最終更新: 2025年12月20日

洗練されたサウンドデザインが生まれるまで

David Wrenchとの協働

-滝田優樹:今回はフランク・オーシャンやFKAツイッグスと仕事したことのあるDavid Wrenchがミキシングを手がけたそうですね。彼とはどのような話し合いや意見、アイデアの交換をもって制作を進められたのでしょうか。また彼にミキシングを頼んだ経緯や一緒に仕事してみての感想も知りたいです。

デビッド・ヌーナン:僕たちは『Heart Under』でもデイヴィッドとミキサーとして仕事をしていて、彼の仕事が大好きだったから、また一緒に仕事してくれて本当に嬉しかったよ。最初に彼のところに行ったのは、特にインディーとエレクトロニック・ミュージックの両方を含む、様々な音楽スタイルのミキシング経験がある人を求めていたからなんだ。彼のミックスはとても生き生きとしていてカラフルで、僕が大好きな動きのようなものがあるんだ。協力する上では、できるだけ彼に手綱を委ねるようにした。というのも、僕たちはそれまで自分たちでレコーディングとプロデュースをしていたから、新鮮な視点が必要だったんだ。彼は素晴らしいやり方で仕事をしてくれて、最初はアーティストからあまり多くのインプットを必要とせずに取り組んで方向性を見つけて、そこから進みながら洗練させていくんだ。

クラブとダンスフロアを舞台にした音作り

-滝田優樹:サウンド面でいうとインダストリアル・ノイズ色を残しながらとても甘美でメロディアスに聴かせるそのデザイン性にとても心を奪われました。他のロックバンドの作品と比べても音響面はかなり洗練されている印象です。クラブやダンスフロアを舞台と捉え制作を進めたことがこのような洗練されたデザイン性を獲得したのかと思ったのですが、クラブやダンスフロアを舞台と捉えようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

デビッド・ヌーナン:その通りだよ。僕たちはダンスやベース・ミュージックが大好きで、そのエネルギーの一部を曲に注入したいと思ったんだ。それには即効性とパワーがあって、インディーやロック・ミュージックでは通常得られないものなんだよ。ダンス・ミュージックがインストゥルメンタルやシンセサイズされた音楽として持つ、感情的な重みを運ぶ能力も、僕たちにインスピレーションを与えてくれるものなんだ。

多様なジャンルが交差する音像


-滝田優樹:もう少しサウンド面について教えてください。インダストリアル・ノイズと色彩感のあるメロディの共存というところに着目するとNine Inch Nailsやマリリン・マンソンの作品に通ずるところもあるかなと思ったのですが、これらのアーティストを参考にしたのでしょうか。もし違うようでしたら今回のアルバムの参考となった作品もしくはイメージしていた音像はどのようなものだったのか教えてください。

デビッド・ヌーナン:僕たちの中にはNIN(Nine Inch Nails)が好きな者もいて、特にあのインダストリアルなトーンが好きなんだけど、僕は個人的に『Ghosts』シリーズがずっと大好きなんだ。僕たちは幅広いアーティストから影響を受けていて、インダストリアル、シューゲイザー、エレクトロニック、インディー、グランジ、ベースやダブステップ、ジャングル、ブレイクビート、ポストパンク、トリップホップなど、他にもたくさんあって、それらの真ん中のどこか良い場所に収まれればいいなと思っているんだ。

サウンドと融合するヴォーカル

-滝田優樹:続いてヴォーカル面について、My Bloody Valentineやslowdiveのヴォーカルのように歌声はサウンドに溶け込むというよりは音の上をふわふわと浮遊しながら乗りこなしている印象でした。ヴォーカル面で意識されたことやポイントに置いたことがあれば教えてください。

デビッド・ヌーナン:今回のアルバムでは、ヴォーカルを以前よりも少し前に出したかったんだ。過去には、ヴォーカルをアレンジを導く上で楽器と同等に扱っていた。『WWJH(WE WERE JUST HERE)』では、ヴォーカルがバンドをより頻繁にリードするようにしようとしたんだ。単にテクスチャーやトーン、ムードだけでなく、歌詞と声という意味での「曲」に従いたかったんだよ。

ブレイクスルーと光と闇の共存

「ENDLESS DEATHLESS」が示した新たな可能性

-滝田優樹:今回のアルバムにおけるブレイクスルーとなった楽曲、もしくは最も変化や進化を感じさせる楽曲はどれですか? 個人的には「ENDLESS DEATHLESS」が肉体的にも精神的にも多幸感を感じられるサウンドで、インダストリアル・ノイズの再定義とバンドサウンドの新たな可能性を提示したと思っています。

デビッド・ヌーナン:その通り!「ENDLESS DEATHLESS」がブレイクスルーになった曲だった。このプロジェクトで僕たちが探していたサウンドと感覚を達成できたと感じた最初の曲だったんだ。この曲が僕たちがやっている他の全てのことを再定義して、アルバムのトーンを設定した。その後の全ての曲は、あれと同じくらい僕たちにとってエキサイティングなものでなければならなかったんだよ。

陶酔感と多幸感、ハッピーかアンハッピーか

-滝田優樹:今回のアルバムのテーマには陶酔感や多幸感があって、それらを音として表現した作品であると思っています。それぞれ光と闇が表裏一体で共存していますが、あなたたちがこの作品に対するマインドやモチベーションにはどのようなものがあるのでしょうか? ハッピーそれともアンハッピーどちらなのでしょうか。

デビッド・ヌーナン:僕たちはあらゆる角度から書いていて、様々な立場からこれらのテーマを探求しているんだ。僕たちは、みんなと同じように、前回のアルバム以降、喜びや悲しみ、そしてその間のあらゆる時期を経験してきた。そして僕たちはそういった場所から正直に書こうとしているんだよ。

誰に聴いてほしいか

撮影:POLLYANNA
-滝田優樹:『WE WERE JUST HERE』をどのような人に聴いてほしいと思いますか?

デビッド・ヌーナン:誰にでも聴いて欲しいね!

日本のファンへのメッセージ

-滝田優樹:最後に私たちを含めて、あなたの来日公演を楽しみにしている日本のファンがたくさんいます。彼らにメッセージを頂けますか?

デビッド・ヌーナン:日本に行けることをとてもとても楽しみにしているよ。長い間ずっとやりたかったことで、みんなに会えるのが待ちきれないんだ!!!

Just Mustardアルバムリリース

3rdアルバム『WE WERE JUST HERE』

発売日: 2025年10月24日(世界同時発売)
品番: PTSN3061-2J(CD) PTSN3061-3J(LP 限定カラー盤)
定価: 2,900円+税(CD) 6,200円+税(LP)
プロデュース: Just Mustard
ミックス: David Wrench(Frank Ocean、FKA Twigs)
発売元: ビッグ・ナッシング、ウルトラ・ヴァイヴ
レーベル: Partisan Records
収録曲:
1. POLLYANNA
2. ENDLESS DEATHLESS
3. SILVER
4. DREAMER
5. WE WERE JUST HERE
6. SOMEWHERE
7. DANDELION
8. THAT I MIGHT NOT SEE
9. THE STEPS
10. OUT OF HEAVEN
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Just Mustard来日公演詳細

イベント名: rockin’on sonic 2026
日時: 2026年1月4日(日)
開場・開演: 12:00 / 13:30
会場: 千葉・幕張メッセ国際展示場
出演: Pet Shop Boys、Underworld、Travis、Wolf Alice、Kneecap、Blossoms、Just Mustard、ずっと真夜中でいいのに。
チケット: 1日券 19,500円 発売中
公式サイト: https://rockinonsonic.com/

Just Mustardバンドプロフィール


Just Mustardは2016年にアイルランドのダンドークで結成されたロック・バンドである。メンバーはKatie Ball(Vo.)、David Noonan(Gt.)、Mete Kalyoncuoğlu(Gt.)、Rob Clarke(Ba.)、Shane Maguire(Dr.)の5人で構成されている。

2018年のデビュー・アルバム『Wednesday』は、Faderが「強烈で豊か。シューゲイザー・ミーツ・ノイズ・サウンド」、NMEが「ツートンカラーのマスターピース」と評し、アイルランドの音楽賞であるチョイス・ミュージック・プライズで年間最優秀アルバムにノミネートされた。

2022年にPartisan Recordsから2ndアルバム『Heart Under』をリリースし、The Independent、Pitchfork、NME、The Daily Telegraph、Loud & Quietなど多くのメディアから絶賛を受けた。その後のワールド・ツアーでは、Robert SmithによってThe Cureのサポートに抜擢されたほか、Depeche ModeやFontaines D.C.とも共演している。

2025年10月24日に3rdアルバム『WE WERE JUST HERE』をリリース。前作『Heart Under』が悲しみと切望をテーマにしていたのに対し、本作は幅広い感情と感覚を描き出し、より温かく、よりアンセミックな方向性へと昇華されている。Pitchforkは「没入感があり、当惑させる」、NMEは5つ星で「スリリングなまでに型破り」と評価した。

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky