最終更新: 2026年4月9日

参加ミュージシャンとサウンドの構築

松丸契の参加とその魅力

-滝田優樹:また嬉しいサプライズで、アルバムにはBlack Midiのメンバーだったジョーディー・グリープの日本ツアーのバンド・メンバーを務めた松丸契が参加していますね。彼が今作に参加した経緯や、参加してもらおうと思った理由があれば教えてください。また松丸さんがどんなミュージシャンか教えてもらえますか?

キャメロン:正確に言うと、彼はアルバム本編には入っていなくて、日本盤のボーナストラックに参加しているんだと思う。「Numerology」が入っているはずだけど、ちょっとはっきり覚えていないな。とにかく彼は「Numerology」で演奏している。彼は本当に素晴らしいミュージシャンだよ。すごくオープンな人だし、地下鉄のトンネルで40分くらい演奏しているアルバムを出していて、僕もそれを買ったんだ。でも人柄としてはとても穏やかで静かな人なんだけど、ホーンを少し吹くだけで一気に爆発するような演奏をする。ものすごいエネルギーを持っているんだ。すごくエキサイティングだよ。実はまだ一緒に演奏したことはなくて、彼がトラックに合わせて演奏してくれた形なんだけど、それが本当に刺激的だった。ずっと聴いていたくなるような音だったね。彼とはドス・モノスを通じて何度か会ったんだ。彼らがblack midiのヨーロッパ・ツアーでサポートをしてくれたことがあって、そのとき契も一緒に演奏していた。それで知り合った。その後、契が石橋英子と一緒に演奏するためにロンドンに来ていて、数日オフがあったんだ。それで彼から“会わない?”って連絡が来て、“いいね、じゃあ曲で一緒に演奏してみない?”って僕が言ったのがきっかけだよ。

carolineのプロデューサーを迎えた経緯


-滝田優樹:プロデューサーはcarolineのジャスパー・ルウェリンとマイク・オマリーが務めたことも驚きでした。即興性も含まれていて、混沌と調和が同居したサウンド構成からその影響が滲み出ていると感じました。実は前にジャスパー・ルウェリンにインタビューした際に“レコーディングの際に心がけていることは?”と質問したら、“方向性や構成といった枠組みを主要メンバーで決めてから全員で演奏し、また主要メンバーに戻って編集する”、“小さいグループと大きいグループを行き来することで、うまくバランスを取っている”と教えてくれました。今回、キラン・レナード、カイウス・ウィリアムズ、スティーヴ・ノーブル、アンドリュー・チータムらも参加した構成だったことからcarolineというバンド構成とも近いと感じたのですが、ジャスパーとマイクをプロデューサーに迎えた経緯はどのようなものだったのでしょうか。

キャメロン:もともとこのアルバムは・・・最初は僕とcarolineという別々の名義がコラボレーションするアルバムとして作られていたんだ。でもそれが別の形になっていった段階で、マイクとジャスパーと一緒に“このプロジェクトをどう進めていくか”を話し合った。その結果、彼らにはプロデューサーとして関わってもらうのが一番いいだろうということになって、僕たちで制作チームとしてレコードを作っていくことにしたんだ。最初の段階では、ドラマーと僕で曲の初期テイクを録って、その素材の初期編集は彼らがかなりやってくれていた。そこから他のメンバーが参加してオーバーダブを重ねていくようになってからは、編集作業は僕が引き継いだ。でも彼らはずっとその場にいてくれていたし、即興の部分をどう編集するかだったり、どのパートをどう演奏してもらうかを決めるのは基本的に僕がやっていた。

制作プロセスと自由な演奏環境

-滝田優樹:アルバム制作時はどのようなディスカッションやアイデアの交換をしながら進められたのでしょうか。アルバムを聴いた私の感想は非常に緻密に作りこまれたサウンドであったので、制作前に具体的なコンセプトや方向性を設け、慎重に制作を進めた印象でした。

キャメロン:そうだね、ミュージシャンに細かく説明することはあまりなかったかな。僕の中ではどういう音楽にしたいかという明確なイメージはあったんだけど、それを逐一伝えるという感じではなかった。ただ、前の質問にもあったように、マイクとジャスパーと一緒にやるのは面白かったよ。彼らは自分たちが作っている音楽について、本当にたくさん話すし、かなり深く掘り下げて話すんだ。black midiではそういうことはほとんどなかったからね。だから新しいやり方というほどでもないけれど、初期のblack midiに少し近い部分もありつつ、すごく新鮮な感覚だった。でも実際のところ、ミュージシャンに対して“このセクションではこういうことを正確にやってほしい”と細かく指示することはあまりなかった。どちらかというと、それぞれにやり方を見つけてもらうようにしていたんだ。その方向が合っていれば“いいね、それをもっとやって”という感じで促して、基本的には自由に演奏してもらう。多くの場合は、ミュージシャンがリラックスして、自分がやりたいことやトラックの中で聴こえてくるものをそのまま演奏できるような状態に持っていくことを意識していた。もしそれが合わなければ、使わなければいいだけだからね。実際、使わなかったテイクもかなり多かった。

通訳(青木):ということは、後からの編集作業がかなり大きかったということですね。

キャメロン:うん、そうだね。まさにその通り。

ストリングスの響きと録音手法


-滝田優樹:今作はストリングスの音色が非常に流麗で美しい響きをもって、耳を楽しませてくれています。ストリングスの響かせ方、聴かせ方の部分でのこだわりがあれば教えてください。

キャメロン:ストリングスのアレンジはキーランが担当しているんだ。どこにストリングスを入れるかとか、もっとメロディックにするか、それともテクスチャー寄りにするか、そういう部分では僕もある程度一緒に考えていた。でも正直なところ、そこもかなりオープンにしていて、彼がそれぞれの曲にとって正しいと思うことを自由にやってもらいたかった。たとえば「Love Story」の最後には、アルバム音源には使っていないけど、ミュージック・ビデオには入っているストリングスのアレンジがあってね。それ自体はすごくいいアレンジなんだけど、トラックに乗せるとあまりしっくりこなかった。そういうこともあって、すごく良いものでも、この曲には合わないなと判断して使わないこともあった。アレンジ自体はすべてキーランがやっていて、どれも素晴らしいよ。サウンドの作り方としては、リハーサルも含めてすべてのテイクを録って、それを全部重ねている。ギターを何層にも重ねていくのと同じ発想で、ストリングスも重ねていって、全員が同時に演奏しているような少しぼやけた質感を作っているんだ。その結果、大きなオーケストラのように聴こえるんだけど、実際には4人のプレイヤーが同じ部屋で演奏しているだけなんだよね。でもそのぶん、小さな部屋の中に50人くらいがいるような密度の音になっている。4人じゃなくて、50人が同じ空間で鳴っているような響きになるんだ。

アルバムの核心と今後の展望

ブレイクスルーとなった楽曲

-滝田優樹:アルバムのなかでブレイクスルーになった曲や、最も変化を感じさせる楽曲はどれでしょうか?理由も併せて教えてください。個人的には「Actress」はミニマルなのにダイナミック、素朴とゴージャスが共存して、不思議な感覚に陥る素敵な楽曲でした。

キャメロン:ありがとう。僕にとっては「One Night」だと思う。アルバム最後の曲だね。音楽的にはそこまで複雑なことをやっているわけではないんだ。それまで自分が関わってきた曲では、どこかしら音楽的に凝った要素だったり、単純に聴いていて面白いと感じられる部分に重きを置いてきたと思う。でもこの曲に関しては、特に歌詞にフォーカスしているんだ。アルバムの中で唯一、ヴォーカルがシングルトラックで録られている曲でもあるしね。だから自分にとっては大きな変化だったと思う。すごくシンプルな曲ではあるんだけど、ソングライターとして、歌詞に対して新しい自信を持てたというか、音楽主導ではなくて、歌詞を中心に据えるという方向に自然にシフトできた感覚があったんだ。

バンドの今後について

-滝田優樹:今後My New Band Believeとしてどのような方向に向かっていきたいか、展望が決まっていれば教えてください。

キャメロン:まずはまた日本に来たいよ、もちろん。

通訳(青木):ぜひ来てください。

キャメロン:それから、これからもどんどん音楽を作っていきたいし、このバンドがどんな形になり得るのかをもっと探っていきたいと思っている。あと、近い将来、ここまでオープンな形ではない何かにコミットしてみるというのも面白そうだなとは思っている。でもどうなるかは分からないね。これまでのところ、かなり自由でオープンな状態にしておくことで一番いい結果が出ていると感じているから。だから、そのあたりも含めて様子を見ていきたいと思っているよ。

日本のリスナーへのメッセージ

-滝田優樹:最後に、日本の音楽ファンはきっとあなたの音楽を気に入るはずです。日本のリスナーに向けてメッセージをいただけますか?

キャメロン:こんにちは。近いうちにバンドとしてまた日本に戻ってきて、みんなの前で演奏できたら本当にうれしいし、楽しみにしている。それに、日本のミュージシャンとも実際に会ったり、一緒に演奏したりする時間も持てたらいいなと思っているよ。

通訳(青木):ぜありがとうございました。質問は以上です。また日本でお会いしましょう!

キャメロン:こちらこそ、ありがとう!またね!!

My New Band Believeアルバムリリース

1stアルバム『My New Band Believe』

発売日:2026年4月10日(金)
レーベル:Rough Trade Records / Beat Records
収録曲:
1. Target Practice
2. In the Blink of an Eye
3. Heart of Darkness
4. Love Story
5. Pearls
6. Opposite Teacher
7. Actress
8. One Night
9. Miracle Of Flight(Bonus track for Japan)
10. Numerology(Bonus track for Japan)
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My New Band Believeバンドプロフィール

My New Band Believe(Credit Daisy Ayscough and Tomos Ayscough)
My New Band Believeは、black midiのベーシスト兼フロントマンであったキャメロン・ピクトンが結成した新バンドである。black midiが2023年に活動を終えた後、キャメロンは中国滞在中の熱病に浮かされた体験から“My New Band Believe”というフレーズをすくい上げ、バンド名とプロジェクトの核とした。プロデューサーにはcarolineのジャスパー・ヒェウェリンとマイク・オマリーを迎え、キラン・レナード、カイウス・ウィリアムズ、スティーヴ・ノーブル、アンドリュー・チータムら実力派プレイヤーが参加している。アルバムはほぼ全面的にアコースティックで構成されながら、フル・ストリングスと緻密な楽曲構成により壮大なスケールを実現。ロンドン・アンダーグラウンドの精神を継承しつつ、新たな音楽的多元宇宙を切り拓く存在として注目される。

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky