最終更新: 2025年8月11日

過去作品を振り返る音楽性の変遷

Songs of Innocence & Experience DYGL

秋山:今思えば、2ndアルバム(『Songs of Innocence & Experience』)はサイケデリックというか、60年代や70年代を振り返るような作品を作っていたんですよね。3rdアルバム(『A Daze In A Haze』)はかなりポップパンクを意識したし、4th(『Thirst』)は説明するのが難しいと思っていたけど、今改めて考えてみればエモと音響的なアンビエントが混ざったものが中心にあったのかなと。で、今回、制作中はポストパンクの箱は別にあったから”これはポストパンク括りのアルバムじゃない”と思っていたけど、比較なしにアルバム単体で考えると、ポストパンクの要素はちゃんとあって。ガレージロック、クラシックロック的なものとポストパンクの間、みたいな音楽性だと思います。

下中:結局ポストパンクのようなグルーヴはありますね。かなり参考にしています。

-まりりん:今までのDYGLの作品を振り返ると、曲単体ではストレートなロックナンバーは定期的にあるイメージでしたが、作品全体で一貫したものは意外になかったと思います。2月に「Just Another Day」がリリースされた時、複数の友人から”DYGLの新曲、今一番ロックしているよね”という話を聞きました。

秋山:ここに来て初期衝動が(笑)。

アルバムタイトルと”ファーストアルバム”としての意味

『Who’s in the House?』に込められた意図

-まりりん:そういう、ストレートなロックの部分が抽出されたアルバムという印象はありました。今回のアルバムタイトルが『Who’s in the House?』で、最後の収録曲「Who’s in My House?」からきていますよね。アルバムの軸となる曲の一つでもあると思いますが、このタイトルにしたのはどういう意図があるのでしょうか?

秋山:タイトルは色々と候補を考えていたんです。『Thirst』の時なんかは、全体の雰囲気から歌詞の引用ではないタイトルをつけたいと思って選んでいたんですけど、『A Daze In A Haze』みたいに歌詞から取っていたこともあって。でも、意外と曲名から取ったタイトルがないなと思ったのと、今回はすごくシンプルで素直なアルバムとも言えるので、仰々しい名前も違うな、と。なるべく既に手元にあるものから付けたいけど、示唆的で、音としても意味としても考えさせられるような名前がいいなと思っていたら、この曲名がすごくアルバムのタイトルのようだと感じたんです。”My”と”The”だけ変えているんですけどね。

-まりりん:曲名が”My”で、アルバムタイトルが”The”なんですね。この”My”を”The”に変えたのはなぜですか?

秋山:ちょっとした遊びですね。ただそのまま持ってきただけじゃつまらないかなと思って。意味も少し変わりますし、”The”にすると、より映画のタイトルっぽくなるかな、と。曲名の方がより親密というか、自分の話をしている感じがしますけど、”The”にすると、主語が色々なものに置き換えられるかなと思って。

5枚目だけどファーストアルバム

撮影:Yukitaka Amemiya
-まりりん:いただいた資料に、メンバーの皆さんが”5枚目だけどファーストアルバム”というようなことを書かれていて。これはどういう部分で、新生DYGLとしての1枚目だと感じているのでしょうか?”ようやく、ドンと出せるものができました”という達成感なのか、それともまた違う意図があるのか。

秋山:昨日、それについて考えていたんですけど、どちらとも言えるかなと。これまでの4枚がなかったことになるわけではないし、ライブでも演奏するし、今聴き返して改めて気付くこともある。バンド名は変わらずDYGLで、完全に新しいバンドというわけでもない。でも、ずっとDYGLとしてやりたかった感覚、バンドとしてこういう曲を書いてみたいと探し続けていたのが、1枚目から4枚目までの旅であって、”ようやくこの感覚かもしれない”と思えたのが今作なんです。だから、新生DYGLとしての1枚目とも言えるし、4枚を経てようやく自信を持って出せる5作目ができたとも言えますね。

-まりりん:今までの4枚を経て、ゴールにたどり着いたというよりは、ようやくスタート地点を見つけた、というような感覚ですか?

秋山:”ようやく感”はありますね。”第2章”というよりは、地続きではあるんですけど…なんと言うんですかね。

嘉本:スター・ウォーズで言うと、4、5、6から始まって、今1が来たということでしょ。

下中:そういうことね。エピソード4がファーストアルバムの『Say Goodbye to Memory Den』だっていう。

秋山:とは言えそれだとこのアルバムの先にまた過去が来ることになるからややこしいことになってくるな(笑)

嘉本:スズケン(鈴木)がかなりガッツリ制作に入ったのが初めてだったので、そういう意味でも新鮮でした。

鈴木:一昨日のライブのMCで秋山が言っていたのは、”ファーストアルバムより前のEPでやっていたことが、当初バンドでやりたかったことで。でも1枚目のアルバムを作る時に、気合が入りすぎて、当時納得はしたけど、EPで感じていた感覚のままでは作れなかった。そのまま旅が続いて、今回のアルバムでようやく初期EPの時のようなやり方ができたから、ある意味で1枚目なんです”っていう内容でした。

秋山:(笑)。(鈴木の説明は)本当にMCで言った通りすぎて、もはや俺自身の声で聴こえたんで、何も付け足せません(笑)。最初のEPの時は本当に何も考えていなくて、その先バンドをどれぐらい続けるのかも明確じゃなかったし、とりあえずやろう、という感じでした。そういう自由さが今回のアルバム制作にもあったかなと思います。

初期EPからの変遷と回帰

-まりりん:最初のEPの時は、皆さんにとってバンドとしてレコーディングすること自体が初めてだったんですか?

秋山:その前にシングル的なカセットを作ったりはしていたので、レコーディング経験はありました。ただ、”アルバム”となると、すごく大きいものだと捉えていて。実際大きいのかもしれないけど、気持ちの面でそっちに持っていかれすぎていたのはあるかなと思います。ファーストアルバム制作後も、その気持をずっと引きずっていた感じでした。いろいろな時間と経験を経て、4thで全部自分たちでマイクを立てるところからアルバムを作りきる経験をして、そこで一先ず満足したところがあると思います。”アルバムを大げさに作らないといけない”という考えから解放されて、自分たちの核となる部分をなるべく調理しすぎずに自然にそのままパッケージにする方が楽しいし、早いし、むしろ理想の質感になる、ということを今回は経験しましたね。

鈴木健人の本格参加

撮影:Yukitaka Amemiya

-まりりん:鈴木さんが本格的に制作に入るようになったのは、どういうきっかけだったのでしょうか?やはり、あのセッションがきっかけで?

鈴木:そうですね。ライブのリハでセッションをやって、その日は既存曲の練習を一切しないで、セッションだけで終わったんです。それが楽しかったし、後で聴いたらどれもすごく良くて。その勢いのまま、制作に参加するようになって。ちょうどりんご音楽祭があったので、”楽しそうだし、全曲セッションで作った曲をやろう”となって。

秋山:そうだね。あのタイミングでりんご音楽祭があったのは絶妙だったよね。

鈴木:りんご音楽祭のライブで、もし新曲を1曲だけ混ぜるとか、今まで通り既存曲でライブをやろう、ってなっていたら、このアルバムは多分できていなかったと思います。

秋山:あれが他のフェスだったら、また違った感じだっただろうね。りんご音楽祭なら受け入れてくれそうな感じがしたから。

鈴木:実際、お客さんも”面白いことやってるな”という雰囲気で迎えてくれて。

-まりりん:全曲新曲のセットリストって、今までのDYGLのイメージにはなかったですもんね。

鈴木:そこでお客さんも盛り上がってくれて、全部新曲だけど好感触で受け止めてもらえたからアルバムにできた、というのもあるだろうし、いろんな偶然が重なっていますよね。

秋山:あれでみんなが棒立ちだったら、全曲ボツだったかもしれないね(笑)。

アルバムへの想いとメッセージ

撮影:Yukitaka Amemiya

四六時中、みんなに聴いてほしい

-まりりん:今回のインタビューの締めになりますが、このアルバムをもちろんたくさんの人に聴いていただきたいと思うのですが、特に”こういう人に聴いてほしい””こういう時に聴いてほしい”というのはありますか?

秋山:四六時中、みんなに聴いてほしいです。今までずっとDYGLを聴いてくれていた人たちにも聴いてほしいですし、DYGLを知らなかった人にも聴いてほしい。同じことを言いますが、四六時中、みんなに聴いてほしいアルバムです。

鈴木:DYGLを知らなかったり、興味がなかったりする人にこそ聴いてほしいですね。あと、ドライブに合うと思います。超ありきたりですけど、車で聴くのがすごく良いです。

下中:「This Minute」に限って言えば、東京で聴いたら良さそうだよね。地下鉄とか。

鈴木:僕らは地下鉄で聴くか。

下中:本当にみんなに聴いてほしいな。昔、新宿の居酒屋で働いていた全く世界の違う方がいたのですが、その人にDYGLを始めたばかりの頃に聴いてもらったことがあるんです。”もっと速い曲作らないの?”と言われたことがあって。そういう方の感想を聴くのが好きなんです。

秋山:いい人だったよね。

下中:めっちゃ良い人だったので、聴いてもらうことができた。だから、みんなに聴いてもらって、好きに感想を言ってもらえたらいいなと思います。悪口は言われたくないですけど。

優しい人たちに囲まれた現在、そして未来への展望

-まりりん:そういう悪口のようなものって、届いたりするんですか?

下中:DYGLは本当にありがたいことに、悪口はあんまり見ないです。もし僕らが、仮にもっと色々な人に届くようになったら、言われるのかもしれないですけど。

秋山:言われるくらいのところまで行きたいよね。

下中:そうだね。

秋山:優しい人たちに囲まれているので。コンフォートゾーンを飛び出していくと…。音楽的なことだったり、フェアな批評は大歓迎です。俺らが歓迎しようがしまいがみんな好き勝手言うべきです。意味不明な罵詈雑言はまだ浴びせられていないですが、そういう次元まで行ったら、それはもう次のフェーズに来たということで、それもまた成長の証ですね。Twitter(X)をそっと閉じるスキルは必要になってくるかもしれませんが(笑)。

下中:そういう悪口って、求めていないのに自分の生活に入り込んでくる瞬間に、人って言いたくなるイメージがあるんですよ。有名になったアーティストとかタレントって、ただ生活しているだけで目に入ってくるからなんかこいつ気に食わないなって言いたくなる、みたいな。僕らはまだそこまでいっていないので、平和です。だから、みんなに聴いてほしいです。

フィジカルリリースへの想い

-まりりん:アルバムについて、これだけは言っておきたいことはありますか?

秋山:CDとレコード、どちらも出そうと思っています。発売日にCDを出して、ツアーのタイミングでレコードも出したいなと。フィジカルならではの楽しさがあるので、もし良ければ手に取って、買ってほしいな、と思います。

DYGLアルバムリリース

5thアルバム『Who’s in the House?』

発売日: 2025年8月13日
収録曲:
1. Big Dream
2. Just Another Day
3. Do You Really Want To
4. Everyday Conversation
5. Let Me In
6. 101
7. Man on the Run
8. This Minute
9. Who’s in My House?
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DYGLプロフィール


DYGLは秋山信樹(Vo, Gt)、下中洋介(Gt)、加地洋太朗(Ba)、嘉本康平(Dr)からなる日本の4人組ロックバンドである。2012年に大学のサークル内で結成された。バンド名は「蛍光色」や「安っぽくて派手」を意味する「Dayglo」に由来する。2017年、The Strokesのアルバート・ハモンドJr.をプロデューサーに迎え、1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』を発表。以来、国内外で精力的に活動を続けている。2025年8月にリリースされる5thアルバム『Who’s in the House?』は、全曲が一発録りでレコーディングされており、よりライブ感のある生々しい質感を追求した、バンドの新章を告げる作品である。

DYGL ライブ情報


イベント名:DYGL “Who’s in the House?” TOUR
日程:
・9月15日(月・祝):金沢|KANAZAWA AZ
・9月17日(水):愛知|NAGOYA CLUB QUATTRO
・9月18日(木):大阪|UMEDA CLUB QUATTRO
・9月23日(火・祝):新潟|CLUB RIVERST
・9月26日(金):東京|SHIBUYA Spotify O-EAST
・10月01日(水):北海道|SAPPORO cube garden
・10月19日(日):福岡|The Voodoo Lounge
・10月23日(木):香川|TAKAMATSU TOONICE
・10月24日(金):京都|磔磔
・10月26日(日):横浜|F.A.D YOKOHAMA

料金:スタンディング一般前売 ¥5,000(税込/別途ドリンク代)
チケット:
ぴあ https://w.pia.jp/t/dygl-fall2025/
イープラス https://eplus.jp/sf/search?block=true&keyword=DYGL&kogyo=217915

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まりりん(@Igor_Bilic)
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音楽イベントの企画運営やメディアでの取材を手掛ける音楽好き。

DaisyBarでのスタッフ経験を経て、個人企画“SECOND SUMMER OF LOVE”を主催。

ライターとしてはBELONG MediaでSuchmosやYkiki Beat、Never Young Beachなどのインタビューを刊行。

さらに、レコード会社での新人発掘、メジャーレーベルでの経験を背景に、多角的な視点で音楽シーンを追い続ける。

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