最終更新: 2025年12月17日
滝田優樹の視点から

第4弾となるクロスレビュー企画は、アイルランドのJust Mustard(ジャスト・マスタード)による3枚目のアルバム『We Were Just Here』。
今回は私が彼らにメールインタビューを行い、アルゼンチン在住のRAMとクロスレビューを行うこととなった。
インタビューは後日公開のため、乞うご期待を。
私が音楽を聴いていて興奮するポイントは明確に2つある。
自分の想像をこえた音やビート

ひとつ目は、自分の想像をこえた音やビートであること。
自分の趣味嗜好にあてはまる音楽を自覚的にあるいは無自覚に選んで聴いた際には、自ずとどのような着地になるのかだいたいの想像はつく。
それだけだと音楽に対する関心は好きか好きじゃないかになってしまうもので、そこからの発展がなくなってしまいがちだ。
一方で、自分のなかにはなかった展開や新たな切り口での音やリズムが耳から頭に伝わった瞬間に感動を覚える。
そこには可能性しかないからだ。新しい音楽の発見となるとともに新しい自分を発見するきっかけにもなる。
わかりやすくポストパンクという音楽ジャンルを例に挙げると、ロンドンパンクの流れを引き継ぎつつファンクやレゲエ、ダブ、民族音楽、クラウトロックなどを取り入れながら発展した音楽ジャンルだ。
ロンドンパンクからそれらの音楽の接続は可能性や裾野を広げただけでなく、ルーツの異なるジャンルを参照して発展したことは革命であり、発明だ。
そういった発明がアーティスト単位、アルバム、曲単位でなされることがある。
私はポストパンクというジャンルからファンクやレゲエ、ダブといった音楽に興味をもちはじめることにも繋がった。
別の音楽作品を思い浮かべること
ふたつ目は、別の音楽作品を思い浮かべることだ。
ひとつ目の興奮ポイントとアンビバレントとなりつつも、鳴らされているサウンドやビートのリファレンスに気づけること、わかることも喜びだ。
その作品自体の文脈や系統を知れることは深く掘り下げられることに繋がり、主軸となる音楽とは全く異なる音楽ジャンルからのリファレンスがあった場合は、思わぬ多要素同士の接続とどちらの理解にも繋がる。
こうしてレビューを書いているときは特にそれが重要で、その似た作品を足がかりにそのアーティスト自体の外在的な視点から価値判断し、論じることもたやすくなる。
両者を満たした『We Were Just Here』
そして『We Were Just Here』は、その興奮ポイントのふたつともを満たした作品であった。
Just Mustardにとって想像もつかなかった新たな音楽を鳴らした作品であるとともに、その新しい音楽が自分が今でもフェイバリットアルバム作品を想起させるサウンドであったことだ。
シューゲイザーサウンドを主軸にエレクトロニカで拡張しながら、ダークでスリリングかつ陶酔的に聴かせてきたJust Mustardが、Grimesの『Art Angels』を彷彿とさせる実験的なカオティックなプロダクションを行う。
それに加えて、THE NOVEMBERS 『Rhapsody in beauty』のようにノイズまみれのシンフォニーを展開したことで、私の興奮は最高潮に達し、このアルバムがJust Mustardにとってのキャリアハイであることを約束した。
ルーツとそれぞれの比較
Just Mustard『We Were Just Here』とGrimes『Art Angels』、THE NOVEMBERS 『Rhapsody in beauty』の共通点を見出すなら、
ノイズとエレクトリック、インダストリアルそれらの共存を果たした源流にあるのはNine Inch Nailsに他ならず、
それぞれのバンド、アーティストが彼らからの影響を公言している。
Just Mustardの源流がわかったところで、この3つの作品でそれぞれの色を比較するとさらに面白さが広がる。
全く違う色合いを放ちながらも、それぞれの着地がすべて多幸感であることは興味深い。
Just Mustardは私に前述した国籍やジャンルをこえた2作品を引き合いに、Nine Inch Nailsの再評価という思わぬ着地に帰結させてくれ、聴きながら終始興奮しっぱなしの作品となった。
Just Mustardアルバムリリース
3rdアルバム『WE WERE JUST HERE』
発売日: 2025年10月24日(世界同時発売)
品番: PTSN3061-2J(CD) PTSN3061-3J(LP 限定カラー盤)
定価: 2,900円+税(CD) 6,200円+税(LP)
プロデュース: Just Mustard
ミックス: David Wrench(Frank Ocean、FKA Twigs)
発売元: ビッグ・ナッシング、ウルトラ・ヴァイヴ
レーベル: Partisan Records
収録曲:
1. POLLYANNA
2. ENDLESS DEATHLESS
3. SILVER
4. DREAMER
5. WE WERE JUST HERE
6. SOMEWHERE
7. DANDELION
8. THAT I MIGHT NOT SEE
9. THE STEPS
10. OUT OF HEAVEN
CDをAmazonで見る
LPをAmazonで見る
Just Mustard来日公演詳細
イベント名: rockin’on sonic 2026
日時: 2026年1月4日(日)
開場・開演: 12:00 / 13:30
会場: 千葉・幕張メッセ国際展示場
出演: Pet Shop Boys、Underworld、Travis、Wolf Alice、Kneecap、Blossoms、Just Mustard、ずっと真夜中でいいのに。
チケット: 1日券 19,500円 発売中
公式サイト: https://rockinonsonic.com/
Just Mustardバンドプロフィール

Just Mustardは2016年にアイルランドのダンドークで結成されたロック・バンドである。メンバーはKatie Ball(Vo.)、David Noonan(Gt.)、Mete Kalyoncuoğlu(Gt.)、Rob Clarke(Ba.)、Shane Maguire(Dr.)の5人で構成されている。
2018年のデビュー・アルバム『Wednesday』は、Faderが「強烈で豊か。シューゲイザー・ミーツ・ノイズ・サウンド」、NMEが「ツートンカラーのマスターピース」と評し、アイルランドの音楽賞であるチョイス・ミュージック・プライズで年間最優秀アルバムにノミネートされた。
2022年にPartisan Recordsから2ndアルバム『Heart Under』をリリースし、The Independent、Pitchfork、NME、The Daily Telegraph、Loud & Quietなど多くのメディアから絶賛を受けた。その後のワールド・ツアーでは、Robert SmithによってThe Cureのサポートに抜擢されたほか、Depeche ModeやFontaines D.C.とも共演している。
2025年10月24日に3rdアルバム『WE WERE JUST HERE』をリリース。前作『Heart Under』が悲しみと切望をテーマにしていたのに対し、本作は幅広い感情と感覚を描き出し、より温かく、よりアンセミックな方向性へと昇華されている。Pitchforkは「没入感があり、当惑させる」、NMEは5つ星で「スリリングなまでに型破り」と評価した。

リリース前の楽曲の先行試聴🎧やレビュー&情報共有✍、国内外のクリエイターと音楽制作🤝、ライティングなど、あなたのスキルでコラボしませんか?参加はこちら⏩ https://discord.gg/67T5evaBA5
ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
今まで執筆した記事はこちら
他メディアで執筆した記事はこちら
Twitter:@takita_funky
ライター:RAM

アルゼンチン国立芸術大学で音楽作曲を学ぶ学生。文章を書くこと、音楽の発見、そして音楽を共有し関わることに情熱を注いでいます。また、ソフトウェア開発者としても働いています。
ウェブサイト:
Instagram:@ramcst












