最終更新: 2025年10月9日

アルバムの構造とこだわり

クレジット:pexels

完璧な曲順への探求

-滝田優樹:また今作は、プロダクションとオーディオ・エンジニアリングとしての経験が反映された作品で、近年まれに見るアルバムフォーマットを大切にしている作品であるだと思っています。具体的には曲順です。多様なサウンドを展開する楽曲が並ぶ中、さまざまな曲順でアルバムを聴いてみました。1曲目から曲順どおりに、6曲目から聴いてみたり、ランダムに聴いてみたり。色々と試しましたが、ベストだと思ったのはやはり1曲目から曲順どおりに聴いた時だったんです(「Cards On The Table」から「Float (feat. Jim Adkins)」の繋がりなんか特に最高です!)。近年の他のアーティストのアルバム作品はミックステープ的な側面が強くなっていて、曲単位で粒立っていてアルバム作品である意味があまりなくなってきている気がします。その良さもあるのですが、あなたの今回の作品はアルバム単位で聴いてこそ真価を発揮する作品です。そこに一番の興奮を得たのですが、曲順にはどのような工夫をしましたか?また、アルバム作品を制作する上でのこだわりや考えはどういったものだったのか教えてください。

わあ、はい、細部にまで注目してくれて本当にありがとう!最近の新しいアルバムでは、シングルだけを聴いたり、1曲だけに集中したりしちゃうことは確かにあるの…アルバムのプロモーション期間中にシングルが溢れかえっていて、それに気を取られないようにするのはかなり難しいもの。

曲順はアルバムのすごく重要な部分だったけど、決めるのは5分くらいの出来事だった。共同プロデューサーのジョアン・ゴンザレスと私は、シークエンシングについて全く同じ考えを持っているの。最初のトラックは注意を引くものであるべきだけど、同時に聴き手をその旅に備えさせ、自分の世界に引き込むものでなければならない。2曲目か3曲目は最も強力なシングルであるべき。自分のお気に入りや最も実験的なものではなくて、最も注意を引き、誰もが繰り返し聴けるようなアクセスしやすいトラックね。残りは、A面の終わりとB面の始まりで心地よく感じるかどうか。B面では、より実験的でダークなトラックを配置しやすいと思う。最後から2番目のトラックは、最後のトラックと同じくらい重要。正直に言うと、流れとムードの点では、Radioheadの『In Rainbows』の曲順を直接モデルにしてもいるの。

アルバムが厳密にエモだと思われるんじゃないかと少し心配だったから、オープナーとして「Cards」から始めて、よりエモやオルタナティブロックな曲を散りばめるのが理にかなっていた。

ブレイクスルーとなった楽曲


-滝田優樹:今回のアルバムであなた自身のブレイクスルーとなった楽曲、もしくは最も変化や進化を感じさせる楽曲はどれですか?個人的にはやはり「Cards On The Table」が再生された瞬間に無限の小宇宙が広がり、これからどんな音楽が展開されるのかわくわくする楽曲でした。

同感!「Cards」は私にとっても今でもブレイクスルーとなった曲だと思うし、聴くたびにワクワクする。時々、少し耳障りで奇妙だと感じることもあるけど、この曲には自信と前向きさがあって、それが好きなの。楽器を過剰にプロセスして、プロダクションで思いっきりやるのはすごく楽しかった。スピードアップしたりスローダウンしたりした楽器やボーカルがたくさん入ってる。それは、友達との対立を乗り越えることや、人生に出入りする人々の終わりのないサイクルという曲のテーマの性質にも合っているのよね。

外部プロデューサーとの協働

-滝田優樹:今作は久しぶりにJay Somというプロジェクトにおけるプロデューサーとして制作を進められた作品です。それと同時にJay Som作品としては初めて外部プロデューサーであるKyle Pulleyとタッグを組んだ作品でもありますが、これはどういった経緯で実現したのでしょうか?そして彼との制作はどのような話し合いが持たれたのでしょうか。

カイルがアルバムのプロセスに参加したのは実は後の方で、チームに最後に加わったプロデューサーだったの。彼は以前からファンでいてくれて、過去に私のためにプロダクションの仕事をやらないかと親切に申し出てくれていた。最終的にLAでのセッションで会って、すぐに友達になったの。彼はまた、私が苦労していたいくつかのトラックをすぐに理解してくれて、レコードの多くの曲に重要な要素を加えてくれた。カイルは彼の決意とサポートで、私がゴールにたどり着くのを手伝うために、期待以上のことをしてくれたし、私のプロセスに対しても繊細で敬意を払ってくれた。彼は私のボーカルをもっと聴かせたいと強調していて、私がインストゥルメンタルのパッセージを置くだけにしていたセクションにもっと歌詞やメロディーを入れることをためらわないようにしてくれたの。

ジョアンについても同じことが言えるわね。彼については何ページも書けるくらい。曲作り、デモ、トラッキング、1ヶ月にわたるミキシング、感情の爆発、自己不信、祝福、そして幸福感、その全ての段階で彼はそばにいてくれた。自分の頭の中から抜け出すのを手伝ってくれる、こんなにクールな人たちがたくさんいたことは、信じられないほど幸運だと感じてる。同じ部屋で他の誰かがあなたと一緒に、あるいはあなたのために創造してくれることのインパクトを感じるのは、心強く、ほとんどパワフルなことだった。

居場所を見つけること

他者に居場所を与える作品

-滝田優樹:「自分がインディーロックという生態系の中でどこに属するのか」といった問いかけは内省的なもので、自分の居場所を探し、孤独と向き合ったと思います。今作の制作においては他者との関わりの中で自分自身を再確認していくことになったとも思うのですが、『Belong』という作品は他者との関わりに身をゆだねた先に生まれたものだと感じました。つまり、あなた自身の居場所を探した結果、他者にも居場所を与えるような作品になっていると思います。間違いなく私にとってはこの作品は、最高の居場所になっています。私たち、”BELONG Media”もインディー音楽のファンの居場所になれたらという意味を込めた名前なのですが、居場所を作るということをどれくらい意識して制作されましたか?

ええ、まさにその通りね。そして、これは先ほど答えたあなたの質問にも通じること。このアルバムを体験する誰もが、取り残されたり、混乱したり、傷ついたり、怖がったりする普遍的な経験に共感してくれることを願ってる。彼らが自分自身の”belonging(所属)”の定義と、それが彼らにとって何を意味するのかを自分自身で所有できることを振り返り、思い出してくれることを願っているの。それは人それぞれ違うから。

届けたい人々へ

撮影:Daniel Topete
-滝田優樹:『Belong』をどのような人に聴いてて欲しい、どのような人に届いて欲しいと思いますか?

^^上の答えと似ているけど、昔からのJay Somのファンに届いてほしいし、新しいファンにも届いてほしいと思ってる。私は今31歳だから、人生を理解しようとする初期段階のサウンドトラックを必要としているかもしれない新しい世代の若者たちにも届いて、つながることができたらいいなと思ってる。

日本のリスナーへのメッセージ

-滝田優樹:私たちを含め、あなたの音楽が大好きで、来日公演をとても楽しみにしている日本の音楽ファンがたくさんいます。なので、最後に日本のリスナーにメッセージをいただけますか?

日本に戻るのが本当に楽しみ!毎日そのことを考えてるし、どこでライブをするのが一番楽しみかと聞かれると、いつも日本って答えるの。魔法のようで、特別な場所で、人々が温かくて歓迎してくれるところが大好き。そこでライブをするのが待ちきれない。日本の聴き手はすごく敬意を払ってくれるし、協力的だと思う。日本のファンが大好きで、みんなの元に戻るのを楽しみにしているの!

インタビューしてくれてありがとう。<3 - メリナ

Jay Somアルバムリリース

ニューアルバム『Belong』

発売日: 2025年10月10日
収録曲:
1. Cards On The Table
2. Float (feat. Jim Adkins)
3. What You Need
4. Appointments
5. Drop A
6. Past Lives (feat. Hayley Williams)
7. D.H.
8. Casino Stars
9. Meander/Sprouting Wings
10. A Million Reasons Why
11. Want It All
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Jay Somプロフィール

撮影:Daniel Topete
Jay SomことMelina Duterteによるソロ・プロジェクトである。2019年の評論家から評価されたアルバム『Anak Ko』のリリース後、6年間の活動休止期間に入る。その間、彼女はプロデューサーとしての情熱を追求し、boygeniusのグラミー受賞作『the record』やLucy Dacusの作品などを手掛けた。また、boygeniusのツアーメンバーとしても活動した。6年ぶりとなる本作『Belong』は、Hayley WilliamsやJimmy Eat WorldのJim Adkinsなどをゲストに迎え、インディーロックシーンにおける自身の居場所を探求する作品となっている。

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky