最終更新: 2026年1月8日

誰もが一度は経験する、大きな理想の挫折。関係性の終わり。居場所を失った空虚な夜。

そんな痛みを、音楽はどう表現できるのだろう。

ドイツ・シュトゥットガルトの4人組Rikas(リカス)は、音のレールの上を走らせることで、言葉にできない心情を深く映し出す。

ファンクとソウルをルーツに持ちながら、メンバー全員が歌い奏でるスタイルが特徴的だ。

Electric Light Orchestraのカバー「Last Train to London」、そしてアルバム『Soundtrack For A Movie That Has Not Been Written Yet』。

この2作品を通じて、彼らは私たちをどこに連れ出してくれるのだろうか。

Rikasとは


ドイツ・シュトゥットガルトから現れた4人組、Rikas。

ファンクやソウルをルーツに持ちながら、特定のフロントマンを置かず、メンバー全員が歌い奏でる彼らのスタイルは、まるで気心の知れた仲間との終わらない旅のようだ。

しかし、彼らが届ける新しい音楽は、単なる陽気なポップソングではない。

そこにあるのは、失われた日々への郷愁と、それでも前へ進もうとする静かな決意だ。

Electric Light Orchestraのカバー「Last Train to London」、そしてその前にリリースされたアルバム『Soundtrack For A Movie That Has Not Been Written Yet』を通じて、彼らは私たちを“まだ台本すらない映画”のような旅へと連れ出してくれる。

最終列車で走り出した夜「Last Train to London」


まずは、2025年のクリスマスにリリースされた「Last Train to London」から旅は始まる。

SNSでのセッション動画から火がついたこのカバーは、原曲のきらびやかなディスコサウンドとは対照的に、装飾を抑えたシンプルな構成が胸を打つ。

Last train to London, just headin’ out
Last train to London, just leavin’ town
But I really want tonight to last forever
I really wanna be with you
Let the music play on down the line tonight

ロンドン行き最終列車が
出発しようとしている
ロンドン行き最終列車が
街を離れていく
でもこの夜が永遠に続いてほしい
本当に君と一緒にいたいんだ
今夜、音楽を線路に沿って流し続けよう

言葉では“留まりたい”と願いながらも、Rikasのサウンドは確実に前へと進んでいる。

重なり合うコーラスの厚みと、リズム隊が生み出す車輪が回転し続けるようなグルーヴ。

それらが、主人公の迷いを振り切るように背中を押す。

このバージョンにおいて、ラストシーンは明白だ。

夜の情景の中、後ろ髪を引かれる想いが、きらめく光の尾を引きながら闇へと散っていく。

そう、彼は留まることを選ばず、切なさを抱えたまま“旅に出た”のだ。

空っぽのガソリンタンクと美しい世界


リリースの時系列としては遡るのだが、そうして始まった旅の続きが、アルバム『Soundtrack For A Movie That Has Not Been Written Yet』に記されている。

サウンドはあくまで、新緑の季節に吹き抜ける風のように軽やかだ。車窓を流れる光のようなギター、疾走するリズム。

だがその車に乗っているのは、喪失感や悲しみを抱えながら、居場所を探し続ける心だ。

大きな理想の果てで

「Driving Down Slow With My 505」で、彼らは痛烈な現実を吐露する。

You know we had a plan, we had big ideas
We were sure we could work it out
But coming back is the hardest part
If you don’t have gasoline

計画はあった
大きな理想もあった
きっとうまくいくと本気で思っていた
だが、戻ることがいちばん難しい
ガソリンがなければ、なおさらだ

大きな理想の為に全力で走った末のガス欠。

方向さえも見失ってしまいそうなほどの空虚な路肩で、旅人は泣いている。

しかし、彼らはそこで終わらない。

I won’t give up ‘cause we’re just starting out
Me and my friends ‘bout to come back around
Taking a step back, just to figure out these days

それでも投げ出さない
まだ始まったばかりなんだ
俺達はまた廻り回って戻ってくる
振り返り この日々の意味を踏みしめる

他人と恋人の狭間で「Strangers」

Strangers, lovers
Trying to find my groove again
From lovers to strangers

他人と恋人。
その狭間で、
また自分のリズムを探している。
恋人から他人へ。

「Strangers」では、関係性が壊れ、心の拠り所を失っても、人は空白の中で再び自分の呼吸を取り戻そうとする様が描かれている。

この世界で生きていくために、ゆっくりと、しかし確実に自分の時を刻み始める。

Rikasの手法は、感情に安易な名前を与えないことだ。

ただ音のレールの上を走らせることで、言葉にできない心情をより深く映し出す。

痛みを抱えたままでも

旅の果てに辿り着く「It’s a Beautiful World (When I’m on My Own)」で、彼らは静かに肯定する。

‘Cause we can’t live without love
On this beautiful world

だって、愛なくしては生きていけない。
この美しい世界で。

痛みを抱えたままでも、この世界は美しい。

思い出を撫でるように優しく囁くその声は、単なる過去への羨望ではなく、記憶と共に歩み続ける者に射す、やわらかな陽の光のようだ。

重たい荷物を積み込み、時に行く先を見失う夜があっても、アクセルを踏み続ける私たちのための“まだ台本すらない映画”は、いま、オープニングが描き出されたばかりなのだ。

Rikasアルバムリリース

2ndアルバム『Soundtrack For A Movie That Has Not Been Written Yet』


発売日: 2025年2月7日
収録曲:
1. Bike in L.A.
2. Driving Down Slow with My 505
3. Barcelona (Learning to Love Myself)
4. Strangers
5. Heartbreak Big Mac
6. Passenger (Extended Version)
7. Souvenir Shop
8. Opposite Opinions
9. Just Like Ice Cream
10. Where Do You Go?
11. Jude Bellingham
12. It’s a Beautiful World (When I’m on My Own)
Bandcampで見る

シングル「Last Train to London」


発売日: 2025年12月25日
Electric Light Orchestraの1979年の楽曲をカバー。
Bandcampで見る

Rikasバンドプロフィール


Rikasはドイツ・シュトゥットガルト地域出身の4人組インディ・ポップバンドである。2016年春に結成され、メンバーはサム・バイシュ(Ba., Vo.)、クリス・ロンゲ(Gt., Vo.)、ザシャ・シェラー(Gt., Key., Vo.)、フェルディナント・ヒュブナー(Dr., Key., Vo.)で構成される。ファンク、ソウル、インディ・ポップを融合させた温かみのあるサウンドが特徴で、固定のリード・ボーカルを持たず、楽曲ごとにメイン・ボーカルが入れ替わる多声的なハーモニーを武器とする。2018年にベルリンのTritonus Studioでプロデューサー、ロバート・スティーヴンソンと制作したデビューEP『Swabian Samba』をリリース後、2019年から2022年までColumbia Records(Sony Music Entertainment)と契約し、デビューアルバム『Showtime』、EP『Short Stories』『Goodbye Sunshine』を発表した。最新作『Soundtrack For A Movie That Has Not Been Written Yet』は2025年2月7日にリリースされ、旅や動きをテーマにした内省的で統一感のある作品として注目を集めている。

ライター:Wakiki(わきき)

コーヒーとタバコと音楽が好きなベイスターズファン。三重県在住。今まで執筆した記事はこちら