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世界中で絶賛された『Nocturne』と同じことは絶対に繰り返さないと決めた、WILD NOTHINGの新作『LIFE OF PAUSE』は、彼のルーツにあったモータウンやソウルなどのブラックミュージックが前面に出た意欲作となった。『Nocturne』をリリースした後、今作が出るまでの3年間の苦悩や葛藤について、ジャックが赤裸々に語ってくれた。

アーティスト:ジャック・テイタム(Vo,Gt) インタビュアー:yabori 翻訳:木下トモ

-本作は『Nocturne』や『Empty Estate』にはなかったようなブラックミュージックに対するアプローチがあり、今までにない作品を作っていこうとするジャックの強い意志を感じました。また本作は前作よりもリズムを重視した作品だと思うので、その辺についても伺えたらと思います。
ジャック:その意見は真実をついてると思うよ。いろんな影響を受け入れて、そしてそれが自分を連れていってくれる場所を探すために、このアルバムの曲のいくつかをはっきり意識して作ったから。物心ついてからずっと、僕はいつだってソウルミュージックのファンだった。でも、その影響がより顕著に表れるようになったのはここ数年のことだと思うよ。「Whenever I 」みたいな歌は、自分が知ってるソウル・ミュージックになるように作られてるけど、僕の音楽の中にいつも存在してる音の組み合わせのようなものは持ち続けていたいと思ったんだ。制作中、ソウルばかりじゃなくすべての音楽に対してオープンであることによって、リズミカルに変化をつけることが大きな助けになることが分かったんだ。僕は同じようなドラムのビートがあふれたアルバムを作るという罠にはまりたくはなかったから、リズムに関してはこのアルバムではたくさんのことを試してみたんだ。

-アルバムタイトル『LIFE OF PAUSE』にはどのような意味があるのでしょうか。
最初はタイトルトラックとして並べていただけだった。僕は、「止まったままの人生」を生きていたというシンプルな考えとして。というのも、僕は自分の個人の生活や関係をツアーや音楽活動に合わせて中断したり、また逆のことをしていた。そういうことを考えれば考えるほど、僕がWild Nothingをスタートしてからの6年間の自分の存在を述べるのにちょうどいいような気がしてきたんだ。自分の本当のアイデンティティとは何なのか、待ったり中断したりするに値するものって何なんだろうって疑問を投げかけられたんだ。いろんな意味で、観察的な人生を述べることにもなったと思うよ。そういう意味では、「Life of Pause」は注意深く辛抱するために時間をかける経験かな。僕はよく行動するというよりも観察する傾向にあると感じるんだよ。

-本作のレコーディングはロサンジェルスとストックホルムで行ったそうですが、どうして2か所で行ったのでしょうか。
必ずしも意図したものじゃなかったんだよ。最初のプランでは単にトム・モナハンとロスでレコーディングするだけだったんだ。でも、僕らがこのレコードに適したプレイヤーをどんどん挙げているうちに、トムがピーター・ビョーン・アンド・ジョンと前に一緒に働いたことがあって、それでジョン・エリクソンと一緒にレコーディングするために、彼らがストックホルムのスタジオに僕らを招いてくれたんだ。最終的に素晴らしい体験ができたよ。レコーディングの過程にも二重の個性が出たと思う。僕らは冬の間ストックホルムにいたから、とても寒くて閉じられた感じがしていた。少なくとも地形的にという点で、強烈に集中できたと思う。ロサンゼルスはその反対。僕らは熱心に制作していたけど、すべてがとても開かれた感じでのびのびできたよ。

-スウェーデンでのレコーディングは以前ABBAが所有していたスタジオで行われたそうですね。そこはどのような場所でしたか?何かエピソードがあれば教えてください。
そこはABBAが彼らのキャリアの後期に作品を作ったとこだったんだ。とても美しい空間で、すべて木製で高い天井があった。その感じから、たぶん、60年代後半に建てられたものじゃないかと思うよ。彼らが居たときのことは分からないんだけど、今はセーデルマルムの小さなシティモールの中にあって、コーヒーショップの影に少し隠れているんだ。その場所はまさに共同体って感じで、たくさんの人が行き交っていて、僕らはコーヒーショップの店の人と仲良くなったりして、コーヒーをタダで飲ませてもらったよ。とてもよかった。僕らはそこで、マリンバやピアノやシンセサイザーのような他のパートがありさえすれば、たくさんのドラムを録音したんだよ。

-本作のプロデューサーはトム・モナハンが手掛けているとのことですが、どうして彼を起用したのでしょうか。
最初に僕はトムのことをよく知っていたんだ。彼はMedicineと呼ばれるバンドと作品を作ってたし、Devendra Banhartともレコードを作ってたし。彼がThe Lily’sと呼ばれるバンドにいたということを話し始めた後で、僕の中で全部が繋がったんだ。当時、数人にプロデュースの話をしていて、トムはそのうちの一人だった。トムは本当に僕が成し遂げようとしていることを理解してくれると感じたんだ。僕ら二人の間には一致する好みのレベルがあって、彼がどれくらい刺激を受けやすいかも気に入っていた。このレコードから僕が望むものを形づくることを可能にしてくれると感じたし、決断する過程で、僕が振り切った行動をする余裕も持たせてくれると感じた。僕は決して誰かの手に何かをゆだねることもできないし、誰かに自由に権限を振るわせることもできない。僕はすべての決定にかかわりたいし、トムとならそれができると思ったんだ。

-あなたは本作の制作時に“自分を置き換えたようなレコードを作りたい”と考えていたようですね。どうして本作はこのようなことを考えて制作されたのでしょうか。
僕は前回のアルバムの一連のサイクルの後にすっかり疲れてしまったんだ。たくさんツアーして、自分が作ってる音楽についてたくさん疑問を持ち始めた。僕のバンドはバラバラになって、士気はかなり下がったし、自分が次にいくべきところが分からなくなった。僕は『Empty Estate』を作って素晴らしいものと思ってるけど、ほとんど反動的に急いで作ったものだった。今回のレコードを作るときは、もう少し慎重にしなきゃいけないってことが分かってたんだ。次にできる作品がどんなものであっても前作とは違ったものにしたかった。『Nocturne』の別バージョンと捉えられてしまったら耐えられないからね。自分にはそれができると確信してたわけではなかったけど。僕がこのレコードを自分から離れたものにしたいと言ったとき、僕が本当にやらなきゃいけなかったのは考え方を変える必要があるということだった。僕はこのレコードで前作のEPでやり始めたことをもっと豊かにしなきゃいけないと思った。正しいと思える方向がどこだろうと、ゆっくりと流れ始めた方に進んでほしいと。僕はこのレコードをわずかでもいいから違うものにする必要があったんだ。

-本作の制作時はソウルミュージックをよく聞いていたそうですね。どうしてブラックミュージックをよく聴くようになったのでしょうか。
モータウンミュージックはいつも自分の周りにあったんだ。その音楽の多くはアメリカの物語に根付いたものだと思う。シュープリームスやスモーキー・ロビンソンの音楽は社会に根付いていて、映画を見るときやラジオから、どんなとこからでも聴こえてきた。僕はいつもそういうシンプルで強いポップな音楽とつながっていた。その音楽に対して心のドアはいつも開いている状態だったんだ。僕はいつもジャズやファンクやロックがソウルと出会って、境界線があいまいになる部分が好きなんだ。僕は今、70年代のフィラデルフィア発のソウルをたくさん聴いてて、ほとんどはスィートソウルを聴いてるよ。インターネットがあるから、他の世代では絶対できなかった音楽体験ができるよね。ソウルしか聴かない時期もあったけど、でもそれは僕の音楽のアイデンティティの一面でしかないよ。

-あなたは楽器の中でもベースが一番好きだと言っていましたね。本作は前作よりもリズムを重視していると思いますが、どのような部分を工夫されたのでしょうか。
僕はいつもメロディックなベースラインを書くんだ。どうしてそんなにベースが好きなのかはよく分からないんだけど。ベースは、歌を固定させることもできるし、美しいメロディーで踊らせる自由さもあるからかな。例えば、キーボードのメロディーを弾くリードギターよりも基礎にならなきゃいけないけれど、ベースを使ってベースの部分をより目立たせるためにできることがたくさんある。

-『Nocturne』は世界中のメディアから絶賛されましたが、その事についてどう受け止めましたか?
あのレコードをとても誇りに思ってるよ。 その当時自分の人生で自分がいた場所に触れられるリマインダーになってるんだ。僕はいつもファンとメディアが自分のレコードを好きだと言ってくれるとうれしいよ。でも、それとは関係なく自分のやるべきことをやっていこうと思う。

-(上記の質問に関連して)前作から学んだ事があれば教えてください。
『Nocturne』かな?僕はすべてのレコードから新しいものを学んでいるよ。大部分は、レコードを作るテクニックの小さなことではあるんだけど。僕は新しい人と仕事をするたびに生徒のような気分でいるんだ。僕はただ、どんな小さなことでもすべて吸収しようとしてて。どんな風に彼らがコンプレッサーを置くのか、マイクをどこに置くのかを覚えておくんだ。

-以前、日本に来た時はレコードショップに寄られたそうですね。その時はどのようなレコードを買ったのか教えてください。
うん、そうだよ。 偶然、新宿と渋谷のディスクユニオンに寄ってみたんだ。Terry Rileyの『A Rainbow in Curved Air』とCluster & Enoの作品と Primal Screamの『Velocity Girl』のシングルを買ったよ。あと、Lizzy Mercier Desclouxの『Press Color』とThis Mortal Coilの『It’ll End In Tears』の日本盤を買ったよ。僕は日本盤を買うのが好きなんだ。あの帯を含めた全体の感じが好きで。それは特別なものじゃないのは知ってるんだけど、新鮮で面白いんだ。いい日本の音楽もたくさんあったから、次に行くときは探してみるよ。アメリカでは高橋幸宏の『Neuromantic』をまだ見つけられてないからね。

-本作はどのような人に聴いてほしいと思いますか?
僕は、このレコードを特定の誰かに聴いてほしいという気持ちは本当にないんだ。僕の希望はただ、人々が僕の音楽についてどれだけ先入観があろうと、このレコードを公平に扱ってほしいということだけだね。僕はこのレコードが万人に受け入れられるものではないと思ってる。でも受け取り方は人それぞれだと思うから、それぞれの楽しみ方で楽しんでくれたら嬉しいな。

『LIFE OF PAUSE』

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