最終更新: 2025年11月16日
Jay Somとの共同制作

プロデューサーとしてのJay Som
-滝田優樹:最新作『Liquorice』ではJay Somがプロデューサーとしてクレジットされています。彼女にはどのような経緯でプロデュースを依頼したのでしょうか。また、彼女とはどのような話し合いや展望を持って楽曲制作を進められていたのでしょうか。印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
メリナは本当に優しくて面白くて、とても仕事がしやすかった。私たちがLAの彼女のスタジオに曲を持って行った時には、曲はほぼ完全に書き上がっていたんだけど、仕上げのプロダクションで何が必要か、彼女なら理解してくれるってわかってた。誰と仕事をするか決める段階で、ビデオ通話を通じて彼女に会ったの。その時、プロジェクトの初期にJay Somの曲「Superbike」が大きなインスピレーションになったって話したら、メリナは「Superbike」のほうが実は私たち(Hatchie)の音楽に影響されたんだよって言ってくれて!だから、最初から本当に美しい繋がりを感じていたのよね。
部外者としての共感と創作
-滝田優樹:Jay Somについてもう1つお聞きします。先日リリースされた彼女の『Belong』という作品は”自分がインディーロックという生態系の中でどこに属するのか”といった問いかけだとインタビューで教えてくれました。あなたの最新作『Liquorice』は”自分自身と再び繋がり、一人で考え事をする時間を持てたことから生まれた”とのことで、どちらの作品も自分と向き合った内省的な部分で共通していますが、アルバム制作時にはそういったメンタリティーの話もJay Somとしていたりしたのでしょうか。
そうね、特定のアーティストを優遇したり、ストリーミングの数で成功を定義したりするような業界からは、断絶を感じやすいものよ。私たちが時々”部外者”のように感じるっていう感覚を共有できたから、彼女との仕事が大好きだったんだと思う。私たちは楽しんで、世間的に”成功”すると思われるものではなくて、自分たちが聴くのが大好きなアルバムを作ることに集中したの。もし大きなアーティストたちに起きていることを無視して、自分が楽しめる音楽を作ることができたら、それはずっと意味のある経験になると思う。

アルバム『Liquorice』
タイトルに込められた意味
-滝田優樹:最新作『Liquorice』について、”Liquorice”というタイトルにした理由や意味を教えてください。どのようなフィーリングや雰囲気が反映されているのでしょうか。
ええと、それは「Liquorice」っていう曲から始まったの。その曲はキスを”リコリス・キス”って表現しているんだけど、これは私なりのフレンチキスの描写だったのよね…。あと、このアルバムを作っている間、リコリスティー(甘草茶)をたくさん飲んでいたし、その言葉が呼び起こすイメージや感覚が気に入ってるの。リコリスはひねりが効いていて、塩辛くて甘くて、予測不可能。愛みたいにね。
悲劇的なロマンス映画からのインスピレーション
-滝田優樹:今回のアルバムは大好きな悲劇的なロマンスの映画にインスパイアされたそうですが、その映画についてやどのような部分にインスパイアされたのか教えてもらえますか? 答えにくければアルバム制作時に聴いていた音楽作品や観ていた映画、触れていたアート作品を教えてください。
ええ、特にジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』と、ナタリー・ウッドとウォーレン・ベイティが出演している『草原の輝き』が大好きなの。この2つの映画は、若い頃に観た時、本当にショックを受けたわ。ロマンス映画がこんなにも衝撃的だなんて知らなかった!これらが私の愛に対する見方を変えたの。今、年を重ねて、人生で多くの失恋を経験したからこそ、なぜこれらの映画がこんなに効果的で、60年経った今でもこんなに的確なのかがよくわかる。ロマンスって、本当に感情のジェットコースターみたい!それから、リチャード・リンクレイター監督の『ビフォア・サンセット』や『ビフォア・サンライズ』シリーズにもすごくインスパイアされたわ。これらは、憧れや愛の儚さを本当に正確に描いていると思う。
サウンドの進化と制作のこだわり
ギターサウンドへの回帰
-滝田優樹:今回のアルバムのサウンドは、これまでの楽曲のようにCocteau TwinsやPale Saints系譜のドリームポップサウンドも残しつつも、靄が晴れるような力強く鮮明なサウンドがとても印象的でした。そういったところは今回ミックスを担当したAlex Farrarやマスタリングを担当したGreg Obisと意識的に進めた形なのでしょうか。サウンド面で意識されたことやポイントに置いていたことがあれば教えてください。
ありがとう!私はただ、最終的なプロダクトが可能な限りデモ音源に近いサウンドになることを望んでいたの。曲はシンプルだけど豊かで、温かくて、心地よいものにしたかった。ギターに焦点を当てて、私のEP『Sugar & Spice』で最初に確立したサウンドに戻りたかったのよね。
即興的に撮影されたアルバムジャケット
-滝田優樹:ご自身の顔をアップで撮影されたアルバムジャケットも印象的でした。小さなデジタルカメラで裏庭で即興的に撮影されたそうですが、このアイデアはどのように思いついたのでしょうか。テーマやコンセプトがあれば教えてください。
ええ!夫のジョーが撮ってくれたの。さっき説明したこと、つまり温かくて、感情を呼び起こし、遊び心があって、魅力的なもの、そういったものに合うシンプルなものが欲しかっただけなの。カバー用に撮った写真がいくつかあったんだけど、ちょっと冷たくてポーズを取りすぎている感じがしたから、代わりに裏庭でさっと写真を撮ってみたのよね。
ブレイクスルーとなった楽曲
-滝田優樹:ダンサブルで機械的な楽曲が多かった前作から今回はギターサウンドが全面的に出ていて肉体的な印象が強いです。今回のアルバムであなた自身のブレイクスルーとなった楽曲、もしくは最も変化や進化を感じさせる楽曲はどれですか? 個人的には「Liquorice」が1番変化を感じました。
難しいわね。「Liquorice」か「Only One Laughing」が、書いた時に一番新鮮でエキサイティングだと感じた曲だと思う。ボーカルやギターで新しいアイディアを試すことをためらわなかったし、楽器の構成は本当にシンプルだけど、今聴いても一番面白い曲だわ。
リスナーへのメッセージ
-滝田優樹:『Liquorice』をどのような人に聞いてほしいですか? もしくはどのようなシチュエーションで聞いてほしいですか? 歌詞やサウンド面で特に注目してほしいポイントがあれば教えてください。
どうかしら、私はいつも自分の音楽が映画やテレビで使われることを想像するのが好きなの。私の音楽はとても映画的だと思うし、歌詞を聴いたり理解したりしなくても、それぞれの曲が音で物語を伝えていると思うから。自分の音楽を世界と共有することはとても無防備な感じがするけど、その音楽の中にある無邪気さや脆さこそが、人々が共感してくれる部分だと思うわ!
-滝田優樹:あなたの音楽が大好きで、来日公演を楽しみにしている日本の音楽ファンも多いです。なので、最後に日本のリスナーにメッセージを頂けますか?
近いうちにあなたの美しい国でツアーができることを願っているわ!サポートありがとう!
Hatchieアルバムリリース
3rdアルバム『Liquorice』
発売日: 2025年11月7日
収録曲:
1. Anemoia
2. Only One Laughing
3. Liquorice
4. Carousel
5. Sage
6. Someone Else’s News
7. Wonder
8. Lose It Again
9. Anchor
10. Part That Bleeds
11. Stuck
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Hatchieプロフィール

Hatchieはオーストラリア・ブリスベン出身のHarriette Pilbeamによるソロ・プロジェクトである。2018年にEP『Sugar & Spice』でデビューし、収録曲「Sleep」がPitchforkのベスト・ニュー・トラックに選出された。2019年にはファースト・アルバム『Keepsake』をリリースし、各メディアから高評価を獲得。Japanese Breakfast、Beach House、Kylie Minogue等と共演し、Pitchfork ParisやPrimavera等の大型フェスティヴァルにも出演した。2022年にはJorge Elbrechtプロデュースによるセカンド・アルバム『Giving The World Away』をSecretly Canadianよりリリース。2025年11月には、Jay Som(Melina Duterte)をプロデューサーに迎えた3rdアルバム『Liquorice』をリリースする。
ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky












