最終更新: 2026年3月15日
“ジャパン・イズ・クール”という言葉は聞くものの、身を持って実感することはほとんどなかった。
しかし、アルゼンチンでは、日本のアニメや漫画、インディー音楽すらも愛する若者が増えていると言う。
A-indieスタッフとしてレビューを書いてくれているRAMと、そのガールフレンドであるNiniもその一人だ。
2人は別々の大学に通いながら、スペイン語で話し、日本の漫画や美術と映画、そして音楽について話している。
そんな二人と先日、彼らが旅行で20日間日本に滞在していた際、念願かなって会うことができた。
No BusesやThe Pinballsといった日本のバンドに魅了された経緯、映画と音楽制作というRAMとNiniの豊かな世界観が詰まった話をお届けしたい。
参加者:yabori、RAM、Nini イラスト原画:フリダシ太郎
出会いのきっかけ
共通の趣味、ゴッホと漫画
そもそもRAMとNiniはどうやって知り合ったん?
そうなんや!!!出会って何の話がきっかけで仲良くなったん?
お互い美術、特にゴッホが好きで、共通の話題ができたみたいな感じですね。あとは漫画とか。
なるほどね。で、マッチングアプリで出会って、お互い大学生って聞いたけど、同じ大学に通ってる?
スペイン語の会話と伊藤潤二
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大学は違うんや。普段は英語じゃなくてスペイン語で会話してるって聞いたけど、どんな話してんの?漫画とか?
そうですね。基本的にスペイン語で話をしていて、英語で話す機会はほとんどありません。アルゼンチンはスペイン語しか使わないですし、大学での会話もスペイン語なんですよ。漫画の話をよくしますね。伊藤潤二とか。
ああ、伊藤潤二ってホラー漫画作家の!?え、なんで伊藤潤二を知ってるん?アルゼンチンでは有名ってこと?
ええ、今のアルゼンチンでは有名です。『コレクション』というアニメが放送されていて、The Pinballsっていうバンドを知るきっかけにもなりました。
マジか!?The Pinballs知ってるんや!!!The PinballsはBELONG Magazineという雑誌を作ってた時の創刊号の表紙のバンドやで。彼らが伊藤潤二のアニメで主題歌を歌ってたってことね!じゃあ話変わるけど、2人は大学で何を勉強してるの?
大学で学ぶこと
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映画監督を目指すNini
彼女は映画を、私は音楽の作曲とソフトウェア開発を勉強しています。
そうなんや!二人とも芸術系やんやな。映画は具体的にどんなことを勉強してるの?映画を撮る勉強ってこと?
映画を作るための勉強です。自分の映画を作るのが夢なんです。
アニメーションではなく、実際の人間が出る実写映画です。
『PERFECT DAYS』や『aftersun/アフターサン』のような映画がすごく好きです。何も起きていないようで、すべてが起きているような映画が好きなんです。『PERFECT DAYS』のような ただの男の人がいて、何も特別なことはしないんですけど、そういう映画が本当に好きなんです。
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『PERFECT DAYS』は良い映画だったから、映画館で2回見たよ!じゃあ、そういう映画を撮りたいっていうことで、なんか自分の作りたい映画のコンセプトや企画ってあったりするの?
大学が忙しくて時間がないんですけど、本当に自分の作品を作りたいと思っています。
例えば日本だと卒業制作でショートムービーを作ることとかあるんだけど、アルゼンチンでもそういうのあるんかな。
実は1年目からショートフィルムを作らなきゃいけなくて、大学の毎年ごとにショートフィルムを作るんです。
いえ、まだです。アルゼンチンの私の大学には“CBC”という、専門課程に入る前に受けなければならない共通基礎課程があるんです。それがとても難しくて、数学とかもあるので映画とは関係ないんですけど、1年目に入るためにはそれをパスしなきゃいけないんです。
なるほど、そういう制度があるんやな。作品を作るとして、例えば“この人を俳優として”とか、そういう理想的なプランはあったりする?
俳優の知り合いはいないので、ショートフィルムの構想を練りながら、演じてくれる人を探しているところです。初めての作品なので、本物の俳優ではなく、友達とかと一緒に作ることになると思います。
エンジニアとしてのRAM
なるほど。RAMはソフトウェア開発してるって言ってたけど、ソフトウェア開発ってどんなことしてるの?ちなみにこれ(RAMが身につけているアクセサリー)って半導体?
ああ、それはマザーボードですね。下北沢で買いました。
CPUとかそういうパーツを集めるのが好きで。これはただのプラスチックですけど、すごくかっこよかったので。彼女が見つけてくれたんです。
アルゼンチンには、コンピューターのパーツを使ってイヤリングやリングを作っているブランドがあるんですけど、すごく高いんですよ。だから、自分で作りたいなと思って。
これはプラスチックだから安かったんですけどね。アルゼンチンのお店にあるのは本物のパーツを使ってるから、高いんです。
で、ソフトウェア開発ってどんなソフトを作ってるの?
僕は国の機関で働いていて、行政の管理用アプリケーションを作っています。でも、個人的に作りたいと思うのは、自分や組織のためのウェブサイトや小さなアプリです。例えば、スマホのギターチューナーのアプリって、違うチューニングを使おうとすると課金しなきゃいけないことがあって、それがすごく煩わしいんです。あんなにシンプルなものなのに高いお金を払うのは意味がないと思うので、私はそういうものを無料で作れたらいいなと思っています。いつかはゲームも作ってみたいですね。
今は行政システムを作ってるんだね。どんな感じのシステムなの?
誰かが家を買ったり、不動産の動きがあったときに役所に登録する必要があるんですが、その管理のために役所で使うアプリケーションを扱っています。
アルゼンチンで家を買うときに使うページは、彼が作ったものなんです。
アルゼンチンで日本の音楽が広まる理由
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すごい!ギターチューナーのアプリもあれば便利そうやな。じゃあちょっと話変わるけど、アルゼンチンの音楽シーンについて聞きたいんやけど。正直思ってるよりも、アルゼンチンって日本の音楽が聴かれてるなっていう印象があって。例えばNiniがThe Pinballsを聴いてたり、RAMもLampが好きって前に言ってたけど、なんでそんなに日本の音楽がアルゼンチンで流行ってるんかなと思って。
長年かけてアニメの人気が高まるにつれて、アニメを通じて日本の文化全体に触れる人が増えたんだと思います。音楽やその他の文化も含まれますね。それにインターネットやアルゴリズムの影響も大きくて、YouTubeでアニメを検索していると、アニメのオープニング曲やそれにまつわるアーティストがおすすめされて、そこからアニメとは直接関係のない日本の音楽を知るという連鎖が起きてるんだと思います。
そうなんや。じゃあ、音楽だけじゃなくてアニメーションやコスプレとか、様々な文化がまとまって入ってきたから、日本のカルチャーが有名になったみたいな感じなのかな。それにYoutubeやSpotifyのアルゴリズムが後押ししたと。
はい、アニメが日本への関心を高める入り口になって、そこから多くの人が様々なものに興味を持つようになったんだと思います。例えば、僕も小さい頃はテレビで『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』を見ていて、10代になるとインターネットでアニメを探すようになりました。若い頃から日本文化のほんの一部を知っていたので、その後、日本の音楽を聴いたり、日本の作家の本を読んだりすることに抵抗がありませんでした。もしそれがなければ、そういったものの存在すら知らなかったと思います。
No BusesとアルゴリズムがつないだJ-インディー
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アニメとは関係ないけど、例えばNiniがNo Busesがすごい好きだって前に聞いたけど、それってアニメは関係ないと思ってて。なんでアニメとは関係のない日本のバンドに興味を持つようになったのかなって。それもYoutubeやSpotifyのアルゴリズムが関係あるんかな?
アニメを好きになって、例えばThe Pinballsも伊藤潤二のアニメで知りました。そこから彼らの他の音楽を聴き始めました。No Busesを知ったのも、日本の音楽を聴き始めたからおすすめされたんだと思います。正確には覚えてないけど、YouTubeだったかSpotifyのおすすめだったか、そんな感じでNo Busesを知ったんだと思います。
No Busesは海外でも注目を集めていると思います。Arctic Monkeysの「No Buses」という曲と名前が同じなので、それもあって認知されやすいのかもしれません。彼女と出会ったとき、アルゼンチンでNo Busesを知っている人に初めて会ったので、とても面白かったです。彼女は彼らのことが大好きなんですよ。
“ジャパン・イズ・クール”という感覚
なるほどね。実際今、日本のアーティストがアルゼンチンでライブすることも多いんやけど、それもアニメの影響なんかな?
部分的にはそうだと思います。アニメが日本文化の扉を開いて、多くの人が他のことにも興味を持ち始めました。でも今の日本とアルゼンチンなどの欧米諸国との関係は、アニメだけにとどまらないと思います。日本は文化的にとても豊かな場所だと考えられていると思います。例えば、日本の服や映画が好きな人も多いです。私も日本のホラー映画をよく見ます。“ジャパン・イズ・クール”というメンタリティが海外にはあるんです。
RAMの音楽活動とNiniのビデオ制作
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RAMは自分の音楽作ってる?音楽を始めたのはいつから?
はい。自分の曲を作りました。最初は自信がなかったんですけど、もっと真剣に取り組みたいと思って。一曲(real&tangible「bruise me」)書いたので、録音して音楽プラットフォームでリリースしたかったんです。そうですね、音楽をやり始めてほぼ10年くらいです。18歳のときに曲を書き始めたと思います。
彼にはもう一曲(losWire「you me and here」)あって、そのためにビデオを作ったんです。それがYouTubeに上がっています。その曲がすごく好きで。
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ええ。シンプルなビデオです。私の大学の近くにあるアルゼンチンの川に行って、そこで撮影したんです。それがそのままビデオになっています。本当にいい曲ですよ。
その曲は気に入っています。でも、複雑な気持ちがあって。あの曲は……これは昔のプロジェクトのための曲だったんです。で、レコーディングした時点でそのプロジェクト自体はすでになかったので、Youtubeに投稿することにしました。あのプロジェクトの、言わば最後の作品というか。曲は気に入っています。もともと自分で録音していたんですが、ミックスがかなり荒削りなんですけど。
EPドキュメンタリーという新しい試み
なるほど。RAMが曲を作って、Niniがビデオも作るのって、良いコラボやね!
音楽コンテンツを発信しているYouTuberをよく見るんですが、最近はAI音楽に関して皆が非常に敏感になっていますよね。その話題を扱った動画を見ていたとき、“アーティストが信頼を得るためには、制作の過程を見せることが一つの手段になり得る”という意見があって。それがヒントになって、EPを制作しながらその全過程を小さなドキュメンタリーとして残そうというアイデアが生まれたんです。アルゼンチンに戻ったらそれをやろうと思っています。
A-indieスタッフとしての活動
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なるほど!それは自分たちがインタビューしているアーティストにとっても参考になると思う。ところで、A-indieでレビューを書いてくれてるけど、アルゼンチンに戻った後も、音楽レビューを書き続けてくれる?
はい、もちろんです。ぜひ続けたいと思っています。すごく楽しいので。話は変わりますが、実は最後に書いたレビューが二階堂和美についてだったんですよ。Takita-kunとタワーレコードに行ったときに、そのアルバムのCDがあったんですが、レコードを探していたので。“また来ればあるかも”と思って出直したんですが、レコードはなくて、CDもなくなっていて、結局手に入らなかったんです。
あら、二階堂和美の作品買えなかったんだ(笑)。NiniはRAMのレビュー読んでる?
私は彼が書く文章がすごく好きです。でも、それだけじゃなくてA-indieに連載しているスタッフ間のトーク”スタッフの小部屋”も面白いです。
マジか、”スタッフの小部屋”読んでくれてたんや!ありがとう。Niniは映画についても書いてみたいと思ったりする?
はい、みなさんが映画の年間ベスト特集をされているのを見て、すごくよかったと思いました。何かやらせてもらえるなら、ぜひ参加したいです。
編集後記
今回の話で印象的だったのは、2人が日本文化を“特別なもの”として語りながらも、とても自然体だったこと。
アニメから始まり、漫画、音楽、映画へとつながっていく関心の連鎖は、アルゴリズムが後押しした部分もあるだろう。
しかし根底にあるのは、純粋に好きなものを探し続ける姿勢だと感じた。
私たちが12年間追い続けてきた“音楽やカルチャーを愛する姿”を、地球の裏側で見つけたような気持ちになった話でした。
さて、次回はRAMとNiniが20日にわたる日本滞在で、体験したことを語ってくれます。
次回もお楽しみに!
BELONG Media編集部
インディーロックを中心に日本や欧米、アジアの音楽を取り上げる音楽専門メディア。“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
2021年、J-WAVEのSONAR MUSICににゲスト出演。2022年、英語版姉妹サイトA-indieを開設。
編集部メンバーの栄養源は、主にシューゲイザーやドリームポップから得ています。
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