最終更新: 2025年9月20日

レビュアーRAMの視点から


私はBELONG Media/A-Indieのクロスレビューを執筆するという、素晴らしい機会をいただいた。

この試みにおける私のパートナーは、滝田さん。私が尽きない興味を寄せる国、日本に住む人物だ。

そしておそらく、私の故郷ブエノスアイレスから、最も遠い場所にいる人でもある。

私が彼の存在を知ったのは、yaboriを介してのことだった。yaboriは滝田さんについて語り、彼が紡いだ文章の断片を私に見せてくれた。

息を呑むようなインタビューの数々を手がけることに没頭していた時期を経て、彼は再びアルバムレビューの世界に戻ろうとしていた。

yaboriが見せてくれた彼のインタビュー記事は、どれもこれも私の顎を床に落とすほどの衝撃を与えずにはおかなかった。

彼への深い尊敬の念を胸に、私はこのレビューに取り掛かった。私たちの視点が、いったいどのように交差し、あるいは離れてゆくのだろうか。そのことに、特別な好奇心を抱きながら。

『Racing Mount Pleasant』レビュー(RAM)

移ろいとは、多くの場合、複雑な過程を辿るもの。

ミシガン州アナーバー出身の7人組グループ、Racing Mount Pleasantが、その名を改め、セカンド・アルバムをリリースした。

かつて’Kingfisher’として知られたこのバンドは、オーケストラの要素と、オルタナティブ・ロックと評されることの多いギター・アレンジメント、その質感が織りなすサウンドに、根を下ろしていた。

セルフタイトルが冠された本作で、Racing Mount Pleasantはその礎の上にサウンドをさらに深化させ、聴く者を“移ろい”としか名付けようのない場所へと誘う、深く、そして空気のようなサウンドスケープを創り上げた。

記憶の奥底に眠る光景

このレコードを何度聴いたことだろう。そのたびに、私の記憶の奥底に眠る光景が、まるで映画のワンシーンのように立ち現れてくるのだ。「今あるもの」と「これからなるもの」の、その狭間にある時間。

冬が、春へと溶け込むことをためらうように。
夜が、朝の訪れに道を譲ることをためらうように。

どんな服をまとっても、気まぐれな空模様の前ではいつも見当違いになってしまう、そんな日々のことだ。
行く先が見えない中で、前へと歩みを進めるのは容易ではない。現在に、あるいは過去に固執してしまうのは、時の流れに対するあまりにも自然な反応だろう。

人は、留まることを知らない。愛する人を失い、友は恋に落ちては破れ、生きるという過程の中で、いつしか見知らぬ誰かになってしまうこともある。

「移ろい」に捧げる讚美歌

このアルバムは、そうした数々の「移ろい」に捧げられた、一つの讚美歌のように私には感じられる。

手放さなければならないと知りながら、それでも明日を抱きしめなければならない、そんな時に。
あまりにも長く続いた夜に、もう眠りにつかなければならないのだと告げるように。

季節が巡るように。
愛が枯れては、また芽吹くように。
映画のコマが、次へ、また次へと、絶え間なく移り変わってゆくように。

Racing Mount Pleasantは、私たちに一つのサウンドトラックを与えてくれる。絶えず流れ続ける人生の中で、ふと立ち止まり、深く息を吸い込み、そして未来が待つであろう場所へと歩き出すための。その幕開けに、私たちがどんな役割を演じることになるのか、自ら見つけ出すための時間を残しながら。

かつてあったものから目を背けることなく、しかしそれを未来へと携えて、これから訪れるものと向き合うために。

デザイン:つでん
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Racing Mount Pleasantアルバムリリース

Racing Mount Pleasant『Racing Mount Pleasant』

2ndアルバム『Racing Mount Pleasant』

発売日: 2025年8月15日
収録曲:
1. Your New Place
2. Teenspeed (Shallows)
3. Heavy Red
4. Emily
5. Seminary
6. You
7. You Pt. 2
8. Racing Mount Pleasant
9. Call It Easy
10. Outlast
11. 34th Floor
12. Seyburn
13. Your Old Place
Amazonで見る

Racing Mount Pleasantプロフィール


Racing Mount Pleasant(旧Kingfisher)は、ミシガン州アナーバー出身のインディーバンドである。ミシガン大学で結成され、2022年11月にデビューアルバム『Grip Your Fist, I’m Heaven Bound』をリリース。2025年4月にバンド名をRacing Mount Pleasantに変更し、同年8月に同名のセルフタイトルアルバムを発表した。彼らの音楽スタイルは、フォークの親密さ、シューゲイザーのダイナミクス、エレクトロニカの細部、ジャズとクラシカルクロスオーバーのアレンジメントを組み合わせている。Bon Iver、Lord Huron、Black Country, New Roadなどと比較される独特のサウンドを持つ。

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky

ライター:RAM

アルゼンチン国立芸術大学で音楽作曲を学ぶ学生。文章を書くこと、音楽の発見、そして音楽を共有し関わることに情熱を注いでいます。また、ソフトウェア開発者としても働いています。
ウェブサイト:
Instagram:@ramcst