは独自の進化を遂げようとしている。
マランを拠点に活動するポストパンク・トリオ、Pillhs Castle(ピルズ・キャッスル)。
彼らが2025年7月18日にリリースした新曲「Left Behind」は、まさに私がこのジャンルに感じていた可能性をとらえた一曲だった。
この曲は、ポストパンクというフィルターを通して、これまであまり語られてこなかっ“揺るぎない献身”を、ストレートに、そして美しく描き出している。
Pillhs Castleとは?
Pillhs Castleは、ナンド・セプティアン(Vo.)、トーキス・ワラダン(Gt.)、そしてレオ(Dr.)からなる3人組だ。
彼らは自らの音楽について、“ポストパンクの暗くエネルギッシュな外見の下に隠された、脆さ、誠実さ、そして愛の永続的な力”を表現したいと語る。
その言葉を体現するのが、新曲「Left Behind」である。
新曲「Left Behind」について
新曲「Left Behind」が描くのは、過去の恋愛や移ろいやすい関係性に別れを告げ、たった一人の人間を“唯一の真実の愛”として選ぶ決意の物語だ。
“I love her, there will be no others here / I’ve leave behind the games of love / And with a simple words, I’ll say it clear / She is my choice” (彼女を愛している、ここに他の誰もいない / 愛のゲームは置き去りにしてきた / シンプルな言葉で、はっきり言おう / 彼女こそが僕の選択だ)
これらのフレーズは、飾り気がないからこそ、聴き手の胸に深く突き刺さる。
“置き去り”にすることを選んだ、ただ一つの光
「Left Behind」というタイトルは示唆的だ。“置き去りにされる”という受動的な悲しみではなく、“置き去りにしていく”という能動的な決意。
それは、より大切なものを選ぶために、何かを捨てるということは表裏一体なのである。
この曲を聴いていると、まるでモノクロームの映画のワンシーンが浮かんでくる。
薄暗い教会で、過去の思い出を一つずつ箱にしまい、新しい朝の光が差し込む窓辺に立つ一人の人間の姿。
その表情には、不安よりもむしろ、清々しいほどの覚悟が満ちている。
楽曲全体を包む繊細なシンセサイザーのレイヤーは、その心の風景に奥行きを与えている。
それは、ポストパンクが持つ本来の冷たさではなく、夜明け前の静けさのような、温かみを帯びた空気感を生み出しているのだ。
インディーレーベルOrdo Nocturnoからの挑戦
本作は、インディペンデントレーベルであるOrdo Nocturnoからリリースされた。
このレーベルは、商業的な成功だけを追い求めるのではなく、アーティストが持つ独自のビジョンや誠実な表現を尊重する、インディーシーンの良心とも言える存在だ。
Pillhs Castleのようなバンドが、こうしたレーベルのサポートを得て、自らの信じる音楽を世界に発信しているという事実は、我々インディー音楽ファンにとって大きな希望である。
これは、私たちが持つポストパンクというジャンルの固定観念への“挑戦”なのだ。
EP制作も進行中
「Left Behind」は、単独のシングルに留まらない。
バンドは現在、次なる作品となるEPの制作に取り組んでいるという。
この一曲で示された彼らの音楽的な探求が、EP全体でどのように表現されるのか、期待は高まるばかりだ。
この曲を聴いて、あなたが抱いていた“ポスト・パンク観”に変化はあっただろうか。
そんな問いを、Pillhs Castleは我々に投げかけている。
彼らが鳴らすのは、従来通りの音楽ではなく、私たち自身の人生と愛についての物語を映し出す、誠実な鏡のようなポスト・パンクだ。
ぜひ一度、その耳でPillhs Castleが鳴らす音楽を確かめてみてほしい。
リリース情報
Pillhs Castle
New Single 「Left Behind」
2025年7月18日リリース
レーベル: Ordo Nocturno
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ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori