最終更新: 2025年12月6日

こんにちは!BELONG Media編集部です。

前回の記事では、キックボードやクレーンゲームといった意外なトピックで盛り上がった私たち。”共通点はART-SCHOOLとThe Novembersだけ?”なんて言っていましたが、今回のテーマは”推したい映画”です。

果たして、映画の話なら共通点は見つかるのか?yabori、滝田、まりりんの3人が、それぞれの”推したい映画”を持ち寄りました。

参加者:yabori(司会)、滝田、まりりん イラスト原画:フリダシ太郎

日本橋ヨヲコの漫画——ちょっとした痛みと救いを描く表現力

yabori
yabori
じゃあ、ここまでそれぞれの最近、気になったことの話で、ピースボートのポスターとアンパンマンミュージアムで起きた喧嘩の話で盛り上がったんやけど(笑)。じゃあ、まりりんさんの気になったこと教えて。
日本橋ヨヲコっていう漫画家がいて。『少女ファイト』っていうバレーボールの漫画が一番有名な人なんですけど。その人の新連載が9月くらいに始まってたのを、この間気づいて読み始めたんですけど。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
初めて聞く名前や!
日本橋ヨヲコがすごい好きなんですよ。この人の絵柄もすごい癖があって、線が太くて。絵柄だけで読んでみようとはあまりならない感じなんです。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
絵で好き嫌いが分かれるタイプの作者なんかな。
そうです。パッと見では面白そう!とあまりならない絵柄なんですけど、でも、この人の話は全部よくて。で、新しく始まった連載が『喫茶牢獄』なんですけど、主人公の女の子がパニック障害を持ってるんです。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
そういう話の漫画なんや。
私も一年くらい前に適応障害だったので、パニック障害で家から出られないみたいな表現に共感しながら読んでたんですけど。ちょっとした人の心の痛みと、ちょっとした他の人からの関わりで、それが和らいでいく——支えるというほどでもないですけど、ちょっとだけ救われるみたいな。そういうのを表現するのが、めちゃくちゃうまいんです。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
結構リアルなんだ、じゃあその描写とかが。
そうですね。作者本人も適応障害になったって言ってたので、それもあるとは思うんですけど。でも、リアルだからいいっていうわけでもないんですよね。リアルな上でさらにプラスアルファで、読んだ後にすごく”人と人の関わりって捨てちゃいけないな”みたいな。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
考えさせられるような内容ってことか。
考えさせられるし、私は読んでて救われますね、この人の漫画。
まりりん
まりりん
日本橋ヨヲコは知ってました。絵が日本の漫画だなっていうような感じだったので、絵の特徴で覚えてましたけど、読んだことなかったので、読んでみたいですね。
滝田
滝田
ちょっと手を出しづらい絵柄なんですよね。女の子が主人公なんですけど、可愛らしい女の子たちじゃないので。だから表紙から入るのが割とハードルが高いんです。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
なるほど、チェックしてみよう。全然知らなかったわ。

『夜明けのすべて』——パニック障害を描いた三宅唱監督の傑作

今の話を聞いて思い出したんですけど、去年のベスト10の映画にも入れた『夜明けのすべて』っていう日本の映画があって。それの題材もパニック障害の描写があったんで、ちょっと似てるところもあったなと思って。
滝田
滝田
yabori
yabori
『夜明けのすべて』って劇場予告で見たけど、本編は見れてなかったな。

松村北斗と上白石萌音の日本映画なんですけど、光の差し方がすごく計算されてて。太陽の差し方とか影の演出がすごく良くて。題材もパニック障害や月経前症候群(PMS)の影響っていうところで。それをどう克服していくのかっていうより、ちゃんとそれと付き合って生きていくっていう。
滝田
滝田
yabori
yabori
そういう内容だったんや。
パニック障害の男性とPMSの女性の掛け合いが、笑えるところもありつつ、涙が出るような感動するところもありつつ、みたいな。内容としても、画としても、すごく良かったです。
滝田
滝田
監督は三宅唱でしたっけ。
まりりん
まりりん
そうです。やっぱり三宅唱すごいなって思いましたね。北海道の監督っていうのもあって、余計好きなんですけど。
滝田
滝田
yabori
yabori
この人も結構名前聞くね、三宅唱って。
『ケイコ 目を澄まして』とか『きみの鳥はうたえる』とか、評価高いですね。この人の映画はハズレがないなっていう感じです。
滝田
滝田

推したい映画(1)『ぼくのお日さま』——奥山大史監督が描く、北国の少年少女の成長物語

yabori
yabori
じゃあそろそろ、推したい映画の話をしようか。今回はまりりんさんから行ってみよう。
推したい映画で、まず私、”人に勧めたい映画リスト”っていうのがあるんですけど、その中から一番直近でこのリストに追加されたのをご紹介しようと思って。それが『ぼくのお日さま』という映画です。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
見たよ!滝田くんも見たんじゃない?
そうです、僕も『ぼくのお日さま』にしようかなと思ったんですけど、もう一個用意してます。
滝田
滝田
みんな見てるんだったら別にいいかも……。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
いやいや、せっかくやからそれでいこう。本当に良かったもんね。
そう、本当に良かったんですよね!奥山大史監督は、前作の『僕はイエス様が嫌い』で、もう結構評価が高かったので、その時から知ってはいたんですけど。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
前作から評価されてたんやね。
ここにいる3人は見てるから、あらすじは知ってると思うんですけど、記事で読んでくれる人に向けて、ざっくり言うと——北海道の吃音症の男の子が、フィギュアスケートのアイスダンスを通じて、少し年上の女の子と出会って、成長していく話です。雪が降って、積もって、溶けて、春になるまでの物語なんですけど。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
そうやったね。
とにかく、話もいいし、映像も美しいんですけど、全ての画に何一つの無駄もなく。芸術性と商業的なわかりやすさが、すごくいいバランスで同居している映画だなと思っていて。アートに特化すると、わからないし、伝わらないし、”わかる人だけわかればいい”みたいになりがちじゃないですか。
まりりん
まりりん
yabori
yabori
アートあるあるやね。
それは作る側のエゴであって、奥山監督は”絶対に全部、すべて伝えたいことは伝える”っていうのが、すべてのカットに詰まっているなと感じています。個人的には、日本映画の中で頭一つ抜けた作品だなというふうに思っています。
まりりん
まりりん

yabori
yabori
滝田くん、これ見てどうだった?
やられましたね、すごい。僕は北海道の苫小牧なので、小学校の授業とかで校庭にリンク作って、氷を張ってスケートやってたんですけど。
滝田
滝田
yabori
yabori
北海道っぽい!
で、男の子って、僕の時代だと、ホッケー用のスケートの靴を履いてたりするんですよ。で、女の子はフィギュア用のスケートの靴を履くんですけど。男の子がそれを履いてると、時代もあって、ちょっと馬鹿にされるみたいなところもあったりするんで。
滝田
滝田
yabori
yabori
本当に映画であったみたいなことがあるんや。
あれぐらいの年代の男の子がアイスダンスをやるっていうところだと、多分、憚られるところっていうのもあるのかなって思いつつ。そこもちゃんと描かれてるっていうのが、僕としては自分の経験と重なった部分がありました。
滝田
滝田
yabori
yabori
なるほど。
やっぱり、さっきの『夜明けのすべて』と重なるんですけど、日の光の入り方がすごい。監督もこだわってやったみたいなんですけど、そこでやられちゃいましたね。本当に画として綺麗だったんで、それだけで楽しめたというか。
滝田
滝田
yabori
yabori
アイスリンクは印象的やったな。
雪のシーンもそうですけど、3人で外で楽しみながらスケートしてるシーンも良かったですけど、やっぱりスケートリンクの中でパーっと光が差して、アイスダンスやってるっていうのが、もうなんか、ずっとこれ見てたいって感じでした。しかも、あの女性の方、実際にアイスダンスやってて、この間入賞してましたね。
滝田
滝田
yabori
yabori
あー、本当にスケートやってる人らしいね。
そうですね。女優にフィギュアスケートを習ってもらうつもりで、最初はオーディションやってたらしいんですけど。それだと、この求めている”ダンスを踊ってるところを見て恋に落ちる”っていうフィギュアのレベルにはならないっていうので、アイスリンクに募集のポスターを貼って。それで応募してきたのが、さくら役の中西希亜良ちゃんだったらしいです。
まりりん
まりりん
たしか、祖父がなかにし礼なんですよね。そういう繋がりがあったにせよ、あの人じゃないとできなかったっていうのが、すごいですね。あの2人だから、あそこまで神秘的っていうか、心打たれる作品になったっていうのは間違いないです。
滝田
滝田

推したい映画(2)『イノセント・ガーデン』——パク・チャヌク監督のサイコスリラー

yabori
yabori
じゃあ次、滝田くん行こうか。
そうですね、僕も推したい映画、友達に聞かれること多いんで、まとめてたんですよ。でも、これ10年以上前にメモで作ったやつで、100タイトルぐらいあって。
滝田
滝田
yabori
yabori
100タイトルも!
そうですね。推したい映画って言われた時に、かなり迷ったんですけど、そのリストを見てふと思い出したのが、『イノセント・ガーデン』っていう映画があって。
滝田
滝田
yabori
yabori
『イノセント・ガーデン』? 初めて聞いた。
監督が韓国のパク・チャヌクで、『オールド・ボーイ』の監督です。
滝田
滝田
『イノセント・ガーデン』のタイトルは聞いたことあるけど、どんな話でしたっけっていう感じですね。見たことはないです。
まりりん
まりりん

そうですね。これは、内容全部話しちゃうと、ネタバレになって楽しめないと思うんで、ざっくり話しますね。ジャンルとしてはサイコスリラーなんですけど、18歳の女の子が主人公で、そこでほのぼの暮らしているところに、叔父が現れて、そこからなんか不穏な雰囲気だなみたいな感じで物語が進んでいくって感じなんですけど。
滝田
滝田
yabori
yabori
そういう話なんや。
さっきの『ぼくのお日さま』ぐらい無垢な感じではないんですけど、画としてはカラフルというか、白が貴重で、かつ”ガーデン”っていうぐらいなんで、色味があって、っていう綺麗な描写が印象的で。やっぱり最後の、血の、なんていうんですかね、”あんなに綺麗な血があるんだ”みたいな感じで終わるんですけど、それが印象的でした。
滝田
滝田
yabori
yabori
なるほどね。
あと、割とその、僕の映画の原体験が、ART-SCHOOLやThe Novembersとか、彼らのおすすめの作品から派生していったところにあって。そこから発展して、自分で見つけて好きになった映画の、多分一番最初のやつって『イノセント・ガーデン』だなと思って、推したい映画に選びました。
滝田
滝田
yabori
yabori
ART-SCHOOLの理樹さんも映画マニアやもんね。
本当に、僕、『オールド・ボーイ』から入って、パク・チャヌクを知って、で、その監督の新作が出るって感じで——2013年公開なんですけど——映画館では見れなくて、TSUTAYAでDVDを借りて見て、衝撃を受けたっていうことです。
滝田
滝田

推したい映画(3)『アネット』——レオス・カラックス監督のロックオペラミュージカル

yabori
yabori
ということで、最後に自分の推したい映画の話するわ。二人とも、『アネット』って映画知ってる?
あ、はい。『アネット』は、僕、あの監督が大好きなので。やっぱり映画って、これぐらい大げさにやるべきだなっていうのを、最近再認識した映画ではあります。
滝田
滝田
yabori
yabori
まりりんさんは知ってる?
知ってるけど、見れてはないです。
まりりん
まりりん

yabori
yabori
『スター・ウォーズ』でカイロ・レン役だったアダム・ドライバーが主役で出てるんやけど、まあ、一言で言うと——意味の分からん悪趣味なクソ映画なんよ。本当にクソ映画なんやけど、これは一年に1回は見たいっていう!
中毒性ありますよね。
滝田
滝田
yabori
yabori
そうやな。アダム・ドライバーが、アネットっていう、どっからどう見ても人形を、我が子のように育てるっていう、バカみたいなミュージカルなんやけど(笑)。

yabori
yabori
Sparksが音楽を担当してて。最初、Sparksが音楽やってるから、どんなもんだろうなって、内容知らずに見に行って、”なんじゃこりゃ”って。さっきも滝田くんも言ってるけど、”こんなのアリ?”って展開で終わるんやけど。まあ、そういう映画で、結構これに影響されたなって。この前、AIキャラクター作ったんだけど——あれは『アネット』の影響が強かった。
あ、なるほど。『アネット』感ありますね。
滝田
滝田
yabori
yabori
アリアとプニポンってキャラクターでやってたけど、一番最初は『アネット』だったからね(笑)。アネットがNHKのチコちゃんみたいに、BELONGに対していろいろ生意気なことを言う、みたいなことを考えてて。で、それがまあいろいろ変わって、アリアとプニポンに落ち着いたんやけど。まあ、それぐらい影響されたね。面白いと思って。

そうですね。僕も、レオス・カラックスは人生の3本に入る映画の一つを作った監督ですし。
滝田
滝田
yabori
yabori
そんな好きなんや。
はい。『ポンヌフの恋人』と『汚れた血』、どっちも選べないぐらい好きなんですけど、その監督が久しぶりに出した映画が『アネット』で、僕も見ましたけど。ハチャメチャですけど、映画でしかできないし、レオス・カラックスだから許される、っていう。最初のオープニングからもう、仰々しさっていうか、”これから俺様の映画やるぜ”みたいな感じで。
滝田
滝田
レオス・カラックスだと、多分そうでしょうね。
まりりん
まりりん
タランティーノとかもタイトルからかっこいいじゃないですか、『A Band Apart』みたいにロゴが出て、映画が始まるみたいな。もう音楽もすごかったですけど、そのオープニングから興奮して。映画だけども、オペラとか舞台を見てるような、生々しさもありつつ、でした。140分あったんですね。でも、なんか、あっという間な気がしましたね。
滝田
滝田
yabori
yabori
クソ映画やけど、1年に1回は見たくなるっていう映画は、なかなかないよ、本当に。
『アネット』は、ここ数年の映画でも、なんていうんですか、高評価ってわけじゃないですけど、トピックとしてはすごいですよね。リアーナにもオファーを出したみたいですね。断られたみたいですけど。
滝田
滝田
yabori
yabori
めちゃくちゃ攻めるやん、それ。それもそれで面白いけどさ。
そうですね。これ、リアーナ出てたら、もっとどんな感じになってたのかっていう。
滝田
滝田

編集後記


さて、いかがでしたか?

“推したい映画”というテーマで3人が持ち寄った作品は、まりりんが『ぼくのお日さま』、滝田が『イノセント・ガーデン』、yaboriが『アネット』。

日本映画、韓国映画、フランス映画と、いい感じにバラけた3作品。でも、どれも”画の美しさ”や”映画でしかできない表現”を追求した、監督の強烈な個性が光る作品でした。

“共通点はART-SCHOOLとThe Novembersだけ”なんて言っていましたが、映画の話になると、あっさり『ぼくのお日さま』を3人とも観ていたようで、意外と語り合えるものですね。

次回のテーマは”推したい漫画”。まりりんの膨大な漫画ストックから、一体どんな作品が飛び出すのか……?BELONG Mediaのスタッフたちが繰り広げる、ゆるくて深い対談。次回もお楽しみに!

次回予告:”推したい漫画”特集。滝田くんの人生3本に入る漫画とは?まりりんさんの”人に勧めたい漫画リスト”から厳選された作品とは?ご期待ください!

BELONG Media編集部

インディーロックを中心に日本や欧米、アジアの音楽を取り上げる音楽専門メディア。“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。

2021年、J-WAVEのSONAR MUSICににゲスト出演。2022年、英語版姉妹サイトA-indieを開設。

編集部メンバーの栄養源は、主にシューゲイザーやドリームポップから得ています。

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