最終更新: 2020年5月16日


ポール・マッカートニーやダフト・パンクなど、私にとって、これまで追っかけることでしか知らなかった存在が、リアルタイムで新作をリリースしたりしている最近の音楽シーンにびっくりしている。ブラーやオアシスがブレイク/デビューし、カート・コバーンの自殺したあの1994年のことをあまり知らないし、”ロック史として知っている”知識程度の話だ。私にとってそんな位置づけの1994年、ベックもまたデビューしている。今年2014年でデビュー20年を迎え、2月26日に最新作『モーニング・フェイズ』をリリース。長年のキャリアで手練れた感覚すら感じさせない、新しい響きを持った作品となっている。

さて本作は、代表曲「loser」のようなソリッドなヒップ・ホップではないし、2008年発売の前作『モダン・ギルト』に近いわけでもない。2002年発売のアルバム『シー・チェンジ』に参加したメンバーを再集結させての録音となっている。全体の構成は『シー・チェンジ』同様、アコースティック・ギターの柔らかなサウンドに合わせたストレートな歌モノで、ベックの父によるストリングスが加えられている。

だが『シー・チェンジ』と大きく違うのが、ストリングスの響きである。シガー・ロスの『()』の視界をより良好にさせたような神秘的かつ明快な音作り。そして、その音と絡み合うベックの歌声が何よりも美しい。西海岸を意識したサウンド、ナッシュビルでのレコーディングという点から、彼の音楽的ルーツにという認識が一般的のようだ。ジャケット写真も『シー・チェンジ』にどことなく似ている上、昨年亡くなったルー・リードのアルバム『トランスフォーマー』へのリスペクトという説まで存在するのだから面白い。

脊椎を痛めていた彼が再びギターを持つにあたって向けられた気持ちは、ブルースやフォークの敬意だった。どの曲も素晴らしく、この新作でロック史の偉人同じ時を共有できるというのは嬉しくてたまらない。しかしただ、アルバムによってカラーやジャンルを変えてきたベックが、ここへきてどこへ向かいたいのか掴めない点だけは残念。夏フェスに出演するのならば、音源の世界にとどまらないパフォーマンスを期待している。

【Writer】ŠŠŒ梶原綾乃(@tokyo_ballerina)