最終更新: 2024年3月17日
韓国や台湾、タイなど、アジアのインディー・ロックが盛り上がっているという話をよく聴くが、インドのバンドはどうだろうか?
The F16sはインド・チェンナイを拠点に活動する、The Strokesのフロントマンであるジュリアン・カサブランカス率いるThe Voidzを敬愛する奇妙だけれども“ええ”インディーロックバンドなのである。
既にアジアツアー(残念ながら来日はしていない)を行い、Pitchforkで最新作『Is It Time to Eat the Rich yet?』のレビューが掲載されるインドに留まらない逸材である。
そんなインドからインディー・ロックの新たな地平を切り開くThe F16sはどんなバンドなのだろうか?
また、この記事はBELONGの英語版姉妹サイトであり、アジアの音楽を中心に掲載する音楽メディア、“A-indie”の記事を日本語に翻訳したものである。
インタビュー:The F16s(Josh(ジョシュ Vo./Gt.)、Harshan(ハーシャン Syn.)、Shashank(シャシャンク Ba.)、Abhinav(アビナヴ Gt.)) インタビュアー:yabori 翻訳:Rio Miyamoto
目次
The F16sとは
-The F16sはインド・チェンナイの出身だそうですね。チェンナイをGoogle Mapで調べると空港や港もあるようですね。チェンナイはどのような場所なのでしょうか。
チェンナイは小さな都市で、モンスーンの3ヶ月を除いて一年中蒸し暑い地域なんだ。長いビーチがいくつもあってサーフカルチャーが根付いている。他には、タミル語の映画産業に伴って映画音楽のビジネスも盛んだね。まだポピュラーではないけどインディーズの音楽シーンも盛り上がってきているよ。チェンナイは様々な矛盾に満ちた街なんだ。
-The F16sは2012年に結成されたそうですね。メンバーは大学時代からの知り合いだそうですが、どのように結成されたのでしょうか。
Josh(ジョシュ)が交通事故の療養中にShashank(シャシャンク)と一緒に曲を書いていたんだ。曲が一通り完成して、Harshan(ハーシャン)と当時のドラマーとギタリストを誘ったんだけどその2人は結局辞めてしまったんだ。Abhinav(アビナヴ)は、市内でいくつかのバンドでギターを弾いていたんだけど、僕たちの誘いを快く受け入れて加入してくれたんだ。
-The F16sという名前は戦闘機と関係があるのでしょうか?“PLATFORM”というウェブサイトのインタビュー記事ではインドでは“taxiing”と呼ばれている行為と関係があると言っていましたが、それについても詳しく教えてください。
確かに、“F16”は戦闘機の一種だしそこは関係あるね。他には、インドの一部の地域で使われる“タキシング(屋外で仲間と一緒に大麻等を吸って回しあいすること)”という言葉を意味しているんだ。みんなで輪になって座り、サンドイッチを分け合うようなイメージさ。
インドの音楽シーン
-インドの音楽シーンについて伺いたいと思います。Spotifyの“Trending Now India”というプレイリストではインドの伝統音楽に次いでビルボードチャートに入る曲がランクインしているように思いました。現在、インドではどのような音楽が聴かれているのでしょうか。インドでは今も地元の音楽が人気なんだ。現地の言葉で歌うことによって簡単に幅広いファン層を獲得できるからね。その中でも、世界的なトレンドを取り入れた楽曲もあって多様性に富んでいる。でもやっぱり映画音楽が一番人気だね。インドだけでなく海外に住んでいる離散ユダヤ人の間でも人気なんだ。
-Pitchforkに掲載されていた『Is It Time to Eat the Rich Yet?』のレビューでは、インドでリアルタイムの欧米の音楽が聴けるようになったのは、2011年のYoutubeが見れるようになって以降の話だと書いてありました。実際にリアルタイムで聴けるようになったのはYoutubeの登場がきっかけなのでしょうか。また、それ以前はどのような状況だったのでしょうか。
おそらくそうだね。インドの大手レーベルはYouTubeによって市場を独占することに成功した。でも実際にそうなったのはSpotifyが登場してからだと思う。それ以前はTorrentやファイル共有ソフトでアルバムをダウンロードするのが主流だったね。
“2000年代初頭のインディー・ロック・リバイバルがインドに上陸するまでには数年かかった。それまでの10年間、インドのバンドはグランジや90年代オルタナティブ・ロックの亡骸に鞭打っていたのだ。YouTubeや高速ブロードバンドの普及に触発された新しいアーティストたちが、これまで知らなかったThe StrokesやLCD Soundsystemなどのインスピレーションの貯蔵庫を見つけたのは、2011年より前のことだった。ハイオク・ガレージロックのLightyears Explode、キャバレー・ジャズ・パンクのPeter Cat Recording Co.、ポストパンクリバイバルに影響を受けたThe F16sといったバンドを含むこの“ニューウェーブ”は、インドのロック界では珍しく楽観的な瞬間に登場したのです。インドにおいてロックバンドは国内最大のフェスティバルのヘッドライナーを務め、ボリウッド映画のサウンドトラックで存在感を示し、欧米のロック専門誌の目にさえ留まるようになっていたのです。(Rolling StoneとNMEは、この時期にインド版を創刊している)。”
-(上記に関連して)日本ではインドの音楽といえば、“Bollywood music”に代表されるような歌って踊る音楽だという認識の人が大半です。“The F16s”のようなインディーロックは自国ではどのような立ち位置にあるのでしょうか。
インディーロックの規模はどんどん縮小してきている。インドではEDMが大流行していて、その影響でみんな英詞の音楽を好むようになってきたんだ。でもインディーロックのシーンでは、英語ではなく母国語で歌うアーティストが成功しているように思う。僕たちは自分の道を切り開いてきて、今ここにいることをとても誇らしく思っている。だけど、僕たちの目標はインドではなく世界なんだ。
-インドではヒンディー語が主流だそうですが、同時に英語も学校で習うそうですね。“The F16s”はどうしてヒンディー語ではなく、英語で歌っているのでしょうか。
僕たちメンバーは全員英語で授業を受けてきたんだ。家でも友達と話す時も英語だったからね。だから僕たちは何かを考える時も英語だし、英語で歌詞を書くことは当たり前だったんだ。
-Spotifyで確認できる限りだとThe F16sはこれまでに2枚のアルバムを出していますね。2019年にリリースされたEP『WKND FRNDS』から曲調が変わり、ポップになった印象を受けました。2016年から2019年の間にターニングポイントがあったように感じるのですが、何かきっかけがあったのでしょうか。
一つ目の理由は新しいドラマーが加入したことだね。しかも一度ではなく何度もメンバーが入れ替わってきた。新しいドラマーが加入したことによって、メンバーそれぞれの持つテイストに新しい風が吹き込んで、今回のような新しい音楽性が生まれたんだ。普段聴いている音楽も初期の頃から大きく変化したね。僕たちの作曲方法も結果として上手くまとまって、『WKND FRNDS』が完成したんだ。
Is It Time to Eat the Rich Yet?
-EPの最終曲「The Apocalypse」のアウトロは曖昧な感じでフェードアウトしていますね。どうしてこの曲ひいてはこのEPをこういった感じで終わらせようとしたのでしょうか。
“The Apocalypse(世界の終わり)”が訪れようとも、バッテリーはいずれ切れるということを常に想定しなければいけないからね。
-『Is It Time to Eat the Rich Yet?』のアルバムカバーはメンバーの目が光っていてユニークで大好きです。どうしてこのようなアルバムカバーにしたのでしょうか。
この光っている目は催眠状態にあることを意味していて、僕たちが食器に乗せられることによってあらゆる問題について2つの側面があることを表現している。そして自分たちがトランス状態に陥っていることに気づくんだ。どこの国の言葉だか忘れたけど、“The eyes are bigger than the belly (目はお腹よりも大きい)”という言葉がある。これは責任のなすり合いではなく、全員が問題の当事者であることを意図しているんだ。
-アルバムタイトル『Is It Time to Eat the Rich Yet?』には皮肉が込められていると思うのですが、どういう意味があるのでしょうか。
新型コロナウイルスのパンデミックが最も酷かった頃、僕たちの周りには裕福な日和見主義者がいたように感じていた。彼らはますます豊かになる一方で、疎外されたり差別された人々がさらに隅に追いやられているように見えたんだ。これはバンドとしての政治的な主張なのか?と言われればおそらく違うだろうけど、自分たちのやり方で何かを発信する必要があると感じていたんだ。
-『Is It Time to Eat the Rich Yet?』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
お金持ちなら誰でも大歓迎さ。お金を恵んでくれよ。
The F16sが影響を受けた音楽
-The F16sの音楽に影響を与えたアーティストやアルバムについて教えてください。バンドが結成されたばかりの頃は、The Strokesの『Is This It』が大切なアルバムだったんだ。メンバーで集まって作曲をするようになってからは、IDLESの『Joy as an Act of Resistance.』やKing Gizzard & The Lizard Wizard、Sunset Rollercoaster(落日飛車)といったバンドからも新しいインスピレーションを得るようになったね。
-最後に私たちから始まり、日本にもThe F16sのファンがこれから増えていくと思います。日本のリスナーにメッセージを頂けますか?
やぁ、日本のみんな!まだみんなに会ったことはないけど、日本のみんなについて知っていること、好きなことがたくさんあるんだ。僕たちの音楽を聴いてくれてありがとう。近いうちに僕たちのライブを実際に観てもらえる日が来ることを願っているよ!
The F16sインタビューの原文(英語)は姉妹サイト(A-indie)にて
The F16sアルバムリリース
The F16sはこれまでに2枚のアルバム(『Kaleidoscope』、『Triggerpunkte』)をリリースしている。
EP『Is It Time to Eat the Rich yet?』
発売日:2021/10/22
収録曲:
1. I'm On Holiday
2. Trouble In Paradise
3. Easy Bake Easy Wake
4. Sucks To Be Human
5. The Apocalypse
フォーマット:Mp3
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2ndアルバム『Triggerpunkte』
発売日:2016/8/8
フォーマット:Mp3
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1stアルバム『Kaleidoscope』
発売日:2013/8/16
フォーマット:Mp3
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The F16sバンドプロフィール
“チェンナイを拠点とする4人組、The F16sは10年以上にわたり、自分たちのビジョンを常に洗練させることに向けて邁進してきた。2013年のデビュー作『Kaleidoscope』から、2014年のConverseとのスタジオタイアップによる『Nobody's Gonna Wait』、そして2016年のブレイク作『Triggerpunkte』まで、このビジョンは世界中のリスナーから成熟した実行力と一定の重力を反映したものであり、1000万回というSpotifyストリームやStereoGum, Brooklyn Vegan, Varietyによる報道からも明確に示唆されている通りである。彼らの次のリリースである『Is It Time to Eat the Rich yet?』は、この進化の延長線上にあり、観察者の遠い視線から書かれたもので、世界的な大流行がここインドの数百万人の生活のみならず、彼ら自身の生活をも不必要に損なったことを直接体験することによって生まれたものである。経済的に不安定な時期が長く続き、それに応じて彼らの技術を向上させることに集中した結果、この音楽は、メンバーの一人が言うように「破滅に向かって踊る」ような歌詞のウィットはそのままに、感情の並置によってリスナーを引き込むサウンドを通して、疎外感を探求しているのです。これは、この国が提供する最も優れたポップミュージックによって奏でられる、苦境に立たされた人間の状態の喜びの祭典なのだ。”
The F16sの評価
“F16sは、外見上楽しいメロディーの下に不吉なメッセージを隠す初めてのバンドではないし、時には影響を受けたものをあまりにも公然と身にまとっていることもある。しかし、その親しみやすさは、彼らの技術力と作曲能力の高さによってバランスが保たれている。ドリンクを片手に、絶滅まで踊り続けよう。”
The F16s代表曲(Youtube)
- The F16s - Sucks To Be Human [Official Music Video]
- The F16s - I'm On Holiday
- The F16s - Moonchild (lyric video)
The F16sライブ情報
Bacardi NH7 Weekender 2022, Pune
日時:2022年11月25日~27日
場所:Mahalakshmi Lawns@インド・マハーラーシュトラ州・プネー
ラインナップ(第一弾発表):The F16s, The Lumineers, Dirty Loops, Berklee Indian Ensemble Adi, Bloodywood, Dappest + adL, Dohnraj and The Peculiars, Easy Wanderlings, Fox in The Garden, Gouri and Aksha, Gutslit, Hanumankind, Kamakshi Khanna, Karshni, Kraken, Pacifist, Parekh and Singh, Perp X Linfomation, Rawal X Bharg, Rudy Mukta, Saachi, Sanjeeta Bhattacharya, Shreyas Iyengar, Tejas, Trees For Toothpicks, Utsavi Jha, VelvetMeetsATimeTraveller, Wild Wild Women, Yashraj.
オフィシャルサイト:https://nh7.in/
ライター:yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori