最終更新: 2024年4月7日
Sonic Boomを敬愛するインドネシアのサイケデリックロックバンド、Crayola Eyes(クレイオラ・アイズ)。
古今東西のサイケデリックバンドを聞き倒してきた6人組がジャカルタから世界のサイケシーンへ進出する兆しを見せている。
ボーカリストのReno Nismaraは2017年のフジロックに来たこともあり、日本の音楽への造詣も深い。
デビューアルバムもほとんど完成しているというCrayola Eyesに話を聞いた。英語版のインタビューはこちら。
アーティスト:Reno Nismara(Vo.) インタビュアー:yabori 翻訳:H.M
目次
Crayola Eyesとは
-Crayola Eyes(クレイオラ・アイズ)はいつ、どのように結成されたのでしょうか。
Reno Nismara:正確な結成日は覚えてないんだけど、Crayola Eyesとしての最初のライブは2012年7月10日だったね。バンド名を思いつくまでにはそれほど時間はかからなくて。Crayola Eyesという名前に落ち着く前は、ライブのたびに名前を変えていたし、メンバーも今ほど固定されていなかったんだ。当時は固定のメンバーとローテーションのメンバーがいて、今まで残っているのはギターのケンドラ・アヒムサと僕だけなんだ。その後、ドラムのフェリー・プラカルサ、ギターのバユ・アンドリアント、ベースのアディティヤ・ハディスサント、キーボードのアニンディア・アヌグラがそれぞれ加わり、今のようなバンドが出来上がった。この形がずっと続くことを願ってるよ。
-Crayola Eyesというバンド名の意味について教えてください。
“Crayola”の部分は、60年代後半に結成されたアメリカのエクスペリメンタルバンド“The Red Crayola”にインスパイアされたんだ。彼らは、会社Crayola Crayonのオーナーがバンドに対する訴訟を検討しているとの情報を得て、“The Red Krayola”にスペルを変更したんだけどね。そこで僕たちは、権利者の勝手な振る舞いに対抗するために、彼らの最初のスペルをそのままバンド名にすることにしたんだ(KではなくCをつけるっていう)。
それと“Eyes”の部分は、サンフランシスコを拠点に60年代後半に活躍したサイケデリックバンド、The 13th Floor Elevatorsのデビューアルバムのジャケットにインスパイアされるよ。このジャケットにはどうしても目が留まってしまうという魔法があり、レコード店でこのアルバムに出会うたびに、僕はいつも足が止まってしまうんだ。
この2つの単語を合わせて“Crayola Eyes”というバンド名にしたんだ。特に意味はないんだけど、個人的にはとても良い響きで、僕たちの音楽をよく表していると思ってる。
インドネシアについて
-Crayola Eyesはインドネシアのジャカルタを拠点に活動していますね。ジャカルタはどのような場所なのでしょうか?“ジャカルタは見るべきところがわかっていれば、不思議に満ちた場所だとわかる”と個人的には思っていて。体験すべきこと、行くべき場所がたくさんあり、おいしい食べ物が豊富で音楽シーンも活気があり、その他にもいろいろなものがあるんだ。楽しみにできる出来事や物が常にあるんだけど、必ずしも目に見える様なものではないんだ。おいしいものは、ピカピカの高級レストランだけでなく、夜遅くの狭い路地にもあって。音楽が鳴り響くのは、高価な酒が並ぶナイトクラブだけでなく、汗と安酒の匂いが混じったアンダーグラウンドなライブハウスでもあると思う。結局のところ、好みの問題なんだけどね。ジャカルタにいると、交通事情によってその好みがコロコロ変わることもあるね(笑)。
-インドネシアの音楽シーンについて伺いたいと思います。Spotifyの“Hot Hits Philippines”というプレイリストでは自国の音楽とビルボードチャートに入る曲が半々でランクインしています。一方でバンドの音楽はほとんど聴かれていない印象を受けました。現在、インドネシアではどのような音楽が聴かれているのでしょうか?
最近のインドネシアの音楽シーンなんだけど、実はシンガーソングライターが多いんだ。彼らにとって良いことなのは多くのリスナーを獲得しているっていうこと。同時に、僕たちのようなオルタナティブなバンドも認められ、きちんとしたステージで自分たちの実力を発揮する機会が増えてきたんだ。
ストリーミングサービスのアルゴリズムのせいで、インドネシアのオルタナティブバンドの新譜を見つけるのが難しくなっていることには同意できるよ。もしもっと知りたければ、Spotifyの“Gelombang Alternatif”というプレイリストや、The-Storefront.comというインドネシアのオルタナティブ音楽のフィジカルやデジタルリリースを販売しているサイトを見てみるといいと思うよ。
-(上記に関連して)Crayola Eyesのようなインディーロックはインドネシアではどのような立ち位置にあるのでしょうか?
Crayola Eyesのメンバーのほとんどは、バンドマネージャーも含めて、9時から5時まで仕事をしているんだ。平日はそれぞれが僕らの活動を尊重してくれる職場で働き、週末にライブを行うのが一般的かな。私たちのような特異なサウンドを持つインディーバンドが、インドネシアでミュージシャンとしての活動だけで生計を立てようとするのは、夢物語だね。
とはいえ、自分たちが本当に好きな音楽や、自分たちが常に聴きたい音楽を演奏するバンドに所属していることは幸せなことでね。誰も僕たちに興味のない音楽をつくるよう圧力をかけたり、指図したり、僕らの音楽をわざわざ正当化させようとしないからね。
また、僕たちと契約したレコード会社であるLa Munai Recordsは、僕たちが自由に創作した時、一番うまくいくと理解してくれていることも、とても幸運なことだったね。
-インドネシアではインドネシア語が公用語だそうですね。なぜインドネシア語ではなく、英語で歌っているのでしょうか?
やりたくないわけではないんだけど、単純に機会がないんだ。実はインドネシア語の歌詞の原稿はたくさんあって。だから、たぶん近いうちに実現できるかもしれないね。
シングルとアルバム
-Crayola Eyesは2018年に2枚のシングルをリリースした後、2022年にシングルをリリースしています。その間に何があったのでしょうか?
いろいろなことがあったんだ(笑)。当初は、2018年にシングルを出してから間をおかずにレコーディングをしたかったんだけど、一部のメンバーにとても多くの時間がかかる仕事が任されてしまったんだ。そのため、アルバムレコーディングに必要な資金集めから、ガイドトラックの作成、スタジオ探し、スケジュールなど、予想以上に時間がかかってしまってね。さらに、パンデミックが起きたことによるステイホームもあって、さらに作業が遅れてしまうことになった。
でも、不幸中の幸いで、レコーディングの工程とスケジュールを再計画しているときに、アルバムのプロデューサーである、ジャカルタのテクノユニット、Sunmantraのベルナルドゥス・フリッツに出会ったんだ。実は彼とは以前から知り合いだったんだけど、自分たちの持つ素材をより拡げるために、フレッシュな耳を持った人のインプットが必要だと気づいたんだ。そこで、フリッツにアルバムのプロデューサーを依頼したところ、彼は即座にOKしてくれてね。彼と僕たちが共通の音楽領域に興味があること、彼がCrayola Eyesの音楽に理解を示してくれていることがあって、彼に依頼することについて不安はなかったんだ。僕たちは、Crayola Eyesを形作る特徴を損なうことなく、サウンドを進化させたいと考えていたんだ。フリッツはそれを理解してくれていて、私たちが何を目指しているのか、よく分かっていたんだよ。
Spectrum (for Sonic Boom)
-シングル「Spectrum」はSpacemen 3のメンバーだったSonic Boomこと、ピーター・ケンバーに捧げる曲だそうですね。3枚目のシングルにSonic Boomの影響を全面的に押し出した曲を選んだのはなぜですか?
音楽的に僕らの人生を変えてくれた人物の一人に敬意を表するためなんだ。また、ピーター・ケンバーは、僕たちの国でもっと認知されるべきだと思ってて。「Spectrum (for Sonic Boom)」を通じて、これまでピーター・ケンバーを知らなかったCrayola Eyesのリスナーが、Sonic Boomや(彼のソロプロジェクトである)Spectrum、E.A.R.、Spacemen 3での活動、あるいはプロダクション関連の貢献など、彼のことをもっと知ってくれるようになればいいなと思っていて。
また、僕たちは、価値のある作品を作るために、影響を受けたものを引用する傾向や能力を示したいとも思っていて。それは、僕たちが影響を受けたものをつまびらかにすることを恐れていないことの証明になると思う。結局のところ、重要なのはどこからものを取るかではなく、どこに持っていくかということなんだ。
Blacker Than Coal
-新曲「Blacker Than Coal」は、Crayola Eyesの楽曲の中で最もスケールの大きな曲です。この曲で工夫した点はありますか?
アルペジオ、ヴァイオリン、3本のギターという3点が最も目立つ要素だと思う。よく聴いてみると、この曲ではメロディとリズム、そして曲を取り巻くサウンドスケープとして3つのギターを使っていて。アルペジオとバイオリンは、曲のクライマックス部分で、ギターのウォールオブサウンドと一緒に使っているんだ。ちなみにアルペジオのパートは、The Horrorsの「Sea within a Sea」にインスパイアされたものなんだよ。
また、これからリリース予定のアルバムでは、この曲だけ通常使うのタンバリンの代わりにマラカスを使用しているんだ。ただ、マラカスはライブでも定期的に使っているので、目新しいというわけではないんだけどね。
-今年の年末に新作アルバムをリリースされるそうですね。今のところ、どのようなアルバムになりそうですか?
マスタリングを終えたばかりなんだけど、正直言って期待以上の出来栄えだね。多層的な楽器編成と高度なプロダクションの組み合わせから生まれた、僕たちの新しい拡がりを持ったサウンドをうまく捉えていると思う。本当に発売が待ち遠しい。長い間、待ち望んでいたからね。
-Crayola Eyesの音楽をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
一番大事なのは自分たちの音楽を自分たちでコントロールできること、自分たちが作りたいものを作れること、妥協する必要がないことだと思うんだ。そして、たとえたった一人でも僕らの音楽を気に入ってくれて、自分に関係があると感じてくれたら、それだけで幸せだね。でも、個人的には、好きな人が多ければ多いほど嬉しいんだけどね(笑)。
Crayola Eyesのライブ
-Crayola Eyesのライブ映像をYoutubeで見ました。反復するサウンドがライブの特徴だと思うのですが、演奏する上で心がけていることは何でしょうか?
最近はアルバムのリリースを控えていることもあり、演出にはかなり気を遣っているんだ。観客に何か特別なものを提供するために、オーディオとビジュアルに一定以上の品質を持たせたいと思っていて。ステージパフォーマンスに関しては、僕たちはオーディオビジュアル・バンドだと思う。派手さは必要ないんだけど、きちんとしたサウンドシステム、ビジュアルを映し出すスクリーン、そして照明(ストロボライトがおすすめ)があれば十分だね。
日本との関わり
-RenoさんのInstagramを拝見しました。2017年のフジロックを見に来られたみたいですね!フジロックではどんなアーティストを見ましたか?また、日本で好きなアーティストがいればぜひ、教えてください。
(笑)。実はフジロックに参加したのはその時が初めてで、今のところ1回だけなんだ。それまでは、ほぼ毎年、フジロックの記事を読んだり、出演バンドの映像を見たり、ラインナップを読んだりしていただけだったので、実際に美しいフェスティバルの会場に足を踏み入れ、キャンプをするのは夢のような体験だったんだ。しかも、2017年の同フェスは超豪華なラインアップでした。Aphex Twin、The Avalanches、Bjork、Cornelius、Death Grips、Gorillaz、LCD Soundsystem、The Lemon Twigs、Slowdiveなどを見たね。
日本のアーティストにもたくさん好きなアーティストがいてね。古いものも新しいものも、音楽もその他のアートフォームも、ポピュラーなものもそうでないものもあるので、ここでは音楽関係の名前を順不同で挙げてみようと思う。はっぴいえんど、ゆらゆら帝国、ジャックス、裸のラリーズ、ザ・モップス、フラワー・トラベリン・バンド、スピードグルー&シンキ、タージマハル・トラベラーズ、アシッド・マザーズ・テンプル、ピチカート・ファイブ、フリッパーズ・ギター、Ogre You Asshole、Kikagaku Moyo、南ドイツ、Cornelius、カヒミ・カリィ、灰野敬二、J. A. シーザー、細野晴臣、坂本龍一、坂本慎太郎、吉田美奈子、山下達郎、大貫妙子、矢野顕子とか。数えたらキリがないね(笑)。
Roots of Crayola Eyes
-Crayola Eyesの音楽に影響を与えたアルバム3枚について教えてください。また1枚づつ、どのような部分に影響を受けたかについても教えてください。
バンドの初期から今までずっと話しているのは、The Brian Jonestown Massacre、The Velvet Underground、Spacemen 3の3つのバンドなんだ。それぞれのバンドから1枚ずつ選ぶとしたら、その膨大な実験と60年代後半への直接的な回帰から『Their Satanic Majesties’ Second Request』、このアルバム以前は誰も彼らのようにやっておらず、その後も多くの人が彼らのようにやっているという革命的側面から『The Velvet Underground & Nico』、その非の打ち所のないアルバムフローから『The Perfect Prescription』ということになるね。
-今後、日本では私たちを始めとして、Crayola Eyesのファンが増えていくと思います。日本のリスナーに向けてメッセージをお願いします。
本当に日本のファンがこれから増えていってくれるかな(笑)?もしそうなら、Crayola Eyesとして近いうちに日本に行ってライヴをやって、みんなで会っていろんな話をして、お酒を飲んで、一緒に楽しく過ごせたらいいなと思う。そして、Crayola Eyesを聴いて、友達にシェアして、その友達がまたシェアして、その友達がまたシェアして……と、どんどんシェアしていってくれれば最高だね!
Crayola Eyes作品リリース
1stアルバム『Gushing』
発売日: 2023年11月3日
フォーマット:Mp3
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2ndシングル『Blacker Than Coal』
発売日: 2022年11月4日
フォーマット:Mp3
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1stシングル『Spectrum (for Sonic Boom)』
発売日: 2022年8月23日
フォーマット:Mp3
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Crayola Eyesバンドプロフィール
“リバーブを効かせたポップ/サイケデリアの背後にあるCrayola Eyesは、ボーカル兼タンバリン・シェーカーのReno Nismara、ギターのKendra AhimsaとBayu Andrianto、ベースのAditya Hadisusanto、キーボードのAnindya Anugrah、ドラマーのFerry Prakarsaからなるジャカルタを拠点とする6人組バンドだ。バンドンのブティック・レコード・レーベルOrange Cliff Recordsから/7インチ(2018)をリリースし、現在はジャカルタの多作レコード・レーベルLa Munai Recordsから待望のフルレンス・デビュー・アルバムを配信中。”
Crayola Eyes代表曲(Youtube)
- Crayola Eyes – Spectrum (for Sonic Boom) [Official Lyric Video]
- Crayola Eyes – Blacker Than Coal
- [FULLSET] 2022.07.15 Crayola Eyes
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ライター:yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori