最終更新: 2021年6月23日

MONO NO AWARE(モノノアワレ)の新作アルバム『行列のできる方舟』は喜びも悲しみも携えて、あなたと出会うため大海原へ向かう。

バンドの音楽表現における新境地を開拓した『行列のできる方舟』に乗せた思いとは?

そして、前作『かけがえのないもの』から穏やかに変化した理由とは?フロントマンである玉置周啓にメールインタビューで答えてもらった。

アーティスト:玉置周啓(Vo./Gt.) インタビュアー:桃井 かおる子

行列のできる方舟

-まず、MONO NO AWAREの新作アルバム『行列のできる方舟』は前作『かけがえのないもの』から一年半経ってのリリースとなりますが、その間にコロナウイルス感染拡大による環境の変化などがあってバンドでの活動に難しさを感じることもあったかと思います。今作の制作に関しても、こうした影響を受けたのでしょうか?
玉置周啓:個人的に大きな影響を受けて変化したと思われる点は、“活動態度”と“作曲方法”でした。前者に関しては、多くのミュージシャンと同じようにライブの機会が失われ、バンドが持っていたバイオリズムが完全に停止したことによるものです。アルバムリリースとツアーのサイクルを毎年走り続けるうちに忘れていた、停滞、孤独、不安の時間を取り戻したように思います。そして、それらが実は常に自分のそばにいて、それを振り払うように走り続けていたことに気づきます。この不安を嘆かわしいこととして捉えず如何にフラットな感覚で扱うか、という考え方は歌詞全般に変化をもたらしました。

後者に関しては、リハスタジオに集まることができない状況下で制作が進んだことによるものです。豊が音楽制作ソフトを購入したので、レコーディング前のアレンジ作業が以前より緻密になったと感じます。制作期間も14ヶ月近くあったので、ギターの音色も今までにないものを試せるような余裕が生まれました。

アルバムのコンセプト

-新作アルバム『行列のできる方舟』のコンセプトについて聞きたいと思います。今作では他人同士だった者が少しずつ互いを意識し、その距離を縮めていくことで自分自身や自分の本当の思いを再認識するような物語形式の作品になっていると思うのですが、『行列のできる方舟』にはどのようなコンセプトがあるのでしょうか?
友人が笑顔で「はい、お食べ」と食パンの耳を渡してきたとき、「要らない」とは言いづらくないでしょうか。パンの耳だったら突っ込みやすいから良いとしても、親が作ったという豆ヒジキおにぎりだったら。例えば僕が八丈島の名産だと言ってくさやを毎度持って参ったらどうでしょう。このような、空気に縛り上げられる瞬間というのが世の中には多々あると思いまして、そこからまず脱してみたいという気持ちがありました。しかし、「食パンの耳を渡してくるようなやつとは分かりあえない」という安易な決断は控えたいという思いもあり、では丁度いいスポットはどこにあるのか、というようなことを考えていました。

指摘していただいたような物語形式というのは考えたこともありませんでしたが、そう解釈していただけたということに感謝しています。制作中から確実にそうとしか言えないようなビジョンがあったものの、完成してから「このアルバムにはどのようなコンセプトを与えるべきなのか?」という自問を繰り返し、言語化に困っていました。ありがとうございます、今後のインタビューではこのコンセプトを使わせていただきます。

-(上記に関して)タイトルに“方舟”という言葉を使っているからか、沖の波が少しずつ大きくなってこちらへと向かって来て、砂浜辺りで泡になって静か引いていくような、アルバムの流れが海の波のようになっている印象を受けました。玉置さん自身、八丈島のご出身ということもありますし、今作は海をモチーフにしているところもあるのでしょうか?
こちらもあまり自覚はありませんでしたが、少なくとも”そこにあったから”は海をモチーフにしています。そしてこの曲はアルバムの中で最初に録音され、これを基軸にアルバム制作を進めたので、それがアルバムの流れに影響を与えているかも知れません。それと、故郷に帰ることもままならない状況下で、かつて見た風景を思い起こす機会が増えました。それが八丈島の海かは分からないけれど、海上にポツポツと船が並んで、ただ波に揺られているという映像もよく頭に浮かびました。それがアルバムのジャケットや歌詞カードの世界観にも繋がっています。また、”幽霊船”と”まほろば”の歌詞もこの方舟世界についてよく触れていると感じています。

歌詞について

MONO NO AWARE (モノノアワレ)
撮影:マスダレンゾ
-『行列のできる方舟』の歌詞は男性目線の曲と女性目線の曲とが混在するアルバムとなっています。なぜ、こうした内容の作品にされたのでしょうか?
以前は強かった「僕の話を聞いてくれ」という感覚が薄れ、脳内に浮かんだ世界を俯瞰的に描こうとすることが増えたからだと考えています。それと同時に、読書感想文というコラムを始めた際、自然と一人称を“私”にして文章を書くようになったことも影響している気がします。“私”という一人称の中性的な質感に、気持ちがフィットしたのではないかと思います。

-(上記に関して)女性目線の曲で言うと、4曲目の「そこにあったから」と9曲目の「5G」の歌詞では対照的な女性が描かれているのが印象的でした。「そこにあったから」はメロディーが軽やかで口ずさみたくなったり、「5G」はジャズっぽい需囲気があったりと、どちらの曲も今までのMONO NO AWAREにはなかった新しい楽曲だと思います。この2つの曲はどのような アプローチで作られたのでしょうか。
「そこにあったから」は、映画『海辺のエトランゼ』のエンディングテーマを制作中に生まれました。その影響か、どうしても普遍の愛のようなものを描きたかったので、やはり自然と一人称が“私”になりまして、それが女性的な印象を与えているのかも知れません。

「5G」は、アルバム制作の終盤に完成した曲なので、指摘していただいた通りこれまでのMONO NO AWAREにないリズムやコードで構成されています。これも、脳内に広がった砂漠に登場する人間の一人称が“私”でしたので、そのまま歌詞にも転用しているというイメージです。

MONO NO AWARE “そこにあったから” (Official Music Video)

-男性目線の歌詞だと5曲目の「LOVE LOVE」はどこかオタク気質で、主人公の相手に対する思いが行き過ぎているとも感じれる曲です。このような内容の曲を作ることは少し恥ずかしいような気もするのですが、 どんな思いでこの曲を作られのでしょうか?
そう言われると参ってしまうのですが(笑)、この歌詞はもともと成人する頃に完成されておりました。当時恋愛の在り方に翻弄されていた青年が、過剰な自意識や外聞を振り払うために、あえて恥ずかしいことを言ってのけようとした作品です。その結果思っていたより恥ずかしい曲になったのでしばらくバンドで演奏することはありませんでしたが、あれから8年経って、むしろこの感覚が今の自分にとって大切であると感じたので録音に至りました。過剰すぎて気持ち悪い愛も、その対象との距離感を保ちさえすればアリだろうと感じております。

MONO NO AWARE “LOVE LOVE” (Official Lyric Video)

-歌詞を作詞される際、辞書を引くことはありますか?
ドンピシャの言葉が出てきたとき、それが口慣れない言葉であった場合は辞書を引きます。そのため、口慣れているだけで辞書に載っていない用法でその言葉を使用していることもあります。以前はそれを誤用と考えて自分自身を許せなかったのですが、最近は「いいよ俺の負けで」という気分になることが多いです。

-(上記に関して)ハロプロオタクが主人公の『あの頃。』という映画のライブシーンでMONO NO AWAREが出演しているのを観たのですが、どのような経緯で出演されのでしょうか?ちなみに玉置さんはご自身を何オタクだと思っていますか?
監督の今泉さん(今泉力哉)と何度か面識があり、ライブも何度かご覧になっていたので、それで「東京」を気に入っていただいて出演が決まったと記憶しております。僕は、オタクと自負できるほど何かを溺愛した経験がないのですが、最近は家事洗濯や歯みがきにハマっています。

-2曲目の「幽霊船」と3曲目の「水が湧いた」は未開の地に降りた立った人々が文明を開拓するといった内容で、この2曲だけでーつの物語になっているように感じました。この2つの曲ではどのようなことを表現されているのでしょうか?ちなみに「水が湧いた」の歌詞に出てくる“ヤッピー”とは何ですか?
「幽霊船」は、おっしゃる通り未開の地を開拓することを描いていますが、いつの時代においても、侵略的な幸福の勝ち取り方は必ず誰かを不幸にすると考えています。「東京」ではそれを現実としてどうにか飲み込みましたが、果たして必ず誰かが不幸になるという構造の中で獲得した幸福は、強がりなしに心の底からほんとうの幸福だと言えるのでしょうか。「そんなこと言われてもしょうがない」と言う以外に論破する方法はないのではないか、ということを考えていました。かと言って、全ての人が同じような幸福を得られるように構造を変化させたとき、僕はそれを拒んでしまう気もしました。幸福というものを、他者に決められてしまうことが恐ろしいのかも知れません。僕の浅い知識と思考力では言葉足らずになってしまうのですが、以上のようなことを考えながら目に映った風景を音楽で描写したつもりです。

「水が湧いた」は、地元の盆祭りを思い出しながら制作しました。“ヤッピー”は、以前友人たちが多用していた、喜びを表す造語のようでした。「水が湧いてヤッピー」という感情を表すにはこれ以上ない言葉でしたので、借用いたしました。

-あらめましてアルバムタイトルの『行列のできる方舟』には、どのような意味が込められているのでしょうか?
正直僕も感覚で分かっている程度で、言葉ではうまく説明できませんが、収録曲それぞれにタイトルの意味するところは散りばめられているように思います。

-『行列のできる方舟』というアルバムを特にどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
多くの人に聴いていただきたいです。そして、共感していただいても嬉しいですし、むしろ摩擦が起きてほしいなというのが、このアルバムが心から求めているところだと思います。

行列のできる方舟のルーツ

-玉置さんは読書がお好きだということで今作の制作中どのような本を読まれていたのか教えて下さい。また、その本の内容が作品にどのような影響を与えたと思いますか?
記憶力に乏しく、唯一思い出したのは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でした。具体的な影響はこれも言葉にできませんが、確実にそうとしか言えない感覚を描いている小説だ、と感じたことは覚えています。

-最後になりますが、今作のコンセプトである“行列のできる方舟”にちなんで、Spotifyでルーツプレイリストを作りたいと思います。そこでMONO NO AWAREのアルバムに影響を与えられた楽曲をご自身の曲も含めて15曲教えてください。また、プレイリストに対してコメントもいただければと思います。
制作中にメンバーがよく聴いていた曲を3曲ずつ選びまして、そこにアルバムから3曲足しました。上から順に、僕(玉置周啓)、成順(加藤成順)、竹田(竹田綾子)、豊(柳澤豊)が選んでいます。

1. MONO NO AWARE – 異邦人
2. Vampire Weekend – Harmony Hall
3. 井上陽水 – 傘がない
4. Thieves Likes Us – Shyness

5. Vegyn – So Much Time – So Little Time
6. Horsey – Seahorse
7. 泳思 – Where I Will

8. MONO NO AWARE – そこにあったから
9. Suede – The Drowners
10. 平沢進 - Parade
11. Pomme – grandiose

12. The Cribs – City Storms
13. Femi Kuti – Stop The Hate
14. RP Boo – No Body
15. MONO NO AWARE – まほろば

アルバム

4thアルバム『行列のできる方舟』

発売日: 2021年6月9日
収録曲:
01. 異邦人
02. 幽霊船
03. 水が湧いた
04. そこにあったから
05. LOVE LOVE
06. ゾッコン
07. ダダ
08. 孤独になってみたい
09. 5G
10. まほろば
フォーマット:Mp3
Amazonで見る

3rdアルバム『かけがえのないもの』

発売日: 2019年10月16日
収録曲:
01. 新人類
02. えんぴつ
03. かむかもしかもにどもかも!
04. 時間泥棒がやってくる
05. ゴミ
06. 普通のひと
07. テレビスターの悲劇
08. ヒトノキモチニナ~ル
09. ゲームは1日30分
10. 女子高生
11. 言葉がなかったら
12. LAST
13. A・I・A・O・U
フォーマット:Mp3
Amazonで見る

2ndアルバム『AHA』

発売日: 2018年8月1日
収録曲:
01. 東京
02. 機関銃を撃たせないで
03. そういう日もある
04. DUGHNUTS
05. 轟々雷音
06. ひと夏の恋
07. 勇敢なあの子
08. かごめかごめ
09. 窓
10. センチメンタル・ジャーニー
フォーマット:Mp3、CD
Amazonで見る

1stアルバム『人生、山おり谷おり』

発売日: 2017年3月2日
収録曲:
01. 井戸育ち
02. マンマミーヤ!
03. わかってるつもり
04. イワンコッチャナイ
05. me to me
06. To(gen)kyo
07. ブーゲンビリア
08. 明日晴れたら
09. 夢の中で
10. 駈け落ち
フォーマット:Mp3、CD
Amazonで見る

MONO NO AWAREバンドプロフィール

MONO NO AWARE (モノノアワレ)
撮影:マスダレンゾ

“東京都八丈島出身の玉置周啓、加藤成順は、大学で竹田綾子、柳澤豊に出会った。その結果、ポップの土俵にいながらも、多彩なバックグラウンド匂わすサウンド、言葉遊びに長けた歌詞で、ジャンルや国内外の枠に囚われない自由な音を奏でるのだった。FUJI ROCK FESTIVAL’16 “ROOKIE A GO-GO”から、翌年のメインステージに出演。2017年3月、1stアルバム『人生、山おり谷おり』を全国リリース。2018年8月に2ndアルバム『AHA』発売、数々のフェスに出演するなど次世代バンドとして注目を集める。2019年10月16日、NHKみんなのうたへの書き下ろし曲「かむかもしかもにどもかも!」、『沈没家族 劇場版』主題歌「A・I・A・O・U」を収録した3rd Album『かけがえのないもの』をリリース。幼少期から大人への成長をテーマに描いた作品が各所から高い評価を集める。”

引用元:MONO NO AWARE (モノノアワレ)バンドプロフィール(オフィシャルサイト)

MONO NO AWARE代表曲(Youtube)

  • MONO NO AWARE “東京” (Official Music Video)
  • MONO NO AWARE “言葉がなかったら” (Official Music Video)
  • MONO NO AWARE “かむかもしかもにどもかも!” (Official Music Video)

ライブ情報

    『行列のできる方舟』リリースツアー

  • 6月20日(日)札幌SPiCE (Open17:00/Start17:30)
  • 7月2日(金)仙台CLUB JUNK BOX (Open18:30/Start19:00)
  • 7月9日(金)大阪umeda TRAD (Open18:15/Start19:00)
  • 7月11日(日)福岡CB (Open17:00/Start17:30)
  • 7月16日(金)名古屋ボトムライン(Open18:15/Start19:00)
  • 7月17日(土)金沢GOLD CREEK (Open17:30/Start18:00)
  • 7月25日(日)東京Zepp Diver City (Open17:00/Start18:00)
  • ※全てワンマン公演

ライター:桃井 かおる子

スマホ、SNSはやっておらず、ケータイはガラケーという生粋のアナログ派。

今まで執筆した記事はこちら